たた&にせ猫さんの備忘録

―演劇、映画、展覧会、本などなど、思うままに―

『ライフ・オブ・パイ 虎と漂流した227日』 109シネマズ川崎

2013年01月27日 | 日記
    『ライフ・オブ・パイ 虎と漂流した227日』 109シネマズ川崎   2013.1.26

      原作:ヤン・マーテル 監督:アン・リー
      出演:スラージ・シャルマ インファン・カーン 他

  見終わって第一印象が、一筋縄ではいかない映画だなあと。

  かねてから、動物の中で一番美しい生き物、虎。ネコ族の最高傑作。と思っていることから、映画館で予告を見た時から、是非見たいと。遭難した少年と虎の友情・冒険物語みたいなディズニー的な映画かと思っていたら、とんでもない映画だった。ではつまらなかったこというと、そうではない。こんなに深く啓示的でメラファーに溢れた映画を、これ程美しく詩的な映像美にしたことかと。3Dも今まで見た中で一番美しかった。海、生き物、空、星、嵐。透明感がとても3Dの使い方として成功している。

  ミーアキャットの島、海、ボートに乗っている虎の引きの映像の美しかったこと。

  少年が遭難し、ボートにいろんな動物が乗ってきて、それらは戦い殺戮し合って、最後に虎と少年が残される。少年は虎に食べられないために、知恵を尽くして虎と共存する道を探り、サーカスの技法を用いて、虎との距離を保つことに成功する。そして、壮絶な嵐の中、究極の神秘体験の後で、生を投げ出して、虎との一体化を受け入れる。

  虎の名前がリチャード・パーカーであること、食人の島に立ち寄ること、最後のより本当らしい話などから、食人が背景のテーマになっていることをうかがわせるが、それが、キリストが十字架にかけられ神に身をささげられたこと、ヒンズー教、イスラム教など、宗教的に張り巡らされた伏線が、単なる残酷さや興味本位のテーマとしてではなく、動物が他の命を絶ち、それを食することで生きながらえているより本質的なことに、啓示的に迫っている。

  虎は人間の中にある獣性、生きるためには何でもしようとする欲望を象徴しているのかもしれない。彼は欲望と理性の併存を図り、最後に大いなるものの中で生かされている人というものを受け入れる。

  メキシコの海岸に打ち上げられた時、少年と同じように痩せた虎が後ろを振り向かず森に消えた時、涙とともに少年の獣性は去り、神秘的な体験を内包して、文明へと帰って行ったのかと。

  日本人の保険会社員の変な気まじめさ、ずれた感じ。とはいえ、彼らはベンガル虎と少年が漂流した話を選んだ。
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『会田誠展 天才でごめんなさい』森美術館

2013年01月25日 | 日記
        『会田誠展 天才でごめんなさい』森美術館   2013.1.20
           2012年11月17日(土)-2013年3月31日(日)

  美術展の梯子。上野と比べてこちらは圧倒的に若い客層で結構混んでいる。映像作品など、床に座って熱心に見ている人も。

  作風はとても幅広い。また、テーマにしているものも幅広い。伝統的な技法や構図に精通し、パロディにする遊び心もあり、才能に溢れた作品の数々。

  あぜ道は東山魁夷の『道』からかしらなど、知的好奇心をくすぐる。火炎縁二部作の金箔の張り方、蜚蠊といった旧字の遊び心、一方で、雑草図の岩絵の具を使った透明感。
  「戦争画RETURNS」シリーズでは、『美しい旗』の女子高生の線の美しさ、にせ猫さん一押し。

  「犬」のシリーズや『大山椒魚』、『滝の絵』『ジャンブル・オブ・100フラワーズ』の女性像。世のロリ男性を釘付けにする魅力に溢れ、それを可能にする絵の上手さ。

  『紐育空爆之図』はこの展示室の白眉。画材は、日経新聞、ホログラムペーパーにプリントアウトしたCGを白黒コピー等になっている。日経新聞?地獄図など日本画をベースにしているのか?と思っていたら、後日偶々見た山田五郎氏の美術展探訪番組で、螺鈿、洛中洛外図などを参照していると。
  そしてこの室で『題知らず』とされた原爆ドームの絵。
 
  「美と哲学」シリーズの映像。とてもおかしい。今回の会田誠展、ビンラディンに扮した映像やデモのパフォーマンスなど結構おかしみをまぶしているのだけれど、あまりクスッという方がいらっしゃらなくて、それがちょっと残念。

  パロディ精神から関西の方かなあと最初思ったけれど、おかしみが結構気まじめな感じもしたので、どこの出身の方かと思ったら新潟の方でした。

   いつも現在アートの展示会に行くと、お金があればどれを買うかと考えるのだが、今回は『河口湖曼荼羅』。青春の終わりのbig dreamな体験を曼荼羅という形で絵にした作品。本当の求めて突き進んだ時に出会う不思議で深い体験を絵にできたということ。これがあれば、きっと無敵なのでしょう。どんなに完成度の高い絵よりも、この絵を買いたい。

  いろんな着想、それをアートという形に変えることを可能にする才能。幅広い活躍をを通じて、楽しみ、楽しませてください。

  それにつけてもカウンターでわざわざ頼まないとチラシと出品作品リストをいただけないのはどうなのかしら。展望料金が込みになっていて、そんなにお安くないチケットなのに。
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『エル・グレコ展』東京都美術館

2013年01月25日 | 日記
      『エル・グレコ展』東京都美術館   2013.1.20
          2013.1.19土―4.7日

  今年一番期待していた美術展。これだけの展覧会はそうないだろうと混雑を心配していたけれど、結構ゆったり見ることができた。印象派とフェルメールとツタンカーメン以外の展覧会への関心は薄いのかしら。古い宗教画といった関心の持たれ方なのかしら。

  いやいやエル・グレコ程斬新で、キュービズムを上回る絵はそうないように思うけれど。

  エル・グレコを最初に見たのは、学生の時。クラブの合宿の帰りだったのか、あるいは大学のフィールドワーク施設を見学した帰りに倉敷に立ち寄った時なのか、もう記憶があいまいだけれど、大原美術館のお宝、エル・グレコの『受胎告知』はとても印象的だった。でも、やはり宗教画の範疇で見ていたような。

  エル・グレコの印象がすっかり変わったのは、メトロポリタン美術館での出会い。絵の力、絵の新しさ!素晴らしい構図、その色彩。

  今回は複数の『受胎告知』とさらに『無原罪のお宿り』も。光と色彩、人物の身振りの織り成すダイナミックな表現。今から400年以上も前の作品とは。
  
  絵葉書の色目があまり良くなく購入意欲がわかなかったことと、『受胎告知』のたくさんのキューピットの頭と画面下中央に描かれているものが何かと気になったこともあり、本当に久しぶりに図録を購入。
  キューピットの頭だけと思しきは、航路に沿ってひしめくケルビムの群れで、中央下にはマリアの処女懐胎を象徴する「燃える柴」が描かれていることが判明。
  ちなみに、ケルビムはウィキペディアによると智天使ケルブの複数形で、4つの顔と4つ翼をもち、その翼の下には人の手の様なものがあるが、ルネッサンス絵画では翼をもつ愛らしい赤子の姿で表現されるとのこと。
  たくさんのキューピットがひしめいているということなんだと納得。そういえばムリーリョの『スルトの無原罪のお宿り』でもたくさんのキューピットが重なるように描かれていました。

  鼻の高い、顎の細い細面の人物像はそれぞれに魅力的。表情の捉え方の美しいこと。

  図録がすごく充実していて、しばらく楽しめそうです。
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『ミュージカル シラノ』濱田・平方版:日生劇場 

2013年01月22日 | 日記
    『ミュージカル シラノ』濱田・平方版:日生劇場      2013.1.21
    
     脚本・作詞:レスリー・ブリッカス  音楽:フランク・ワイルドホーン
     演出:山田和也 翻訳:松岡和子 訳詞:竜真知子
     出演:鹿賀丈史 濱田めぐみ 平方元基 鈴木綜馬他

  濱田めぐみさんファンのにせ猫さん。さっそくチケットを取ったものの、ダブルキャストを失念し、なんと濱田さんの登場しないシラノに行くことに。最初は「1回行ったらもう良いよ」と言ってはいたものの、ロクサーヌの歌のパートが結構あり、リピーター割引もあることから、心動いている様子。
  電話予約ではリピーター割引が使えないとのことで、仕事帰りに劇場まで足を運び、リピーター割引を利用してチケットを購入。劇場でも、チケット窓口では扱ってなくて、開場後にロビーで購入することに。ちなみにS席が8000円で見ることかできます。
  わざわざ劇場まで足を運んだ甲斐があったのか、前から5列以内で、かなり真ん中寄りの良席を獲得。

  さて、2回目なので筋を追う必要はないので、歌をじっくり楽しむことに。
  前回は前の方だったが端席で、スピーカー音が大きく、合唱の声が聞き取づらかったのですが、今回は合唱がとても素敵でした。座席によって音響が随分違います。
  かなり前の席なので、オペラグラスなしで、出演者の表情やちょっとしたしぐさも良く分かり、それも良かった。
  
  鹿賀さんは前回の方が軽やかな声だったけれど、今回の方が最後の場面など気持ちがすごく入っているのが、伝わってきました。
  濱田さんはにせ猫さんがはまるのももっともの歌声。声で人を泣かせます。シラノに戦場でクリスチャンを守ってほしいと頼む場面、そして最後の一連の場面など、声の響き、歌詞に感情が乗り、歌声が心を揺さぶります。
  最後の場面など、鹿賀さん濱田さんのコラボレーションの良さが出ていた気がします。

  ただ、後半、修道院に入ってからの老け作りはそこまでしなくてもと。15年とはいえ、まだもう少し若いのではと思った次第。

  平方さんは初めて拝見しました。エリザベートやロミオとジュリエットなどのダブルキャストでいろいろ出演されているので、拝見したことがあるかしらと以前の観劇の出演者名を調べてみましたが、いつも別の方の回でした。一番の見せ場、聞かせどころである戦場でシラノにロクサーヌに真実を伝えるように迫る場面で、声が不安定だったのがちょっと残念でした。
  それにつけても演出なのでしょうが田代さん、平方さんともに軽いクリスチャンで、もう少し深みのある人物像の方が、劇全体の深みも増すような。

  最後はスタンディングオベーション。3階席の方も立っておられました。
  
  出演者がはけ、幕が降りた後もオケの演奏があり、なかなか良い雰囲気。オケピットに近かったので、拝見したのですが、皆さん楽しそうに演奏されていました。こういう瞬間、ライブの良さ、音を楽しむことの幸せを感じます。
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『危険なメソッド』 Bunkamuraル・シネマ

2013年01月20日 | 日記
   『危険なメソッド』   Bunkamuraル・シネマ   2012.12.7

   監督:デヴィッド・クローネンバーグ
   原作/脚本:クリストファー・ハンプトン
   出演:キーラ・ナイトレイ ヴィゴ・モーテンセン マイケル・ファスベンダー
ヴァンサン・カーセル他

  昨年末に見た映画。一応書いておこうとは思うけれど、だいぶ印象も薄れてしまった。

  ―クリストファー・ハンプトンの戯曲の映画化。若き日のユングを主人公にフロイトとの出会いから決別に至るまでの軌跡を辿る。ユングの患者であり愛人であったザビーナ・シュピールラインの存在にスポットを当て、禁断のトライアングルで結ばれたユング、フロイトの関係性をドラマチックに映し出す―

  映画はザビーナが興奮状態を呈し、精神病院に運び込まれるところから始まります。
  ユングはフロイトが提唱する斬新なメソッド談話療法を通じ、彼女の性的なトラウマを探り、さらに助手としての役割を与え、知的な達成を後押しし、治療に成功します。しかしながら、医師と患者という距離感を保てず、男女の関係になり、ザビーネは論文の指導者としてフロイトを選び、ユングのもとを離れます。

  ユングとフロイトの関係性―その根底にあるスイス人とユダヤ人の問題、経済格差。ザビーナはユングとの関係性から他者との融合による死を考察し、フロイトのタナトス論に影響を与えた等々、いろんなエピソードが散りばめられた映画になっています。

  フロイトが着目した性、性的な関係が社会的、生物学的な事柄に直結した時代。今日より幾重にも閉じ込められた、そしてとても生々しい問題だったのだろうと。ザビーナは、統合失調症という診断名だけれど、性的なトラウマの原因追求とそれにより治癒したことから、診断名は今日的には違ったもの?

  『危険なメソッド』というタイトル。ちょっと違和感があったので、原題は何かと最後に目を凝らしていたら、most dangerous methodと出ました。mostがついている!帰って、ネットで見ると『A dangerous method』になっていました。私が見たのは幻?

 精神分析が危険な?メソッドだった時代。今日、精神医学は脳科学の時代。エヴィデンスのある治療法が求められ、精神分析も治療法より人間理解の一つに変わってきている。無意識の発見、抑圧されたトラウマの意識化・言語化による自我への再統合、そのための自由連想法、夢分析の考案、患者・医者関係における転移と逆転移の着目など…転移と逆転移が映画の中で描かれている危険なのかしら。 

  精神分析とユング心理学の創始にまつわる人間模様を描いたストーリだけれど、映画としてはあまり面白くはなかった。当時の女性のファッションはとても好みだけれど。
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