池井戸 潤/講談社文庫
2001年6月15日初版、2017年10月2日第58刷。著者は三菱東京銀行の法人向け融資担当だったという経歴の持主、「邪悪と正義が果つる底なき魂の深潤で対峙する」銀行の世界をいかんなくリアルに描写する。「形もなく、概念もないもの、あるのはただ醜い思念のみ」と。しかし、「この世の中で生きていくことの醜さ、虚しさが漂流するだけ」のように見えても、そんな中にも光は射すものだ。
良いことにも悪い事にも使われるのが「カネ」。「カネ」によって人は生き、死ぬこともある。庶民の味方、日常生活の潤滑油でもありながら、強大で暴力的でもある両刃の剣だ。こと「カネ」に関して、キレイなイメージよりも汚れたイメージが強い。ましてや「カネ貸し」ともなれば尚更である。面白くない訳がない。警察小説とよく似ており、銀行の「調査」は警察の「捜査」である。銀行特有の職制や日常業務はあるけれど、内部の不正や告発という意味でもよく似ていると思う。
この作品で最も面白いところは、やはり主人公(伊木 遥)が疑問を抱き、少しずつそれを解明していくところだろう。そこには出世欲があり、買収があり、悪意があり、だましだまされるものが居る。この混沌としている中で人のエゴがむき出しになる。しかし、そんな索漠とした中にも、それだけではない信じることの温もり、守ることの温かさが全体を支えている。
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自分も「果つる底なき」読みましたよ。
構成や人物の造形が素晴らしかったです。
特に伊木と坂本には好感が持てましたよ。
銀行モノは他にも読みましたが、警察モノと並んで、面白いものがありますね。たぶん人間の悲哀が象徴的に表れる世界なのだと思います。
人間の悲哀が象徴的に表れる世界というのもわかります。