映画：ジンジャーの朝

劇場に見に行きたかったんだけどあまりに公開期間が短くて間に合わなかった。
でもサリー・ポッターにはずれなしだなぁ。
わたしのいつでもベスト10に入る映画→「オルランド」の監督ですが
これも本当に、超ツボな映画でした。
去年見たJ・アイボリーの→「最終目的地」レベルのツボ。
すごい好きです。いい悪いというより、好み！

広島に原爆の落とされた年、同じ病院の隣同士のベッドで生まれた
ジンジャーとローラは、幼なじみで双子のような仲のいい高校生になる。
服もヘアスタイルも同じなんですが、二人の少女の個性が却って際立って
二人が同じタートルネックセーターを着ているシーンなど
それぞれのかわいさに、ほれぼれしてしまう。
大人ぶりたい年頃で、タバコやお酒や男の子なども
一緒に少しずつ経験していくのだけど、
より真面目で内省的なところのあるジンジャーは
キューバ危機で核の脅威に怯え、反核運動に関わりだす。
一方、ジンジャーの父親に興味を持ったローザは・・・というお話。

揺れ動く瑞々しい少女の物語に反核運動はあまりあわない気がして、
ストーリーだけ見ても興味湧かなかったんだけど、
サリー・ポッター信じてよかった、本当に好き。

ジンジャーの父親ローランドは、リベラルな思想家で
娘にもお父さんではなくローランドと名前を呼ばせる奔放な男。
投獄された辛い過去を持ち、
シューベルトを聴くといつもひとり泣く自由な男・・・って、
これはモテそうやなぁと思いました、ハンサムだしね。
ただ、後半に行くにつれ、彼の自分勝手さに評価は別れると思う。
欺瞞を嫌い、孤高の自由を信奉するようなことを言うけど、
要は何一つ、なんの責任も取らないという男です。でもまあ、それで
憎まれることまで全部受け入れるのなら仕方ないかなぁとは思う。
大人同士の関係であればね・・・・。

上のトレーラー動画を見ると、それなりに
いろんな事件が起こっているように見えるけど
実際はそういうイメージより、少女たち二人の印象の方が強いです。
ジンジャー役のエル・ファニングは最高です。
くらくらするほどいい。
ローザ役の子もジェーン・カンピオンの娘ということで、中々いいですが
後半、ジンジャーより先に、少女からただの女になって行く過程で
前髪を切っておろしちゃうんだけど、
そのあとは凡庸でつまらない女にしか見えなくなりました。
少女というものの揺らぎの儚い美しさって
当の本人にはよくわからず、いそいで大人になってしまうものなんだなぁ。

思春期の少女の揺れる輝きを見せるのは、ソフィア・コッポラの
「ヴァージンスーサイズ」や→「SOMEWHERE」を思い出すし、
そっちも好きだけど、わたしはサリー・ポッターの方が好きだなぁ。
好みの問題と思うけど、しっくりくる。
夢の中の世界のように淡すぎず、自分にもあった少女時代の現実と
どこか繋がっている感じがするからかな。
たとえば、写真でいうなら、
ソフトフォーカスききまくりのふわりとした画面をハイキーで、
広角で撮ったようなのがソフィア・コッポラで、
サリー・ポッターは35ミリや50㎜くらいのレンズで
少し彩度高めに濃い陰影があって、でもやわらかくまとまりのいい、
空気に温度の感じられる画面の写真、みたいな感じかなぁ。

そういえば「SOMEWHERE」もエル・ファニングでした。
もうこの子は、ずっと少女でいてほしい。すごいです。
生まれ変わるならモニカ・ベルッチと思ってたけど、
少女の時期にいられるなら、10代のエル・ファニングになって、
あのなにもかも見ているようなきれいなきれいな目で世界を眺めたい。
気難しく口をきゅっと閉じて、ぱちんと音のするような、まばたきをしたい。
あごをあげて生意気な視線をとばしたい。
深く澄んだまん丸な青い目からぽろりと涙を流したい。
そんな風に思ってしまうほど、ひかれます。

音楽の使われ方もいいし、
きれいなシーンも多いので、ぼーっと見られない映画です。
ヨットから水中に手を伸ばして指先をつけるシーンなど
なんでもない描写なのに見入ってしまいます。

あと「おとなのけんか」もそうだけど、これも邦題がいいです。
原題は「ジンジャーとローザ」だけど、ジンジャーの物語りだし
彼女の透明なまなざしと涙の粒には、朝の光が似合う。
ああ、ほめてもほめたりない！