つむじ風

世の中のこと、あれこれ。
見たこと、聞いたこと、思ったこと。

夜は短し歩けよ乙女

2018年10月28日 13時31分49秒 | Review

森見登美彦/角川文庫

 2008年12月25日初版、2012年4月15日第23刷。「私」ということで、主人公が彼と彼女の二人。どちらかというと彼が主人公なのだが彼女も負けてはいない。モンモンとする青春の日々を街の喧騒や古本市、学園祭、火鍋、李白風邪を通して切々と描いたものである。ともすれば大正末期、或いは昭和初期の時代背景かと思うようなところもあるが、ものは考えよう、これは著者のテレであろう。

 前作では「成就した恋ほど語るに値しないものはない」などと言っていたが、ここまで書けば立派に嬉し恥ずかし青春ドラマではないかと思う。男と女の思考の違い、認識の違いを丁寧に手に取るように描いている。本作ではどこにも書かれていないように思うが、彼は著者であり、彼女は明石さんであろう。その他の登場人物は新人も居れば常連も居る。しかし、365p竹久夢二の詩は良かった。あまりピッタリはまっているので、思わず二度三度と繰り返し読んでしまった。

 私小説とはいえ創作部分はそれなりにあると思うが、私小説であるが故にネタはいずれ尽きてくる。(今回の作品ではさすがに例のコピペは使っていないが)その時、モノ書きとしての本領が試されるのではないだろうか。



四畳半神話大系

2018年10月18日 13時11分41秒 | Review

森見登美彦/角川文庫

 2008年3月25日初版。2010年4月5日第10刷。前作「太陽の塔」の続編のような、前回書き損ねた分を改めて追加したような、書き足りなかった分を書き尽くすべく書いたような青春煩悩小説。凡そ登場人物は同じで、四つの話しが、同じ時系列で並行して語られる屁理屈な話し。

 ガラスのショーケースにマトリョーシカを入れて、それを前後左右(周囲四面)から眺めるような話しで、これを屁理屈と言わず何といえばいいか判らない。解説人は「構成に工夫が・・」とか言うが、さほど面白いとは思わなかった。この構成を採用するなら精々相対的な二つに絞るべきであろう。
そして、肝心なところでのコピペは腹が立つ。397pという大作でありながら、実はコピペで大幅にかさ上げしているだけ、つまらん。読者の立場からすれば、コピペを買う気にはなれんのだよ。

 それにしても「八十日間四畳半一周」は何だったのか。人を愚弄するにもほどがある、まったく。でも、「魚肉ハンバーグ」と「猫ラーメン」は試食してみたい。
 著者は料理に憧憬が深いかどうかは判らない。「魚肉ハンバーグ」や「猫ラーメン」はいつものことだが、この作品には特に「暗鍋」というものが登場する。実は、次の作品「夜は短し歩けよ乙女」では「火鍋」というものが登場する。著者は潜在的にこの手のナベが好きなようで、その話の作り、人物描写が実に面白い。熱の入れようも半端でなく、まったく真に迫るものがある。
 もう一つ、ここまで書いて話のスタイルが全くブレない。もともと「阿保らしい」話なのだからブレるとほとんど雑文になってしまう。しかしブレないことで「阿保らしい」話を最初から最後までキッチリと同じ基準で維持し仕上げている。この辺が次の作品に期待できるところだと思う。
いや、偉そうでスイマセン。


太陽の塔

2018年10月13日 23時31分49秒 | Review

森見登美彦/新潮文庫

 2006年6月1日初版、2008年6月15日13刷。こんな小説在りか、あほらしい。でも確かに笑える。つまりは、水尾さんという女子学生に振られた顛末を書いた私小説。あまり真面目に書くと面白くないので、その頃の学生生活を思い出しながら、ノスタルジックにせつなく苦笑いしながら、少しはバンカラに書いてみたというもの。しかし、その空元気、豪気な言葉とは裏腹に、周囲の期待、自分へのプレッシャー、孤独感、先の見えない未来が迫って来る。
ともあれ、四人組であったことはどんなにか心強いことであっただろう。例え互いに助け合うなどという関係ではなかったとしても。

しかし、京都というのはどうして人間をこのようにしてしまうのだろう。こうも赤裸々で妄想豊かな人間を作り出してしまうのだろうか。やはり、千年の歴史の重みだろうか。それとも神社仏閣に住み着いた怨念でもあるのだろうか。学生が京都で暮らすと、どうも同じような空気に染まるようで、万城目 学の「鴨川ホルモー」を思い出す。

 「父母の心労と悲しみを思い、毅然と前を向こうとしても、徐々に前傾姿勢になる」という純粋で生真面目な主人公だからこそ「ソーラー招き猫事件」は笑えた。
 あくまで純粋で客観的な著者の恋愛観
「恋愛というものは始めからどこか歪んでいる。にもかかわらず、恋愛はあくまでも背徳の喜び、人目を避けて味わうべき禁断の果実」故に「生きよ(けれども少しは)恥じよ」なんだね。



億男

2018年10月05日 14時39分03秒 | Review

川村元気/文春文庫

 2018年3月10日初版。著者には初めてお目にかかる。著者名、お題、何ともマンガチックな雰囲気で、とてもマジな話しとは思えなかったが、読んでみると意外にも、為になり、感心し、納得し、反省してしまうというものであった。世界中のカネにまつわる名言、真言、金言を引き合いに出しながらカネの本質に迫る。実用ビジネス本の背景にある哲学的な本質部分を追求する旅であった。

 主人公「大倉一男」がその本質「お金と幸せの答え」を求めて旅する。親友「九十九」が用意した三つの説明。最後の最後たどり着いたのはチャップリンの名言「人生に必要なもの、勇気と想像力とほんの少しのお金」、実体はないけれども「信用(信じること)」で生まれる価値、信じる勇気とその先にある想像力こそ、人生そのものだと思わせる。「人生を楽しむ」もまた「おのれの想像力を信じる勇気」で実現可能な人に与えられた素晴らしい特質のひとつなのかもしれない。

 生きていくことは美しく、すばらしい。戦おう、人生そのもののために。生き、苦しみ、楽しむんだ。
 「お金と幸せの答え」ははじめから在る。旅をするのは、旅の最初に立ち戻ること。