つむじ風

世の中のこと、あれこれ。
見たこと、聞いたこと、思ったこと。

浅見光彦 新たな事件

2019年12月14日 10時02分28秒 | Review

―天河・琵琶湖・善光寺紀行―
内田康夫/集英社文庫

 2005年5月25日初版。元々「旅と歴史」ミステリーなのだが、浅見光彦の足跡をたどるミステリー・ツアーなるシリーズ愛読者の集う会を催しているようで、この文庫では以下5か所が紹介されている。

青の追憶(琵琶湖周辺)
天上の桜人(天河神社、箸墓古墳)
江戸川邸(軽井沢・クラブハウス)
松代・小布施・渋温泉(長野・善光寺)
名探偵 浅見光彦の住む街(東京都北区)

 推理ゲームや景品も用意するという念の入れようだ。著者自身も参加する。美味な食事と豪華なホテルを利用する至れり尽くせりのツアーである。確かに読者にとっては楽しい旅に違いない。まさに「読んで楽しく訪ねて楽しい」二度美味しい作品ということになる。

 「新たな事件」というから何かと思ったのだが、「浅見光彦・紀行」であった。カラー、モノクロの写真を多用し、イラストも豊富に入れて、旅に参加しなくても、作品を懐かしく思い出しながら読んだ。「旅のガイド」とはまた別の面白さがあり、こんな観光開発もあるのかと感心する。何と言っても数十人から数百人の規模なのだから、結構なイベントである。ミステリーがこんな形で、人々を更に楽しませてくれるなんていかにも内田さんの作品らしい。




軽井沢通信

2019年12月04日 12時59分02秒 | Review

―浅見光彦からの手紙―
内田康夫/角川文庫

 1998年11月25日初版。シリーズNo.69。1993年から約2年の間の著者と浅見光彦の往復書簡をまとめたようなスタイルの作品。とにかく「いかにもそれらしく」よく書いたものだと感心する。
 この間に二人の前に起きた諸々の事件などを織り交ぜてやり取りが続くわけだが、中でも「K事件」というものがあり、協力支援を要請された浅見だったが、この書簡では残念ながら遂に解決を見なかった。「K事件」とは、千葉県市原市で起きた「川嶋事件」という名前で知られている現物で、フィクションではない。冤罪事件は数々あるが、その中の1つと思われる。

 ともかく、何でもかでも解決できるという方がおかしいのだが、「現実は小説より奇なり」である。この作品は主として著者の作家活動を面白おかしく語ったものと言える。やはり、作家をやるような人は相当な情熱、エネルギーの持主なのだということを再認識し、且つ納得した次第である。
 作品の中でも多くみられることだが、宗教や政治、あるいは思想といったものには相当懐疑的で、用心深く、自分の立ち位置を外さない人だというのがよく解かる。従って作家がネタ切れになってよく採用する「伝記モノ」等もありそうだが知る限り一つも書いていない。人には常に表と裏、光と影があり、光の部分だけを針小棒大に書くなどということはとてもできなかったからだろうと想像する。思うよりはるかに市井の人々に徹するという事なのかもしれない。