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赤ずきんピノキオ拾って死体と出会う 青柳碧人

世界のおとぎ話の主人公が次々に登場する連作ミステリー集。おとぎ話の中では純粋無垢な登場人物が実は大変な食わせ者だったという感じのパロディ小説。魔女が出てきて魔法を使ったり動物が喋ったりで、たわいのない話と言ってしまうとそれまでだし、犯人も途中で何となく分かってしまうのだが、思わぬ展開も所々にあるので読んでいて楽しい一冊。おとぎ話はまだまだ沢山あるのでこのシリーズまだまだ続きそうなのが嬉しい。(「赤ずきんピノキオ拾って死体と出会う」 青柳碧人、双葉社)
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機械仕掛けの太陽 知念実希夫

現役医師でもあるミステリー作家の著者が2年半に及ぶコロナ禍の医療現場の状況を克明に伝える本書。コロナ病棟で奮闘する医師と看護師、かかりつけ医として長年地域医療に携わってきた老医師。3人の医療従事者を主役に、コロナ変異の実態、政府の対応とその意義や問題点、その時々において最善と思われる治療内容などが分かりやすい解説とともに語られる。医療現場で持ち上がっている課題と政府の対応のわずかなタイミングのズレが引き起こす医療現場での困難、陰謀論者による医療妨害のエスカレート、マスコミの無邪気な興味本位の報道による弊害など、あまり意識してこなかった事柄が次々と出てきてその度に深く考えさせられる。とにかくこれまで自分が心掛けてきた個々人の感染予防対策と積極的なワクチン接種が間違っていないことには安堵。オミクロン株が何故高い免疫逃避能力を持っているのか等、これからのコロナとの戦いに必要な知っておくべきことも学べて読んでよかったと心から思えた一冊だった。(「機械仕掛けの太陽」 知念実希夫、)
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ランチ酒 おかわり日和 原田ひ香

「見守り屋」という仕事の女性を描いた小説。見守り屋というのは、依頼を受けて、老人や子どもあるいは特殊な事情の人を夜から朝まで一晩見守る仕事。そういう仕事が実在するのか、そもそも世の中にそうしたニーズがあって仕事として成立するのかどうかは分からないが、本書を読んでいると、老人の朝一番の病院への付き添い、スマホ中毒の子どもやネット通販中毒の大人などの監視といった依頼があり、結構仕事として成立している気がしてくる。仕事が終わるのが午前中なので、主人公にとっては仕事帰りランチとちょっとしたアルコールがリフレッシュの手段となっていて、その食レポが本書の半分を占めている。もう半分は、仕事を通じて知り合った人々の話と離婚によって娘と暮らせなくなった主人公が娘との関係をどう修復していくかというお話。たまたま本屋さんで見かけて買って読んだのだが、解説によれば本書はシリーズの第2巻で、前作と次作がすでに刊行済みとのこと。今度本屋さんで見かけたら読んでみようと思う。(「ランチ酒おかわり日和」 原田ひ香、祥伝社文庫)
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横浜駅SF(1)〜(3) 柞刈湯葉

先日初めて読んだ著者の小説「まず牛を玉とします」がとても面白かったので、昔買って積ん読になっていた著者の本を読むことにした。自分の記憶では、彼の小説とそれを原作とする漫画の両方を買ったのだが、小説の方が見つからないので漫画版をとりあえず読んでみた。横浜駅の拡張工事や改修工事が何年も延々と続いていることは横浜市民にとっては有名な話だが、本書はそれをパロディ化して、横浜駅が何百年にもわたって自己増殖を続け、ほぼ本州全域を制圧、ついに津軽海峡や関門海峡に迫るというとんでもない設定の近未来SFだ。前に読んだ作品同様に設定はとんでもないが、話の展開は至って真面目というか、何となく正しい科学知識に裏打ちされたようで深みさえ感じる内容。一つ非常に困ったのはセリフの文字がものすごく小さいことと、書かれたせリフが誰のものなのか分かりにくかったこと。漫画を読み慣れていないせいかもしれないが、3冊読み通すのに大変苦労した。(「横浜駅SF(1)〜(3)」 柞刈湯葉、角川書店)
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メガバンク銀行員グダグダ日記 目黒冬弥

三五館シンシャの◯◯日記シリーズを読むのはこれで6冊目。現役銀行員が銀行での30年間の様々な出来事やその感想を綴ったもの。特に印象的なのは、勤める銀行の合併時の混乱とその後のシステムトラブル、職場での上司の壮絶なパワハラ振りなどの記述だ。パワハラに関しては、著者自身が上司に非常に恵まれなかったのか、それとも著者の会社がもともとそういう体質の会社だったのかは分からないが、著者を取り巻く日常的な犯罪的ハラスメントには驚かされる。就職先選びは慎重にというしかないが、将来どんな会社と合併するか予想困難だとすれば、一つの会社に拘らない、リスクをとっても自立するといった昨今の若者たちの風潮が正に時代にマッチした合理的なものに思えてきた。(「メガバンク銀行員グダグダ日記」目黒冬弥、三五館シンシャ)
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écriture新人作家杉浦李奈の推論3 松岡圭祐

出版界にまつわる慣習や推理小説の古典に関する知識が散りばめられたシリーズ第三弾。本作では新本格推理のようなクローズドサークルを舞台にした殺人事件が勃発する。解きの方はやや御都合主義的だが、著者が出版社と作家の微妙な力関係、新人作家の苦悩などの描写の方に力を入れている感じがして、別の意味で大変面白かった。このシリーズ、既刊がまだ沢山あるので、ちょっとずつ楽しんでいきたい。(「écriture新人作家杉浦李奈の推論3」 松岡圭祐、角川文庫)
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方舟 夕木春央

書評誌で絶賛されていた一冊。読後の感想は「こんな衝撃的なラストは今までに読んだことがないと思えるほどびっくり」の一言だ。読み始めると、なんだか典型的なクローズドサークル的な新本格ミステリーで、かなりご都合主義もあって少し期待はずれかなと思ってしまったのだが、最後の数ページで明かされる真実には、犯人当てとか犯行の手口の解明とは全く別次元の面白さが隠されていた。本の帯に多数のミステリー作家の賛辞が添えられているが、お世辞でなく皆「してやられた」と思っているのだろう。それにしてもこの作品のアイデアを考えた作者は本当にすごいと思う。(「方舟」 夕木春央、講談社)
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まず牛を玉とします 柞刈湯葉

著者の本は初めて。広い意味でSF短編集ということになるのだろうが、宇宙を舞台にした活劇風のものから、改変歴史物、大正時代の日本が舞台のものまで一つにジャンルでは括れないバラエティ豊かな一冊だ。個別の作品では、表題の「まず牛を玉とします」「犯罪者には田中が多い」「石油玉になりたい」「東京都交通安全責任課」などはいずれも、発想の意外性、ユーモア、論理展開の見事さが相まって今までに読んだことのない面白さ。実は、著者の本で一冊買ったままずっと未読になっている本がある。どこかにしまってあるはずなので探してみて、見つからなければ書い直してでも読んでみたくなった。(「まず牛を玉とします」 柞刈湯葉、河出書房新社)
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生命の略奪者 知念実希人

医療ミステリーシリーズ。今回は海外に比べて立ち遅れていると言われる臓器移植がテーマ。いつものように主人公を含む医師3人組が色々ドタバタを演じながらも、最終的には医療に関する知識を駆使して事件を解決に導き、さらには日本の医療現場の課題なども浮かび上がらせるという内容。素人的には、明らかになる真相がとんでもなく偶然が重なったものだったり、犯行の動機に特殊な宗教が絡んでいたりして釈然としない感じは多少するが、それでも医師である著者ならではの面白さを満喫した。(「生命の略奪者」 知念実希人、新潮文庫)
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ダイナソーブルース 尾上哲治

国立科学博物館のミュージアムショップで購入した一冊。恐竜絶滅の謎が解明されるまでに多くの科学者による研究の積み重ねがあったことが克明に解説されていてまさにミステリー小説のような内容。その謎が最終的に「6500万年くらい前の白亜紀に小惑星がメキシコユカタン半島あたりに衝突したことによる環境変化が主因」ということで決着したことは何となく知っていたが、その結論に至るまでの紆余曲折がすごい。6500万年前の地層に大きな断絶があり、その前後に多くの動植物が絶滅したということだが、単純にそうと言い切れない事実が色々あるからだ。特に重要なのが、有孔虫などの海中の微生物が同時期に絶滅した一方で影響を受けなかった微生物も多々あるという事実、しかも絶滅した生物の多くが断層よりもかなり前の段階で絶滅したという事実などで、こうした問題がどうやって克服されたかがスリル満点に語られていて面白かった。もう一つの本書の面白さは、恐竜絶滅の謎を巡って科学者たちが様々な仮説を唱えお互いに凄まじい論争を繰り広げたこと。著者がこの分野の第一線の研究者なので、著者自身が参加した学会や論文誌上の科学者同志の中傷合戦、足の引っ張り合い、嫌がらせなどが赤裸々に語られていてびっくりした。([ダイナソーブルース」 尾上哲治、閑人社)
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この部屋から東京タワーは永遠に見えない 麻布競馬場

書評誌で紹介されていた一冊。奇妙なペンネームと帯に書かれていた「Twitter小説」という言葉に惹かれて読んでみた。20くらいの掌編が収められているが、ほぼ全てが地方出身で東京に出てきたが思うようにいかない人生に戸惑っている30歳くらいの語り手という設定の独白小説。彼らの戸惑いの原因は、学歴コンプレックスだったり、新しい環境や周りに馴染めなかったり、他人と比較して自分を貶めるような考えに取り込まれてしまったりと様々で、読んでいて現代日本の同調圧力、皆んなと同じになりたいが少し個性的でもありたいという強迫観念の息苦しさがひしひしと伝わってくる。Twitter小説というジャンルは初めてだし、そもそもTwitterそのものを利用したことがないのでこんなことになっているのかという驚きもあったが、文中にさり気なく使われている言葉や流行の話に教えられることも多く、読んで良かったと思えた。(「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」 麻布競馬場、集英社)
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教室が、ひとりになるまで 浅倉秋成

著者の本は2冊目。前作と打って変わってこちらは今流行りの特殊設定ミステリー。主要な登場人物の大半が超能力者で、舞台こそ普通の高校だがほとんどファンタジー世界のお話という感じだ。犯人はかなり最初の方で明らかになるので、ミステリーの興味としては犯行動機と犯行手段の2つに絞られる。個人的には前作のような普通の世界のミステリーの方が好みだが、随所に見られる手がかりや謎解きの醍醐味が著者の持ち味であることが十分に伝わってくる一冊だった。(「教室が、ひとりになるまで」 浅倉秋成、角川文庫)
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