県庁より父の遺骨の届きたり戦後七十一年を経て
「お父さんお帰りなさい」届きたる遺骨の箱の白さ目に浸む
11月29日午前11時過ぎ、岡山県庁の白い車が生家の玄関先に着き、職員の方が紫色の箱を抱いて降りて来られました。こんな日が来るなんて夢にも思わなかった嬉しい一瞬でした。家に上がって、仏壇の横の別の机に父母の位牌と共に安置してくださいました。紫色の風呂敷をほどかれた時、中から目に痛いほど白い箱が現れ、私は「お父さんお帰りなさい」と心の中で叫びました。
県庁より父の遺骨の届きたり戦後七十一年を経て
「お父さんお帰りなさい」届きたる遺骨の箱の白さ目に浸む
11月29日午前11時過ぎ、岡山県庁の白い車が生家の玄関先に着き、職員の方が紫色の箱を抱いて降りて来られました。こんな日が来るなんて夢にも思わなかった嬉しい一瞬でした。家に上がって、仏壇の横の別の机に父母の位牌と共に安置してくださいました。紫色の風呂敷をほどかれた時、中から目に痛いほど白い箱が現れ、私は「お父さんお帰りなさい」と心の中で叫びました。
シベリアの父の遺骨の届く日は生家へ向ふ電車の遅し
遺骨還る初冬の空は晴れ渡り嬉しくもあり哀しくもある
古里のセピア色せる山々は父への遠き記憶の如し
71年ぶりに遺骨となって還ってくる父を迎えるために、電車で古里の津山へ向かいました。いつもは岡山から北へ走る津山線を、のんびりしていてこれもいいなと思うのですが、今日の津山線のなんと遅いこと・・・だんだんと山が近づいてくる車窓の風景を心急く思いで眺めました。紅葉の美しいはずの山々は、色褪せて木の葉を落とし初めていました。まるでセピア色した私の父への記憶のようでした。
道の辺に冬陽集めて火の如く最期の命を燃やす鶏頭
道端で目にした鶏頭です。葉は無くて、一瞬火が燃えているのかと思うほど形も色も炎そっくりの鶏頭の花でした。葉が有り、にわとりの鶏冠のような鶏頭はよく見かけますが、葉が無くてこんなにも炎そっくりの鶏頭は初めてでした。折りからの入日をいっぱいに受けた真っ赤な鶏頭は、まるで最期の命を燃やしているようで、その美しさにしばし見惚れてしまいました。
シベリアの遺骨届く日近づきて父好物のたばこ買ひたり
目覚めればまたも一言「お父さんもうすぐ会へるね今朝は雨だよ」
シベリアの父の遺骨が29日に生家に届く予定になっています。勿論朝早く岡山を発って生家に行き、今も健在で居る父の娘三人がそろって生家の玄関に出迎える予定です。その日が明後日と迫って来たのでお供えにと父の大好物と聞いている「たばこ」を買ってきました。最近目覚めると「お父さんもうすぐ会えるね・・・・・」等と話しかけてします。昨日は「青い空だよ」と言ったのに今日は「雨だよ」でした。
歯科医院の帰りの道に出会ひたる木の花なんと十月桜
薄紅の十月桜青空の海に珊瑚の如く耀ふ
一枝の薄紅の小花引き寄せて見れば愛しき十月桜
昨日の歯科医院の帰りに、いつもと違う川土手を歩いて帰っていると、満開に咲いている木に出会いました。何だろうと近寄ってみると何とそれは桜の花でした。先日津山に行った時、山の中で見た四季桜とは少し違って花びらの数が多く、少しピンクがかっていました。家に帰って調べてみると、冬に咲く八重の桜は十月桜と知りました。冬晴れの青空い咲いている十月桜は、まるで海の中に薄紅に光る珊瑚のように見えました。
やうやくに前歯の差し歯完成す一本八万六千円也
作られし歯なれど生きた色をしてわれの歯間にぴたりとはまる
高い安いは考えやうで気にしない高い差し歯と言ふ人あるも
不注意で前歯を折ってしまってから二か月余りかかってやっと差し歯が完成です。何度も通院し、その間は仮の歯(写真左、右は折れた歯)を入れたりはずしたりだったのですが、やっと本物の差し歯が入りました。さすが本物の差し歯はすごいです。色にしても仮の歯は白でしたが、まるで生きているかのような色で、さらに歯の形や大きさも1ミクロンの違いもなくぴたりとはまっています。これで完全に元通りです。でも保険適用外のものにしたので1本で86,400円。「高価ね」と言う人もいますが、この先の長い私の人生(?)に毎日使うのだから安いものではないかと思っています。
独り居を友とし敵とし三十年きれぎれ思ふわれの愛しさ
夕日を見ながらふと思いました。「私の人生は独りで暮らすことのなんと多かったことか」と。考えてみれば、一人しか居ない子どもを大学に出して以来の独り暮らしなので、もう30年くらいになりそうです。自由気ままでいいと思ったり、たまらなく淋しくなったり、時には重大な事件も独りでかたづけたり・・・いろいろあったけれどここまでよく頑張ってきたと、自分で自分をちょっと愛おしく思えた夕暮れでした。
葉を落とし霜枯れてなほ山蔭に彩を残して散らぬ紫陽花
重松清さんの小説の中に「初恋は何年たっても心の中に残っている。冬になって花が枯れても散ることの無い紫陽花は初恋の花だ」といった意味の文章があります。色褪せて枯れたままの花を付けている冬の紫陽花を見るたびに、ほんとにそうだと思います。ところが今回見た山蔭の紫陽花は、葉を落とし茎も枯れているのに、未だ淡いピンクの花を残していました。いつまでも色褪せないこんな初恋もあるのでしょうね。
文化展の石に描きし作品は個性あふれて楽しかりけり
だるま亀うさぎふくろう柿いちご見方で石は何にでも見ゆ
毎年行われている公民館の文化展には、たくさんのクラブが日頃の成果を発表して作品を展示します。今年の作品もすばらしいものがたくさんありましたが、写真の石の芸術(石に絵を描いたもの)が印象に残りました。なんと素朴で微笑ましいこと・・・、これを60歳や70歳代の方が描かれたのかと思うとその想像力に感心しました。いっぱい作ってやれば、これはよいひ孫へのプレゼントになるのではないでしょうか?
戴きし数多の柚子がはつ冬の日差しに融けて黄に匂ひ立つ
柚子の香に幼き日々の返り来る採りて食みたる酸っぱいおやつ
今年も地域の文化展に仲間達と茶席を設けましたので、知り合いの人にお茶席券を差し上げました。ところが2,3日してお礼にと沢山の柚子を戴きました。柚子と言えば、何といっても香りで、いま心地よい懐かしい香りが部屋いっぱいに立ち込めています。柚子と言えば大きな木が生家の庭にあり、お腹をすかせていた子どもの頃には、この酸っぱい実さえもおやつになったことを懐かしく思い出します。