つむじ風

世の中のこと、あれこれ。
見たこと、聞いたこと、思ったこと。

百舌の叫ぶ夜

2016年03月28日 10時54分49秒 | Review

逢坂 剛/集英社文庫

 1990年7月25日初版、2014年4月30日の改定新版で第四刷。著者の作品は初めてお目にかかるがミステリー&サスペンスの世界では超ベテラン。この作品も「百舌シリーズ」或いは「公安警察シリーズ」という作品群の中にある。他にも多くのシリーズものがあり、読み応えのあるような作品が並ぶ。著者は東京出身ということもあってか、通常は東京が作品の舞台背景に使われるが、中には何故か西部劇やスペインを舞台にしたものもある。

 この作品は思想的、政治的、社会的範疇外の純粋なミステリー&サスペンス。ミステリー&サスペンスを愛して止まない、そんな感じのする作品だった。ミステリー&サスペンスのファンにとってはたまらない作品なのではないだろうか。ミステリー&サスペンスとはこういうモノだよ、と言っているような気概の感じる作品だった。新谷和彦の妹と目された人物が、実は弟だったというトリックはなかなか良く出来ている。そして、この事件を捜査している側に居るはずの警視庁公安部長の室井 玄が、実は影の首謀者だったという思い切った筋書きは、なかなか見かけない。お堅いはずの警察組織も著者の小説にあっては単なる舞台装置になってしまが、それでリアリティが損なうことはない。

 メスを握り締めて現れる新谷宏美もそうだが、警視庁公安の特務一課、木倉尚武警部もなかなか不気味な存在だ。木倉尚武警部はシリーズの中心人物らしいが、結局、命懸けでやって来るものほど怖いものはないことを、実にうまく表現しているのではなかろうか。


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邀撃捜査

2016年03月21日 12時01分47秒 | Review

―内調特命班―
今野 敏/徳間文庫

 2009年5月15日初版。話しは成田空港から始まる。何の話が始まるかと思っていると、突然霞ヶ関の総理府庁舎・内閣調査室、内閣情報調査室長の石倉良一、次長の陣内平吉、危機管理対策室長の下条泰彦なる人物が出てくる。かと思えば某大学の石坂研究室で犬神伝説、隼人族、その末裔の話が・・・。最初の成田の話は何なんだ。といった按配で、読者は物語に引き込まれる前に、状況把握に焦ってしまう。

 著者の作品は「義闘」「山嵐」「欠落」に次ぐ4冊目。今回は得意の警察はお出ましにならない。これもまた相当の飛躍だが、警察組織を飛び越えて、いきなり官邸直属の組織から研究室の秋山にお声が掛る。さらに、沖縄古流武術を身につけたという屋部長篤なる人物が登場する。まるで忽然と現代に蘇る浦島太郎のようなものだが、その他、中国武術の達人陳 果永も。

 送り込まれた三人のテロリストとの対決は、著者の得意なところ、時代小説で言えば迫力満点の「殺陣」の場面だ。それぞれの力を終結し、テロリストに立ち向かい勝利を収めた武術の達人達は、再びそれぞれの人生をゆく。これが今野流「侵略に対する民族学的解決法」らしい。

 作品に秋山の助手として「熱田 澪」が出てくる。どんな活躍があるのかと思って注目していたが、「犬神伝説、隼人族、その末裔」に関わりながら、ほとんど活躍なし。もう少し出番が欲しかった。


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恵比寿屋喜兵衛手控え

2016年03月20日 18時15分42秒 | Review

佐藤雅美/講談社文庫

 1996年9月15日初版。110回の直木賞受賞作ということで、確かに読み応えのある2冊分の401page本。主人公は公事宿を営む恵比寿屋喜兵衛。訴訟事で江戸へ上って来る人々の宿を提供し、ついでに相談事にも乗ってやる今で言う司法書士か弁護士を兼ねるという商売。しかし、最初に江戸時代にこんな公事宿などというものが本当にあったのだろうかと思うが、どうやら丸きりの架空の産物でもないらしい。更にこの時代、喜兵衛のような相談役が居たこと自体がちょっとした驚きでもあった。

 それはともかく、喜兵衛の所に持ち込まれたある案件が話しのタネで、この1件で1冊を賄う。だから、ちょっとダラダラした感じはないでもない。そもそも喜兵衛はヒーローではない。猜疑心旺盛で、心配性であり、小心者でもあるが、そのくせに息子を殴ってみたり、内緒で妾を作ってみたりする。しかしその分、洞察力と想像力は鋭く、時に喜兵衛自身が驚くくらい大胆なこともやってしまう。そして、人の行動心理を読むことには長けているらしい。

 喜兵衛が扱った相談事の控えということになるが、その間にもプライベートな問題もいろいろとある。なかなか人生一筋縄では行かない。それを丹念に物語にしたのがこの小説。面白さという点で見ると、話しのカラクリよりも、やはり主人公「喜兵衛の人間味」というところではなかろうか。



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がんこ長屋

2016年03月19日 11時27分00秒 | Review

 ―人情時代小説傑作選―
縄田一男編/新潮文庫

 2013年10月1日初版。アンソロジーというのは、摘み食いというか、良いとこ取りというか、著者が立派なだけにいつも申し訳なく思う。集録作品がすばらしいほど、なお更そんなふうに思ってしまう。編者の縄田さんは、どんなこだわりでこの編集を?と思う方は是非解説を読んでみると納得できると思うが、意外に遊び心のあるこだわりの選択であった。ちなみに、「がんこ長屋」は職人がテーマで、その職業は下記の通り。

池波正太郎 蕎麦切り職人(お園)

乙川優三郎 焼物職人(戸田新次郎)

五味康祐  火術師(西沢勘兵衛)

宇江佐真理 下駄職人(巳之吉)

山本周五郎 草履職人(宗方伝三郎)

柴田錬三郎 刀鍛冶(逸見大吉)

 別に、それぞれの職の詳細を説明している訳ではない。その職業を脇役にした小説といったところの意味合いである。それぞれの著者は、こんな風にアンソロジーになるとは思わなかっただろうから、職人を描くという意識はかなり薄かったと思うが、そこは編者のこだわりというものである。

 短編であっても、結構なインパクトで面白い。「摘み食い」は否めないが、多くの作家を紹介するという意味では手っ取り早く、好みのモノが見つかりやすいのかもしれない。これを手掛かりにその著者の作品を深堀するというのも悪くはない。そうなれば、編者の思う壺なのかもしれないが。


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