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終活難民 星野哲

個人的に両親の介護が大変だったり、体の調子が悪かったりで、弱気になっている時に、本屋さんで見つけた本書。まだまだ大多数ではないけれど、着実に大きな流れになりつつある人の終末に関する慣習や死後のお墓のあり方などの変化がよく判る1冊だ。著者の大学院での修士論文が下地になっているという内容だが、人の介護、終末、死後のあり方を、官、民、NPO、個々人でどのように役割分担「していくべきかという問題を深く考え、ある程度具体的な提言として提示している点は、大変参考になった。具体的なNPOの活動が詳細に記述されていたりしているが、事実の紹介だけに終わっていないのも素晴らしい。新書としてはびっくりするくらいためになる1冊だ。(「終活難民」 星野哲、平凡社新書)

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レイニーキラー 廣瀬航

書評で面白いという評判の作品だと思って買ったのだが、自分の記憶違いで、違う本を買ってしまった。それが本書。何かを書くとネタばれになってしまうのであまり感想を言えないが、はっきり言ってミステリーとしてはいろいろ難があるような気がする。どうも「ケータイ小説」のようなものがオリジナルらしいのだが、そのあたりに何か限界があるのだろうか、どうも普通のミステリー小説とは異質なものを感じる。話の途中で、登場人物に関する情報が色々判明していく展開は、明らかにミステリー的なのだが、ミステリーの本質ともいうべき意外性のようなものがほとんど感じられない。読書の媒体が変化していくにつれて、その本質も変わっていくのだとすれば、これはかなり由々しき問題だと感じた。(「レイニーキラー」 廣瀬航、角川書店)

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本屋大賞 予想

今年は10のノミネート作品のうち、ノミネート発表前の既読が4冊、発表後に読んだのが5冊、未読1冊という段階での予測とする。今年は比較的小粒の作品が並んだような気がする。ノミネート作品のうち、「去年の冬、君と別れ」は私にはピンとこなかった。「さよならオレンジ」はずしんと来る作品だったが、作家自身の今後が未知数なので私としては保留としたい。「聖なる怠け者の冒険」「とっぴんぱらりの風太郎」はいずれも大変面白かったが、これまでの作者の作品の中で傑出しているという感じではなかった。「昨日のカレー、今日のパン」「村上海賊の娘」の2冊は作者が放送作家出身ということで、これも私自身としては保留としたい。大賞予想はこれらの6作品を除く①教場 ②島はぼくらと ③想像ラジオ ④ランチのアッコちゃんの4冊から選びたい。

このなかからどれか1つと言われると、私としては「ランチのアッコちゃん」だ。ごくごく普通の「お仕事小説」のようで、内容もまさに普通の「お仕事小説」なのだが、何かぐっと来るものがあった。読んだ後、思わず、毎日仕事で汲々としている次女に「これはお勧め」と言って読むように勧めてしまった。これが大賞候補で、次点が「島はぼくらと」「想像ラジオ」の2冊。大穴が「作者が未知数」ということではずした「さよならオレンジ」。

 本命:ランチのアッコちゃん

 対抗:島はぼくらと、想像ラジオ

 大穴:さよならオレンジ

いずれもどちらかと言えば小粒だが小説らしい小説だと思う。

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誰もいない夜に咲く 桜木紫乃

作者の作品は一貫して、「北海道」という風土の中で、厳しい自然と常に対峙しながら生きていく人々を描いている作品という印象だが、本書も、そうした特徴が色濃く出た作品が並んでいる短編集だ。厳しい自然や現実に対峙する時、どこの国の文学も同じような特徴をもっているように思われるのだが、女性の強さというものが際立ってくる。本書でも、情けない生き方しかできない男と気丈に生きる女のコントラストがいやでも浮かび上がってくる。これは、作者が女性だからということだけでは説明できない何か本質的なものを示しているようにも思われる。静かな語り口のなかに本当に強いものとは何かを感じさせてくれる1冊だ。(「誰もいない夜に咲く」 桜木紫乃、角川文庫)

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とっぴんぱらりの風太郎 万城目学

主人公は、忍者世界からはじき出されてしまったニートの風太郎。なぜか彼は、皆から慕われたり頼られたりで、自分の意に反して大きな事件に巻き込まれていく。本書の魅力は、主人公の造形もさることながら、黒弓、百、蝉、芥下、常世、采女、ひさご様、因心居士・残菊と次々に登場する準主役・脇役の面白さだ。特に誰が抜きん出て面白いというのではなく、本当にそれぞれが面白いので、人によって贔屓にしたくなる登場人物は千差万別だろう。読者としては、誰を贔屓にして読むかによって、色々な楽しみ方ができるような気がする。(「とっぴんぱらりの風太郎」 万城目学、文藝春秋社)

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はじめましてファインマン先生 ジム・オッタヴィアニ

この本を通読して感じたことは、本書がファインマンという学者のことをすっきり判りたいという人向けではないということだ。訳語のせいなのか、話の順番が必ずしも時代順になっていないせいなのか、あるいは物理学に造詣のある人向けの本なのか、それともファインマンという学者そのものが捉えどころのない学者だからなのか、いずれにしても本書は、ファインマンという物理学者について基本的なことを知りたいという人向けではないような気がした。この本自体が「ファインマンという学者が一筋縄ではいかない人物だ」ということを言おうとしているのであれば成功しているとは言えるだろうが、多くの読者としては「ファインマンという学者には捉えどころのない面がある」とすでに感じているからこそ、こうした類書を読もうと思ったのであるから、こうした内容で満足できる読者は少ないような気がする。もう1つの可能性は、本書が翻訳であるということで、翻訳が如何に優れていても日本人の感覚に合わない部分が残ってしまうという可能性だ。日本のこうした類書に比べて、本書は絵の部分が何かを語っているという要素が少ないような気がする。その結果、文字の部分が説明的になりすぎてしまう、あるいは日本人が慣れ親しんでいる絵と文字の融合というか、両者のバランスの彼我の違いということがあるかもしれない。要するに、ファインマンという学者を語る場合、文章でしか伝えられないことが多すぎるということなのではないかと感じた。(「はじめましてファインマン先生」 ジム・オッタヴィアニ、ブルーバックス)

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生者と死者 泡坂妻夫

「短編が消える」「『しあわせの書』以上の衝撃作」という触れ込みの本書。先日読んだ作者の「しあわせの書」は読み終わった後に思わずもう1冊買ってしまったが、本書も人に勧める場合はもう1冊買ってから渡す必要があるようだ。普通の文庫本なのに、全てのページが20くらいの袋とじになっていて、まずその袋とじを破らずに開くことのできるページだけを読んでいくといつの短編として読める。そのあとで、全ての袋とじを開けて善ページを読むとそれが1つの全く別の長編になっているという。説明を読んだだけでは判らないが、実際に読んでみると想像以上の衝撃だ。短編の時に女性だった登場人物が長編では男性になっていたり、短編では名前だったのが長編では苗字になっていたり、短編では「トランプのクラブ」の意味だった個所が長編では「ゴルフのクラブ」になっていたりで、ここまで凝ったことをするこの作者は、一体どういう人なのだろうかというのが偽らない感想だ。(「生者と死者」 泡坂妻夫、新潮文庫)

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美雪晴れ 高田都

みをつくしシリーズの9冊目。物語はいよいよ佳境に入ってきている感があるが、巻末には次号が最終巻になるとの予告が書かれている。色々なことがあったなぁという感慨も大きいが、そろそろという気分でもあり、ファンとしては複雑な気分だ。、本シリーズを読むと、江戸時代の料理が作り方のポイントまで微に入り細に入り判る仕組みになっていて、それがこのシリーズの魅力の1つ。実際に作ってみたことはないが、江戸時代という素材が非常に限られた時代の「グルメ」とはどういうとはものだったのかが実感できるのは、シリーズが何巻まで続いても変わらない楽しさだ。ちょうどNHKの朝のドラマで「ごちうそうさん」という番組をやっているが、その主人公と本書のシリーズの主人公とダブるところがあってそれも楽しめた。(「美雪晴れ」 高田都、ハルキ文庫)

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猫ピッチャー そにしけんじ

猫好きにはたまらない1冊。いろいろな芸当をする猫がいろいろなTV番組で紹介されたりしているが、ひょっとしたらこんな芸当をできる猫がいて、野球チームに入ったらという猫好きの妄想だけでできている1冊。今年の秋に第2巻が刊行されるとのことなので、そちらも期待したい。(「猫ピッチャー」 そにしけんじ、中欧公論新社)

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妖談うつろ舟 風野真知雄  

本の帯に「シリーズ最終話」と書いてあるので、間違いなく最終話なのだろうが、内容は、これまでの作品と大きな違いはなく、そう書いてなければ最終話だと気がつかずに読んでしまうだろうなぁという感じだ。最近、だらだらと続くシリーズものが多く、それが新しい本との出会いの妨げになっているように感じていたところなので、このようにさらっと終わるシリーズというのはある意味貴重だし、「読者思い」だという気がする。話は、いつものように、江戸の街中で起こる小さな不思議な事件をいくつか謎ときしながら、メインの物語が進行していくというスタイルだ。この作者の本は軽いが面白いので、次にどのシリーズを読もうかなどと考えてしまう。本書の途中で、ごみを収集する同心が初めて登場するが、この人物などはシリーズとはいかないかもしれないが、連作短編集の主人公にはなれる逸材のような気がする。(「妖談うつろ舟」 風野真知雄、文春文庫)

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共犯マジック 北森鴻

最後にあっと言わせる結末が待ちかまえているかなりアクロバティックなミステリー小説。戦後日本を代表するいくつもの事件が登場し、それが物語の時代背景を示しているのかと思えば、話の本筋だったりで、全く予想のつかない展開が続く。しかもストーリーの肝となるある本を巡る謎については、最後まで謎のままで、純粋なミステリーとも言い難い要素の多い、不思議な余韻の残る作品だ。解説には、連作短編集という言い方がされているが、読んでいると全くそんな感じではなく、完全な1つの長編小説になっていると思う。登場人物はそんなに多くないのだが、そのうちの何人かがあだ名で呼ばれていたり、途中で偽名を使っていたりで、最初は混乱してしまったが、多くの謎が明らかになる最後の章では、そうした混乱も消え、何だか大きな虚構の構造物を近くから眺めているような気分にさせられる。好き嫌いはあるだろうが、幻想小説として、あるいは実験小説として読むのが正しい読み方なのではないかと思わせる異色の1冊と言えるだろう。(「共犯マジック」 北森鴻、徳間文庫)

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あたらしい哲学入門 土屋賢二

「人間は何故8本足か?」という奇妙な副題が付いており、興味をそそられたが、内容はいたって真面目な大学での哲学の授業の講義録だ。ところどころに著者らしいユーモアもみられるが、総じて言えば、これまでの著者のエッセイを楽しんできた読者にとっては、笑える個所が少ないのがやはり物足りない。しかし、本書は、それ以上に内容の面白さに興味をひかれた。作者によれば、これまでの哲学の問いは、「人間は何故8本足か?」という問いのように、問題の設定自体に間違いがある可能性があるとのこと。「この副題にそんな深遠な意味があったのか」とびっくりさせられる。哲学の問題の多くが「言語的誤解」によるナンセンスなもので、人類の抱える悩みの多くがそのナンセンスな問いかけと同値だという。多くの深刻な悩みが「悩んでもしょうがないこと」というのは、ある意味無敵の楽観論だろう。福音のように胸にしみる1冊だ。(「あたらしい哲学入門」 土屋賢二、文春文庫)

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こめぐら 倉知淳

著者のシリーズ化されていないミステリーを集めた短編集。解説を読んでから知ったのだが、2冊同時刊行されたうちの1冊ということらしい。収められた短編は、いずれも一風変わった内容や設定の作品ばかりで、ほぼユーモアミステリーの範疇に入るものが並んでいる。謎とき自体もやや脱力系の「あれれ」というものが多く、深く考えて読むというよりは、流れに任せて読んでしまった方が、がっくり感なく楽しめる。濃厚な本格ミステリーの合間に読むのに最適な作品集かもしれない。(「こめぐら」 倉知淳、創元推理文庫)

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ヒト、動物に会う 小林朋道

著者自身の体験をベースにした動物の行動学・生態学に関するエッセイ集。我々の身近にこんなに面白い生き物たちがこんなに沢山生息しているのかということにびっくりしてしまうのと同時に、こういう感じで身近な動植物と関わっていくのも日常の楽しみ方の1つだなぁとしみじみ感じる。特に最初の方に載っていた「カナヘビ」の話では、そうした生き物の行動範囲が意外に小さいということを初めて知った。見つけた時にマークをつけられれば、同じ個体に何度も出くわすことができると言うのは面白い。これまでにも家でヤモリのようなものを見つけた時、次の日もほとんど同じ場所で見付けることがあるが、これは1日中動いていなかったのではなく、そこがお気に入りの場所だからということなのかもしれない。(「ヒト、動物に会う」 小林朋道、新潮新書)

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偽善のすすめ パオロ・マッツァリーノ

ヤング向けの本なので、言いたいことがシンプルなのは仕方がないとして、こういう切り口で世論の変遷を追いかけるという発想が、非常に面白く、かつ参考になった気がする。「偽善」という考えを通してみても、今の世論が「不寛容」の方向に大きくぶれているというのは本当にその通りだと思うし、それに対する危機感のなさも気になるところだ。そうしたことも含めて、シンプルながら色々な意味で考えさせられた1冊だった。(「偽善のすすめ」 パオロ・マッツァリーノ、河出書房新社)

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