つむじ風

世の中のこと、あれこれ。
見たこと、聞いたこと、思ったこと。

日永 康 信仰文集

2020年08月19日 14時23分44秒 | Review

―復活の希望に生きて―

日永 康 /日永聖書集会編

 2020年6月初版。キリスト教には多くの諸派があり、その核心がどこにあるのか定かではない。教義の元となるのも新約、旧約、その他、何かとあるらしい。そんな中で異彩を放つのが「無教会主義」である。祖は「内村鑑三」である。内村は無教会主義の教祖とでも言うべき存在である。
 もともと無教会は聖書を由一の拠り所とし、聖書の下に平等な平信徒の集団であるから、教祖などと言ったら叱られるかもしれない。著者日永 康さんは、その内村鑑三の孫にあたる方だが、2019年10月に亡くなった。本書は日永さんがあちこちで行った講話をまとめたものである。

 そもそも無教会はその主義から言って「聖書研究会」のような組織に見える。階級的な組織がないものだから、その辺は運営がなかなか難しいらしい。「聖書の言葉をいかに汲み取るか」ということを研究し、発表する他に、自らの体験の中に聖書の教えを見出すこともしているらしい。

・新しい創造
・内村鑑三におけるもう一つの無
 無抵抗主義、非戦論との関係、個人の立場、国家の立場
・和解のすすめ―ピレモンの手紙―
 主人と奴隷の関係、賠償の問題、敵対の関係、和解への仲介
・基督信徒・内村鑑三
 その出自と生涯、「心の法則」「罪の法則」、「罪人の首」
 強烈な二律背反の罪の意識、そして福音
・無教会の原点
 「最後の審判」と「終末論」「キリスト再臨」
 「備える人」・・裁かれることを自覚して務めて謙虚に
 「備えの無い人」・・しばしば傲慢で人を裁くことを喜ぶ
・神の子たるキリスト者
 神の子とキリスト教道徳
・キリストの復活と信者の復活
 復活、再臨、昇天
 無教会主義:信仰義認論

 私自身は何の宗派にも属さず、信仰には全く縁のない人間だが、指摘の中には全く反論の余地がないものもある。もっともだと思うところもある。
 「和解のすすめ」では、日本と韓国の関係を想像した。もしかしたらパウロの立場はアメリカかもしれないが、それは高望みというものだろうか。現在のアメリカはそんな余裕はなく、逆に完全に「自己中心主義」に陥っている。かと言って、中国やロシアがその役に適するとはとても思えない。(人と神との間の平和は仲介者キリストがもたらしたものであって)人は何もしていない(出来ていない)。神の側から発せられた一方的かつ無条件の和解だ、という。パウロのような仲介者が居なければ、和解は永遠に望めないということか。
 また「人の義とされるのは(法律の行いによるものでなく)信仰による」ものだと言われれば、現実を見て、確かにそうかもしれないと思う。人は未だに普遍的な倫理の確立に至っていない。例え「終末」において、「ヤギの群れ」に選別されたとしても、人の倫理概念が信仰に依らねばならないというのは悲しいことだと思う。「キリスト・イエスを信じる信仰」であり、「キリストあっての信仰」だからというのだが。



 


産霊山秘録

2020年08月15日 10時13分58秒 | Review

半村 良/集英社文庫

 2005年11月25日初版。著者の作品は初めて読む。有名な方だから知らないという訳ではなかったが、今まで作品にお目に掛かる機会がなかった。読み始めて歴史小説なんだと理解したが、24pにいきなり「超集積回路」が出て来る。これは何かの冗談かと思いながらも先を読んでいくと、どうやら本気で歴史小説の中に取り込んでいるらしい。しかし、永禄(1558~)から昭和(1926~)まで、そのスケールの何と壮大な事。そして歴史の史実とされていること、或いは謎とされていることに対する創造的な視点からの分析、考察がとても面白い。「なるほどそんな視点もあったか」である。特に光秀が本能寺の信長を襲った理由については、妙に納得してしまった。

 しかし、アポロ11号が前人未踏の月に到達したとき、既に猿飛の朽ちた骨があったというのには笑える。191p日光の産霊山から、月に向かって光の矢が・・・というのは単なる幽玄なイメージかと思っていたが、こんな落ちがあるとは。

 「ヒ」については多少異なるものの「日本の歴史をよみなおす/網野善彦」で、その存在、果たしてきた役割が説明されている。それをフィクションとしてどこまで、どのように取り込むか、ここは作家の腕次第ということになるだろうか。しかし、神代の時代はともかく、近代においても本当に奇怪なことはあるものだ。

 〇344p「二千年の皇統を誇っても、万民のために何もせぬのでは、ただの無駄飯喰らいだ」と竜馬に言わせるのだが、更に100年以上経ても未だに一歩も先へ進んでいない。

 〇先の大戦(第二次世界大戦)については、天皇も、軍幹部も政治家も含めて、誰一人としてその責任を取らなかった。50万人の軍人、他250万人の民間人を死の淵に引きずり込んだにも関わらず。

 〇東京大空襲(都民10万人を焼き殺した)を指揮した米軍カーチス・E・ルメイに勲一等旭日大綬章という勲章を与えるという奇妙な政治判断。

 〇原爆を落とされながら、唯一の被爆国でありながら、未だ核兵器禁止条約に批准しない国であることの矛盾など。

 先頃、ローマ教皇は「ゾンビの国」と言ったが、まったく不思議の国ジパングである。
 解説は今野 敏さんだが、この手の作品は伝記小説ではなく「伝奇小説」というらしい。科学と批評、ロマンに溢れたなかなか楽しい作品だった。