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アルルカンと道化師 池井戸潤

著者の本は何冊か読んでいるが、この人気シリーズを読むのは初めて。経済小説ということだがミステリー要素の強い内容でとても面白かった。「その頃こちらでは、、、」という感じの場面展開の連続だが時間軸に忠実なのでわかりやすいし、とにかく展開がスムーズなので、まるでテレビドラマを見ているような感覚の読書だった。(「アルルカンと道化師」 池井戸潤、講談社) 

一週間ほど更新をお休みします。
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恥ずかしい人たち 中川淳一郎

元ネットニュース編集者という経歴の著者によるエッセイ集。週間新潮に連載した文章をまとめた一冊とのこと。ネットニュース編集に携わっていて、どういう見出しにすればクリックしてもらいやすいか、どう編集すれば広告をクリックしてもらいやすいかを日々考えてきた中で、ネット社会について感じたことが色々書かれていてとても興味深かった。と言っても、安易に自分の憂さ晴らしのために誹謗中傷したり内容を捏造したりそれを拡散したりという人の話ではない。ここで扱われているのは、自分では気付かないうちに他人の意図的な悪意を助長拡散してしまったり、変な思い込みに囚われてしまっている人の話だ。ある意味、こうした人々は、確信犯よりもたちが悪いという。槍玉にあがっているのは当然ネット内の話が多いが、それ以外にも、若者に敬語を使えない老人、除夜の鐘にうるさいとクレームを言う住人などなど、日常生活で見聞きすることも扱われている。。一つ一つ読みながら我が身を振り返り、恥ずかしくないようにしようと思いながら読み終えた。(「恥ずかしい人たち」 中川淳一郎、新潮新書)
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ますます酔って記憶をなくします 石原たきび

10年くらい前に読んだ本の続編を久しぶりに読んだ。内容は、ネットに投稿された「お酒にまつわる失敗談」を集めたもので、とにかく酔って記憶を失ってしまってしでかした不思議な行動や発言のオンパレードだ。前作のところでも書いた気がするが、自分のように酔っ払いを介抱する側の人間が読んでも面白いのが本書の特徴で、読みながら昔あんなことがあったなぁとか、こんなこともあったなぁと色々思い出してしまうのが楽しい。通読して感じるのは、失敗談ながらどれも明るいこと、女性の比率が高いこと、失敗してもあまり反省していないように見受けられることなどで、とにかく皆元気で明るいのが羨ましい。(「ますます酔って記憶をなくします」 石原たきび、新潮文庫)
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その裁きは死 アンソニーホロヴィッツ

人気のホーソーンシリーズの第2作目。今回もこのシリーズの特徴である「フェア」な本格的な謎解きミステリーを堪能した。自分自身は、ある時点で犯人の見当がついてしまったのだが、それ以降は作者の隠れた意図が随所に見られて、かえって面白かったような気がした。最近、映画やミステリーの結末や真相を事前にネットで調べてから観たり読んだりする若者が増えているという話を聞いたが、この歳になって初めて期せずしてそれと同じような感覚を味わった感じだ。このシリーズは、主人公であるホーソーンの過去に関する謎がもう一つの魅力になっていて、本作ではそれがますます強くなっている。あとがきを読むとこのシリーズは全10作が予定されているとのこと。そうなると、ホーソーンの謎が解き明かされるまであと8作、何年もかかることになり、高齢者としてはかなりしんどい気がした。(「その裁きは死」 アンソニーホロヴィッツ、創元推理文庫)
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杜子春の失敗 小林泰三

芥川龍之介の小説を題材にした連作ミステリー集。ストーリー自体は今の日本の話なのだが、その話の主人公が芥川龍之介の小説の中の主人公と非現実的な形で交流して影響を受けるという展開。しかも連作の4編が最後に色々関連し合っていたことが判明するという少し複雑な構成だ。文章も、最初は芥川の小説のあらすじのような文で始まるが途中で少しずつ脱線していきそのあと唐突に今の話になるという入り組んだものだが文章がストレートなのであまり違和感はなかった。感想としては、この作者の特徴らしいが、結構グロテスクな描写が多いのでびっくりしたのと、犯罪人に容赦ない内容が印象的だった。(「杜子春の失敗」 小林泰三、光文社文庫)
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神話の密室 知念実希人

ずっと読み続けているシリーズの最新刊で、中編2作品を収録した一冊。現役のお医者さんが作者というこのシリーズらしい医療知識をベースにした謎解きが主軸で、それに主人公たちの人間関係の進展が絡まって話が進むといういつものパターンの話だが、それぞれアルコール依存症の治療のための閉鎖病棟での犯行、1000人以上の観客が見守るキックボクシングの試合中の事件、という変わった「密室もの」になっているのが特徴。いずれもかなり奇想天外な結末を楽しめた。(「神話の密室」 知念実希人、新潮文庫)
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中国コロナの真相 宮崎紀秀

中国在住のジャーナリストによるコロナ禍の中国の状況を伝える一冊。題名からして「嫌中」の立場の内容なんだろうなぁと思ったがその通りだった。かなりの部分は事実の記述なので特に問題ないのだが、外国人として中国に再入国するときの手続きの煩雑さにうんざりさせられるという下りで「抵抗したが無駄だった」というのにはさすがに驚かされた。それでも、武漢の日本人をチャーター機で救出する時の苦労談は、当時の緊迫感が伝わる内容で読み応えがあった。(「中国コロナの真相」 宮崎紀秀、新潮新書)
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赤ずきん、旅の途中で死体と出会う 青柳碧人

童話の主人公が登場するミステリーのシリーズ第2作目。今作はある町に届け物をするために旅をする赤ずきんちゃんがその道中で、色々な童話の主人公が絡んだ事件や謎を解き明かしていくという連作ものだ。一つ一つの話が奇想天外で面白いし、舞台が童話の世界なので展開がどんなに荒唐無稽でも気にならないし、さらに赤ずきんちゃんの旅に隠された大きな謎もあって楽しめた。(「赤ずきん、旅の途中で死体と出会う」 青柳碧人、双葉社)
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SPYxFAMILY(1)〜(4) 遠藤達哉

今話題の作品ということで娘に勧められ久しぶりに単行本のマンガを読んだ。このブログには基本的にマンガは載せないことにしているが、面白かったので書いておくことにする。全く予備知識も基本知識もないまま帯を見ると、1巻から4巻までの累計で400万部突破とある。電子書籍を含む数字らしいがそれにしてもすごい数だ。また帯には「新時代スパイ家族コメディ」とあり、読んでみるとその通りだった。若干付け加えるとすると、舞台の半分がファミリーの娘が通うどことなくハリーポッターを思い起こさせる学校なので、「学園もの」という要素もあるといったところ。とにかく「新時代」と謳っているように、今という時代、こうしたストーリーが受け入れられているのだということがよくわかった気がする(「SPYxFAMILY(1)〜(4) 遠藤達哉、集英社)
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オンライン落語 三遊亭羽光SF落語の会

夜中に時間があったのですぐに見られるオンライン落語はないかと探してたまたま「SF落語の会」というのを見つけ、面白そうなので聴いてみることにした。内容は三遊亭羽光という落語家の独演会で彼自身の新作落語3席で約1時間というものだが、これがとても面白かった。3席中2席はSF落語という有名なSF作品を土台にして作られた落語。「46億の妄想」は地球の進化、「15の君へ」はタイムマシンのパラドックスがテーマ。これらの落語の突拍子のない展開を聴いていると、逆にSF小説というものも語り口を変えたり設定をちょっと変えると結局はこんなたわいのない話なんだと納得。この「SF落語の会」、今回が2回目で近々3回目もあるとのことなので楽しみだ。
①46億の妄想
②俳優
③15 の君へ
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ケーキの切れない非行少年たち 宮口幸治

少し前にタレントのカズレーザーが推薦して話題になった本で、帯にもカズレーザー推薦の文字が大書されている。著者の略歴欄と前書きによれば、著者は精神科医であり少年院での勤務も長いとあり、これだけで他の本とは違いそうだと期待が高まる。本書の肝は、非行少年の多くが軽度の知的障害者で認知の歪みが問題行動の根底にあるという考え方だ。最近、母親の認知症のテストに立ち会ったが、答えを上手く導き出せないのが、耳が遠くて聞こえないからなのか、質問された問題を自分への問いかけであると理解していないのか、それらがわかった上で答えがわからないのか、その辺りの判別が大変難しいということを強く感じた。非行少年の行動の背景にあるのが認知そのものの問題なのか、それとも認知の歪みなのか、それによって対処法は違うだろう。自分は著者の提唱する訓練法などの評価をするだけの知識を持ち合わせていないので、何とも言えない部分は多いが、世の中に大きな波紋を投げかける一冊であることは間違いない。カズレーザーは若竹七海の本と出会うきっかけを作ってくれてから一目おく存在になっているが、またカズレーザーのお陰で良い本に出会えた気がする。(「ケーキの切れない非行少年たち」 宮口幸治、新潮新書)
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武漢日記 方方

中国武漢在住の小説家が、コロナ禍でロックダウンになった武漢での60日間を綴ったブログ日記の日本語版。日記の内容は、著者自身の日々の暮らしぶり、友人とのメールのやり取り、友人である4〜5名の医者からの情報の紹介とそれに対する感想などだが、武漢の人々がコロナ禍で何を考えどう行動したか、各所からの情報がそれにどのような影響と結果をもたらしたかがビビッドに伝わってくる。これを読むと、武漢の人々が、如何に忍耐強く振る舞い、如何にお互いに助け合い、如何に危機を乗り越えようとしたかがよく分かる。その一方で、ウイルスの存在が、明らかになってからの約20日間の失政がどの様に被害を大きくしてしまったかも浮き彫りになってくる。この日記は、中国当局?によって何度も削除されたがそれでも世界中に拡散し武漢の実情をオンタイムで教えてくれたという。一方、政府や当局の上層部を容赦なく批判する著者に対してネットでの誹謗中傷や脅迫がものすごい勢いと量でなされ、それはコロナ禍が沈静に向かうと逆に激しくなっていったという。まさにネット社会の功罪両面を見せてくれる。また、本書ではすでに2月の時点でコロナから回復した人の後遺症の問題が指摘されているなど、その後の世界で問題になっていることがいち早く書かれていて驚かされる。武漢で何が起きたかを世界中で教訓にして欲しいという著者の思いを無駄にしてはいけないということを心底思わせる一冊だ。(「武漢日記」 方方、河出書房新社)
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