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犯罪 フェルナンド・フォン・シーラッハ

2012年度の本屋さん大賞、翻訳部門の第1位に輝いた本書。犯罪者の人生を淡々と記述していくなかで、「犯罪というものは法律で完全に裁くことはできないものだ」という著者の考えが強く伝わってくる。11の短編それぞれが全く違う個性を持っていて、次はどんな話なのだろうかと期待しながら楽しく読むことができた。どれが一番好きかと聞かれたら、色々別の意見がでてくるに違いないが、どれも忘れ難い話ばかりだ。もうすでに続編が翻訳されているらしいが、どのような方向に向かっているのか大変楽しみだ。(「犯罪」 フェルナンド・フォン・シーラッハ、東京創元社)

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テレビを見てはいけない 苫米地英人

情報の大半をTVに依存するようになった生活や、「空気を読め」といった嫌な風潮が個性的な生き方を阻害しているという著者の主張は全くその通りで、共感できる。そうした誰もが感じている現在の息苦しさのようなものを上手に説明してくれているのが本書の最大の特徴だろう。実際のところは、著者が言うほど、皆が心配するほどではないのかもしれない。それもTVの情報だからである。しかし、もしかすると、私などの知らないところで、学校での子ども達等がとんでもないことになっているのかもしれない。少なくとも、「空気を読め」という風潮が蔓延していることをTVが伝え、それを増幅しているのも同じTVであり、TVに無自覚の弊害があることは間違いない。著者のような意見を少しでも多くTVで発言していくことが、悪しき悪循環を断ち切ることにつながるのは確かだろう。(「テレビを見てはいけない」 苫米地英人、PHP新書)

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宇宙は何でできているのか 村山斉

最先端の素粒子理論で、宇宙が何からできているのか、どのような法則がそこにあるのかを解説した本書。本書を読んでいると、判りやすいとはどういうことなのかを考えさせられてしまう。本書では、難しい理論が、日常の現象に例えて「判りやすく」解説されているが、それで本当に判りやすいかと言うと、あまり判りやすいような気がしない。そこには、日常に例えれば判りやすいという思い込みがあるような気がする。難しいものは難しいまま記述しなければいけないという分野があるような気がする。大変勝手な考えだが、そもそも著者の、正確には理解してもらえなくてもその面白さが判ってもらえれば良い、ここまで科学は進んだということを理解してもらえれば良い、という目標そのものがいけないのではないかとさえ思う。判ったつもりになってくれ、共感してくれというだけでは、ある意味読者に失礼ではないかとさえ思う。楽をして判ったつもりになりたいという読者もいることはいるだろうが、多くの読者は、著者自身がそれを理解したときの自分の追体験を判りやすく語ってくれることを望んでいるはずだ。著者自身がそれを理解した際に日常生活の中の比喩で理解したのでなければ、もっと別の伝え方があるはずだと思う。(「宇宙は何でできているのか」 村山斉、幻冬舎新書)

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魔球 東野圭吾

いくつもの謎を合理的に説明できる可能性を探り、真実に到達するというストーリーはミステリーの王道。作者は、作風がいろいろ変わってきた作家という印象があるが、20年以上前に書かれた作品にもかかわらず、そでに今の著者の作風を感じさせる作品だ。ダイイングメッセージはややサービス精神を発揮しすぎという感じがするが、こうした味付けにありがちな不自然さを感じさせないのは、さすがミステリーを良く判っているという感じだ。著者の作品の中では中の上くらいかもしれないが、、読み物としての風格と面白さは存分という気がした。(「魔球」 東野圭吾、講談社文庫)

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チルドレン 伊坂幸太郎

「アヒルと鴨の…」以降の伊坂幸太郎の作品は大体読んでいると思うが、その中で、なぜか2年くらい前に買っておきながらまだ未読だった本書をようやく読んでみた。最新作の「夜の国のクーパー」を読もうと思ったのだが、その前にこれを読まなければと思いだした次第。既に文庫化されている。最近の著者の本に比べて随分軽い感じの本だが、とにかく面白い。本の帯に「宣伝で短編集と謳っていても長編です」というような作者の言葉が書かれている。1つ1つの話の面白さがそれらを続けて読むことでさらに面白くなるという連作集はよくあるが、連作集であることを本書のように強く感じたことは今までなかったように思う。1つ目の話では主人公ではないかという人物が2人も登場して、どっちが主人公なのだろうと妙に気になり、やがてどちらが主人公かははっきりはするのだが、それぞれがそのあとの話で違った面白さを醸し出す。少し不思議な作りも面白い。(「チルドレン」伊坂幸太郎、講談社)

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日本人の誇り 藤原正彦 

少し前のベストセラー。本書を読んでいて、日本人の自虐的な歴史観や戦争に対する意識の見直しを訴える著者の熱意に共感を覚えるが、こうした善意に悪乗りしたり、自分の都合の良いように著者を担ぎあげたりする人が多いのではないかという危惧を感じる。本書は、大震災の直後に刊行され、一部加筆される形で震災のことに触れられているが、これも別の意味で、著者が担ぎあげられているような気がしてしまった。(「日本人の誇り」 藤原正彦、文春文庫) 

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ハーバード白熱日本史教室 北川智子

人気を博したTV番組と本にあやかったような題名の本書だが、非常に面白かった。著者がハーバード大学で教鞭をとるようになるまでの経緯、そこで教えている2コマの授業の概要、ハーバードの教師として頑張っていることについての感想などが、コンパクトにまとめられていて興味深く読むことができた。飄々と書かれているが、著者の情熱と弛まぬ努力のようなものがにじみ出てくるような内容だ。本書の内容には、どうしても文字だけでは伝えられないものが含まれていて、読んでいてて少しもどかしい思いがした。授業では聴覚や視覚を重視して工夫しているようだが、それならば本書についても、開示できる範囲でもう少し図表を使うなどの工夫を是非して欲しかったと思う。著者の若さと才能の素晴らしさもさることながら、こうした講義を学生にとって有用と考える、大学側の度量の大きさも大したものだと思う。(「ハーバード白熱日本史教室」 北川智子、新潮新書)

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銀漢の賦 葉室麟

著者の本はこれで4作目。長編としては3作目になる。3作とも違った味わいを持ちながら、著者独特の雰囲気とオリジナリティにあふれている。いずれもこれが代表作だと言われれば納得してしまうような作品ばかりだと思う。ここまで読んできて、まだ著者の全体像が判ってきたとは言えないが、それでも少し著者の特徴のようなものが見えてきたように思える。まず第1は、終わり方が少しほろ苦いが、納得のいく終わり方で、読後感が大変すがすがしいこと。2つ目は、登場人物に敵味方はあるものの、本当に悪い人間は端役でしか登場せず、主人公と対峙する敵役にも主人公とは違う正義感・責任感があり、気概を持った人物として描かれていることだ。言いかえれば、単純な勧善懲悪の話ではないということだ。こうした特徴はパターン化されているというよりも、時代や人に対する著者の目が一貫しているから、おのずとそうなってしまうのだろうと思われる。(「銀漢の賦」 葉室麟、文春文庫)

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あんじゅう 宮部みゆき

三島屋変調百物語の第2作。話はますます面白く、どうしてこのような話が書けるのか不思議になるくらいに、心に染みいる内容だ。本書のように複雑で微妙な心のひだを描写する文章を他に読んだことは皆無である。まさに現代の語り部の面目躍如ということだろうが、そこにあるのは時代や国を超えた日本の宝ではないかという気さえしてくる。本書では5つの話が描かれていて、全ての質の高さに驚かされるが、それぞれの趣の微妙な違いやゆるいつながりなども、全てが計算されつくされている。話はもう少し続きそうな感じで、本当に続編が楽しみだ。(「あんじゅう」 宮部みゆき、新人物往来社)

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矢上教授の午後 森谷明子

著者の本をこのブログに書くのは初めてだが、作品を読むのは2作目だ。最初に読んだ本の内容は良く覚えていない。あともう1冊ずっと前に読もうと思ってまだ読んでいない本も1冊ある。ということで私自身、作者についてはほとんど知らないのだが、このようなミステリーを書く作家だということは本書を手にして作家名をみるまで知らなかった。読み終えてみると、探偵役の矢上教授の人物造形があいまいで優秀なのかそうでないのか良く分からない。ワトソン役と思われた登場人物も全然謎の究明に貢献してくれない。謎解明の大事なステップを容疑者の1人から指摘されてしまったりする。途中で犯人が判ってしまうのだが、どうも釈然としないまま、結局それが真犯人でしたということになる。ミステリーの一般的な基準から言えば、かなりはちゃめちゃな作品なのだが、作者は至って真面目にトリックを織り込んでいるようだし、ハラハラする場面もうまくできているようだし、何よりも読んでいてそれなりに面白い。少し奇妙な作品だが、こういう作品もあって良いという気持ちを強く抱かせてくれる作品だ。(「矢上教授の午後」 森谷明子、祥伝社文庫)

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三匹のおっさんふたたび 有川浩

シリーズの第2作。60歳を超えた腕に覚えのある3人のおじさんが町の自警団として活躍するという大筋は前作と変わらないが、3人の活躍そのものが話の中心だった前作に比べると、本書ではそうした活劇的な場面はあまりなくなり、地域社会が直面している様々な問題であるとか、主人公世代とその子供・孫との世代間交流などをしっとりと読ませてくれる。最後におまけのようについている短編は、内容もテーマも登場人物も全く本編と関係ないようで、なぜここにと思ってしまうが、これがなかなか面白い短編で、単純におまけとして得した気分になる。作者から「他の小説も面白いから読んでね」と言われているような気がする。(「三匹のおっさんふたたび」 有川浩、文芸春秋)

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死者のための音楽 山白朝子

著者の本は2冊目だと思って読んだのだが、巻末の解説を見てびっくりした。この著者は、非常に有名な作家の別のペンネームなのだそうだ。解説では、作家の名前がイニシャルになっているが、あの作家だということは一目瞭然、そう言われてみれば、文章の雰囲気なども似ているようだし、そういうことだったのかと合点がいく話だ。その作家については、一世を風靡した後、長いスランプに入ってしまい、最近は鳴かず飛ばずで、時々実験的な試みを作品上でしているが、以前のようなキレが影をひそめてしまったというのが私の認識だった。本書のように別のペンネームでというのも、そうした試みの1つなのかもしれないが、本書でも昔のような心に迫るスト-リーもびっくりするようなアイデアも感じられないのは残念というしかない。厳しく言えば、おざなりのストーリ-をうまい文章で覆い隠したような作品だ。どんなに昔心酔した作家でも、スランプん時期のそうしたあがきを見るのは正直辛いし、せつない作品の第一人者だった作家のそうした作品を読むのは皮肉なことだが大変切ない気がする。(「死者のための音楽」 山白朝子、MF文庫)

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レイクサイド 東野圭吾

登場人物は14人。そのうちの1人が殺される。犯人は早々に自白してしまうが、そこから奇妙な展開になる。その殺人事件の発生を知る登場人物全員が、何故かその犯人を庇い、事件そのものがなかったことにしようと振る舞い、犯行の隠蔽工作に加担する。驚いたことに、本書の主人公と思われる人物も例外ではない。この奇妙な状況は、有名なミステリーの名作を思わせるが、やがて話はさらに思わぬ方向に動き始める。登場人物たちの異様な行動の裏に隠された事実には、そういうことだったのかと驚かされる。ミステリーでありながら、読んでいてどこの時点で真実に行きつくかを楽しむというミステリー本来の読み方が想定されていない異色のミステリー。著者は、「容疑者Xの献身」「聖女の救済」などにみられる「2度と使えないトリックを使った唯一無二のミステリー」をいくつも書いているが、本書もその1つ、であり、その意味で傑作の1つに数えられるだろう。(「レイクサイド」 東野圭吾、文春文庫)

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訪問者 恩田陸

それぞれの章が「来客を告げるベルが鳴った」の1行で始まる凝った作りの本格ミステリー。但しこれを本格ミステリーと呼べるかどうかは微妙なところだ。閉ざされた犯行現場、怪しげな登場人物たち、色々な事件がそれぞれ謎を秘めたまま新しい事件が起こってどんどん謎が増え、話はかなり混沌としていく。途中からは、事件そのものの謎とは別に「訪問者とは誰か」という謎が大きくなっていく。そして、本書のとっておきのトリックはむしろその「訪問者とは誰か」という謎解きにあることが判って、読者はそれに驚かされるという仕掛けだ。本書では3つの不審な死亡事件が描かれていて、それが事故なのか殺人なのかも判然としないまま話は進んでしまい、最後にはその3つの事件の真相解明がいつのまにか脇に追いやられてしまう。これは作者自身が意図したことのようで、驚いたことに、作者自身があとがきで、この3つの事件の真相をどうしたか覚えていないと述べている。作者が書きたかったのは、あくまで「訪問者は誰か」という謎、そこに仕組まれたトリックだったということだ。本格ミステリーの様相を呈しているがかなり異色の作品であることは間違いない。(「訪問者」 恩田陸、祥伝社文庫)

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万能鑑定士Qの推理劇 松岡圭祐

旧シリーズが全12巻で終了。本書は同じ主人公による新しいシリーズの第1巻である。前作と同じく、つい先日あった時事ニュースが話の中に盛り込まれていて、現実の世界と同時進行する小説世界を楽しむことができる。本書では、新シリーズの始まりらしく、旧作のこれまでの流れが大体判るようなエピソードが出てくるが、そのエピソードがそれだけでなく、本筋とうまく関連しあっていたりして、やや凝った作りになっている。また、最近スタートした同じ作者の別のシリーズの主人公がちらりと登場していて、その辺も大変抜け目ない。このシリーズを読み続けているというのは少し恥ずかしいし、旧作までで読むのをやめても良かったような気もするが、何も考えずにストーリーを追いかけるような読書も息抜きとしてあっても良いと思い、本屋で新刊を見かけるとつい手がでてしまうのが不思議だ。(「万能鑑定士Qの推理劇Ⅰ」 松岡圭祐、角川文庫)

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