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不明解日本語辞典 高橋秀実

著者独自の感性で選んだ約40の言葉を手掛かりにして、日本語というものについて、あるいは言葉を発するということについて考察したエッセイ集。その言葉の意味を確かめるためにその言葉の語源を探ると、ますます意味が分からなくなる。そこから浮かび上がってくるのは、日本語というものの曖昧さだけではなく、「言葉には意味がある」といこと自体への疑問だ。様々な考察を経て、著者は言葉には「意味がある」のではなく、発した言葉がその状況に応じて様々な「意味をなす」という結論に達する。言葉を文章にして発することを生業とする著者の覚悟のようなものを感じさせる一冊だ。(「不明解日本語辞典」 高橋秀実、新潮文庫)

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いつかの人質 芦沢央

子どもの頃に誘拐された経験を持つ少女が中学生になってまた誘拐事件の被害者になる。この何とも不思議な事件の顛末が、様々な人物の視点から描かれていく本書。行き着く真相の意外さはかなり衝撃的だが、本作の真骨頂はその意外性ではなく、そこに至る登場人物がそれぞれの夢を追いかけながらそれに縛られていってしまうという心の内だ。ミステリーを書いてブレークする以前に純文学を書いていたという作者ならではの一冊という気がした。(「いつかの人質」 芦沢央、角川文庫)

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ヨソでは聞けない話「食べ物」のウラ マル秘情報取材班

題名に「ウラ」とあり、著者名が「マル秘情報取材班」なのでかなりブラックな内容を想像したが、実際は、食べ物の名前の由来とか、隠れた名産地とか、商品の開発秘話など、ごく普通の食べ物に関するトリビア集だった。あまりブラックでない分、本当だろうかと疑う必要もなく、へぇそうだったんだと気軽に楽しめた気がする。まだこのシリーズ、何冊か既刊があるようなので少しずつ読んでいくのが楽しみだ。(「ヨソでは聞けない話「食べ物」のウラ」  マル秘情報取材班、青春文庫)

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その可能性はすでに考えた 井上真偽

新進気鋭のミステリー作家として注目されている著者だが、作品を読むのは初めてだ。発表する作品がことごとく賞を受賞したりテレビドラマ化されたりと大活躍らしい。内容は、10年以上前に起きたある不可解な事件を巡って繰り広げられる主人公とその関係者との推理バトルだが、ペダンチックな蘊蓄披露、本格ミステリー的なトンデモトリックなど、様々な要素が随所に埋め込まれ、さらに主人公の過去の出来事を絡ませながら進むストーリーがとても魅力的だ。本格ミステリー的な部分は、自分で検証する気にならないほどアクロバティックだが、それも本書では大きな魅力の一部となっている、こういう作家が、想定する読者を変えて書いてくれれば、すごい作品ができるのではないか(あるいは本書以外の作品でそれが実現しているのかもしれないが)と感じる。(「その可能性はすでに考えた」 井上真偽、講談社文庫)

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美貌の人ー歴史に名を刻んだ顔 中野京子

古今東西の絵画の中から美男美女が描かれた24作品を選び、その人物や作品の時代背景を解説してくれる本書。通常、美男美女が描かれるためには、そもそもモデルが美貌であること、描き手がモデルに悪意を持っていないこと、描き手にそれなりの技量があることなどが条件となるだろう。こうした条件があるため、これらの作品には色々な物語が伴いやすいに違いない。昔読んだクイズの本に「A社のテレビに映ったB社のテレビのCMが綺麗だった場合、A社のテレビを買うべきか、B社のテレビを買うべきか?」という問題があった。正解は「どちらでも良い」だったと記憶しているが、絵画の場合は、モデルが美貌でなくても画家の力量でどうにかなってしまう。従って、確実に言えることは、画家がその人物を美しく描いたことに何らかの理由があるということだ。それを教えてくれている、それが本書の真骨頂だ。(「美貌の人ー歴史に名を刻んだ顔」  中野京子、PHP新書)

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月夜に溺れる 長沢樹

何故か事件の重要人物と昵懇になってしまうという厄介な体質を持つシングルマザーの神奈川県警職員が主人公の連作短編集。主人公は、事件解決のための能力や意欲も十分だし、その厄介な体質も本人に責任があるわけではないので、上司もその扱いに困り、刑事課ではない部署に所属させ、事件のたびに応援要員として事件に関わらせるというやや複雑な設定。刑事課の人間にとっては、その体質の故、彼女のそばにいれば大きなヤマの解決に関わることができるということで、必ずしも嫌がられるわけでもないらしい。警察内部にも色々な人間関係があるんだろうなぁと思わせる内容だ。現代の病巣とも言える少年犯罪など事件関係者は総じて若者で、事件の内容は痛々しい。そうした事件の解決に向けた主人公の活躍もさることながら、それぞれの事件が横浜界隈を舞台にしていて、出てくる地名の多くが自分にとってお馴染みの地名だったり、いつも買い物をしている場所だったりして、読んでいて少しドキドキさせられた。(「月夜に溺れる」  長沢樹、光文社)

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コンビニ外国人 芹澤健介

外国人のコンビニの店員が最近特に多くなっているように感じるし、知り合いの留学生に話を聞いても、コンビニでアルバイトをしているという話はよく聞く。日本で留学生活をするにはかなりのお金がかかる。母国でかなり裕福な家庭の子女でも、コンビニなどでのアルバイトで生活費を補っているということだろうと想像がつく。留学生に聞くと、コンビニでのアルバイトは、給料はそれほど高くない割に、覚えなければいけないことが多く、日本語もそれなりに達者でなければできないので、必ずしも割りの良い仕事ではないという。それでも留学生の多くがコンビニでアルバイトをしているというのは、そこに大きな需要があるからだ。本書は、そうした日本の事情を背景にした日本における外国人労働者の実態を分かりやすく教えてくれる。コンビニの店員がもうすぐ「技能労働者」のカテゴリーに組み込まれるという話にはビックリした。本当にダークな部分については触れられていないが、ごく普通の留学生が経験している日本というものが良く分かる一冊だ。(「コンビニ外国人」 芹澤健介、新潮新書)

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アポロンの嘲笑 中山七里

東日本大震災直後の被災地で起こる殺人事件とその容疑者の逃亡。警察自体が混乱している中で、1人の刑事が逃亡者を追う。追うものと追われるものの息詰まるサスペンスが繰り広げられ、やがて逃亡の裏に隠された予想もしなかった真相が明らかになっていく。内容的には、重厚な社会派ミステリーだが、心に残るのは、追うものと追われるものが直面する克明な被災地の描写だ。著者が描きたかったのは、ミステリーよりもこの被災地のリアルだったのではないかとさえ思える。(「アポロンの嘲笑」 中山七里、集英社文庫)

 

海外出張のため、一週間程、更新をお休みします。

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ガンディー 竹中千春

20世紀の偉人マハトマ・ガンジーの思想と業績を分かりやすく教えてくれる本書。大人になってから彼について書かれた本を読んだことがなかったので、実に色々なことを教えられた気がした。子どもの頃、上半身はだかで手紡ぎ車を回している彼の写真を見たことがあるが、それが何を意味しているのか、本書で初めて知った。また、彼の業績が南アフリカでのインド人移民の地位改善活動から始まったことも今まで全く知らなかった。そして、良く聞く「非暴力不服従」というものが何を意味しているのかも、そういうことだったのかと、目からウロコ。本当に教えられ、考えさせられることの多い一冊だった。(「ガンディー」 竹中千春、岩波新書)

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さらなる定年後のリアル 勢古浩爾

著者の本はこれで3冊目。コンセプトはこれまでの2冊と同じく「定年後をどう気楽に過ごすか」いうエッセイ集だが、より雑文的要素が強い内容になっている。著者と趣味や価値観は違うが、それでも共感できるのは、根本的なスタンスが似ているからだろう。(「さらなる定年後のリアル」 勢古浩爾、草思社文庫)

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営繕かるかや怪異譚 小野不由美

建物にまつわる怪異現象とそれを鎮める営繕屋の活躍を描いた短編集。鎮めると言っても、お祓いをするとか力で封じ込めるのではなく、怪異の原因を営繕という間接的な方法で折り合いをつけるというのが本書の最大の特徴だ。不思議な現象を不思議な力で押さえ込むというのは二重の意味で不自然だが、ここで描かれているのは本当にそんなことがあるのかという疑問や科学的でないといった批判はひとまず置いてという話だ。本書では同じような構造の話がいくつも並んでいるが、不思議と飽きることなく読み進められた。(「営繕かるかや怪異な」 小野不由美、角川文庫)

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ヒトラーとUFO 篠田航一

ドイツで新聞社の特派員をしていた著者が赴任時代に現地で集めたドイツの都市伝説について解説してくれる本書。内容は、ヒトラー生存説、UFO目撃談からハーメルンの笛吹き男に至るまで多彩だが、著者が語るように、世界の中でドイツ人が特に都市伝説が好きといことではなく、たまたま都市伝説好きの著者の赴任地がドイツだったということらしい。現在著者はカイロに赴任しているということなので、是非エジプトの都市伝説とかアフリカの都市伝説といった続編を期待したい。本書で取り上げられた都市伝説は、ヒトラー生存説が生まれた背景、存在しないと揶揄されるがちゃんと存在する町、異邦人に対する謂れなき不安心理が生み出す都市伝説等、どれも面白かった。特に、ハーメルンの笛吹き男の伝説について、ペストの蔓延が背景にあるという説以外にも、十字軍への徴兵説、大規模な移住等多くの異説があるとのことで、これも大変面白かった。(「ヒトラーとUFO」  篠田航一、光文社新書)

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彼女たちはみな、若くして死んだ チャールズ・ボズウェル

被害者が若い女性という共通項のあるいくつもの事件の概要を伝えるノンフィクション作品。ノンフィクション作品の名作ということだったのでインターネットで購入したのだが、本書を手に取ってみて、扱われている事件がいずれも19世紀末から20世紀初頭、つまり100年以上前に起きた事件であることを初めて知った。もし本屋さんで本書を見つけて、そういう昔の事件を扱っていることがわかったとしたら、買うことはなかったかもしれない。こうした思い違いもなんだか面白い。色々な本に出会うことは読書の大きな楽しみの1つであり、明らかに本書は今までに読んだことのない類の1冊だったからだ。(「彼女たちはみな、若くして死んだ」  チャールズ・ボズウェル、創元推理文庫)

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道具箱はささやく 長岡弘樹

短編の名手による20ページ前後の短編が18編も収められた嬉しい1冊。1つ1つの作品は短いが、著者独特の意外な結末は全ての作品に健在で、まさに著者の良さが凝縮された内容と言えるだろう。かなりトリッキーな結末も著者の場合、あまり気にならないのもいつものことで、それよりも内容のバラエティーの豊かさで次を読む楽しさがずっと継続する。前作の感想で、やや作品の数が多すぎてじっくり読める作品を期待したいというようなことを書いてしまった記憶があるが、こういう作品ならばいくら多くても大歓迎だ。(「道具箱はささやく」 長岡弘樹、祥伝社)

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世界はジョークで出来ている 早坂隆

国際情勢の解説を読みながら世界のジョークを楽しむという趣向の本書。解説がある分、紹介されているジョークの数はそれほど多くないが、ジョークばかりを続けて読むよりもゆったりとしたペースで楽しめるのが利点になっている気がする。政治的なジョークには、それ自体がアク抜きのような形で社会の問題点への行動を阻害してしまうというマイナスと、正面向かって言えないことをオブラートに包んで批判できるというプラスの両面がある。そうしたことを考える必要もなく楽しめる現在の日本の環境が結構貴重なものだということにも本書は気づかせてくれる。(「世界はジョークで出来ている」 早坂隆、文春新書)

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