遊行七恵、道を尋ねて何かに出会う

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ティツィアーノとヴェネツィア派展

2017-02-26 23:30:03 | 展覧会
東京都美術館に「ティツィアーノとヴェネツィア派」展を見に行った。
巡回はないそうである。


チラシの「ダナエ」の絵は初来日だとある。
おかしいな、見た記憶があるのだが。
イタリアで見たのか、それとも??
フローラは確実に見ている。これはウフィツィ美術館で見ているので再会は間違いない。
…というわけで、記憶・認識・判別がうまいこと混濁した状況で絵の前に立った。

ところでわたしはどういうわけかカナの長い名前は発音は出来ても書くのによくミスる。だから表記ミスが多いのだが、もうそれはそれで行こうと思う。
書き間違えがあっても「ああ、はいはい」で読んでくれると助かります。
あとはもう例によって自分の好き勝手な思い込みで感想を書くだけです。



1.もうひとつのルネサンス、ヴェネツィア 1515-1460
宗教画と男性の肖像画が多い。

バスティアーニ 統領フランチェスコ・フォスカリの肖像  統領と言うのはドージェのことだな、だからこんなに金ぴか衣に赤の花柄縫い取りのハデハデ衣裳をまとっているのだな、と納得する。第65代統領。34年間も元首だったのです。しかしすごいよな、ヴェネツィアは。697年から綿々と共和制を敷いてドージェを選出して…
わたしのアタマには森川久美描くヴァレンティーノ・シリーズが浮かんでいるのですよ。共和国のドージェが。

聖母子シリーズ。ずらりと並んでいて、好きなのを投票…してはいかん。
やっぱり綺麗なママさんと赤子図というのはいいものです。
聖母子像は気品と聖性といくつかの決まりさえ守れば案外色々な表現が為されている。
それぞれの違いを見て回るのもいい。
聖母子+誰かの絵のうちこの絵が特に印象深かった。
モンターニャ 聖母子と幼い洗礼者聖ヨハネ  なにやらスゴい無言の圧力がある。ちびっ子ヨハネのアタマをぐっと押さえる幼子。聖母はそのヨハネを抱えてもいる。
とはいえ、小さい子らのこういう立ち位置の違いを見るのはあんまり好きではないなあ。

ベッリーニの工房 キリストの割礼 ベッリーニに基づく 原本はなくなったが写しの模作。ユダヤ教はこれありだものなあ。
じいさんらがやっているところ。赤子は痛いのか上を向いている。
これは「キリストが最初に流す血」らしい。
まぁそうですわな。
割札といえばアグニシュカ・ホランドの映画「僕を愛した二つの国」の主人公はユダヤ人でありながら戦時下のドイツ、ソ連を生き延びるのだが、割札という証拠があるためいつもヒヤヒヤしていた。
宗教の儀式はアイデンティティーにも関わる。

バルメッツァーノ 死せるキリストへの香油の塗布  どのマリアか知らないがマリアが塗っている。キリストの周囲にはマリアが多すぎる。そばには髭のじいさんもいる。座らせて塗るわけだがなかなか人々はリアルな表情をしている。やはりこれはエンバーミングでしょうなあ。

ティツィアーノ 復活のキリスト  旗を持って立つキリストの肉体のたくましさ。ヴィゴ・モーテンセンに似ている。
三日前まで死んでいたとは到底思えない立派な体つき。「復活した」こととその尊さを示すための表現なのだろう。


2.ティツィアーノの時代 1515-1550
さてここでティツィアーノのフローラ登場。

片肌脱いで掌にはバラ・スミレ・ジャスミンの花を握る。誰かを見ているのか、それとも固まっているのか、視線が凍結している。
肌は若々しく張りがある。布を押さえる手の甲もむっちり。髪はいわゆる「ヴェネツィア金髪」。赤みを帯びた金髪である。
これは人工的な努力の賜らしい。
塩野七生さんが「海の都の物語」でそれについて記しているようだ。
とはいえわたしが思い出すのは、マルコ・ポーロが子供の頃は金髪で、大人になってから黒髪になっていった、という話。

パルマ・イル・ヴェッキオの工房 女性の肖像(スキアヴォーナ)  純然たる美人画とみなしていいのではないかな。赤みがかった金髪に豊かな衣装の美人。赤に白の縫い取り。
ロセッティの美人を思い出すような優雅さ。
こうした美人ならわたしも好きだ。

パルマ・イル・ヴェッキオ ユディト  うわ…爺首を持つユディトが。手にえくぼがあり、にこにこ。ふくよかななあ。
クラナッハのユディトとはまた違うわけですよ。いいボリュームだ。

ここではいろんな男性の肖像がある。
騎士、高位聖職者、収集家、単に「男」表記のものもある。
その中でも見ててウキウキなのは一人だけ。

セバスティアーノ・デル・ピオンボ 男の肖像  振り向く髭くん。いい男だなあ。しかしちょっとアタマわるそうな感じもある。
くっきり二重の目にかっこいい感じ。
音楽家か羊飼いだと説明がある。ああそうか。政治家ではこんなハンサムはおらんわのう。

ヴァイェンティ 聖母の誕生  老母アンナにだっこされるマリア。左にいる女はきれいな深い赤の衣を身につけている。
聖母の教育をモチーフにした絵は見ているが、誕生は知らなかったなあ。

ヴェチェッリオ 聖家族とマグダラのマリア  灰色の義父もいる。幼子がマグダラのマリアに「やぁ」と手を挙げている。
時間の錯誤はあるが、こうした絵を望んだ人もいたわけだ。

リチーニオ(帰属) 裸婦  布がなかったらクールベの裸婦を思い出す。そばに鳩が二羽いるのでこれはヴィーナスか。
なかなかきれいな裸婦。

ティツィアーノ ダナエ 冒頭のチラシ。ファルネーゼの依頼だったそうだ。
じーっと金の雨が降ってくるのを見つめる女。恋の仲立ちをするはずのちびっ子もおやおやという感じ。
それにしてもこのダナエのいる場所は塔らしいが、構造がよくわからない。ドラマティックな瞬間の様子を描くのに、場のことなどどうでもいいことか。

ティントレット レダと白鳥  髪飾りと首飾りは真珠か。質感のよさそうな布の重なり。「アフ△ック」とか言いそうな白鳥の肩を押さえるレダ。何か別なものに気を取られているようだった。




3.ティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼ 巨匠たちとの競合 1550-1581

ティツィアーノの真筆の教皇パウルス三世より、本人+工房の枢機卿ペエトロ・ペンボの肖像の方が興味深い。東洋の老師風な雰囲気がある。

ティツィアーノと工房 洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ  真珠の首飾りに衣装も整えたサロメが誇らしげな顔で笑っている。
首はもう形を崩れさせている。
オスカー・ワイルドの小説が出るまではサロメのこの男への恋情はなかったのだ。

ティントレット ディアナとエンディミオン(もしくはウェヌスとアドニス)  どちらの要素も入り乱れている。美女の女神と美青年とがいるところに、猟犬もいれば赤子もいたりとにぎやかである。

ボニーファ・ヴェロネーゼと助手 最後の晩餐  もうすでに色々動きがある、というかリアクションが激しい。弟子たちみんなそれぞれ。イエスの横の男などは寝ている。
テーブルにある食べ物のうち、わかるのは丸いパンくらいなのだが、それでも右下にいる斑犬は嬉しそうに首を伸ばして貰えるのを待っているが、キジネコは落ち着いてパンをクンクンしている。
要するに猫はもう自立的に(以下略)。

パオロ・ヴェロネーゼ 聖家族と聖バルバラ、幼い洗礼者聖ヨハネ  左にいる聖バルバラの衣装、チラシ画像ではただの金地に縞にしか見えないが、現物は縞というより間道というのがよいような柄で、堅そうな感じもある。眠る幼子の足に口づけるヨハネ坊や見守る三人。

ヴェロネーゼの工房 ベルシャツァル王の饗宴  バビロンの王様。エルサレムの神殿からとってきたお皿を使っているそうだ。この場の後に何かあるんだろうけど、とりあえず皿に載るごちそう、おかしなどがみんなおいしそうだったなあ。

ヴェネツィア派の版画ースキアヴォーネを中心に

ポリフィロの夢  あら、これはいろいろとえっちくさい画ね。詳しくは書かない。

カンパニョーラ 洗礼者聖ヨハネ  日本の托鉢のような器をもつ聖ヨハネ。

スキアヴォーネ ユディト  立ち姿。これくらいの美人はいいな。見ていて楽しい。

スキアヴォーネ ミネルヴァ  兜をかぶり面のついたのをはく。くびれのない体だがとてもきれい。

スキアヴォーネ マルス  むしろこちらの方が美人か。顔のついた腰蓑のようなのを巻いて胸には花。

ほかにもたくさんの絵があるのだがわたしのような者ではまともなことは書けないのでやめる。

肌の美がよく描けていたなあ。
実際よりたぶんきれいな肌だと思う。
色がとてもよかった。

4/2まで。

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