たた&にせ猫さんの備忘録

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『遠距離現在 Universal/Remote』国立新美術館

2024年03月19日 | 日記

     『遠距離現在 Universal/Remote』国立新美術館  2024.3.15

       2024年3月6日水―6月3日月

  不思議なタイトルの展覧会。ホームページには<タイトル「遠距離現在 Universal / Remote」は、常に遠くあり続ける現在を忘れないために造語された。本来は万能リモコンを意味するUniversal Remoteを、スラッシュで分断することで、その「万能性」にくさびを打ち、ユニバーサル(世界)とリモート(遠隔、非対面)を露呈させる。コロナ禍を経て私たちが認識した「遠さ」の感覚、また、今なお遠くにそれぞれが生きていることを認識するのは重要なのではないかという思いが、この題名に込められている。>とのことだが、説明があっても、独りよがり感がぬぐえない。

  チラシによると、本展は資本と情報が世界規模で移動する今世紀の状況を踏まえたもので、監視システムの過剰や精密なテクノロジーのもたらす滑稽さ、人間の深い孤独を感じさせる作品群を集めたと。

  ここまで言われてもなおよくわからないが、作品は、テーマの捉え方、アイデアの具体化、そのための膨大な労力などから、クールかつエネルギッシュで、今日的な問題提起に満ちた、興味深い作品達だった。

  井田大介 徐冰(シュ・ビン)トレヴァー・パグレン ヒト・シュタイエル(ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ ミロス・トラキロヴィチと共同制作) 地主麻衣子 ティナ・エングホフ チャ・ジェミン エヴァン・ロス 木浦奈津子の作品

  徐冰の映像作品《とんぼの眼》(2017年)。チンティンという女性と、彼女に片思いする男性の切ないラブストーリーが語られるが、全ての場面が、ネット上に公開されている監視カメラ映像をつなぎ合わせたもの。徐と彼の制作チームは、20台のコンピューターを使って約11,000時間分の映像をダウンロードし、若い男女を主人公にした物語に合わせて編集したとのことだが、監視カメラ映像の膨大さ、そして写っている人を探し出して作品に乗せるための許可を得る労力。つなぎ合わせで作られる世界。  

  パグレンが設計したAIエンジンが生成したイメージによる〈幻覚〉シリーズ。人間という作品の奇妙さの衝撃。ずいぶん前にフランシス・ベーコンの作品を見た時のことをふと思い出した。ベーコンの作品の質感、不安と不快を掻き立てながら知的で静謐で、猥雑で、圧倒的な印象があり、身体描写でも骨や肉でなく神経を描いているすごさを感じたが、AIの幻覚の人はどこまでも曖昧で、グロテスクで、美しさから遠い。パクレンはこれからのAIと生きる世界を密かにこんな形で提示しているのか?

  地主麻衣子の映像作品。小説家のロベルト・ボラーニョ最期の地であるスペインを訪れる旅を題材に、現地で出会う人々との対話を通して日本の社会を再考とのこと。穴に落ちた少年を助けるのかに関するインタビュー。応答者はスペイン、○○ではといった般化したくくりを避けて話している。作者は日本人はと、日本社会の再考を促す方向性のようだが。応答を聞いていて、穴の底への恐れと共に、神というものが底流している感じを受けた。

  ティナ・エングホフの<心当たりあるご親族へ>。身につまされる言葉。

  エヴァン・ロスの《あなたが生まれてから》。自身のコンピューターのキャッシュ(cache)に蓄積される画像データを抽出して空間を飽和させるインスタレーション。無作為に並べられた大量の画像で広い空間が埋め尽くされている。こんなに膨大な映像に日々さらされて生きていると。  

  国立新美術館のホームページで丁寧な解説あり。

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