たた&にせ猫さんの備忘録

―演劇、映画、展覧会、本などなど、思うままに―

『南へ』 東京劇術劇場 中ホール 2011.2.26

2011年04月16日 | 日記
     『南へ』 東京劇術劇場 中ホール 2011.2.26
         2011年2月10日(木)~3月31日(木)

      作・演出 野田秀樹
      出演 妻夫木聡 蒼井優 渡辺いっけい 高田聖子 銀粉蝶 藤木孝ほか

  この演劇を見たのが2月26日、1月半程前のことだけなのに、春になり桜も咲いたのに、周囲の風景がすっかり変わってしまった感じがする。地震と原発事故、ずっと心が定まらない感じ。
  復興に向かおうとされている被災者の方々、被災地支援や事故処理にあたっておられる方々、難局に立ち向かっておられるのに、どうかこれ以上の余震や難しい状況が起こりませんように。

  ブログを始めたのが、昨年の3月28日であったことに気付いて、少し自分の記事を読みなおしてみた。書きなおしたいところも多々あるけれど、これはこれで良いことにしておこうと思う。
  いつも1日に50人ぐらいの方、新しい記事を書いた時は100人ぐらいの方が見に来て下さっている。どういうきっかけで来られるのだろうか、どういう感想を持たれたのだろうかとか思うこともあるが、ブログを始めたことを契機に、いろんな方のブログにお邪魔することも増えているので、どこかでクロスしているのでないかと。

  『南へ』は見てから時間がたち、記憶も薄れてしまったが、備忘録なので、一応少し書いておくことに。
  火山の爆発、地震、天皇制、戦争、自分たちの都合の良いように(楽天的に)物事をとらえたい気持ち、ジャーナリズム、アイデンティティなど、テーマが盛りだくさん。そして、今回の震災、原発事故。『新潮』に掲載された脚本を手に入れたけれど、読む気力が湧いてこない。

  天井桟敷に近い見切り席だったので、舞台右端の状況は推測になるが、出演者が舞台端に折り畳みいすを並べて待機していて、次々と展開していくスピード感のある演出。野田さんの演出では、いつも劇団員さんの集団の動きがとても劇を動かすのに力があり、演劇の身体性を感じさせてくれる。

  美術では、床がとても好きな色で、装置はシンプルなのに印象に残る。

  主演の妻夫木聡さんが好演。動き、せりふともに自分のものにされていて、こんなに実力のある人だったのかとうれしい驚き。
  蒼井優さんは役のせいか声を張っていることが多く、せりふが聞き取りづらいのが残念だったが、溌剌とした動きで熱演。
  他の出演者は、実力派ぞろいで、これだけ内容盛りだくさんの野田作品を形あるものにしている。

  舞台を見た時は多様なテーマが投げ出されただけの感じだった。が、現実の困難が起きてしまった今日、野田さんは次にどのような作品を提示してくるのだろう。
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『トップ・ガールズ』 Bubkamuraシアターコクーン

2011年04月11日 | 日記
    『トップ・ガールズ』 Bubkamuraシアターコクーン  2011.4.8
          2011.4.1(Fri) ~4.24(Sum)
      
     作:キャリル・チャーチル
     演出:鈴木裕美 翻訳:徐賀世子 美術:黒須はな子
     出演:寺島しのぶ 小泉今日子 渡辺えり 鈴木杏 池谷のぶえ 神野三鈴 麻実れい

  女優7人だけのお芝居。チラシでは …かつて“女性”であることを最大の武器にして、トップを極めた女たちがいた。歴史上や文学・絵画に名を残したパワフルなヒロインたちは、時空を超えて、現代のキャリアウーマン、マリーンの昇進祝いに駆けつける。…奇想天外なパーティは、やがて女性たちの光と影を映し出す現実の世界へ。日本のトップ・ガールズが繰り広げる、史上最強の“ガールズ・トーク”へようこそ! …と謳っています。

  にせ猫さんがガールズ・トークを好きとは思えないので、一人で行くことには決めていたのですが、にせ猫さんの知り合いの方のブログ―演劇、映画についてよく書いておられる―で、『トップ・ガールズ』は好評とは言い難いコメント。にせ猫さんが「うちのがコメントを読んで、観劇に行くか迷っている」と話したら、「それほど悪くはありません」というメールが返ってきたと。気持ちを立て直して行くことに。 

  珍しく仕事が空いたので、急遽午後2時の開演ぎりぎりに当日券狙いで行ってみました。先日、『たいこどんどん』のチケットを取ろうとコクーンを訪ねた際、こちらの方は結構当日でも取れそうな感じだったのですが、取れました。

  錚々たる女優陣。1幕は時空を超えたヒロインたちのおしゃべりで始まります。それぞれの人生を自分勝手に話すのですが、その中に女性の生きがいや成功、愛や性や子供のことなどのテーマが投げかけられます。この部分をブログで、余計なおしゃべり、なくてよいと書いておられたのですが、確かになくてもよいような。外国原作のお芝居なので、小泉今日子さん役の二条は、原作ではどうなっているのでしょうか。

  現実の場面では、人材派遣会社の設定で、次々と女性がいろんな思いを持って求職に来ます。こちらは役者さんたちが芸達者でなかなか楽しい。
  そして、最終章、寺島しのぶさんのマリーンと姉役の麻実れいさんの会話から、女性の生き方、抱える問題が改めて浮き彫りにされます。

  寺島しのぶさんは今回初めて拝見しました。最後の場面、麻実れいさんを相手に引けを取らないばかりが、すばらしい存在感。
  麻実れいさんは宝塚の頃から気になる役者さん。ベニサンピットで『黒蜥蜴』をなさった時、本当に手を伸ばせば触れるぐらい近い席でした。独特の存在感と少し歌うような癖のあるセリフまわし。でも素敵です。
  小泉今日子さんは『かの高きもの』で拝見したことがあり、なんだかんだ言っても「キョンキョン頑張ってる」という感じ。ブログでは、小泉今日子が出てくると芝居がうそくさくなると書いておられるけれど、きっと役より、あたし頑張ってます、カッコいいでしょが先に見えてしまうからかもしれません。でも頑張ってほしいかな。
  渡辺えりさんはすごい存在感。すごく上手で、彼女だからアンジーができたのでしょうが、でもかなり無理のある配役。この役を年齢相応の違う人がやると、舞台がずっと違ったものになったかなと思ったり。
 
  節電のため、カーテンコールの再登場はなく、余韻に浸る間もなく舞台は終了。パンフレット代は募金されるとのこと。
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『日本人のへそ』 シアターコクーン

2011年04月03日 | 日記
   『日本人のへそ』 シアターコクーン 2011.3.26
      2011年3月8日㊋~27日㊐
      井上ひさし◎作/栗山民也◎演出/小曽根真◎音楽/謝珠栄◎振付
      石丸幹二 笹本玲奈 たかお鷹 山崎一 他 

  前回ブログを書いてから1カ月以上経ってしまった。2.26に『南へ』を東京芸術劇場に見に行った。『南へ』の脚本が「新潮」に掲載されていると知って、読んでから書こうと思っているうちに地震。気持ちが落ち着かず、書くという作業がすっかりできなくなってしまった。

  地震は新宿で遭遇した。運転免許更新のために有休を取って都庁に出かけた。免許の更新も終わり、京王デパートでお茶にしようとしている時に、揺れ始めた。何度もひどく揺れて怖かったが、電車も止まっているしと、デパート内をうろうろし、少し買い物もした。結局、電車が止まったままなので、デパート内に11時過ぎまでいた。デパートの階段付近に椅子を出してくれて、アナウンスもあって、京王デパートは親切だったと思う。
  京王線が動き出したので、やっとのことで自宅に着いたら午前1時半。本が結構散乱し、レンジの上のトースターが落下して壊れていたが、他に大きな被害もなく、少し片付けて寝たのが4時過ぎ。にせ猫さんは帰宅難民対応で職場から帰れず。
  その日は自分が帰宅することで精一杯で、地震の映像に触れる機会も逆になく、翌日テレビを見て、本当に言葉にならない。津波が美しい田畑や街並みを無残に飲み込み、そして多くの方が被害に遭われた。
  切り取られた日常、切り取られた人生、未来を思い、家族を思いながら力尽きて亡くなった方々の無念を思う。テレビを見ていたら、涙が出てきて、動悸がして、心がざわついて落ち着かない。人生がひどくはかなく、虚しく思えてしまう。

  原発事故や計画停電とさらに心がざわつくことが次々あり、日常がひどく不確かで、足元を持っていかれた感じ。被災していないものですらこうなのだから、被災された方は本当に大変だと思う。自分たちにできることといっても限られていて、募金することと節電することぐらいしかできない。

  『日本人のへそ』は、震災前にチケットを購入していて、公演があるのかと危ぶみ、また、何か演劇を見に行く気持ちも、こんな折に行ってもよいのかという迷いもあったが、せっかくだからと出かけることにした。

  空席が目立つかと思ったが、満席で、立ち見が出ていた。劇場に人が戻ってきているのが、何気にうれしかったが、緊張感があったのか、あまり楽しめなかった。

  演劇自体は素晴らしかった。脚本が良いとこんなに演劇は訴える力があるのか。井上ひさし氏の最初の戯曲ということだが、幾重にもはめ込まれた劇中劇、歌に、踊りに、本質をついた社会批判、その盛りだくさんぶりに、井上ひさし氏の小説を初めて読んだ日の圧倒され感を久しぶりに思いだした。

  演出と音楽、美術も素晴らしく、それに応えるような役者さんたちの熱演。

  主演の笹本玲奈さんは、以前『レ・ミゼラブル』で拝見した時、評判の割に、良いとは思わなかったけれど、今回は本当に素晴らしかった。スタイルの美しさも生かされていたし、ストリッパーとしてのきわどい振付も、思い切りの良い演技で光らせている。石丸幹二さんとの歌も良かった。石丸幹二さんも役をわがものとして、楽しんでおられる感じすら伝わってくる。どの役者さんも熱演。

  劇中劇の構造、1幕の終わり方、2幕の始まりの意外性、緊張と軽妙で、間の良い演技、いつもならもっともっと笑えただろうに、なぜか笑いきれなかった。

  関西出身なので、東京に来るまで東北に対して本当になじみがなかった。石川啄木のふるさとの訛り懐かし…も、演歌で歌われる上野駅も耳慣れてはいるが、その持つ意味合いは分かっていなかったと思う。東京では本当に東北出身の方が多い。出稼ぎや集団就職で日本のへそである、東京に集まってきたのだ。関西人なので、日本のへそが京都や大阪だと、いまだにどこかしら思っているところはあるのだけれど。

  でも、貧しさや生活が大変だというのは、子供のころにはごく普遍的にあったと思う。この便利な電気があればこその生活が、東北の原子力発電に、他者の負担に支えられていて、とてももろいものであることを改めて突き付けられた。気がついたら、ここまで来てしまっていた、自分たちはこれからどこへ行くのか、うかうかだけでは済まないのだろう。

  大阪万博の前年に上梓されたこの戯曲、井上ひさし氏の思いやメッセージ、地震を契機に胸元に突き付けてくるものがあって、笑えなかったのだと思う。
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