トートバッグ  138

2022-03-02 08:08:16 | 小説

三月に入って、春めいた陽気になって来た。

ドアを開けると、冬子さんと久実さん、それに見慣れぬ客も居た。

マスターが、いらっしゃいと声を掛けた。

久実さんが、渚ちゃんの肩に掛けたトートバッグを見て、「ミーのバッグ可愛いわね。」と、褒めてくれた。

冬子さんも、「ムーミン谷のミーね、渚ちゃんに似合ってるわよ」と、口を揃える。

伊達さんのマンションを訪ねた帰りに、「心配かけたから」と言って星から貰ったものだ。

通勤に使っているお気に入りのトートバッグが、大分色褪せてきて、そろそろ、新しいのを買おうと、思っていた矢先だった。

ただの偶然だったのだろうか?

それとも、傷んだトートバッグを、星は気づいていたのだろうか?

目の前に珈琲が置かれて、はっとする渚ちゃんに、「悩み事?」と、マスターが尋ねた。

「そんなんじゃないんですけど・・・。」

冬子さんが「若い時は、いっぱい悩めば良いのよ、急いで結論を出すことは、ないのよ。」と、意味深な発言をした。

「川沿いの梅、今年は、もう散り始めましたね。」見知らぬ客が、支払いをしながらマスターと、話している。

毎年、この時期に、梅を見に来るのだとか・・・。

 

 


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