2015年9月6日-1
Bunge哲学辞典訳出20150906a
<凡例>
↑:その直後の語を『参照せよ』を指示する。
【】:【 】に囲まれた文字が、ゴシック体であることを示す。
_ _:_ _に挟まれた文字が、斜体であること(強調)を示す。
「」:標徴〔sign〕、記号〔symbol〕、語、そして文であること(表記)を示す。原文では単一引用符(‘’)で括られている。
『』:概念または命題であることを示す。原文では二重引用符(“”)で括られている。
〔〕:訳者の注記であり、原語または代替訳を示すことが多い。*がある直前のものは訳の検討が必要であることを示す。
20150906。「,」を「、」に、と「.」を「。」に変換した。[「、」や「。」の方が見やすいから。]
Bunge哲学辞典項目
******************
〔action 作用 [BungeDic1, p.9][未訳]〕
〔aethetics 感性学〔美学〕 [BungeDic1, p.11][未訳]〕
〔agent/patient 作用者〔動作主、作動者〕〕/受動者〔被動者〕 [BungeDic1, p.11-12][未訳]〕
〔agency 作用* [BungeDic1, p.11][未訳]〕
〔aggregate、は項目として無し。〕
all is one [BungeDic2, p.14][20150906試訳]
animism アニミズム [BungeDic1, p.18][初版の訳→増補改訂版の訳にすべし]
argument 論証 [BungeDic1, p.23]
art 芸術 [BungeDic1?2?: **]
bond or link 結合または連結 [BungeDic1, p.32。2012年8月25日-13]
burden of proof 立証責任〔挙証責任〕 [BungeDic1, p.33。2012年8月25日-14]
category mistake カテゴリー錯誤〔部類錯誤〕 [BungeDic1, p.35]
causalism 因果主義 [BungeDic1, p.35]
〔chutzpah, philosophical 哲学的厚顔無恥[未訳]〕
schema 図式〔大要〕 [BungeDic1, p.256]
CESM model CESMモデル〔構環構機モデル、成環造機モデル〕 [BungeDic1, p.36]
class クラス [BungeDic1, p.39]
classification 分類 [BungeDic1, p.39]
collection 収集体 [BungeDic2, p.43]
emergence 創発 (p.83)
evolution 進化 (p.93)
evolutionism 進化主義 (BungeDic2, p.94)
explanation 説明 [BungeDic1, p.93-94。BungeDic2と照合すべし][2011年11月2日-3]
explanatory power 説明力[BungeDic1, p.94。BungeDic2と照合すべし][2011年11月2日-3]
hermeneutics 解釈学 [BungeDic1: 120]
information 情報 [BungeDic1: 139-140][2012年7月15日-2]
level レヴェル〔準位、階位、水準〕 [BungeDic1: 158-159]
level structure レヴェル構造 [BungeDic1: 159]
life 生命 (p.163)
matter 物質 (BungeDic2, p.174)
mechanism メカニズム、機械論 (p.175)
model モデル〔模型〕 [BungeDic1, p.39]
natural kind 自然類 (p.191)
object 対象 (p.199)
panpsychism 汎心論[Bunge (1999) 哲学辞典 初版 p.205]
phenomenology 現象学 [BungeDic2: 212]
philosophy 哲学 [BungeDic1, p.210]
plausibility もっともらしさ [BungeDic2, pp.214-215]
postmodern 後近代〔脱近代 [BungeDic2: 220]
principle 原理 [BungeDic1: 222][2012年7月21日-2]
probabilism 蓋然論 [BungeDic1: 222]2012年7月20日-7
probabilistic philosophy 蓋然論的哲学 [BungeDic1: 222]2012年7月20日-7
probability 確率 [BungeDic1: 222-223]
probability calculus 確率解析 [BungeDic1: 223][2012年7月21日-2]
〔probability, objective 客観的確率 [BungeDic1: 223]〔未訳〕 〕
〔probability, ordinary kowledge notion of 日常的知識概念での確率 [BungeDic1: 223]〔未訳〕 〕
probability paradoxes 確率の逆説 [BungeDic1: 223-224]
probability, subjective 主観的確率〔主観確率〕 [BungeDic1: 224-225]
probability, vulgar notion 確率、通俗的概念の (BungeDic2, p.227)
reduction 還元 [BungeDic1: 242-244][2012年7月15日-4]
reductionism 還元主義 [BungeDic1, p.244][2012年7月15日-4]
reference 指示 [BungeDic2, p.246]
representation 表象〔再現前、表現〕 [BungeDic2: 251]
scrutability 検証可能性 [BungeDic1, p.262。BungeDic2と照合すべし。2012年7月23日-3]
sectoral approach 切断的接近〔アプローチ〕 (Bunge 1999, p.263)
self-assembly 自己集成 (BungeDic2, p.263)
sign 標徴〔符号〕(1999初版、p.267)
sketch 概述〔見取り図〕 [BungeDic1, p.270]
species 種 (p.274)
structure 構造 [BungeDic2, p.277]
symbol 記号 (Bunge哲学辞典1999初版、pp.280-281)
system システム (p.282)
systemic approach システム的アプローチ (p.285)
taxonomy 分類学 (p.289)
〔technics 技巧 は、マーナ・ブーンゲ『生物哲学の基礎』: 245頁を見よ。〕
〔technique 技術 は、マーナ・ブーンゲ『生物哲学の基礎』: 96頁, 129頁を見よ。なお、技術 techniqueは(一般的に対しての)特異的方法であるが、技術が科学的であるための条件とは、
a. 間主観性条件
b. 試験〔テスト〕可能性条件〔試験testとは、経験に照らして試すことである〕
c. 正当化条件
である(マーナ・ブーンゲ『生物哲学の基礎』96頁を見よ)。2010年7月28日-2。〕
technology 科学技術 [BungeDic2, pp.289-290]〔また、technology 科学技術については、マーナ・ブーンゲ『生物哲学の基礎』の244頁からの5.5.4節 応用科学と科学技術、を見よ。〕
theory 理論 [BungeDic2_p.***]
time 時間〔時〕
typology 類型学 [BungeDic1, p.301]
understanding 理解〔了解、会得、[基立:もとの意味に沿って、下に立つと解すれば、基立と訳すべきである。]〕[BungeDic1: 302]2012年7月20日-3]
Verstehen 了解 [BungeDic1: 308-309]
war 戦争 [BungeDic2, p.311]
******************
aethetics 感性学〔美学〕 [BungeDic1?2?: **]
a 哲学的 芸術の哲学。それは、芸術作品、表象的/抽象的、様式、そして美しい/醜い、という一般的概念を巡って旋回する。この分野の地位は、不確定である。なぜなら、客観的規範〔規準〕は知られておらず、よって芸術作品を評価するための個人を越えた、かつ文化横断的な客観的規範は無いからである。とりわけ、気まぐれに行なったコラージュ〔糊付け作品〕でも、一連の恣意的な雑音でも、うまいこと売り込まれれば、芸術作品として合格するだろうわれわれの時代においては、そのような規範は無いからである。その結果、感性学〔美学〕的な意見、定義、そして分類は数多くあるけれども、試験〔テスト〕可能な感性学的仮説は、ましてや仮説演繹的体系(理論)は無いようである。もっとも、感性学的諸概念の分析と相互関係づけは、正当な努力であり、それは「分析美学〔分析的感性学〕」と呼ばれてもよい。
b 科学的 D. Berlyneによって創始された、芸術鑑賞の実験的心理学。
all is one すべては一つである[BungeDic2, p.14][20150906試訳]
あらゆるものは相互に繋がっており、分離された〔孤立した〕ものは何も無い――一全体としての↑【宇宙 universe】を除いて。徹底した〔急進的 radical〕↑【全体論 holism】の公式〔決まり文句 formula〕である。あるゆるものが他の何かと繋がっていることは本当である。しかし、物の間のすべての結合が等しく強いわけではなく、たいていの結合は距離とともに急に減少する。とりわけ、一つの↑【システム system】の構成要素の間の結合は、そのシステムとその環境との間の結びつきよりも強い。そうでなければ、明確なシステムは存在しないだろう。↑【システム主義 systemism】
animism アニミズム [BungeDic1: 18]
すべての物は、あるいは或る種類のすべての物は、生き物のように動かされている〔animated〕という教義。つまり、非物質的な↑【霊たち 〔spirits〕】によって宿られており、支配〔rule〕されている。例:魂は身体を統治〔govern〕するという見解〔考え方 view〕。同義語:↑汎心論〔panpsychism〕〔2011年7月31日-1〕。
argument 論証 [BungeDic1, p.23]
【a 日常言語】論争。
【b 論理〔学〕】前提から結論への(妥当な、または妥当ではない)推論。唯一の妥当な論証は、演繹〔導出〕である。妥当性はもっぱら、形式に依存する。それゆえ、『すべてのメロンは高潔である。これはメロンである。よって、このメロンは高潔である』は、形式的に妥当である。妥当性にかかわらず、諸論証は実り多かったり不毛であったりし得る。妥当ではないが実り多ければ、それらは_魅惑的 seductive_だと言われるかもしれない。例:無作為標本から母集団への統計的推測。非演繹的論証は、内容に依存する。したがって、帰納的論理または類推的論理を建設しようという企画は、倒錯している wrong‐headed。非演繹的論証は、認知心理学と認識論に属するのであって、論理学に属するのではない。類推的論証と帰納的論証は、示唆的ではあるが、論理的に妥当ではない。
〔訳注。論理または論理学の範囲を、非演繹的論証も含めた(意味内容に関連した)論理的側面を研究するものだと拡張すれば、演繹的論証の性質も逆照射的にわかるというものではないか? 頑迷固陋な wrong‐headed というべき。さらに、論理学が推論を扱うのならば、推論は心理学の一分野、つまり心的物体の振る舞いに関する学問だと主張できるだろう。
なお、科学は事実と関わるので、科学的推論とか科学の哲学のおける論証または議論 argumentは、演繹的推論だけではなく、なんらかの形で事実に言及することになる。いわゆる「科学的」事実に言及しないのならば、その議論は、狭い意味での論理学または数学の部類である。〕
art 芸術 [BungeDic1?2?: **]
a 感性学〔美学〕的 なんであれ、自分または他の人に、いわゆる肉体の快楽以外の快楽を入手することをめざす人間活動。芸術は視覚的、聴覚的、記号的、あるいはこれらの組み合わせであり得る。感性学〔美学〕の対象。
b 認識論 科学的および科学技術的研究のなんらかの産物は、妥当である、真である、あるいは効率的であることを越える。すなわち、それらは美しい(あるいは醜い)、そして優美である(あるいは無器用であるclumsy)とも見なされる。そのうえ、科学的研究は科学であるよりも芸術であると広く同意されている。しかし、これらの用語の意味についての合意は無い。よって、感性学〔美学〕的特質についてのすべての論証は決定的でない。↑【感性学 aethetics〔美学〕】。
bond or link 結合または連結 [BungeDic1, p.32]
二つの物が結合されている、連結されている、または対にされている coupledとは、それらにとって相違を生じる関係がそれらの間に在るとき、そしてそのときに限る。例:物理的力、化学結合、交友関係、取引関係。諸関係はさらに、_結合_と_非結合_に分割される。空間的時間的関係は、非結合的である。しかし、時空的関係は、結合を可能にさせたり、不可能にさせたりする。〔非結合の〕例:近接、間にあること、時間的遷移。
burden of proof 立証責任〔挙証責任〕 [BungeDic1, p.33]
推測、規範、または方法を申し出る者はだれでも、それを正当化する道義的責任を持つ。たとえば、心的なことの非生物学的説明、あるいは、社会的なことの生物学的説明を進める者はだれでも、それを支持する証拠〔根拠 evidence〕を示す義務がある。対照的に、科学者と科学技術者は、科学者でない者〔非科学者〕のとっぴな空想的産物〔奇抜な考え〕を照合する義務の無いところにいる。同様に、刑事には、異星人に誘拐されたという主張を反証する義務は無い。生体医学研究者には、信仰療法が申し立てられたあらゆる事例を照合する義務は無い。また、工学者〔技術者〕には、永久運動機械のあらゆる新しい設計を検査する義務は無い。
category mistake カテゴリー錯誤〔部類錯誤〕 [BungeDic1, p.35]
或る類 kind に属する或る対象を、別の類に属すると提示〔呈示 presentation〕すること。例:自由意志を予測可能性と混同すること、また、『集団的記憶 collective memory』と『行為〔行動 actions〕の意味』について話すこと。
causalism 因果主義 [BungeDic1, p.35]
↑【因果連関 causation】は、生成の唯一の様態 mode だとする存在論的テーゼ〔定立〔定立命題〕〕。放射能、神経細胞の自発放電、そして↑【自己集成 self-assembly】によって反証された。
〔訳注。前二者は暗黒物質が検出されれば反確証例にはならないかもしれない。また、自己集成は、機構が不明のままであると思う。マーナ・ブーンゲ『生物哲学の基礎』では、創発は自己組織化と同一視されているが、自己組織化もまた機構が不明のままであると思う。つまり、十分な説明の無い概念である。〕
CESM model CESMモデル〔構環構機モデル、成環造機モデル〕 [BungeDic1, p.36]
順序四つ組 M =〈構成、環境、構造、(諸)機構〉として、或る↑【システム】の↑【概要を述べたもの sketch】。例。製造工場は、労働者、技術者〔工学者〕、そして管理者から構成され、その環境は市場であり、それは契約と通信および命令の諸関係によってまとめられ〔一緒にされ〕、その諸機構とは製造、売買 trading、借用、そして営業企画 marketingの諸機構である。或るシステムの機構〔メカニズム〕が知られていないか無視できるならば、メカニズム的CESMモデルは、機能的なCES概述へと縮まる〔reduce to〕。
class クラス [BungeDic1, p.39]
一つの(単純なまたは複雑な)述語によって定義された収集体 collection(とりわけ、集合 set)。【同義語】類 kind、型 type、種類 sort。クラスの代数学とは、集合を全体として扱い、それらの合併〔和集合〕、共通部分〔積集合〕、そして補集合を研究する論理学の分野である。
〔訳注。マーナ・ブーンゲ『生物哲学の基礎』では、二つ以上の述語によって定義された収集体を、類 kindとしている。なお、この哲学辞典には、kindという項目は無い。〕
classification 分類 [BungeDic1, p.39]
一つの収集体を、互いに素な部分集合(種 species)に、 網羅的に分割することと、部分集合を、属といった、より高位のクラス(タクソン)にグループ化〔群化〕すること。分類には、二つの論理的関係が含まれる。すなわち、クラスにおける個体という属員性 membership(∈)と、より高位階のクラスにおけるクラスという包含 inclusion である。よって、あらゆる分類は、集合理論の↑【モデル model〔模型〕】(例)である。↑【分類学 taxonomy】
collection 収集体 [BungeDic2, p.43]
任意に〔恣意的に〕、またはある共通の性質を持つゆえに、集められた、一群の[a group of]対象。固定した成員性〔属員性〕[membership]を持つ収集体は、語の数学的意味での集合[set]である。たとえば、人類は変異可能な[variable]成員性を持つ収集体であるが、所与の時点で生きているすべての人間の収集体は集合である。〔2010年8月4日-1。〕
composition 構成[Bunge 2003, p.47]
【a システム system】一つのシステムの諸部分の集合。或るシステムは数個の水準 level の部分(たとえば、原子、分子、細胞、器官、人、など)を持つかもしれないから、どの水準での構成要素を考えているのかを示す必要がある。例:原子水準での構成、(社会システムの場合には)人の水準での構成、(経済システムの場合には)商店の水準での構成。或るシステム s の水準 L での構成 CL(s) という概念の定義は、容易である。すなわち、C(s)のLでの共通部分である。つまり、CL(s) = C(s) ∩ L、つまり、sの部分であるLsの集合である。
【b 虚偽〔誤謬〕 fallacy】存在論的誤謬は、その部分の諸性質のすべてを一つの全体(集合またはシステム)に帰すことにある。例:『その種はシロアリを食べる〔常食とする〕』〔或る種という全体を、シロアリを食べるというその構成員生物体たちの部分的性質と同一視するというのが間違いということを言っているのか?〕。この虚偽は↑【創発 emergence】の否定に起源する。極端な〔急進的〕還元主義〔還元論〕は、構成の虚偽を必然的に含んでいる。存在論的↑【個体主義者たち individualists】は、特に社会諸科学においては、特にこの虚偽に陥りやすい。
emergence 創発 (1999=?2003, p.83)
a 【静態的概念】システムの一性質が創発的であるのは、そのシステムのどの構成要素によっても所有されないとき、そしてそのときに限る。例:平衡、シナジー、共時性、生きていること(諸細胞のひとつの創発的性質)、知覚すること(神経細胞〔ニューロン:ルビ〕の一定のシステムの一つの創発的性質)、社会構造(すべての社会システムの一性質)。創発的性質は、(集塊のように)局所的〔local〕または(安定性のように)大域的〔global〕であり得る。形式的定義:Pは創発的性質である =df ヨxヨy (Px & y < ⇒ ¬Py)。ここで、<は部分/全体関係を表わす。
b 【動態的概念】すべてのシステムは、その構成要素の(自然なまたは人工的)集成によって形成されるという仮定によれば、創発は個体発生と↑【歴史】(とりわけ↑【進化】)の両方に典型的である。例:発話は子供において生涯の最初の年に創発し、それはおそらく、10万年前のHomo sapiens sapiens〔ヒト種ヒト亜種〕の誕生とともに創発した。創発という概念を、↑【付随性】という曖昧な〔fuzzy〕概念と混同すべきでない。また、全体論者がそれを大事にしているから、特に創発を分析不可能とみなしているからといって、捨ててしまうべきではない。システムについての科学的研究の主要点は、そのシステム的(つまり創発的)性質を、それの諸部分の相互作用か、あるいはその歴史によって説明しようと努めることである。創発は、↑【全体論】と↑【個体主義】の視界〔ken〕を越えるものである。↑【システム主義】だけがそれを正当に扱う。
evolution 進化 (p.93)
様々な類の物の創発〔emergence〕と潜没〔submergence〕によって区切られた歴史。(よって進化という概念は、歴史という概念の特殊事例である。)例:化学元素と分子の進化;非生物的物質からの細胞の最初の自己集成〔self-assembly〕からはじまる生命の歴史;人類史。進化は、(個体の)発生や生活史と混同されてはならない。今日では、カトリック教会でさえ、生物学的進化が起きたことに異論を唱えない。カトリック教会が異論を唱えているのは、進化についての自然主義的(唯物論的)説明であり、とりわけ心的能力は、いかなる神の介入も無くして、解剖学的および心理学的特徴に沿って進化したという、科学的仮説である。↑【進化的心理学】。
evolutionism 進化主義 (BungeDic2, p.94)
事実についてのあらゆる領域〔realm〕は↑【進化】の支配下にあるという、存在論的教義。ダーウィニズムを、すべての事実的科学へと拡張したものである。哲学的な原理であるから、進化的↑【生物学】と混同してはならない。進化生物学は、現代生物学の標準的構成要素である。進化主義によって、あらゆる物事は変化に従うだけでなく、ひょっとして種形成と種絶滅にもさらされることもあるとみなすことを研究者は享受したので、進化主義はすべての自然科学と社会科学を根本的に変形した。また進化主義は、静態的な存在論と認識論の最後の名残りを破壊することによって、哲学に対して決定的な影響を与えた。それは、どの制度も永遠ではないと示唆したから、改革論者と革命的な諸社会的イデオロギーを奨励したのである。そして、スペンサー Spencerの(生理的な)最適者の生き残りと優位性を明言するという間違った解釈のおかげで、進化主義はまた、優生学と人種差別やファシズムといった退行した信条を奨励した。〔2010年8月10日-5〕
explanation 説明 [BungeDic1, p.93-94。BungeDic2と照合すべし]
説明は、諸事実と関係のある一つの認識的操作である。或る事実(具体物の状態または状態の変化)を説明することとは、それがいかにして生じたかを示すことにある。例:日没は地球の回転によって説明される。事実を説明することを急ぐ前に、それは人為産物または幻覚ではないことを、合理的に確信しなければならない。これは、その事実をできるだけ注意深く記述すること、そして観測、測定、または実験といった経験的手段によってその記述の正確さ〔的確さ accuracy。preciseは精確〕を照合する checkことを含む。ゆえに、説明は記述と試験〔テスト test〕によって先行される。説明には三つの側面〔相 aspect〕がある。すなわち、論理的、存在論的、そして認識論的という側面である。説明の_論理_は、規則性(たとえば、法則)と状況 circumstance(たとえば、諸初期条件)に関わる演繹的〔導出的 deductive〕論証としての説明を提示する。説明の_存在論_は、仮説化した↑【メカニズム〔機構〕mechanism】(因果的、機会的、目的論的、など)を指し示す。そして、説明の_認識論_は、既知のものまたはなじみのものと、新しいものまたはなじみではないものとの間の関係を問題にする。魔術的で宗教的な説明と同様に、典型的な科学的説明は、なじみではない諸存在者または諸性質を引き合いに出す。しかし、前者とは違って、後者は↑【検証可能 scrutable】〔scrutable 精密な調査[研究]によって理解できる(大辞泉)。日本の新聞やテレビではよく「検証」という言葉が聞かれる。アメリカ合州国でのscrutinizeが検証に当たるとどこかに書いてあった。実証との関係は? 科学業界での検証は、論理実証主義または論理経験主義的なverificationなのだろうか? 積極的な意味では、立証という語がある。verificationismを立証主義とし、testを試験またはテストとするとよいかもしれない〕である。そのうえ、通常の知識と魔術的説明とは対照的に、科学的説明は↑【法則 law】とよく認定された〔保証された well-certified〕事実を伴う〔を要件とする involve〕。二種類の科学的説明を区別しなければならない。すなわち、弱いまたは包摂的と、強いまたはメカニズム的である。_包摂的_説明とは、普遍のもとで特殊を包摂することである。それは、
(諸)法則 & 状況 |? 被説明項(説明されるべき事実)
という形式を持つ。ここで諸法則は純粋に記述的であり得る。たとえば、併存〔? concomitance〕の言明と速度方程式である。例:ボブが死を免れないことは、彼が人であるというデータ、および、すべての人は死を免れないという一般化によって(弱く)説明される。(つまり、∀x(Hx ⇒ Mx), bH |? Mb.)これは、J.S. ミル以来、大多数の哲学者たちが説明を理解してきたやり方である。_メカニズム的 mechanismic_または強い説明は、メカニズムの開示である。それは、包摂と同じ論理形式を持つが、それに関与する(諸)法則は↑【メカニズム〔機構〕mechanism】を記述する。集成 assembly、衝突、拡散、競争、そして協力〔協調 cooperation〕といったもののメカニズムである。たとえば、人は死を免れないことは、数多くの合同的に〔併発的に、同時的に concurrent〕作用するメカニズムによって(強く)説明される。すなわち、酸化、DNA損傷、消耗、アポトーシス(遺伝的にプログラムされた死)、ストレスに満ちた時期のあいだにできた糖質コルチコイドの作用による免疫の低下、事故、などによってである。メカニズム的説明は、包摂を包括 subsumeする。〔20111102試訳。2011年11月2日-3〕
explanatory power 説明力[BungeDic1, p.94。BungeDic2と照合すべし]
仮説または理論の、それが言及する諸事実を説明する力。↑【適用範囲 coverage】(または確証の程度)と↑【深度〔深さ〕 depth】(関係する水準〔レベル level〕の数)の積として分析されるかもしれない。あらゆることを説明すると主張する仮説は、なにごとも説明しない仮説と同様に、まさに無価値である〔無用である worthless〕。〔20111102試訳。2011年11月2日-3〕
hermeneutics 解釈学 [BungeDic1: 120]
【a】神学、文献学、そして文芸批評における本文解釈〔text interpretation〕。
【b 哲学】社会的事実は(またおそらく、自然的事実も)、客観的に記述され説明されるのではなくてむしろ、解釈されるべき記号または本文〔文書〕であるという、観念論的教義。↑【了解 Verstehen】。哲学的解釈学は、社会についての科学的研究とは対立する。それは、社会統計学と数理モデル構築を、特に軽視する。また、それは社会的なあらゆることを霊的とみなすから、環境的、生物学的、そして経済的な諸要因を過小評価し、貧困と戦争といった巨視社会的〔マクロ社会的〕事実に取り組むことを拒否する。こうして、解釈学は、社会についての真実の追求に対する、したがって社会的方策〔社会的政策〕の基礎〔基礎知識 grounding〕に対する、障害物となっている。
information 情報 [BungeDic1: 139-140]
【a 工学】 情報理論は、電線に沿うかまたは空間を通じた電磁気的信号の伝送〔伝導〕を扱う。それは特に、伝送の忠実性に、よって伝送経路上の雑音(乱雑摂動)の効果を最小化する方法に、関わる。情報理論は、広く信じられているところとは反対に、意味とはまったく関わらない。たとえば、『わたし、あなたを愛してるわ』という伝言の情報量は、『わたし、あなたが嫌いよ』という伝言の情報量と厳密に同じである。その理由は、信号と意味の間の関係が約束事〔規約上のこと〕だからである。それで、異なる伝言で、異なる言語における同じ考えを伝送する。
【b 科学】 概念としてではないにしろ、「情報」という語は、工学から、最初に生物学(とりわけ遺伝学)を汚染し、次いで生化学(そしてそれを通して分子生物学)、心理学、社会学、そして他にまで溢れ散らばった。このような急速な広がりの理由の一つは、それぞれの場合で、「情報」という語に、様々な語義が暗黙に割り当てられたことである。たとえば遺伝学では、『情報』はDNA『構造』(または、 構成要素であるヌクレオチドの順序)と同じである。神経科学では、『情報流』は、一神経に沿って伝播する信号にほかならない。しかしそれは、命令といった伝言を運ぶ信号では決してない。なぜなら、神経細胞は何事も理解できないからである。心理学では、「情報処理」という表現は、機構〔メカニズム〕の不明な心的過程を何であれ、指す。実際、情報処理の認知心理学全体は本質的に、あかぬけした情報風に翻訳された、古くからの心理主義的心理学だと主張できるだろう。情報処理心理学の計算主義版〔計算主義流の情報処理心理学〕に関して言えば、それは数理モデルを含むから、厳密であるということ以外の疑問は無い。問題は、(a) それは適切で生産的かどうか、(b) 計算という概念を運動行動と知覚にまで適用可能性の範囲を拡げることによって、それは事実をモデルと混同しないかどうか、そして (c) 認知を動機と感情 affect から分離することによって、それは心理学を貧しくし、ばらばらにしないのかどうか、である。ところが、まだまだ、これからである。社会学者のなかには、全ての社会的出来事〔事象〕は、結局のところ情報流になる、と主張してきた者もいる。もう一度言おう。厳密な考えは、脈絡(この場合には、遠距離通信工学)から取り出されると、奇怪な極端へと導いてしまう。
【c 意味論】意味という概念を、情報という概念でもって解明しようといういくつかの試みがなされてきた。それらはすべて、二つの理由から、失敗するほかなかった。第一になぜなら、上記の【a】で注釈したように、情報量と情報の内容とは、無関係だからである。第二になぜなら、意味は、情報理論で現われる客観的確率の概念とは、無関係だからである。
level 水準〔準位、レヴェル、階位、〕 [BungeDic1: 158-159]
多義的な用語であり、よって、なんらかの形容詞とともに用いられるべき用語である。存在論では、実在の一つの_統合的_レヴェル、または編制〔組織性〕のレヴェルは、一定の性質と法則を共有する物質的(具体的)存在者の一収集体である。統合的レヴェルについての最も単純な諸仮説は、(a) 実在(すべての実在する対象の収集体)は、五つの主要なレヴェル、つまり物理学的レヴェル、化学的レヴェル、生物学的レヴェル、社会的レヴェル、そして技術的レヴェルから構成される、(b) 物理学的レヴェルを越えるどのレヴェルの存在者も、より下位のレヴェルに属する存在者から構成される、そして (c) より高位のレヴェルは(むしろそれらのレヴェルに属する個体は)、より下位のレヴェルの個体が会合 するか〔associtaion〕発展するかのどちらかによって、やがて創発した、というものである。心的レヴェルを加えなかったのは、唯物論的存在論において、心は、物ではなくて、脳の過程の収集体だからである。どのレヴェルも、必要に応じて、多くの下位レヴェルに分析され得ることに、注意されたい。たとえば、物理的レヴェルと社会的レヴェルは、小レヴェル、中レヴェル、大レヴェル、そして巨大レヴェルに分割されるかもしれない。
level structure レヴェル構造 [BungeDic1: 159]
レヴェル先行(またはそれの対となる、レヴェル創発)という順序関係を伴ったレヴェルの集合、つまり、L =〈L, nに対しても、Ln < L<font size="2">n+1=df ∀σ[σ∈Ln+1⇒ C(σ)∈Ln]。ここで、C(σ)はシステムσの構成を表わす。階層的な【↑存在の連鎖】とは区別されるべきである。なぜなら、レヴェルは、支配、ましてや創造主への近さによってではなく、先行によって順序づけられているからである。
life 生命 (p.163)
諸生命科学の中心的概念。生きものまたは有機体の本性〔=本質的性質〕に関して四つの主要な見解がある。つまり、生気論、機械論〔mechanism〕(または物理化学主義)、マシン〔機械〕主義〔machinism〕、そして有機体論(または生物システム主義)である。↑【生気論】は、『生命』を、たとえば『生命衝動』といった、何らかの非物質的な存在者と目標へと努力する傾向なるものによって定義する。↑【機械論】は、『生きている』という述語は物理化学の用語によって定義可能であると主張する。つまり、有機体は大変複雑な物理化学的システムにすぎない。↑【マシン主義】は、有機体を機械に似たもの、つまり設計され、プログラムされ、そして目標指向的〔goal-directed〕なものとして考える。有機体論(または生物システム主義)は、生命を何らかの極度に複雑なシステムの創発的性質とみなす。このシステムの遠い先祖は、約40億年前には生命のない〔abiotic〕ものであった。生気論は、まったく信用されなくなった。不毛であり、非物質的なエンテレキーなるものは、観察と計算をしようにも不可能だからである。機械論はいまだに流布しており、分子生物学の誕生以来は特にそうであるが、生きものの特有性のいくつかを説明することには失敗している。とりわけ、それは、なぜ有機体における代謝過程が、概して、中性的または自己に仕えるのではなく、有機体に『仕える』のかを、説明しない。機械論はまた、自己洗浄と自己修復のメカニズムの創発も、説明しない。つまり、生きていない化学系は、ついには反応のいくつか、あるいはすべてさえも停止させるような、反応を抑制する化学物質を蓄積するかもしれない。機械論は、デカルトによって創始され、それ以来広まったが、今日ではコンピュータ科学の連中に人気がある。その連中は、生命プロセスの特定の特徴をコンピュータシミュレーションしたものを、↑【人工生命】と呼んでいる。皮肉にも、マシン主義は、設計と計算という概念に含まれる目的論を、生気論と共有している。生物システム主義だけが、化学的前躯体からの生命システムの自己集成についての分子生物学的説明と、遺伝子変化と自然淘汰による進化の理論を認めるだけでなく、生命を化学レベルに根をおろした一つの創発レベルとして認めもする。↑【創発】、↑【創発主義的唯物論】、↑【システム主義】。
matter 物質 (BungeDic2, p.174)
すべての、現実の、または可能な↑【物質的存在者 material entities】の収集体。すなわち、M* = {x | Mx}。ここで、M = 物質的である〔material 質料的である〕である = 変化可能である、である。M*は一つの収集体であるから、物質は概念的であり、物質的ではない。つまり、個々の対象だけが、物質的であり得る。対照的に、物質的存在者から構成されるいかなるシステムも、社会から宇宙まで、物質的である。注意:物質 ≠ 質量。実際、質量は、陽子とか電子といった、なんらかの物質的な物だけが持つ性質である。光子と重力子は質量を持たないと想定される。↑【E = mc2】。
〔注。『それは物質である It is a matter』とは、それと指している対象が、物質的存在者であることを述べているが、物質とは、或る種類を括る、同定のためのカテゴリー(= 名義尺度の概念的存在者)であり、収集体の名称である。2010年7月20日-3を参照せよ。〕
mechanism 機構〔メカニズム〕、機械論 (p.175)
【a プロセス】複雑な物が働くようにするプロセスなら何でも〔機構と呼ぶ〕。例1:時計の機械的または電気力学的『働き』。例2:学習と創造の神経的メカニズムは、前には拘束されていない神経細胞のシステムから、新しいシステムが自己集成することだと考えられる。例3:社会生活において、協力は一つの調整〔協調coordination〕メカニズムである。例4:投票することは、参加 のメカニズムである。例5:道徳は、社会的な共存と制御のメカニズムである。_メカニズム_的または_強い_↑【説明】は、システムにおける(諸)メカニズムを開示することを含む。これらは、説明的論証の前提に出てくる(諸)法則言明において表現される。
【b 世界観】宇宙は時計のようなものだという世界観。したがって、宇宙論は力学〔mechanics〕(デカルトの思弁的な流体力学、あるいはニュートンのより現実的な粒子力学)に等しいであろう。機械論は、最初の科学的世界観であった。それは、今日の最も進歩した科学を普及させたし、可視的なすべての物の機械的性質を研究するように研究者を仕向けた。同じ理由によって、人々はかつて優勢であった全体論的で階層的な世界観から遠ざかるようになった。とりわけ、デカルトらは、動物の身体を、ポンプ(心臓)によって駆動される単なる込み入った機械とみなした。魂だけは容赦されたが、いつもそうであったわけではない。機械論には、世俗的なものと宗教的なものという、二つの見解がある。_世俗的_機械論は、宇宙は自ら存在し、自ら制御するメカニズムであると、自ら巻直す一種の永遠の時計なのだと主張する。対照的に、_宗教的_機械論は、時計職人を仮定する。デカルトの宇宙時計は完璧であるが、神の創造にふさわしく、それは修理人を必要としなかった。物質を創造し、物質に力学法則を授けたので、デカルト流の神はもはや物理的宇宙にせっせと働く必要は無く、神の注意をすべて、霊的な物事に捧げることができたであろう。対照的に、ニュートン流の宇宙は、浪費的である。つまり、天体の機械の車輪の間には、摩擦がある。よって、神は天体機械が動くことを保つために、しょっちゅうそれを押していなければならない。17世紀の科学革命における発端から19世紀中期まで、世俗的機械論は、莫大な科学的および科学技術的な生産を刺激した。衰え始めたのは、場の物理学と熱力学〔thermodynamics〕の誕生、そして進化生物学の興隆に伴ってのことである。20世紀の初めまでに、それはまったく廃れた。現在われわれが理解しているのは、力学〔mechanics〕は、物理学の一つの章にすぎないということである。われわれはまた、相対論力学〔relativistic mechanics〕が電気力学〔electrodynamics〕を離れては意味をなさないこと、そして量子『力学〔mechanics〕』は全然機械的ではないことを理解している。というのは、量子『力学』は、明確な形状を持つ微粒子も精確な軌跡も記述しないからである。要するに、力学には栄光ある日があったのだ。4世紀前、それは物理的世界の科学的探求への道を示した。実際それは、実在の研究への正しいアプローチは、実験室または野外で試験〔テスト〕されることが可能な数式によって表現され得る諸法則にしたがって振る舞う基本的構成物へと、実在を分解するように努めることだと教えた。ゆえに、明示的ではないが、力学は合理主義と経験主義(↑【合理経験主義】)の総合である。そして、その成功と失敗は、世界観と科学が相互作用するかもしれないことを示している。↑【唯物論】、↑【最小主義〔minimalism〕】。
model モデル〔模型〕 [BungeDic1, p.39]
【a 視覚的】観察できない物または過程の図像的モデル〔模型〕は、それの視覚的類似 analogyである。例:電磁場の力線諸モデル、ボーアの原子模型、電磁力学過程のファインマン ダイアグラム〔ファインマン線図〕。19世紀には、著名な物理学者たちは、このようなモデルの役割についての活発な論争に深く関わった。典型的には、実在論者はそれらの模型を擁護したが、実証主義者と規約主義者は攻撃した。このようないくつかのモデル(たとえばボーア模型)は実在物の粗い表象であるが、他は(たとえばファインマンのものは)まさしく類似か単なる記憶を助ける工夫であると、今日では一般的に認められている。
【b モデル-理論的】一つの_モデル_は、言葉のモデル-理論的な意味では、一つの抽象的理論(または形式化された言語)の一例(または、よく言われるように『現実化』)である。たとえば、命題計算はブール代数の一つのモデルまたは例である。↑【解釈 interpretation】、↑【モデル理論】。
【c 科学的と科学技術的】〔原文はbとなっている間違いだろう。→増補版と照合せよ。〕科学または科学技術における理論的モデルは、或る事実的領域の特殊理論である。例:ヘリウム原子のモデル〔模型〕、細胞増殖のモデル、製造会社の模型。このようなモデルは、モデル理論で研究されるモデルとは無関係であるが、科学についての或る全体哲学はこれらの混同にもとづいている。つまり、↑【モデル混同〔混乱〕 models muddle】。二つの種類の理論モデルが区別されなければならない。つまり、拘束モデルと自由モデルである。_拘束モデル_は、(たとえば古典力学や一般均衡理論といった)一般理論を特殊諸仮定で充実する〔強化する〕 enrich ことの結果である。例:単振り子模型と資本市場のモデル。対照的に、_自由モデル_は、ゼロから〔from scratch〕作られる。例:或る事業会社〔商社 business firm〕についての諸モデル、発明の普及についてのモデル。生物学、社会諸科学、そして科学技術における理論的(または数学的)モデルは、たいていは自由モデルである。このことは、これらの専門分野がいまだ理論的に遅れているか、あるいは一般性を手に入れるのは困難だということのどちらかを、示している。
natural kind 自然類 (p.191)
恣意的からはほど遠い、一つの性質または一つの法則によって定義される収集体。例:すべての生きものは、生物体というクラス(自然類)を構成する;社会的関係によって結ばれる人々から成るすべての存在者は、社会システムというクラス(自然類)を構成する。唯名論者、規約主義者、そして主観主義者(とりわけ現象論者)は、自然類という観念そのものを拒否する。よって彼らは、周期律表、化学元素の変換〔transmutation〕、あるいは生物学的種形成を説明できない。
object 対象 (p.199)
考えられるもの、語られるもの、あるいは作用されるものであろうと、何であれ存在し得るもの。すべての哲学的概念のうちで、最も基本的、抽象的、そして一般的なもので、よって定義し得ない。すべての対象のクラスは、ゆえに最大の類である。対象は、個物または収集体であるか、具体的(物質的)または抽象的(観念的)であるか、自然的または人工的であり得る。たとえば、社会は具体的対象であるが、数は抽象的対象であり、細胞は自然的対象であるが、言葉は人工的対象である。Alexius Meinongと他の少数の者は、具体的と概念的な、可能的と不可能的な、すべての類の対象についての単一理論を建設しようとした。この企画は失敗した。なぜなら、具体的対象は概念的対象が持たない性質(たとえばエネルギー)を持つが、概念的対象は物質的対象が持ち得ない性質(たとえば論理的形式)を持つからである。よって、対象のクラスについての最も根本的な分割は、物質的(または具体的)クラスと概念的(または形式的)クラスへの分割である。
panpsychism 汎心論[Bunge (1999) 哲学辞典 初版 p.205]
あらゆるものは心的である、あるいは或る程度に心的プロセスを経験する能力を持つ、という教義。同義語:アニミズム〔animism〕。
phenomenology 現象学 [BungeDic2: 212]
〔略〕現象学とその分派は、20世紀前半には大陸の哲学で中心的であった。今では、合州国において↑ポストモダニズムの周縁で生き残っている。〔最後の2個の文だけを訳出した。2010年3月31日-1。〕