(前回からの続き)
上記のグラフは、2007年7月時点の各通貨建て金価格をそれぞれ100として、同月以降2012年6月までの各月の同金額で買える金の量を%で示したものです(各値は各月の平均為替レートおよび各月の平均金価格で算出)。まさにこの5年間の各通貨を発行する各中央銀行の月次通信簿といったところでしょうか。
これを時系列に沿って見ていくといろいろ興味深いことが分かります。
まずは、アメリカの住宅価格が下落し始めて「サブプライム問題」が深刻化し始めた2007年の夏から1年後の2008年半ばあたりまでは、どの通貨も金に対して一様に減価してきていることが分かります。
そして2008年秋に「リーマン・ショック」が起こると、世界的に金融システムが激しく動揺し、資金繰りの観点から流動性へのニーズ(とくにドルに対するニーズ)が一気に高まったことから、金に対してドルが買われたことでドル建ての金価格が下がりました。そのため、金価格に対してドル、スイスフラン、そして円が上昇しています。とくに円は金価格に対して最も上昇(円建て金価格が下落)し、この時期は主要通貨で唯一、2007年7月の円/金を上回っています。
これに対し、ユーロや英ポンドなどの通貨は、流動性への避難が顕著となったこの時期でも円やドルほどにはマネーを引き寄せることができなかったようで、金価格に対して横ばいか下落となっています(ユーロ建て・ポンド建ての金価格は横ばいから上昇に転じています)。
リーマンショック後の2009年から昨年末くらいまでは、その後の米経済の不透明感や欧州ソブリン不安の高まり、およびこれに対応するかたちで実施されたさまざまな金融緩和策などの影響から金に対するマネーの価値が下がり、すべての通貨に対して金価格がおおむね一貫して上昇してきている様子が窺えます。とくに昨年8~9月ころには金価格が史上最高の1トロイオンス約1900ドルまで上昇しています(つまりドルを筆頭に各通貨の対金価格が大きく下がりました)。
昨年秋~現在(2012年夏)までの期間は、「リスクオフ」の焦点がユーロに集中してきています。つまり欧州PIIGS諸国のソブリン危機がますます深刻化し、ユーロへの信認が揺らぐ中で、ドル、ポンド、そして円がユーロに対して買われています(ユーロがドルや円に対して下落しています)。一方でドルの代替通貨としての色合いを持つ金価格はやや下がって1トロイオンス1500ドル台~1600ドル台と、昨秋の最高値から15%程度低いレベルとなっています。
そのため主要通貨の対金レートは逆に昨秋の水準から少しばかり上がってきています。昨年9月実績から同月金価格に対して一番上昇した通貨は中国人民元で上昇率は約12%でした。次いでドルの約11%、ポンドの約9%などとなっています(円は約7%)。
これらに対してユーロおよびスイスフラン建ての金価格は昨秋とほぼ同じ水準。これは、ユーロについてはこの間に対ドルで減価しているためであり、スイスフランについては、スイス国立銀行(SNB)が同時期に1ユーロ=1.2フランのラインでの無制限のフラン売り為替介入をするとしてきているため、対ユーロのレートが大きく変化しなかったことによるものでしょう。
(続く)