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観察力を磨く名画読解 エイミー・ハーマン

本書は、色々な職業に欠かせない観察力を養うセミナーを行っているという著者の本。その方法が変わっていて、「目の前の古今の名画、報道写真などを観察し、それがどういう作品かを他人に伝えることで、観察力を高める」という。本書でも、沢山の絵画や写真が掲載されていて、それを見ながら地の文章を読むことで、著者のセミナーを擬似体験出来るという仕掛けだ。読む前は、観察力を磨くのと同時に、絵画の見方にも色々な示唆があるのではないかと考えたが、本書はあくまで観察力を磨くための自己啓発本だった。豊富な図版と事例が次から次へと紹介され、1つ1つについてじっくり吟味する暇も与えないように講義は進む。画家の主観が介在する絵画なので、それを過不足なく伝えるのは難しい、それだからこそ訓練なるということなんだろうが、絵画をそういう使い方をすること自体、随分即物的・アメリカ的だなぁと感じた。(「観察力を磨く名画読解」 エイミー・ハーマン、早川書房)

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カソウスキの行方 津村記久子

著者の本を立て続けに読んでいるが、その独特の文体がますます好きになってきた。三人称で語られていてもその実態はモノローグで、それが私小説的な内容と合致して、独特の雰囲気を醸し出し、シンパシーを感じる大きな要因になっている気がする。内容的には、仕事や生きることに息苦しさを感じている人々の日常。但し、それぞれが自分自身で少し変わった楽しみを見つけることで、前に読んだ処女作のような厳しい現実からは前向きになっている。心の中で自分にのり突っ込みを入れるさまが、客観的には少し痛ましいのだが、それと同時に微笑ましく、彼女彼氏を温かく見守ってしまう自分を発見する。(「カソウスキの行方」 津村記久子、講談社文庫)

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アメリカ最後の実験 宮内悠介

著者の作品はこれで5冊目か6冊目になるが、大変面白かった作品もあれば、作者の提示するイメージについていけない作品もありで、未だに自分自身の中でも評価の定まらない作家だ。いったい今度はどんな内容なのか? 本書は、突然アメリカで行方不明になった父親を探すために渡米した日本人の少年の話だ。そこで聞かされた父親の行方不明前後の不思議な言動。それに関する不思議な楽器の存在。冒頭から提示される幾つもの魅力的な謎に期待が高まるのだが、楽器の謎は早いうちに呆気なく解き明かされてしまうし、行方不明の父親も突然姿を現し、いつの間にか謎でなくなってしまう。そのうち日本人の少年の話だったはずのストーリーそのものが別の様相を見せ始め、最初に提示された謎の解明は物語の肝ではなかったことが明らかになる。今回も作者のイメージに十分ついていけなかった気がするが、残念という感情は湧かない。また作者の本を見つけたら買って読むだろうなぁと思う。(「アメリカ最後の実験」 宮内悠介、新潮社)

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不寛容社会 谷本真由美

日本にとっては、既に日本が「不寛容社会」であるということ以上に、社会が不寛容の度合いを強めていることの方が大きな問題だ。不寛容であることはすでに色々な指摘があり、日本人もそれについて反省もしている。そうした自己反省は日本人の得意なところでもあるし美徳でもある。しかし、団塊世代の高齢化が原因とも言われる近年の一層の不寛容化は、どのように対処すれば良いのか、まだまだ答えが見つからない。本書は、定性的な話や比較はあるが、変化については何も語ってくれない。そこが残念だった。(「不寛容社会」 谷本真由美、PLUS新書)

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ミャンマー権力闘争 藤川大樹

ミャンマー関連の本は、時々チェックして、できるだけ読むようにしている。ミャンマー本には、最近の民主化の動きを解説したもの、ミャンマー語の解説本、僻地への冒険旅行記等様々だが、本書は、スーチー女史のことを中心に書きながら、かなり踏み込んだ最新情勢の解説本になっているのが特徴で、さらにそうした最新事情を説明しながら、それがミャンマーの歴史の解説にもなっているというのが本書の大きな魅力だ。言い換えれば、ミャンマーの歴史、最新事情、アウンサンスーチー女史の伝記の3つをまとめて読んだようなお得感がある。ミャンマーでは憲法の規定で「配偶者が外国人だと大統領になれない」という話は有名だが、その憲法の条文自体、本書で初めて見た。著者は、現職の新聞記者とのことで、色々な関係者へのインタビューや原典の確認などの地道な作業が本書を価値のあるものにしているように感じる。(「ミャンマー権力闘争」 藤川大樹、角川書店)

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検索禁止 長江俊和

世の中には色々な「禁忌」がある。本書では、検索をしてはいけないという都市伝説になっている言葉、様々な理由で多くが語られない内外の事件など、様々な「禁忌」が扱われている。「禁忌」となっている理由は様々だが、最大の理由は「おぞましすぎる」ということのようだ。それをコレクションのように集めて、色々調べていく著者と、この本のコンセプトの両方が相当にユニークだ。全編「怖いもの見たさ」を刺激する不思議な一冊。(「検索禁止」 長江俊和、新潮新書)

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儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇 ケント・ギルバート

本屋さんで、昔TVのクイズ番組によく出ていた有名人が書いた本を見つけた。最近全く見ないと思ったら、こういう本を何冊も書いているようなので、かなり意外な感じがした。とにかく読んでみた感想は、日本への共感が強すぎて随分バイアスのかかった内容になってしまっているということだ。東洋人同士の違いについて、なかなか当事者には気づきにくいところもあるだろうから、こうした本は貴重だという見方もできるが、読んだ感じでは、この本は書かれている内容には意外感がそれほどない気がする。意外なのは、中国や韓国を批判的に書いた部分ではなく、日本の良さを色々例示してくれている部分だ。本書の正しい読み方は、中国や韓国の批判の書として読むのではなく、日本人の自虐性への批判の書として読むということなのだろう。(「儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇」 ケント・ギルバート、講談社α新書)

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午前3時のサヨナラゲーム 深見黎一郎

ペダンチックな文体とトリッキーな内容で異彩を放つ作者の短編集。野球ファンのどことなくユーモラスな色々な生態を描いた作品が並んでいる。軽いと言えば軽い内容だが、それぞれに面白い工夫がなされているし、作者の今まで知らなかった側面をいくつも見せてくれていて、とにかく面白い。野球ファンを小ばかにしているようでその裏に深い愛情と思い入れがあるのが判る。作者の短編集というだけで贅沢な1冊だ。(「午前3時のサヨナラゲーム」 深見黎一郎、ポプラ社)

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地図にない場所で眠りたい 高野秀行・角幡唯介

探検本と言えばこの2人ともいうべき2人の対談集。「高野秀行」の本は随分前から色々読んでいて、恐らく作品の半分以上は読んでいるはず。一方の「角幡唯介」は少し前に話題になった「空白の5マイル」が面白かったのが記憶に新しい。二人とも「早稲田大学の探検部」出身、高野さんが角幡さんの10年先輩ということで、高野さんが話をリードし、角幡さんは聞き役なのかと思ったら、全く対等に意見を述べ合っていて、それが妙に楽しい。探検とは、夫々の流儀があり、体育系のような先輩後輩意識があまりないようだ。意外だったのは、高野さんの作品は何れもベストセラーになっているのかと思ったら、重版になった作品はほとんどないとのこと。しかも、ノンフィクション作品に与えられる大きな賞の受賞は、二人ともほぼ同時らしい。そうした2人の「探検」に対する考え方、取材方法、執筆方法などがことごとく違っていて、どちらも甲乙つけがたい。探検本のレジェンドである高野さんと互角に渡り合う角幡さんの存在感が印象的な一冊だった。(「地図にない場所で眠りたい」 高野秀行・角幡唯介、講談社文庫)

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出版禁止 長江俊和

色々なところで話題になっている本。ある事情で出版されなかったノンフィクション作家の作品を全文掲載しましたという体裁の本書だが、読み終わってみると、至るところにトリックというか、読者を欺く仕掛けが施されていて驚かされた。巻末に「文庫本のためのあとがき」という作者自身の文章が掲載されているのだが、これ自体も読者を欺く仕掛け?ということなのだろうか。大きなどんでん返しは2回だが、その後の方のどんでん返しの衝撃は何故かとても大きい。イヤミス、叙述ミステリーといったジャンルでくくることが何となく無意味になってしまいそうな気がする。本当に意表を突いたこれまでに全くなかったトリックを十分に堪能した。(「出版禁止」 長江俊和、新潮文庫)

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謎のアジア納豆 高野秀行

色々な国の留学生と付き合っていると、ほとんどの留学生は「納豆」が食べられないが、たまに「大丈夫」あるいは「好き」という留学生がいる。特にミャンマーの留学生は、自国にも同じような食べ物があるらしく、平気だという確率が高い。そんなことで、アジアの国にも、色々な納豆のような発酵食品があることは知っていた。私自身は納豆が好きで、妻にも「納豆は欠かさないように」とお願いしているほどだが、アジアの国に納豆と同じような食品があったとして、それを食べられるかどうかは自信がない。食に対する趣向というのは、かなり微妙なもののような気がする。この本は、日本最高の探検家が書いたアジアの納豆文化についての本。大いに期待して読んだ。。結論として、納豆を食べる文化はアジア全体に辺境の食べ物として点在しているということだ。辺境という意味は、ある程度の食材が手に入るような文化の中心のような土地では、次第に納豆が単なる調味料のような存在になってしまったり、隅っこへ追いやられたりしてしまうということらしい。本書の良さは、アジアの辺境でのレポートと日本での考察が上手く調和して語られていて、最後まで興味深く読むことができたことだ。読んでいると、東海林さだおの「丸かじりシリーズ」のワールドワイド版を読んでいるようで微笑ましいところがあるかと思ったら、日本人の行けない辺境の地でのディープなレポートがあったりで、さすが著者の本だと感心した。本書はまだ完結編ではないようなので、続編が楽しみだ。(「謎のアジア納豆」 高野秀行、新潮社)

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名古屋はヤバイ 矢野新一

「京都嫌い」の二匹目のドジョウを狙ったような題名だが、中身はごく普通の「名古屋紹介本」だった。名古屋に住んでいる本当の名古屋嫌いの人が書いた本ならば面白いのだろうが、著者は他県に住む、県民性を調査したことがある研究員とのことで、しかも名古屋が好きという立場らしい。要するに「京都嫌い」とは間逆の本だが、それでも読んでいると色々な発見があって面白い。名古屋を貶しているようで実は褒めているという本はいくらでもある。二匹目のドジョウでも良いので本当の「名古屋嫌い」本を読んでみたいと思った。(「名古屋がヤバイ」 矢野新一、PLUS新書)

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神様のケーキを頬ばるまで 彩瀬まる

著者の本は4冊目だが、色々読むにつれて少しずつ気になりだした作家だ。本書は直前に読んだ本とほぼ内容は一緒で、自分に降りかかる小さな災難に対して真面目に取り組む主人公達の心の葛藤が克明に描かれている。人生はいつも順風満帆とは限らないし、真面目にやっていれば何とかなるというほど物事は単純ではない。彼らに対する救いの手はどこからもこない。そうした中で、自分が丹精込めて作ったケーキを頬張る最後の短編の主人公。そこに本書の全てが凝縮されている気がした。(「神様のケーキを頬ばるまで」 彩瀬まる、光文社文庫)

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機長、事件です 秋吉理香子

新米の副操縦士とベテラン機長のコンビが機中や滞在地で起こる事件を解決するという非常にオーソドックスなお仕事ミステリー。日常で起こる軽めの事件なので気軽に読めること、話の中に出てくるお仕事に関する薀蓄が勉強になってお得な感じがすることなども、お仕事ミステリーの王道というところだろう。連作集だがそれぞれの短編の繋がりも良い。こちらも続編を期待したい。(「機長、事件です」 秋吉理香子、角川書店)

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囲碁殺人事件 竹本健治

最近「涙香迷宮」で一躍脚光を浴びている著者の30年以上前の作品で、「ゲーム3部作」というシリーズの中の一冊ということらしい。本書は、「涙香…」ほどのペダンチックさはないが、それでも随所に「囲碁」に関する薀蓄が満載で、それだけで十分楽しめた。また、囲碁を嗜むもの(囲碁初段)として、呉清源と木村名人との戦いで、色々ルールを巡る盤外の攻防があったことなどは初耳で、それもとても興味深かった。ミステリーとしては驚くようなすごい出来映えというほどではないが、3部作ということなので、あと2冊同じような読書が楽しめると思うと、それだけで嬉しくなる。(「囲碁殺人事件」 竹本健治、講談社文庫)

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