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老後マネー戦略家族 松村美香

題名から受ける印象は「老後資金を貯めるための投資戦略のポイントを教えてくれる小説」といったところだが、実際の内容はそれとはかなり違う別の意味で大変読み応えのある家族小説だった。老後の生活が少し心配になってくる中年夫婦と子ども2人の家族の物語だが、この家族に現代日本が抱える様々な問題が一斉に降りかかる。そうした中で、それぞれがそれぞれの人間関係の中で色々な生き方をする人々の姿を見て自分自身の生き方を見つけていく。色々な人が家族に投げかける言葉が実に素晴らしく、それがこの小説の真骨頂だ。最後にちょっとだけ羊頭狗肉にならないようにとの配慮からか投資戦略指南のような文章があるが、それがなくてもこの小説は十分それについて考えるきっかけを与えてくれるだろう。自分自身はもうこの小説の老後の生活に入っているのだが、そうした自分にも色々考えさせられる内容だった。(「老後マネー戦略家族」 松村美香、中公文庫)




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落語&パフォーマンス ダメじゃん小出、古今亭駒治

2人の鉄道好きによる鉄道ネタのオンパレード。特に鉄道好きではないので、時々分からないところもあるが、それも気にならずにとても楽しいひと時を過ごせた。ダメじゃん小出の電子紙芝居は、子どもに絶大な人気のプラレールを使った映像によるネタで、子どものアイドル機関車トーマスが悪玉の親分という設定が秀逸。続編があるのかどうか楽しみ。毎回楽しみにしている小出の鉄道トークニュースもとにかく楽しかった。ダメじゃん小出の次の横浜にぎわい座での公演は1月下旬だが、横浜にぎわい座では現在定員の半分にしている座席指定を1月からフルに販売するようにコロナ対策を緩和する予定とのこと。そうすると今回は大ホールに半分だったが次回は小ホールに定員いっぱいということになってしまう。ダメじゃん小出の横浜にぎわい座公演は必ず観に行くようにしているが、この時期にコロナ対策が緩和されてしまうと、高齢者としては行って大丈夫かなとかなり心配だ。
①古今亭駒治 ダルク
②ダメじゃん小出 電子鉄道紙芝居
③ダメじゃん小出 鉄道トークニュース
④古今亭駒治 上京物語
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滅びの前のシャングリラ 凪良ゆう

著者の本は3冊目だが、どれも深く考えさせられる内容で著者の力量に圧倒される。ややSF的な設定を軸に物語が進行するスタイル、登場人物それぞれが抱える重たいテーマといった特徴は前作と同じで、それが著者の持ち味ということだろうが、文章から立ち上ってくるニュアンスやメッセージ性のようなものは本当に唯一無二、これまでに読んだことのないような独自の世界だ。本書は四部構成で、それぞれの章が単独で読ませると同時に章と章のつながりも本当に見事としか言いようのない作品。大きな文学賞受賞後第1作という高めのハードルを軽々と超える一冊だった。(「滅びの前のシャングリラ」 凪良ゆう、中央公論新社)
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ゴハンですよ 東海林さだお

本書は著者の新作ではなくこれまでに刊行されたエッセイを「ゴハン」というテーマで再編成したアンソロジーだ。著者の本はかなり読んでいるので中には既読の文もあるはずなのだが、一つも覚えていないので、ある意味とても新鮮な気持ちで読むことができた。特に「おにぎり」の章はおにぎりの形状、具、食べ方などをああでもないこうでもないとひたすら真面目に検証していく様が何とも可笑しい。著者の文章の魅力が凝縮された一冊だった。(「ゴハンですよ」 東海林さだお、だいわ文庫)
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落語 三遊亭粋歌独演会

新作ハイカラ通りで優勝した三遊亭粋歌の独演会。好きな新作落語家3名の競演を堪能。聞いたことのある話は白鳥の一席だけで他は初めての話。開口一番の前座の新作もとても面白かった。白鳥は同じ演目だったというケースが多い気がする。持ち時間が短い時の演目が限られているのか、シリーズ物以外のレパートリーが少ないのか、あるいは白鳥目当てで沢山聞き過ぎているのか、理由は色々だろう。ただ、自分が古典落語よりも新作落語の方が面白いと思うのは、古典落語と違って同じ演目を聞かされることが少ないのと、話のバラエティが多い気がするからで、新作落語でも同じような話ばかり聞かされたのでは古典落語と変わらなくなってしまう。その点、彦いちは何度聞きに行っても今まで同じ話だったことがないのですごいなぁと感じる。

林家きよひこ 反抗期
三遊亭粋歌 おんなの鞄
林家彦いち あゆむ
三遊亭白鳥 老人前座じじ太郎
三遊亭粋歌 すぶや
三遊亭粋歌 2人の秘密
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黄色い実 吉永南央

ずっと読み続けているシリーズ物だが、今回は今までにないシリアスな内容でびっくりした。これまでの作品は老齢の主人公の目を通して、少しずつ老いていく友人、色々な制約が出てくる自分自身などが描かれていて、読者に「老い」について考えさせるという内容が多かったが、今回はとんでもなく邪悪な人物たちが何人も登場、重たい問題提起に終始する内容だ。今後このシリーズがどのような方向に向かうのか興味深い。(「黄色い実」 吉永南央、文春文庫)
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娘のトリセツ 黒川伊保子

著者の「トリセツ」シリーズを読むのはこれで4冊目。これまでの3冊がどれも面白かったので本屋さんで見つけて早速読んでみた。通読してみた感想としては、これまでの本と同様「なるほど」という箇所がたくさんあったが、総じて言えば流石に二番煎じ感は否めなかった。特に本書で気になったのは、著者が想定している家族構成や家族観があまりにも類型化しすぎているということ。少し立場を入れ替えれば色々な家族に共通の普遍的な要素が見つかるだろうからそのエッセンスを汲み取れば良いということなのかもしれないが、書かれている事例が著者自身の家族の話ばかりということもあり、その辺りの偏りが気になってしまった。(「娘のトリセツ」 黒川伊保子、小学館新書)
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麻布という不治の病 おおたとしまさ

東京の中高一貫教育の私立学校である「麻布」の卒業生に対するインタビューを通じて、麻布という学校の特色を浮かびあがらせようという一冊。自分を含めてほとんどの人は自分が通っていた学校の特色というものをそれほど意識していないと思う。他の学校のことを知る機会が少ないのでそもそも世間一般と比較することが難しいからだ。また、私のように高校を卒業してから50年近く経っているものとしては、今の評判が最近出来上がったものなのか昔からそうだったのかも判然としないし、その当時のスタンダードからどのくらい乖離した特徴だったのかも今となってはよくわからなくなってしまっている気がする。本書の中で最も面白かったのは麻布が体験した「学園紛争」の記録の部分だ。ここで書かれている記録が全てとは言い難いだろうが、70年安保に対する反対運動過激化というこの時代の共通体験を思い起こさせてくれて懐かしかった。それから、50年前の話ということであれば、当時若かった先生であればまだ存命中だ。そうした先生の側の話もあれば、その特徴がより立体的に浮かび上がったのではないかと思った。(「麻布という不治の病」 おおたとしまさ、小学館新書)
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マルセル・デュシャンとは何か 平芳幸浩

一昨年、上野で開催された「マルセルデュシャン展」の売店で購入した一冊。なぜか今までずっと積読になっていたのだが、急に読みたくなって読んでみた。マルセルデュシャンの解説本は、大昔に一冊読んだ記憶がある。誰の何という本だったのか覚えていないが、多分学生時代のこと、40年近く前だったような気がする。その本は「泉」「大ガラス」「遺作」などの代表作の解説が中心だったと思うが、本書を読むと、それ以降デュシャンの研究や捉え方が如何に多様化してきたかが分かって驚かされる。40年近く前と言えば、まだデュシャン本人が死去してから10年といったところだから、彼の死後に「遺作」が発見された時の衝撃の余波が残っているような内容だった。それから40年、デュシャンの評価がその間のアートシーンの変化の中でさらに高まっていったことを本書は教えてくれる。本書は色々面白い話が満載だが、特にデュシャンが自分の過去の作品のミニチュアを箱詰めにして売り出した話にはアートと美術館の関係を考えさせられた。(「マルセル・デュシャンとは何か」 平芳幸浩、河出書房新社)
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