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日本人のためのkindle入門 松宮義仁

本書の帯に、kindleという電子書籍の端末機が読書のためだけのものではないと書かれていて、どういうことなのか興味を感じて読んでみた。海外出張する時に5冊も6冊も本を持っていくのが大変だし、買ってみようかなとちょうど思っていたので、使い道が読書だけではないという言葉が気になったのだ。読んでみた感想としては、kindleのノウハウ本としては期待外れ、読書術の本としてはいくつか面白い指摘があって楽しめた、といったところだろうか。もともとkindleにそんなに難しいノウハウなどなく、私の期待が的外れだったのかも知れない。それが判っただけでも収穫で、近いうちにkindleを買おうと決めたのは、紛れもなく本書のおかげだ。(「日本人のためのkindle入門」 松宮義仁、フォレスト出版)

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私の話 鷺沢萌

著者の本はたくさん出ているが、自分はあまり読んでいない。読んだ本は全部、本当にすごいと思ったが、それでもあまり読んでいないのはどうしてだろう。調べたことはないが、彼女の本が、おしなべて入手困難ということでもないはずだ。私自身不思議な気がするが、やはり自死したということで、著者の本を読むことに、少し重苦しさを感じるのは確かだ。「著者の最高傑作」という評判を聞いて、久しぶりにまた著者の本を手に取ったわけだが、やはり強く心をゆすぶられた。自伝的な私小説の本書を読みながら、どうしても、著者が自殺に至った原因とか理由のようなものを探してしまう。著者をよく知る周りの人たちが、こぞって著者の自殺の唐突さに驚いたということなので、そんな種を簡単に見つけられるはずはないのだが、心のどこかで周りの人たちが皆そういう予感がありながら口をつぐんでいるという可能性もあるのではないか。そんなことを考えながらの読書だった。読み終えて、1つ判ったのは、著者の本を読むたびに、「これ以上の本はもう読めないのではないか」と思うことだ。それが著者の本をあまり読んでいない最大の理由のような気がした。(「私の話」 鷺沢萌、河出文庫)

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沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ! 日本の医療〉 堤未果

著者の「大国アメリカの暗部」を綴った本を読むのは、これで5冊目か6冊目になるだろう。それでも読むたびに、アメリカの将来、アメリカに振り回される世界の将来、アメリカに依存する部分の多い日本の将来が心配になり、心がざわつく。本書の内容は、そうした読者の心の要望に応えるように、アメリカの動きを追いつつ、日本のことがよく判るように、日本人として本当に知っておくべきこと、本当に心配すべきことに焦点が当たるような記述になっているのが有難い。本書を読んでいると、何者かにレッテルを張ること、例えば「日本医師会は圧力団体」などと決めつけて物事をみると、たぶんに本質を見失うことを教えてくれるし、著者の筆は、誰にも組することのないく、容赦ないもので、そうした本と巡り合えることが、いかに稀だが貴重なことであるかを思い起こさせてくれる。(「沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ! 日本の医療〉」 堤未果、集英社新書)

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鷹野鍼灸院の事件簿 乾緑郎

作者の本は、ミステリー大賞受賞作「完全なる首長竜の日」についで2冊目。大賞受賞作といってもそれほど強いインパクトのある作品ではなかったという記憶がある。本書にしても、題名や本の装丁の印象は、今はやりの「お仕事ミステリー」そのものといった風情で、通常であればあまり読みたいとは思わないのだが、大きな賞を受賞して将来を嘱望された作家が、その後どうしているのだろうかという興味もあって、なんとなく読んでみることにした。内容は、一言でいうと鍼灸院を舞台にした百%の「お仕事ミステリー」ということに尽きる。本書を読むと、この業界のこと、鍼灸師のことにかなり詳しくなる。ネットで調べてみると、作者の肩書に「鍼灸師」とある。自分の得意とする分野での意欲作、あるいは作者自身の原点に立ち返ったさくひんということなのだろう。いずれにしても、鍼灸に関する薀蓄がかなり盛りだくさんなので、本書を読み終えたところで、作品の面白さとは関係なく、この業界の話はこのくらいでもう十分かなと感じてしまった。話自体が非常に面白かった割には、続編がでても読みたくなるかどうか微妙な感じがした。(「鷹野鍼灸院の事件簿」 乾緑郎、宝島社文庫)

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白砂 鏑木蓮

著者の本を読むのは初めてだと思うが、本書が色々なところで評判になっているようなので、読んでみた。書評などには、著者のことを「ミステリーの名手」などと紹介しているので、私が知らなかっただけで、かなり評判の良い作家なのかもしれない。読んでみると、名手といわれるだけに、うまいなぁと思うことが多かった。話の流れは、最近よくある複数の視点、「事件を追いかける警察官の視点」「誰だかよく判らないし事件とどのような関係があるのかも判らないもう1人の人の視点」が交互に語られ、やがてその2つが1つになった時に真相が明らかになるというものだ。本書の場合、最初のうちはその場面の切り替えが頻繁でやや混乱するが、次第にその間隔が長くなり、最後に2つが融合した時に初めて読者もそういうことだったのかと納得させられる。そうした流れが実に見事で、うまいなぁと感心させられた。また、事件を追いかける警官の「事件の関係者の人生を知ることで真相に迫る」という手法が、全編を貫き、それが事件の真相とも大きくかかわっているというのも、ミステリーの謎に合わせた人物の造形が考えつくされているように思われた。真相そのものは、たぶん、作者が想定した津ころよりも早めに推測できてしまったが、それでも、そのあとを読む気がそがれるようなこともなく最後まで堪能できた。内容、構成とも非常によくできた作品だと感じた。(「白砂」 鏑木蓮、双葉文庫)

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教養としての聖書 橋爪大三郎

本書は、30の書物の集まりである聖書を、創世記、出エジプト記、申命記、マルコ福音書、ローマ人への手紙、ヨハネ黙示録の6つの書物を解説しながら、全体を浮かび上がらせるという一冊だ。申命記、ローマ人への手紙の2つは、これまで読んだことがなく、内容を見聞きしたこともなかったので、大変面白かった。本書の最後に「後から別の書物が付け加えられることで前の書物が意味するところも変わってしまう」という話があり、これで聖書の構成というものがなんとなくわかったような気がした。(「教養としての聖書」 橋爪大三郎、光文社新書)

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あぶない叔父さん 麻耶雄嵩

著者の本は、「見事な推理を披露するが誰にも信用されずに事件が未解決になってしまう名探偵」とか「一瞬で謎を解いてしまう神様探偵」等、かなり特殊な設定のミステリーという印象が強く、本書ではどのような奇妙な設定のミステリーが待ち構えているのだろうかと楽しみにして読んだ。物語の語り手は高校生だが、主人公は題名にあるように、その語り手の叔父にあたる人物で、最初の話で、その叔父さんがとんでもない人物だということが判る。謎を解くのはその叔父さんなのだが、これを謎解きと言ってよいのかどうか。また、これではミステリーのお約束事の基本中の基本に抵触しているではないか、と思うのだが、そんなことお構いなしに話は進んでいく。ある意味で驚天動地の作品だ。ある書評誌によると、本書は、語り手で高校生とその仲間の高校生たちが、レベルの低い推理合戦を繰り広げるのが面白いとあるが、個人的にはそうしたこと以前にもっと突っ込むところがあるだろうと言いたくなる。いずれにしても、奇妙な作品の多い著者の作品のなかでも、奇妙さでは抜群の作品だと思う。(「あぶない叔父さん」 麻耶雄嵩、新潮社)

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掟上今日子の推薦文 西尾維新

ライトノベル界の巨匠によるシリーズ第2弾。前作は、主人公のキャラクターに大きな特徴はあるものの、ストーリーや文章が意外に普通のミステリーだったという記憶があるが、本作ではミステリー要素が少し後退し、作者が設定したキャラクターを自由に動かしてみたらどうなるかという実験的な要素が少し強まっているように思われる。言い換えれば、主人公の「寝て起きるとその前のことをすべて忘れてしまう」という設定を前提にして、本当にそのようなことになっていたら主人公はどのように行動するだろうかということを前作よりも突き詰めているような気がするし、あるいはその設定を逆手に取ったトリックはないか。ということを色々模索しているようにも感じられた。本書では、今後主人公の相棒になると思われる人物も登場し、今後の話の展開を面白くしてくれそうな気がする。全体的に読書後のインパクトは大きくないが、それが「ライトノベル」だというくらいの気持ちでしばらく付き合うのがいいかなと思う。(「掟上今日子の推薦文」 西尾維新、講談社)

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ラプラスの魔女 東野圭吾

本の帯に「空想科学小説」というような表現があるので、今までのミステリーとは違う荒唐無稽な話なのかと思ったら、話の肝になる部分は科学では解明しえない内容とはいえ、ストーリー展開や登場人物の言動などは至ってまともというか、これまでのミステリ-となんら変わるところはないものだった。空想科学的な要素と引き換えに弱くなっているのは「謎解き」という要素だけかもしれない。ミステリーにおいて「SF的要素」と「謎解き時要素」を両立させるということは、ある意味もっと大切な「読者への公平性」を犠牲にしなければならないはずで、そのあたりは作者が根っからのミステリー作家であることの証なのではないかと納得しながら読み終えた。最後の終わり方も少ししゃれていて良かった。意表を突く奇想天外な終わり方ではないが、どんでん返しのない淡々とした話の終わり方としては「そうだよなぁ」と納得のいくものだった。(「ラプラスの魔女」 東野圭吾、KADOKAWA)

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オバマ大統領は黒人か 高山正之

雑誌に掲載されたコラムをまとめたシリーズの4作目。本書を含めてすべて読んでいることになるが、本シリーズにはやめられない面白さがある。雑誌に掲載された時点では最新の時事を扱った内容だったはずだが、一定量まとまってからの文庫化ということで、どうしても時期的には若干古い内容の話が多くなるが、それでもその当時を思い出しながら読むと色々参考になることが多いし、その時には知らなかった裏話のようなものがわかって面白い。中国嫌いや朝日新聞嫌いは相変わらずだが、多少割り引いて読むと納得させられることも多い。本書に再三でてくる「東チモール」の話とか「オーストラリアの白人主義」などは、それを扱った文章をこれまで読んだことがなかったので特に面白かった。それから、Vサインというのは「victory」という意味だと思っていたが、本書に全く違う英仏戦争にまでさかのぼる別の説が紹介されていて、そっちの方が面白いなぁと思った。(「オバマ大統領は黒人か」 高山正之、新潮文庫)

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書店ガール4 碧野圭

シリーズの4作目。ちょうどこの作品を原作にしたテレビドラマを放映中で、本屋さんでも、目立つところに置かれていた。内容の方は、これまで主人公だった二人が脇役にまわり、新しい主人公二人が登場、それぞれが、就職活動、店員から店長に昇格という書店員としての節目で色々考えたり悩んだりするという話だ。シリーズものとしては、全体の雰囲気を維持しつつ、読者を飽きさせない工夫が上手になされていると感じた。新しく店長になった主人公の1人にどのような試練が待っているのか、いずれ地元に帰る決断をすることになるのか、先の長い話だが、次の展開が気になる。(「書店ガール4」 碧野圭、PHP文芸文庫)

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沖縄の不都合な真実 大久保潤、篠原章

こういう題名の本は通常若干大げさで、読んでみるとそんなに不都合ではないというか、当たり障りの内容に終始していることも珍しくないが、本書に限って言うと、こんなことだとは知らなかった、こんなことを書かれると困る人や不都合な人が大勢いるのではないかと思うほど、自分にとってはかなり衝撃的な内容の1冊だった。世の中はこんなもんだとは分っていても、本書のようにしっかり指摘されると、自分がいかに沖縄に関してナイーブだったかを思い知らされる。以前、アメリカの日本部長だった人が「沖縄はゆすりの名人」といって非難されていた。その時は「なんて馬鹿なこと」を思ったものだが、本書を読むとその日本部長の発言がある意味「確信犯」的なものだったと判り、強く納得した。本書で不都合な事実を明言されてしまった人たちが、どのように反撃をするのか、あるいは黙殺するのか、今後が楽しみだ。(「沖縄の不都合な真実」 大久保潤、篠原章、新潮新書)

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リバース 湊かなえ 

ミステリーという観点からみると、著者の本のなかで、とびぬけた傑作ということではないが、読み終わって、いろいろ考えさせられる1冊だった。人に触れられたくない過去を持つ主人公が、あることをきっかけにしてその出来事を見つめなおす。その作業のなかで、親友だと思っていた友人が何を考えていたのかを少しずつ理解し始めていく。その理解のなかでミステリーの謎が少しずつ真相に近づいていく。うまいし、話に引き込まれるし、さすがだなと思うが、本書はそれだけでは終わらない。人を理解するとはどういうことか、それはちいさな断片の集まりでしかないが、その断片の塊こそが人を理解するということなのではないか、そんなことを考えさせられた1冊だった。(「リバース」 湊かなえ、講談社) 

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探検家の憂鬱 角幡唯介

傑作ノンフィクション「空白の5マイル」の著者によるエッセイ集。著者が探検家になるまでを語った最初の一編と、探検家であることとノンフィクションを書くことの意外な矛盾を指摘する二つ目の一編が、特に面白かった。エッセイの間に掲載された脱力系のブログの再録も硬い本文との相性が良く、上手い編集だなと感じた。(「探検家の憂鬱」 角幡唯介、文春文庫)

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停電の夜に J・ラビリ

両親がインド出身のアメリカ人作家の短編集。インドから移住してきたばかりの夫婦の話、アメリカ人観光客を乗せたインドのタクシー運転手の話など、様々な異文化の接触による小さなさざ波が、様々な視点で描かれている。どの話も面白く、静かな余韻の残る話ばかりだが、特に表題作の「停電の夜に」「神の恵みの家」「3度目で最後の大陸」等は、異文化の空間での暮らしのなかで感じる独特の心のざわめきを聞いているようで、面白かった。(「停電の夜に」 J・ラビリ、新潮文庫)

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