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純喫茶「一服堂」の四季 東川篤

著者の新しいシリーズだが、凝ったトリックのミステリーとユーモア小説の融合という著者の基本路線は全く変わらない。あまり変わらなさ過ぎて、新しいシリーズにする意味があったのだろうかと疑問に思ってしまう程だ。凝ったトリックという点では、流石に数年前の作品のような切れ味はなくなってしまっていて、このままではただのユーモア小説になってしまうのではないか、その一歩手前まできてしまっているのではないか、とやや心配になる。著者のファンとしては、どんどん作品を読みたいと思う一方、粗製乱造でミステリーとしての質の高さを損なわないでほしいという気持ちもあり、その辺が難しいところだ。(「純喫茶「一服堂」の四季 東川篤、講談社)

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寄生獣1・2 岩明均

大昔に単行本で読んだ記憶のあるコミックの再読。最近TVでの放映が始まったようだし、(昔ブームになったのかどうかは知らないが)何かブーム再燃のような感じなので、読んでみることにした。昔読んだ時の記憶では、もっと幻想的な話だったようなイメージがあるのだが、今回読んでみるとそうした幻想的な要素はほとんどなく、日常生活の中に潜む恐怖という感じの物語で、ある意味びっくりした。昔読んだときの印象というのはいったい何だったのか不思議だが、読む年齢によってこんなにも印象が違ってしまうのかというところにも驚かされた。「文庫版1・2」とあり、3・4・5と続いていくのかどうか、そこのところは不明だが、意図的にせよそうでないにせよ「ブーム再燃」ということであればそれなりの「名作」なのだろうとは思う。(「寄生獣1・2」 岩明均、講談社文庫)

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現代アート経済学 宮津大輔

「普通のサラリーマンが「現代アート」のコレクションをしていてそれについて語った本」というのが前作の触れ込みだったが、本書を読むと、「普通のサラリーマンyというのが話題作りのための虚構だったのではないか疑いたくなるような、充実した内容の1冊だった。「普通」というのは単に「年収的にはその程度」という意味であり、知識としてはプロ並みということだったのか、前作が売れたおかげで「普通のサラリーマン」ではなくなってしまったからなのか。いずれにしても帯に書かれた日産ゴーン社長の言葉通り、「その知識は只者ではない」と思った。(「現代アート経済学」 宮津大輔、光文社新書)

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天空の蜂 東野圭吾

著者の15年くらい前の作品なのだが、なぜか本屋さんで平積みになっていた。奥付をみると、54刷となっていて、何かの事情があって再注目されているらしい。帯の謳い文句をみると、原子力発電所を舞台にしたサスペンスものということなので、あるいは、現在の「原発問題」にからめて出版元か本屋さんのどちらかが仕掛けているのかもしれない。一方、題名からすると、あのアガサ・クリスティの名作「大空の死」を想起させるので、何となく敬遠したい感じだったが、最近読んだ書評誌の「東野圭吾の読むべき10冊」にも本書がしっかり入っている。そうした経緯があって、何かに乗せられているような気もしたが、とにかく読んでみることにした。読んでみて思ったことは、原子力発電所の安全性や問題点について、おそらく書かれた当時としてはかなり画期的な問題提起が含まれた作品だったのだろうということだ。書かれた後の15年にその点に関してどのような技術進歩があったのか、あるいはどのような議論がなされたのかは詳しく判らないが、既に15年も前にこのような小説が書かれていたということ自体に驚かされた。また、本書が刊行された当時、どの程度の反響があったのか判らないが、私の記憶にないということは非常に大きな反響を巻き起こしたということではなかったと思う。これがミステリー作家ではなく、社会派の小説家によって書かれたものであったとしたらもっと大きな反響を読んでいたのではないか。特に原子力発電所がテロの脅威にさらされた時、「慌てて避難誘導することは『テロにも安全』と宣伝してきたことと矛盾する」といって関係者が逡巡するあたりは、本当に鋭いところを突いているなと感じた。緻密な構成と息をつかせないサスペンスは、そうした社会問題抜きにしても十分傑作と言える内容で、書評誌が彼の代表作の1つとしてあげている点も、大いに頷ける気がした。(「天空の蜂」 東野圭吾、講談社文庫)

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チャイルド44(上・下) T・R・スミス

スターリン時代の過酷な状況で起こる壮絶なサスペンス。一匹の猫の運命から始まる物語の構成の面白さに驚かされると同時に、最後の最後まで息をつかせないサスペンスに圧倒される。実際に起こった事件を題材にしているとのことだが、国家の無謬性が前提となった世界の恐ろしさを読者はまざまざと見せつけられる。読み終えてみると、無機質な題名にこめられた恐ろしさが心に迫ってくる。本書は著者の処女作ということにも驚かされる。著者の作品はすでにいくつも刊行されているが、それらがどのような位置づけの作品なのか、本書の続編なのか、全く違う舞台の作品なのか、いずれにしてもまた手に取ることになるだろうなぁという期待が膨らむ1冊だった。(「チャイルド44」(上・下) T・R・スミス、新潮文庫)

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怪盗グリフィン、絶体絶命 法月倫太郎

一風変わった冒険小説。最後のどんでん返しの数は、これまでに読んだ小説の中でも最も多い1冊に数えられる気がするし、さらにそのどんでん返しを「それも計算のうちだった」という主人公のスーパーマンぶりにも唖然とさせられる。しかしよく考えてみると、全体の謎の大半はある1つのアイデアから成り立っていて、1つのアイデアをここまで膨らませることのできる作者の凄さが一番唖然とするところかもしれない。登場人物の名前がそれぞれとっても変で、そのあたりの作者の遊び心はある意味ほほえましいのだが、私としてはややふざけすぎている気がして気になった。カフカのある小説にちなんだ名前が出てきた時は、その作品がかつて私にとって特に大きなインパクトを感じた作品だったので少し嬉しい気がしたものの、そのカフカの小説のイメージとは全く違うので、そう思ってしまったのかもしれない。(「怪盗グリフィン、絶体絶命」 法月倫太郎、講談社文庫)

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ハンナ・アーレント 杉浦敏子

先日新書で読んだ政治哲学者ハンナ・アーレントについてもう少し詳しく知りたいと思っていたら、いつも行く本屋さんで第二次世界大戦関連の棚が特設されており、そこで見つけた1冊。前に読んだ新書は、彼女の思想そのものの紹介というよりも、彼女の生涯を記述した評伝に近いものだったが、本書はもう少し彼女の思想そのもののが中心に紹介されており、ちょうどこちらのニーズに合っていそうな感じだった。本書は、図表や写真がたくさん掲載されていて一見読みやすいようにみえるが、文章の方はなかなか難しいというか、特に判り易く噛み砕いて書こうとか読みやすく例えを多用するでもなく、普通に書かれているのが却って有難い気がした。子どもの頃の写真等は、新書のものとほとんど同じで、おそらく写真そのものがあまり残っていないのであろう。また、文章に添えられた図表や絵も、特に内容の理解を助けてくれるようなものではなく、私の場合は、ただ普通の本のように文章だけを追いかけて、図表や絵をその合間に見るようなこともなかった。彼女自身の著作の引用なども丁寧に掲載されていて、いよいよ次は彼女の書いた本そのものを読もうかという気にさせてくれた。(「ハンナ・アーレント」 杉浦敏子、現代書館)

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エデン 近藤史恵

著者の「サクリファイス」シリーズの第2作目。同シリーズは既に第4作目が刊行されているので随分遅れを取ってしまった感じだが、かなり昔に買って読んでいなかった本書を今回なんとなく読んでみた。本書の舞台である「ツールドフランス」については色々断片的な知識はあるが、そうした知識の確認以上にその舞台裏の葛藤のようなものがうまく描かれていて、これはやはり「題材の選択」の勝利だなぁと感じた。一般的にある程度知られているが深いところまでは知らないという題材が、読み手の興味をそそる。ほとんど知られていない世界だとなかなか興味の持ちようがない一方、知られ過ぎた世界だと興味を持つような話を作り上げるのが大変になる。その中間くらいの話が、「大体知っていたとおりだが、さらにそんな奥があったのか」という感慨のようなものが生じるのだろう。前作を読んでからかなりの時間が経っているので、誰が主人公で、どういう人物だったのかも全く思い出せないし、本書でも多くは語られていないが、それについては何の不自由も感じなかった。次の第3作を読むまでにまたかなり時間が経ってしまうかもしれないが、それでも構わないということだけは覚えておこうと思った。(「エデン」 近藤史恵、新潮文庫)

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マーチ博士の4人の息子 ブリジット・オベール

本書の帯には、「悪童日記」のアゴダ・クリストフが絶賛した作品という言葉が書かれている。裏表紙のミニあらすじを読むとミステリーのような感じなので、それをアゴダ・クリストフがコメントするというのは一体どういうことなのか、そもそもこの本はどういうジャンルの本なのかの、それが不思議で読むことにした。話は、ある家に住込みで働くお手伝いさんが、家の中の誰かが書いたと思われる日記を発見、その中にこれまでに犯してきた殺人事件の告白が書かれていていることで、犯人探しが始まるというミステリーだ。延々と殺人者とお手伝いさんの日記のやり取りが続き、さらにいくつもの殺人事件がおこるのだが、巧妙に犯人が誰なのか判らないように仕組まれている。読んでいて、意外な犯人ということで色々想像してみたが、最後の結末はどの推理にも当てはまらない意外なものだった。解説を読むと、その結末にはいくつか難点があるらしいのだが、もう一度読み直してそれを検証しようにも、話が錯綜しすぎていてそれさえもままならない感じだ。ミステリーを楽しむという観点からすると、延々と続くやり取りをもう少し短く、シンプルにしてほしいというのが正直なところだが、読んでいる最中のサスペンスを楽しみたいということであれば、この長々と続く緊張感がたまらない魅力でもある。犯人探しを続けるお手伝いさんにたっぷりと感情移入できれば、これほど面白い作品は稀かも知れない。(「マーチ博士の4人の息子」 ブリジット・オベール、ハヤカワ文庫)

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ヴァレンヌ逃亡 中野京子

著者の本領と言えば「西洋絵画謎解き」ということになるが、最近著者の新しい本が出ていないように思う。たまに新しい本かなと思って入手すると、これまでに書かれたものを再構成したものだったということが2度3度とあった。そうした中で本屋さんで本書を発見、この手のものは未読であることが明らかだったので、とにかく読むことにした。自分としては、特段この時代の歴史に興味があったという訳ではなく、まさに著者の名前だけで読んだ1冊ということになる。内容は、フランス革命の後のルイ16世とマリーアントアネットのパリ逃亡の1日をドキュメンタリー風に記述した内容。ルイ16世の優柔不断さには読んでいる読者もイライラさせられるが、現実にそういう場面に直面したら誰でもそうなるかもしれないなぁと思ってしまう。それにしても、フランス革命からルイ16世処刑まで数年間もあったというのにはびっくりした。(「ヴァレンヌ逃亡」 中野京子、文春文庫)

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昆虫はすごい 丸山宗利

本の帯に「養老孟司氏、推薦」とあるが、まあそうだろうなぁと思う題名であり内容だった。とにかく、昆虫に関する基礎知識から驚くような生態までが満載で、楽しめた。植物を食べる昆虫と食べられる植物の目に見えないバトルなどは、植物はただ食べられているだけだと思っていたので、本当に目からうろこだった。本書の良さは、何といっても写真が豊富なことだ。ちょっとした記述でもそれを裏付けるような写真がちゃんと文章のすぐそばに掲載されているので有難い。植物と昆虫のバトルで、葉っぱを丸く切り取ってから食べる昆虫の写真などは、実に説得力がある。そうした大小の発見をいくつも経験させてもらえる1冊だ。(「昆虫はすごい」 丸山宗利、光文社新書)

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Ghostman 時限紙幣 ロジャー・ホッブス

「24歳の天才新人作家出現」などと騒がれて、書評誌等でも評判になっている作品。どういうジャンルか判らないまま読み始めた。時間切迫もののハラハラドキドキの作品だが、読んでいて、どうしても作者が何故24歳でこのような作品が書けたのか、本当に不思議な気がした。物語の根幹をなすアイデアもそうだし、裏社会を知り尽くしたようなディテールもそうだが、作者はどこでどうやってそれらを獲得して、作品にすることができたのだろうか?もしかすると、家族のなかに著名な作家がいるとか、こうしたジャンルの作品を集めているコレクターがいるとかで、小さい頃からこうした作品を身近に感じながら育ったのではないか、などの空想が広がる。訳者が解説のなかで、最初に読んだミステリーが「ダヴィンチコード」で、そうしたものなら自分も書けると思った、というエピソードを披露している。「ダヴィンチコード」が読んだ最初のミステリーというのも驚きだが、作品自体読んでいてとにかく驚きの連続だった。作品の構成は、オーソドックスな形式を踏襲しているが、それが実に読みやすいのは、やはりラノベのような現代感覚に親しんでいる若い人の作品だからではないかと思ってしまう。本書の場合、若いということが、そのハンディを完全に感じさせず、逆に良い面が全て出ているような気がする。次の作品、その次の作品と作品を重ねるなかで、変に凝った構成にしてみようかなどと思わず、このシンプルな作風でずっといてほしいと感じた。(「Ghostman 時限紙幣」 ロジャー・ホッブス、文藝春秋社)

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韓国人による沈韓論 シンシアリー

本書は、シリーズの2冊目で、前作を読んでいないので、本書を読んでしまうのが少し躊躇われたが、セウォル号沈没事故のことが書かれているということなので、日本びいきの著者(著者の本を読むのは初めてだが、本の題名や著者の紹介文などから「日本びいき」なのは明らか)がこの悲劇がどのように考えているのか興味をひかれ、読むことにした。本書では、やはり沈没事件について、終始韓国や韓国人の国民性に根差したものという捉え方をしている。国民性というものを云々したりそこから教訓を導き出そうとする性向は、もちろんどの国の国民にもあることだが、韓国の場合は、何かについて語る時、そのどちらのサイドにもそれが強くあるようだ。また本書を読んでいて、沈没事件の話以外のところで、とにかく韓国について知らないことの多さに驚かされた。特に朝鮮戦争前後に韓国で何が起きたのか、本書を読むまで、韓国にこうした歴史があったことさ全く知らなかった。色々考えたり意見を言う前に、少なくともこうした事実を知っておく必要があることを痛感、一度こうした本をまとめて読む必要があるかもしれないなぁ、と思った。(「韓国人による沈韓論」 シンシアリー、扶桑社新書)

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謎009 綾辻行人

1977~79年に書かれたミステリーのなかから、作家の綾辻行人がベスト作品を選んだというアンソロジー。8作品中3つが既読だったが、こういう機会にそうした作品を再読するのも良いかなと思って読むことにした。作品の選定はオーソドックスで既読のものも含めて大変楽しめた。本格物に偏ることなく、心理サスペンスや幻想的な作品もバランス良く選ばれているというのは、出版社の方針なのか本人の気配りなのか。選者のの好みをあまり前面に出さず、しかも書かれた時代の古さをほとんど感じさせない作品を通読し、意外な作品との出会いのようなものはなかったが、その分純粋に普遍的なミステリーを楽しむことが出来たような気がした。(「謎009」 綾辻行人、講談社文庫)

 

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亜智一郎の恐慌 泡坂妻夫

本書とよく似た題名の別シリーズである「亜愛一郎」3部作を読み終えてしまったので、次に本書を読むことにした。「亜愛一郎」シリーズがびっくりする終わり方だったのでそれとの関連はどうなっているのか、そもそも愛一郎と智一郎との関係はどうなっているのか等、読む前からそうしたことが楽しみだった。読み終えてみると、これはこれで全く別の話として大いに楽しめたし、2人の関係については特に記述はなかったが、容姿端麗だがどこか抜けているというキャラクターの設定は間違いなく血縁者であろうと思わせる。舞台が幕末で、それぞれの短編が前の話から約1年後の話という、連作集としては異様にのんびりした内容なのだが、それぞれのミステリーとしての出来栄えは見事というしかない。この2人の間の時代の出来事や人物に関する話があれば面白いと思うがそれは叶わない望みだ。(「亜智一郎の恐慌」 泡坂妻夫、創元推理文庫)

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