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二度寝とは遠くにありて想うもの 津村記久子

著者のエッセイ集の2冊目。短い文章のなかにハッとするような内容のエッセイばかりで、次から次に読めてしまうのが何だかもったいないような気がするほどだ。特に本書で感心したのは、「現代のことばについて」という章。形容詞にはプラスやマイナスの意味を含んだものがある一方、ニュートラルなものもある。そして、その中間にあるのが「味わい深い」というような軽いプラスを含んだ形容詞だという。「味わい深い」という言葉をここまで深く考察した著者の感性もすごいが、作家というのはここまで言葉を大切にしているのかということが判って驚かされた。やはり作家というのは身を削りながら文章を書いているんだなぁと改めて思った。(「二度寝とは遠くにありて想うもの」 津村記久子、講談社)

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何でもない一日 シャーリィ・ジャクソン

人間の日常生活の裏に潜む暗い部分をあぶりだすような短い作品が並ぶ本書。翻訳のせいなのか、そういう作風なのかはよく判らないが、オチがよく判らないまま終わってしまう話があったりして、少し戸惑う部分もあるが、短い掌編を立て続けに読んでいると、不思議とそうしたことが気にならなくなっていく。こんな感じで作者の世界に浸りきることができる作家や作品は久しぶりだ。巻末の解説を読むと、作者は既に故人で、作者の死後に家族によって多くの未発表原稿が発見され、本書はそれらの原稿を編集して刊行されたものだという。こうした作品を、世の中に発表することも考えず、家族にも知られずに黙々と書き続けたのだろうかと考えると、何だかそれだけで背筋が寒くなる。どの作品が良かったかといった個別の作品の出来栄えを云々するというよりも、全部の作品を通じてかなり特殊な精神世界を垣間見ることができた気がして、それだけで十分面白かった。(「何でもない一日」 シャーリィ・ジャクソン、創元推理文庫)

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ジュリエットの悲鳴 有栖川有栖

著者のかなり昔に書かれたシリーズものでない短編を集めた1冊。巻末に、刊行時と文庫化された時の作者自身のあとがきがが3つ、評者による解説が1つ掲載されているのだが、そこでシリーズ作品とシリーズでない作品を書く時の作家の心の内の違いなどが克明に解説されていて、それがものすごく面白かった。「へぇそういうものなのか」という驚きもあり、短編のあらすじとは別に、もう一度全部の短編を読み返したくなるほどだった。ミステリーとしても、色々な趣の作品が並んでいて楽しかったが、最後にあとがきと解説という思わぬプレゼントが待っていたのが嬉しかった。(「ジュリエットの悲鳴」 有栖川有栖、実業の日本社文庫)

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みつめさんは今日も完食1〜2 山崎童々

グルメブログを担当する編集女子が色々な名店を紹介するグルメアニメ。もちろん本書を読むとその紹介された店に行きたくなる。しかし、紹介されている店は既に評判になっている店ばかりの様で、ここで取り上げられことで更に評判が高まって予約をしたりするのがますます大変になるだろう。それがこうしたグルメ本の難しいところだ。混雑を覚悟で行ってみるか、ほとぼりが冷めるのを待つか?でもいつになったらほとぼりが冷めるのか分からないし。とりあえずは、店の名前と場所を記録しておいて、近くに行ったときにちょっと寄ってみる。それで入れなければ諦めて次の機会を待つ。そんな対応しか出来ないだろうなぁと、あまり本書とは関係ない感想を抱きながら読み終えた。(「みつめさんは今日も完食1-2」 山崎童々、小学館)

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死と砂時計 鳥飼否宇

著者の本を読むのは多分2冊目だが、前に読んだ本とは随分違う印象の作品だ。各国の死刑囚が集められた某国の刑務所で起きる事件を扱ったミステリーという荒唐無稽な設定で、事件そのものも死刑囚が処刑の前日に殺されてしまったりとかなり荒唐無稽なのだが、不思議と馬鹿馬鹿しさが感じられず、一つ一つの短編を楽しく読むことができた。最後の短編は主人公の過去と現在に纏わるミステリーだが、そこまで計算され尽くされた話だったかと驚く一方、そこまで読者サービスしてくれなくても十分面白いのにと思わず著者に言いたくなる程、サービス満点の作品だった。(「死と砂時計」 鳥飼否宇、創元推理文庫)

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本題 西尾維新

現在、著者の本は2つのシリーズを追いかけているが、その執筆のスピードとアイデアの豊富さに毎回びっくりさせられている。何がそれを可能にしているのか、他の作家にはない何をこの作家は持っているのか、それを知る手掛かりになるのではないかと考え著者の対談集である本書を読んでみることにした。西尾維新による企画ということで、内容は彼が聞き役になって相手の制作の秘密や考え方を聞き出すという体裁だが、読み進めて段々分かってくるのは彼自身の考え方だ。それだけ特殊な存在なのかも知れない。小説を書くとはどういうことなのか、才能とは何なのか、色々考えさせられる一冊だった。(「本題」 西尾維新、講談社)

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STAP細胞事件の真実 佐藤貴彦

昨年、STAP細胞事件関連の本を3冊立て続けに読んだが、それぞれの著者の立場や見解がかなりかけ離れていて、何が真相なのか、どれに軍配を上げて良いのか正直よく判らなかった。そんななかで少しでも客観的な事実やその後の事件の展開、他の人の見解などを知りたくて本書を読んでみた。本書を読んで、この事件は恐らく「悪意」「ミス」「嫉妬(野望)」という3つの要素が絡み合った事件だということが分かったような気がする。「ミス」は小保方さん個人と理研という組織、「嫉妬(野望)」は多くの関係者に帰属するものなのだろうが、肝心の「悪意」はいったい誰に帰属するものなのだろうか?本書ではそれを暗に若山氏と何人かの研究者だと断罪する。これで私が読んだ本としては、1勝2敗で若山氏の負けだ。本書でも彼からの反論を期待すると書かれているが、本当にその通りだと思う。本書で特に興味深かったのは、小保方さんを「事務」に無頓着な優秀な学者と分析していること、最後に提示されている「ハーバード大学」の気になる動きの2点。何故小保方さんが草稿の卒業論文を誤って提出してしまったのか素人には不思議だったが、著者の分析を読んでかなり納得がいった気がする。この事件は、最終的には「STAP細胞があるのかないのか」が決着した時にある程度明らかになるのかもしれないと感じた。(「STAP細胞事件の真実」 佐藤貴彦、パレード)

 

(海外出張のため1週間ほど更新をお休みします。)

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GIVER 日野草

初めて読む作家の作品。話はかなりどぎつくて倫理的にも不適切な内容が多く、最初はそれだけを売りにする作品かと思ったが、途中から明らかにそうしたものとは違う何かを持った作品だと分かってきた。倫理的にダメと思ったところには、ちゃんと違う意味があり、ちゃんとした小説だということもわかってきた。初めて読む作家なので、要らない心配をしてしまったようだ。短編集だが、何だか壮大な物語の第1章のような趣きもあり、今後が楽しみだ。(「GIVER」 日野草、角川文庫)

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人間は考えるFになる 土屋賢二・森博嗣

自分が大好きな哲学者「ツチヤ師」とミステリー作家「森博嗣」の対談集。ツチヤ師の方は対談という形式でどのような話をしてくれるのか見当もつかないし、森博嗣という作家については何冊か作品は読んだことがあるもののその人物像については全くの未知数。この2人がどういうつながりで対談をすることになり、何を語り合うのか全く予想できないまま読み始めた。読んだ感想だが、「ツチヤ師」に関して言えば、最初のうち、「ツチヤ師」の方がインタビューアーのように聞き役に回っていて、上手く話題を提供したりで、全く「変人」ぶりがみられない。これだと、名前を伏せられたら、大ファンの自分でさえ「ツチヤ師」だと気づかないかもしれないなぁと思った。しかし、途中から「ツチヤ師」の本領全開になり、まるで「ツチヤ師」のエッセイを読んでいるのと変わらない感じになってしまった。正に「ツチヤ師おそるべし」を確認した一冊だっだ。(「人間は考えるFになる」 土屋賢二・森博嗣、講談社文庫)

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晴れても雪でも 北大路公子

相変わらず、著者の北海道の雪との戦いを中心とした日常エッセイだが、いくら読んでも飽きないし、いくら読んでも面白い。「雪」はいつの間にか「アレ」と呼ばれるようになり、戦いは果てしなく続く。自分自身も「わっにゃにゃいではにゅにゅに」の意味が分かるようになってしまった。家族の皆さんや飼い犬の日常も変わらないようでいて少しずつ変化していく。隣の奥さんが雪かきを手伝ってくれるというくだりも、いつの間にか自分の中では「参戦」という言葉に置き換えて読んでしまっている。色々なことを気にしながら、ずっと読み続けていたいと思う不思議な世界だ。(「晴れても雪でも」 北大路公子、集英社文庫)

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掟上今日子の裏表紙 西尾維新

このシリーズ作品もだいぶ巻を重ねているので、そろそろマンネリ化してくる頃ではないかと思って読み始めたのだが、「まだその手があったか」と驚かされてしまった。主人公に対する窮屈な設定のこのシリーズが始まった時に、既にこのシチュエーションを想定していたとは思えないので、これこそ「物語のなかで登場人物が作者の想定を超えて動き出す」ということなのだろう。予想外のシチュエーションを第1作目と同じような新鮮な気持ちで楽しみながら読み終えた。(「掟上今日子の裏表紙」 西尾維新、講談社)

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婚礼、葬礼、その他 津村記久子

著者の本は昨年来結構読んできたが、本書は、「著者のエッセイ集を読んだ後に初めて読む小説」ということで、これまでと違った読み方ができるかどうか気になりながら読むこととなった。表題作は、楽しみにしていた屋久島旅行、親しい友達の結婚式、会社の上司の家のお葬式の3つが同日に重なってしまうという不運な状況で、主人公が悪戦苦闘するさまを描いた小説だ。この作品、これまで読んだ著者の作品の中でも傑出した作品のような気がした。慌ただしい一日、一生懸命あれやこれやと考えて、時に意外な行動にでて、最終的には何となくその努力が報われたような結末。苦しいトンネルを抜けた後にちょっとだけ清々しい気分になれた主人公と自分を重ねて、読んでいる自分が何となく励まされたような気がした一冊だった。(「婚礼、葬礼、その他」 津村記久子、文春文庫)

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水鏡推理5 松岡圭祐

ついこの間始まったばかりのような本シリーズも第5作目。文科省の予算に群がる悪徳科学者や企業研究者の不正を暴く「水戸黄門」的なストーリーはやはりいくつ読んでも面白い。本作では、主人公が新しい部署に異動になり、心機一転新しい環境に馴染んでいこうとするところから始まる。その環境の変化が上手にストーリー展開や読者のミスリーディングに活かされていて著者の周到さを感じる。また、話の内容は、これまでのシリーズ作品の中でも特に重たいテーマを扱っており、読んでいて息苦しくなるほどだが、それでも読むのを止められなかった。これまでの作品のなかでも屈指の名作だと思う。本書は、前作を読んでからあまり時間が経っていないような気がして、何となく読むのを後回しにしているうちに入手してから読むまでに半年以上経ってしまったが、次作からもう一度新しい気持ちで読めると思った。(「水鏡推理5」 松岡圭祐、講談社文庫)

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ポリス猫DCの事件簿 若竹七海

昨今の「ネコ」ブームのせいか、あるいは昨年来の「若竹七海」ブームのおかげか、これまで「欲しいものリスト」に入れてはいたが入手できなかった本書が、突然ネットで「在庫あり」となったので、早速読むことにした。ネコが探偵役のミステリーはいくつもあるし、そのネコが不思議な力を発揮して事件を解決するヒントを教えてくれるというシチュエーションもよくある設定だが、それでも本書は著者らしさに溢れた作品だ。テンポ良く話は進むが、ちょっとしたさりげない記述に予想外の意味が隠されていたりする。とてもズバリここだと見つけられるようなものではないが、それでも少しずつ慣れてきたのか、何となくこの辺りかなぁという感が働くようになってきた気がする。著者の作品、もう簡単に入手出来る作品は全部読んでしまったので、後は気長に復刻版を待つしかないのが辛いところだ。(「ポリス猫DCの事件簿」 若竹七海、光文社文庫)

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ブラック奨学金 今野晴貴

とても気になる題名だ。これまでに読んだ本で、奨学金を借りた学生の破産がアメリカで大きな社会問題になっていることは知っていたし、少し前にNHKの番組が日本における奨学金の問題を取り上げているのを見た記憶がある。しかし、どちらかというと奨学金による若者の破産が増えているとう問題はアメリカでは深刻化しているが、日本ではまだまだと思っていたのだが、それが完全な間違いであることを本書は教えてくれる。本書に掲載された教育に関する「負担」と「支援」の関係を国際比較した表は非常に説得力があるし恐ろしい。日本の政策の遅れが、ひどいと思っていたアメリカ以上に悲惨だというのには驚かされた。日本でも最近。「貸与型奨学金」から「給付型奨学金」へのシフトが進められていて、その方向性は間違っていないものの、その中身はかなりお粗末だと、本書は指摘する。また、少子高齢化の進展で若者の能力を社会に活かしてもらうことが唯一日本が生き残る道であるという著者の考えにも説得力がある。何かこれまでの社会サービスを犠牲にしてでも、この問題に大胆に取り組む必要があると強く感じた。(「ブラック奨学金」 今野晴貴、文春新書)

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