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オンライン落語 三遊亭白鳥ラーメン千本桜

久しぶりに広瀬和生プロデュースの三遊亭白鳥の落語をオンライン視聴。1時間を超える長講一席と約1時間のロング対談で、演目は「ラーメン千本桜」という15年くらい前に作ったというラーメン日本一をかけた源兄弟と平田との戦いを描いた人情噺。あっという間の1時間だったが、白鳥師匠のストーリー作りの上手さ、登場人物が乗り移ったような語りの迫力を再確認した。但し、それよりも感心したのは、本人も忘れていたようなこの演目を発掘してきた広瀬和生のプロデュース力だと思う。長講の後の対談も、昭和の名人と言われた落語家のエピソードなどから落語の歴史や文化としての価値をわかりやすく説き起こしてくれる充実した内容だった。また、無観客なので観客の反応を意識せず完全にウケ狙いのギャグや廃した語りができたとのことで、オンライン視聴ならではの名演を聞けた気がした。
①三遊亭白鳥 ラーメン千本桜
②三遊亭白鳥、広瀬和生 対談
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倒産続きの彼女 新川帆立

デビュー作が「このミステリーがすごい大賞」を受賞した期待の新人の第2作目。「ある女性が就職するとその会社が次々と倒産する」という匿名の投書に端を発した事件を追う女性弁護士の活躍を描く内容で、「連続殺『法人』事件」というキャッチフレーズも意外ならば、前作の主人公が脇役で登場するというのも意外。意外なのは面白いが、事件と主人公の関わりに本筋とは関係のないご都合主義があること、肝心の事件の真相がやや曖昧な終わり方、謎の秘密集団の存在も謎のままといったところがどうしても気になってしまった。続編に期待というところだが、本作ではこれまでの主人公2人に加えてもう1人女性弁護士が登場するので次作はこの女性が主人公になるかもしれないと勝手に想像した。(「倒産続きの彼女」 新川帆立、宝島社)
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玩具店の英雄 石持浅海

座間味くんシリーズ第4作。既に一件落着したと思われている事件の裏に隠されたもう一つの真実を主人公の座間味くんが安楽椅子スタイルで解き明かすという内容の短編集。扱われているのは主にテロ組織や新興宗教といった集団による犯罪で、それを解決に導いたのが警察という組織、いわば組織対組織の戦いだった事件だ。主人公は両方の組織の内部からは見えにくい部分に焦点を当てることで別の解釈、別の真相を指摘する。収められているのはごく短い短編ばかりだが、いずれもちょっとした疑問を手がかりにして見事に読者の意表をつく話ばかり。このシリーズの未読はあと長編が一冊のみ。新しい短編集の刊行を期待したい。(「玩具店の英雄」 石持浅海、光文社文庫)
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落語他 第三回ただの鉄道好き

落語家古今亭駒治とパフォーマーダメじゃん小出による鉄道ネタの2人会。3回目だが自分は皆勤賞。入り口で横浜市民に馴染みの深い鉄道各社によるグッズのプレゼントがありビックリしたが、中を見て今日はもうこれだけで十分というくらいの豪華さに2度ビックリした。2人による落語2席スタンダップコメディー2席もすごく面白かった。さらに自分は鉄道マニアというよりも鉄道マニアのマニア振りを聞くのが好きな「鉄道マニア」マニアで、話の中にはよくわからない部分もあったが、他のお客さんのノリの良い反応を聞いたり見たりしているだけで楽しかった。
①ダメじゃん小出 「でんしゃクン」
②古今亭駒治 「十時打ち〜神奈川編〜」
お中入り
③古今亭駒治 「旅姿宇喜世駅弁」
④ダメじゃん小出 「ゴンちゃんとブルートレイン」
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ペッパーズゴースト 伊坂幸太郎

著者の最新刊。非常に限定的な状況のみで1日先の未来を垣間見れるという特殊能力を持った中学校の先生が犯罪を目論むテロ集団と闘うという内容。主人公の視点、テロ集団メンバーの視点、作中作が交互に描かれながらストーリーが進んでいく、息もつかせない面白さだ。本書のおまけとして著者の言葉が印刷された絵葉書が付いていて、そこに「自分が気になっていることや怖いと思っていることを詰め込んだ作品」と書いてあった。それが何かは明記されていないが、「テロ組織とは交渉をしないvs人命最優先」「報道の自由vsその影響力に伴う責任」「人は皆平等vs理不尽な人生の過酷さ」といったキーワードが思い浮かぶ。最後に主人公が提示する全てハッピーエンドである可能性には、その意外性にびっくりすると同時に、是非そうであってほしいと思ってしまった。本書の全編を覆うニヒリズムからの脱却に至る永劫回帰の思想、学生時代に自分もハマったなぁと懐かしく感じた。(「ペッパーズゴースト」 伊坂幸太郎、朝日新聞出版)
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ひよっこ社労士のヒナコ 水生大海

初めて読む著者の作品。純粋なお仕事小説で、取ってつけたような謎解き要素もなく、ひたすら「社労士」という仕事で日常的に発生するトラブルに悪戦苦闘する主人公を追う。社労士という仕事がどんな仕事で、どのような形で社会に貢献しているのか、そもそも社労士に関わる法律や制度がどうなっているのか、読み進めていく中で自然と知識として得られるのが嬉しい。裁量的労働などの用語や社会保険の基本的仕組みなどもトラブル事例のような形でわかりやすく頭の中に入ってくる。主人公は会社内部の被雇用者ではなく様々な企業から委託を受けてその会社の労務管理をサポートする立場という設定なので、企業に法令を遵守させるという専門家としての基本と顧客である企業の利益を両立させることに苦労する。まさにそこに社労士としての社会貢献があり矜持があるのだと強く感じた。既に続巻も出ているので次の展開が楽しみだ。(「ひよっこ社労士のヒナコ」 水生大海、文春文庫)
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北里大学獣医学部 犬部! 片野ゆか

大学サークルとして動物保護を行う学生の数年間の活動をエピソード形式で伝えるノンフィクション。自分自身は動物があまり好きなほうではなく、特に犬は大の苦手なので、どうしてここまで献身的になれるのか想像も出来ないが、とにかく勉学や生活の利便性などを犠牲にして保護した犬や猫に愛情を注ぐ若者達の行動には素直に感銘を受ける。最初の方に登場するルンルンという犬の奇跡のようなエピソードはまさに感動的。あとがきにある動物動物向き合う2つの提言(最後まで付き合う覚悟、迷子札)もなるほどなぁと思った。(「北里大学獣医学部 犬部!」 片野ゆか、ポプラ文庫)
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ドッペルゲンガーの銃 倉知淳

作家志望の女子高生と警察官の兄というコンビが不可思議な事件を解決していくミステリー短編集。但し、実際に謎を解くのは、兄の方にときどき憑依して現れるご先祖様の霊という突拍子も無い設定。本書の魅力は、事件の不思議さ、謎解きの見事さもさることながら、この突拍子も無い設定から醸し出される面白さによるところが大きい気がする。まだまだ続きそうな終わり方なので、続編を楽しみにしたい。(「ドッペルゲンガーの銃」 倉知淳、文春文庫)
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デスゾーン 栗城史多のエベレスト劇場 河野啓

数年前にエベレストで遭難した登山家の軌跡を辿るノンフィクション。今年の本屋大賞ノンフィクション部門にノミネートされた作品。栗城史多という登山家については、NHKなどのTV番組で何度か見た記憶があり、無酸素単独で7大陸最高峰を制覇する直前に事故死したこと、アタック中の映像を自撮りしてライブ配信するのが特徴だったこと、無酸素単独というキャッチフレーズや無謀すぎる行動が色々非難されていたことなどは知っていた。本書にはそうした話以外に、怪しげな企業や占い師との関わり、単独無酸素というキャッチフレーズの実態など、故人にとってかなり不都合な話が赤裸々に描かれている。周囲の人たちが100%無謀で自殺行為だという行動をあえて行った本人の心の内は知る由もないが、本書を読んでいてネットという新しい媒体の怖さだけは間違いなく伝わってきた。(「デスゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」 河野啓、集英社)
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人新世の資本論 斉藤幸平

地球温暖化などの気候変動に代表される人類の自然破壊の現状を考えると、省エネ省資源の技術革新などでは全く危機回避にはならないと警告を発する本書。マルクスの資本論の未完部分を含む様々な論考を元に、こうした問題の解決や緩和のために小手先の努力では焼け石に水、場合によってはむしろ悪影響であると断罪、さらに成長を基盤にしてその成果を分配するという資本主義の基本的理想をもはや手遅れと切り捨てる。自分自身も省エネ技術やクリーンエネルギーについて、それを推進した分あるいはそれ以上のしわ寄せがどこかに発生しているのではないかと思っていたが、本書を読んでそのしわ寄せの行き先、外部化、不可視化の罠の仕組みがだいぶクリアになったような気がする。最近流行りのSDGs、グリーンニューディール、加速主義の問題点の指摘も説得力があって暗澹たる気持ちになる。こうした現状分析を踏まえて著者が提唱するのが「脱成長コミュニズム」、公共財である自然を資本主義に委ねている限り持続可能性に対する根本的な解決にはなり得ないとする主張だ。それ以外に残された道は、もしかしたら幸運にも突然宇宙技術の飛躍的発展がなされて地球を脱出、宇宙に飛び出すくらいしかないような感じだが、そこにも当然ながら地球の資源や利用可能エネルギーの壁がある気もするし、そんな幸運に頼れる余裕もないだろう。本書を読んで先日の衆議院総選挙を思い出した。選挙期間中に各党によって繰り広げられた成長が先か分配が先かといった政策論争の虚しさを改めて考えさせられた。(「人新世の資本論」 斉藤幸平、集英社新書)
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むかしむかしあるところにやっぱり死体がありました 青柳碧人

日本の昔話の舞台と主人公をベースにしたミステリー短編集。5つの短編が収められていてそれぞれが独立した話だが、最終話でそれらが緩い形で関連するという構成。主人公イコール善玉という固定観念を排し、良い奴悪い奴が入り混じって話が展開、それに本格ミステリーっぽい謎が加わって、独特の世界が繰り広げられる。本書を読んでいて、教訓的な昔話には復讐話、しかも一方的に正義を振りかざした残酷な話が多いなぁと改めて気づかされた。(「むかしむかしあるところにやっぱり死体がありました」 青柳碧人、双葉社)
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ガリレオの遺伝子 ガリレオ仮説アカデミー

15年くらい積ん読だった一冊。買った当時の同名のテレビ番組の内容を文章と何枚かの写真で紹介するというものだが、自分自身はその番組自体を見たことがないので、その番組が一回きりのものだったのか毎週シリーズのようにやっていたのかはよく分からない。本の内容は、「ガリレオの地動説もその当時はとんでも仮説だった」ということに擬えて、現代の様々なとんでも仮説を紹介していくという趣向。20以上の仮説が紹介されているが、もしかしたらというもの、イグノーベル賞的な真面目だが発想が突飛なもの、仮説の基礎となる前提が明らかに極端なものなどその中身は玉石混淆だ。それでも色々読んでいるとこうした思考実験のようなことを考えるのも楽しいなぁと思えた。(「ガリレオの遺伝子」 ガリレオ仮説アカデミー、日本テレビ)
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濤の彼方 風野真知雄

いよいよ待ちに待った最終巻。前巻の感想として「最後の結末が予想できない」と書いたが、最終巻の題名を見て、ハッピーエンドでないもう一つの悲劇的な結末という可能性もあるかもと勝手に想像しながら読み始めた。結果は、予想通りと言えば予想通りだったが、巻末に載っていた後日談を読んで予想を上回るはちゃめちゃな展開に心底びっくりした。後日談の内容だけでもう10巻ありそうな気もするし、忍者ならばどんな苦難も乗り越えられそうだし、などと想像が膨らむ。本シリーズ、正編10巻以外にも何冊か番外編があるようなので、そこでどんな活躍が見られるか楽しみにしたい。(「濤の彼方」 風野真知雄、角川文庫)
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国境の南 風野真知雄

いよいよ本シリーズも残り2冊。ここら辺でいくつか並行に進んでいる物語がそれぞれ急展開を見せるのかと思ったが、意外と大人しい内容、全ての決着は最終巻のお楽しみという感じだ。但し、主人公に関して言えば、ようやく上司や養子に関する真相を全て聞かされた上で、新しい任務へと向かう。主人公たちにとって結末が悲劇でないことは何となく想像がつくが、それでも最終巻の展開は予想しにくいなぁと思いつつ次巻へ続く。(「国境の南」 風野真知雄、角川文庫)
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鬼はもとより 青山文平

著者の本はこれで2冊目だが、読みながらすごい本だなぁとずっと感心しっぱなしだった。時代小説というと、江戸の町並みや人々の暮らしの描写にちょっとした謎解きの味付けというイメージがあり、自分自身そんなもんだろうと思っているが、著者の時代小説は2冊とも着眼は非凡、展開もスリリングで、そんな固定観念を打ち破るような内容だ。財政破綻によって武士の矜持も人心も荒む小さな藩の立て直しに奔走する本書の主人公とその仲間たちの活躍を読んでいると、抽象的な御託を言い放つだけの経世学者の空虚さなどに身のつまされる思いが禁じえなかった。(「鬼はもとより」 青山文平、徳間文庫)
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