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遠まわりする雛 米澤穂信

シリーズ作品の第4作目。普通の高校生達が論理的な思考だけで日常の謎を解いていくコージーミステリー。その思考の過程がとても面白い。特に「心当たりのある者は」という作品は、有名な「9マイルは遠すぎる」を彷彿とさせるスリリングな推理ドラマだ。著者の作品は、最近のものはかなり読んでいると思うが、本シリーズの別の作品も含めてまだ読んでいないものも多いので、これからが楽しみだ。(「遠まわりする雛」 米澤穂信、角川文庫)

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大べし見警部の事件簿リターンズ 深水黎一郎

ジャンルとしては、拍子抜けの結末を楽しむ脱力系ミステリーということになるが、美術や音楽に関する衒学的な記述と相まって、著者ならではの独自の世界を堪能できる作品にもなっている。最後に収録された作品などは、本の帯に「ここまでやるか?」と書かれている通りの実験的な試みが施された内容に唖然としてしまう。著者のファンとしては、著者がどこまで弾けてしまうのかこれからも見続けるしかないなぁという感じた。(「大べし見警部の事件簿リターンズ」 深水黎一郎、光文社)

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グルメぎらい 柏井壽

最近のグルメブームは誰が見てもかなり歪んだものだと思うが、それをグルメレポーター、料理人、SNSというメディアなど色々な視点からひとつひとつ取り上げて苦言をていしていく本書。多くの人の意見を代弁したような内容だが、特に料理人に対する苦言は、これまで京料理や京都の料理店に関する著作に多い著者ならではの内容だなぁと感じた。天ぷらはまず塩で食べろという料理人、食べる前の講釈の長いシェフ、腕を組んで睨みつけるようなポーズで写真に収まるラーメン店主など、勝手にしてよと思ってしまうが、そうした感情的な違和感を本書では冷静にそうしたことがいかに料理の味を損ない食の楽しさや食文化をダメにしているかを語ってくれる。素晴らしい店、一度は行くべき店だとグルメレポートで紹介された途端に予約が取れなくなり、行けない店になってしまう矛盾からの脱却を切に願う人のための一冊だ。(「グルメぎらい」 柏井壽、光文社新書)

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神武天皇vs卑弥呼 関裕二

歴史書、神話、考古学的知見、矛盾をはらむこれらのものから過去の本当の姿をどう描きだすかという課題はどこの国や民族にもあるだろう。それを難しくしてしまうのが、宗教だったり国体だったり政治的思惑だったりする。難しい謎は、議論が長引き人びとを魅了する。古代史の本を読むのはかなり久しぶりだなぁと思いながら本書を読んだ。読み始めて最初に感じたのは、自分が昔習った歴史と今教えられている歴史が随分変わってしまったらしいということだ。縄文文化は、東から西へ伝播したと習ったはずだが、今の常識は違うらしい。こうした基礎的な土台がないので、読んでいてもどこが著者の新しい見解なのかよくわからないし、大胆な仮説と言われてもあまりピンとこない。もし本書が主な読者としてある程度の年配者を想定しているのであれば、そうした点をもっと配慮してもらえれば良かったと思う。(「神武天皇vs卑弥呼」 関裕二、新潮新書)

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奇跡の男 泡坂妻夫

かなりトリッキーなものから叙情豊かなものまで、著者の作品の幅の広さを実感できる短編集。なかでも、最初の二編はアイデアが秀逸で、流石だなぁと感心させられる作品。本書の帯を見ると、最近復刻された作品の名前が列記されていて、出発各社がブームに対応して著者の昔の作品をこぞって復刻していることが確認できる。まだまだ未読の作品があるようだし、出版社も積極的に復刻してくれそうなので有難い。(「奇跡の男」 泡坂妻夫、徳間文庫)

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サンマの丸かじり 東海林さだお

著者の本で未読のものを探して読むことにした。ひとつ前の作品の感想で、著者の視点が段々鋭くなってきているようだと書いた。またその時、その原因が著者の感性が変わったからなのか、自分の感性が変わってそのように感じたのか、どちらなのか分からないと書いた。今回、著者の少し前の作品を読むことにしたのは、それがどちらなのか知りたいという気持ちがあったからだ。今回、本作を読んで全く同じように感じた。ということは、多分著者の感性が変わったのではなく、読者である自分の方が変わったということなのだろう。これは、著者のもっと前の作品も今まで以上に楽しく読めるということであり、自分としては嬉しい結論と言えるだろう。(「サンマの丸かじり」  東海林さだお、文春文庫)

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開化鐵道探偵 山本巧次

明治時代の初期に日本人の力だけで鉄道トンネルを作ろうと奮闘する人々、そこで起きる不可解な殺人事件、これまでの鉄道ミステリーとは違う魅力を放つ作品だ。日本の将来を背負うような難工事を巡って、薩長の軋轢、工事から排除された米英の思惑、鉄道の開通によって職を奪われた海運業者、工事現場毎の工夫組織の対立など、様々な対立関係を背景に混沌とした状況が続くなか、鮮やかに事件を解決に導くのは探偵役の元八丁堀同心だ。様々な時代背景を上手くストーリーに取り入れてこれまでにない面白さを随所に感じさせる一冊だった。(「開化鐵道探偵」 山本巧次、東京創元社)

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消えた断章 深木章子

ミステリー作家の青年が老人ホームにいる元県警捜査一課刑事の祖父を訪ねて行くところから始まる本書。その青年が祖父を「ジイジ」と読んだりしていて、最初のうちはコージーミステリーの趣きなのだが、読み終えて行き着くところは、全く予想外のかなり凄惨な物語だった。しかも印象としては、大きなどんでん返しで全く別のところへ連れて行かれるという感じではなく、新たな事実の積み重ねで少しずつ少しずつ違うところに誘導されて行く。本書では、元刑事の祖父はほとんど活躍しないが、是非シリーズ化してほしい。(「消えた断章」 深木章子、光文社)

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にらみ 長岡弘樹

作者の本は、年に2、3冊のペースで読んでいるが、最近、作品1つ1つのリアリティが最初の頃に読んだ作品に比べて薄くなってきているように感じる。作者の作品の魅力がリアリティに大きく依存しているわけではないので、気にしなければ良いのかもしれないし、はっとさせられる奇抜なトリックは相変わらず楽しいし、事件の背後にある人間模様も魅力的なのだが、ここまでリアリティが薄くなるとやはり気になってしまう。何年待っても良いので、作者には、奇抜なトリック、練りに練られたストーリー展開、小さな事実を大切にするリアリティ、これらが三位一体になって読者の胸に迫る初期の頃の作品をもう一度書いて欲しいと思う。(「にらみ」 長岡弘樹、光文社)

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定年入門 高橋秀実

「はい泳げません」を読んですっかり著者のファンになってしまったが、何故か著者の本を読む機会があまりない。ブログで調べてみたら、この10年で5冊、大体2年に1冊のペースで著者の本を読んでいることが分かった。無意識に本屋さんで著者の本を探している。もう定年に関する本はいいやと思っていたのだが、著者の名前を見て、迷わず買ってしまった。内容は、定年を迎えて数年たったひとに定年直後と現在の暮らしぶりの違いを聞くというインタビューが中心。自分の考えを語り続けることの多い類似本と違って、色々な経験談を聞くことができるのが本書の最大の特徴だ。多くの経験談を読んで分かる共通点は、実際の定年後の感じ方が、予想していたものと大きく違うということで、しかもそれぞれの感じ方が人によってまるで違うということだ。そうなると、これはもう実際に経験してみないと確かなことは分からないということになる。この発見が本書の最大の成果だ。((定年入門」 高橋秀実、ポプラ社)

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感染領域 くろきすがや

本屋さんでたまたま見つけた本書。帯に「このミステリーがすごい大賞優秀賞作品」とあった。大賞ではなくその年の第2席ということだが、選者か出版社が世に出す価値があると判断したのだろう。内容は農業分野での大事件を描いた科学サスペンス。かなり専門的な内容を含んでいて、確かなことは判らないものの、実際にありそうな話で、なおかつあったら大変だろうなぁと思う。主人公は、明晰な頭脳と行動力を兼ね備えた科学者。農業という大切だが地味な分野なのであまり沢山のエピソードを創作するのは難しいかもしれないが、この主人公がシリーズ化されてダヴィンチコードのラングドン教授のように活躍してくれると楽しい気がした。(「感染領域」 くろきすがや、宝島社文庫)

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湖底のまつり 泡坂妻夫

最近続けて読んでいる著者の昔の作品。不思議な出来事が続き、一体何が起きているのか、さらにこれは誰の視点からの記述なのかなど、それらがよく分からないまま話は進み、読み手も、著者独特の叙述トリックなのか、幻惑的な語りのうちに何かヒントがあるのではないか、などと考えながら読み進めざるをえない。最後に至って、ある事実が明らかにされると、大半の謎が語り口のなかに巧妙に隠されていることがわかる。ミステリーの醍醐味を最初から最後まで霧に包まれたような文章と共に堪能できる不思議な作品だった。(「湖底のまつり」 泡坂妻夫、創元推理文庫)

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中華思想を妄信する中国人と韓国人の悲劇 ケント・ギルバート

ベストセラーになった前作と同じような内容の続編。前作もそうだし本書もそうだが、読んでいて、色々な難しさのある隣国との付き合い方について本音でなかなか言えないことをアメリカ人の著者の声を借りて話しているような感じがして、少し後ろめたい気分になる。自虐史観に囚われすぎるなという意見も尤もだが、そういう相手だと思って割り切ってしまうのもなんだかなぁという、そういった種類の居心地の悪さだ。書かれている内容に特段びっくりするようなことはないが、自虐史観の方に引っ張られそうになるのを引き止める役割を果たしてくれる一冊だ。(「中華思想を妄信する中国人と韓国人の悲劇」  ケント・ギルバート、講談社α新書)

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歪曲報道 高山正之

著者の本は他のシリーズを読み続けているが、そのシリーズは、朝日新聞を偏向報道として痛烈に批判する記述が多い。本書は、その題名からも判るように、報道批判の部分に焦点をあてた1冊だ。実名をあげながら徹底的に現代の報道のあり方を批判していく内容に、どちらの意見に与するかは別として、自分の意見の持ち方考え方を強く考えさせる。(「歪曲報道) 高山正之、新潮文庫)

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カラヴァル ステファニー・ガーバー

今年の本屋大賞、翻訳部門の大賞受賞作品。全く無名の作家の無名の作品が受賞したとして、話題になった一冊だ。架空の国の姉妹が、息苦しい生活から抜け出すために冒険の世界に飛び込んでいく。その世界では、かなり特殊なルールの元でゲームが行われていて、そのゲームの勝者への賞品は、願い事がひとつだけ叶うというものらしい。読者は、そのゲームの枠組みやルールをほとんど知らされないままに、主人公と同じ目線でゲームの成り行きを見つめていかなければならない。最初から最後までそうした設定に右往左往させられて息つく暇がない。最後に、やはりそうだったかというあまり意外でないどんでん返しと謎解きがあるが、これで本当に話は完結したのだろうかという疑念も残る。巻末の訳者あとがきを読むと既に続編が用意されているらしい。完結したかどうか疑念が残るのは、続きが気になるからではなく、語れなかった謎がいくつかあるからだが、その謎が知りたいとも思うか、このまま終わってもいいと思うかは微妙な感じだ。本作が好評だったので予定になかった続編を書いてみましたということでなければ良い気がする。(「カラヴァル」 ステファニー・ガーバー、キノブックス)

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