非国民通信

ノーモア・コイズミ

しめ鯖ごときで……

2008-08-07 23:02:09 | ニュース

【Re:社会部】出なかった「しめ鯖」(産経新聞)

 全国の漁船操業者が7月15日、一斉に休漁しました。漁船の燃料費が高騰しているため、政府に燃料費補填を求め漁業ストライキをしたわけです。一時期は、魚が食べられなくなるのではと心配されましたが、卸業者やスーパーが事前に魚を買いだめしていたおかげで、そういうことにはなりませんでした。

 「いやあ、良かった」と安堵し、休漁の翌日、友人を誘って居酒屋で一献傾けました。友人がしめ鯖を注文すると、店の主人は「きょうはしめ鯖ないんだよ。みんな漁に出てないから」。

 そんなはずはない。こちらは朝から東京・築地の市場に取材に行って、魚が出回っているのを見ているのです。仕入れを怠った言い訳かと邪推し、「市場には事前に取った魚が出回っているみたいですけど」と嫌みを言うと、主人にこう言い返されました。

 「しめ鯖にするサバは、生きがいいのじゃないとダメなんで」

 政府は7月28日、燃料費補填に応じることを決めました。当初は「漁業だけ優遇できない」という姿勢でしたが、選挙で漁業団体の集票力に頼る与党の声に押され、方針を変えました。ストで私たち消費者が被った迷惑は、しめ鯖をあきらめる程度のことでしたが、漁船操業者にとっては、十分成果があったようです。

 お盆休みを目前にしつつも疲れ気味で頭の回らない非国民通信です。そんなときはツッコミの入れやすい記事を、と言うことで産経新聞の出番、今日のチョイスはこれです。なんだかJ-CAST辺りを彷彿とさせる素人っぽい文体の記事ですが、産経新聞の中では違和感はないのでしょうかね?

 さて、漁船操業者のストライキが背景にあるわけですが、それに対する見方が至って典型的と言うべきでしょうか。この記者は「魚が食べられなくなるのではと心配」したものの、「卸業者やスーパーが事前に魚を買いだめしていたおかげで」助かったと、まずはそう述べているわけです。ここで漁船操業者は、「魚を食べたい」という消費者にとって不安要因=悪玉であり、一方で流通関係者は消費者にとっての危機回避のために力を尽くした善玉として扱われている、労働争議を部外者が評する際の定番とも言うべき図式です。

 結局のところ、労働者の利益と顧客の利益を対立するものと考える、自身の権利を訴える労働者を消費者の敵として扱う、「お客様のため」を口実にして労働者を抑えつけることが常態化している、消費者のために労働者は自らを犠牲にして堪えるべきだと当たり前のように信じられているわけです。漁業関係者が赤字で廃業する心配よりも、しめ鯖が食べられなくなる方が心配、いついかなる時も消費者が神様であり、労働者の便宜よりも常に優先されていなければならない、僅かなりとも消費者の利益を損ねるような労働運動は社会の敵だと、そういう意識が見え隠れしています。

参考、
ゴスロリ愛好者は骨がある?

 視点を消費者サイドに限定すること(顧客にとっての利便性だけを基準にすること)で、労働者側の視点を葬るばかりか、それを社会の敵として描き出す「慣例」については上記リンク先などをお読みいただくとして、引用記事にはもう一つツッコミたいところがあります。しめ鯖が出てこなかっただけで「仕入れを怠った言い訳かと邪推」する人間の小ささなど色々とあるわけですが、中でも注目に値するのは「選挙で漁業団体の集票力に頼る与党の声に押され、方針を変えました」という件です。え、そうだったの?

 ここで産経記者は「ゴネ得を許すな」とばかりにスト参加者の勝利を呪っている、労働者側の要求が通らないことを願っていたと推測されるわけですが、残念ながらそうはならなかったわけです。なぜ労働者の要求が認められてしまったかというと、この産経記者の断言するところでは「選挙で漁業団体の集票力に頼る与党」のせいだそうで。産経新聞なら普段は野党を優先的に非難するわけですが、ここでは与党が槍玉に上げられています、なぜ?

 その辺は産経新聞読者や政府与党の支持者が、与党に何を期待しているかに拠るのでしょう。「古い自民党」は特定の業界や一次産業との互恵関係が柱でした。支持層に便宜を図ることで票を集める、ギブアンドテイクの関係であり、その互恵関係の輪の中にいるかどうか、そこが分かれ目でもありました。それが完全に反転・暗転したのが小泉以降の自民党、急速に若い世代の支持を集めていった「新しい自民党」です。この新しい自民党は古い自民党に対する反動勢力であり、かつてのような互恵関係を悪とする人の支持を集めてきました。

 そこで「古い自民党」への後戻りを警戒している「新しい自民党」の信者達にとって最も許し難いのは「古い自民党的なるもの=特定業界との互恵関係」です。たとえば漁業関係者に便宜を図り、その支持を取り付けるような手口を嫌うわけですね。彼らのアイドルである小泉によって「カイカク」されたのに、その後継者後戻りしようとしている、そんな妄想に浸りがちな人からすれば一大事なのでしょう。

 むしろ古い自民党の後継者に近い民主党や、労働者保護を優先したい左派政党も、程度の差はあれ漁業関係者への助成には大筋で賛成していたはずです。しかるに産経新聞が真っ先に槍玉に上げたのは政府与党でした。産経新聞としては政府与党が漁業関係者や野党の声を「毅然として」はねのけることを期待していた、その期待が福田内閣によって裏切られた、そんな「新しい自民党」支持層の失望感がここに漂っているように感じられます。

 

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7 コメント

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Unknown (北海のヒグマ)
2008-08-08 00:20:36
 北海道では産経新聞を購読する事が事実上不可能で、ネットか非国民通信さんが取り上げていただくことでしか読む事ができないのですが、記者はまぁ許すとして、編集主幹がこのような記事を掲載していいと許可を出すレベルがわかりません。
 しかし農業にしても漁業にしても、まず初めに国による補助を求めようとするその頭の構造が理解できません。食は大切なものではありますが、『大切だから補助』と言う前に、これだけの努力をしたという事を示してからにして欲しものです。燃料費高騰は短期間に起きた事であるものの、このネット時代にそれなりの学習は可能でしょうし、燃料費上昇分を吸収できない過去からの経営が向上心のない甘いものだったと反省の材料にして欲しいものです。
 農業も漁業も、技術的な事はそれなりに学習をするのでしょうが、経営に無知で無関心だった不勉強の結果なのだと思い知るべきです。でもその学習能力がないところが、第1次産業の現状を現しているわけですが。
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モンスター記者 (リル)
2008-08-08 03:21:58
  新鮮なさばを料理してくれるお店にわざわざ休漁の翌日に行って、しめさばがないと文句を言うモンスター客のお話ですよね。
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Unknown (GX)
2008-08-08 16:09:00
 しめに「私たちが被った迷惑は・・・」と書いているあたりも悪質ですね。明らかに「ストライキは迷惑行為だ」と言ってますよ。まあ、非国民さんのおっしゃるとおりの考え方が横行してますので「当然の考え」なのでしょうけど。

 しかし、この記事を書いた記者といい、「ゴネ得」と批難する人たちといい、「仕事」をしているのであれば自分は「消費者」であると同時に「生産者」でもあるはずなのですがね。少なくとも記者は新聞の記事を作るという生産者であり、漁師の皆さんと同じような立場のはずなのですが、自分の権利が脅かされそうになってストライキを起こした時「ゴネ得」呼ばわりされてもかまわないか、そもそもストライキを起こさずに耐えることこそ立派とでも思っていらっしゃるのでしょうか。自分も(仕事をしているのなら)「消費者」であると同時に「生産者」でもあるはずが、それを忘れて「消費者」として偉そうに批難する人が多すぎるような気がします。次は自分が「生産者」としての批難を受ける番かもしれませんのに・・・。
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深いなぁ…。 (アダモ)
2008-08-08 22:44:36
拝啓、非国民通信管理人様。いつも、私の拙いコメントにも手稲にお答え頂きまことに感謝しています。

>産経新聞としては政府与党が漁業関係者や野党の声を「毅然として」はねのけることを期待していた、その期待が福田内閣によって裏切られた、そんな「新しい自民党」支持層の失望感がここに漂っているように感じられます。

う~む。相変わらず深い洞察ですね。私にはここまで深い洞察は到底無理です。

それにしても、このエントリーのタイトルどおり、「しめ鯖ごとき」で「漁業関係者のスト=悪」に結び付けられる産経の思考回路にはあらゆる意味で感心させられます。別に一度くらいしめ鯖にありつけなかったくらいで死ぬわけでもないでしょうに。

産経新聞はお(嘲)笑い路線を目指してるのでしょうかねぇ。
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Unknown (非国民通信管理人)
2008-08-08 23:39:28
>北海のヒグマさん

 政府与党が「国際貢献」と言った場合に「国際」には日米同盟しか含まれていないように、自称全国紙の産経新聞が言う「全国」には東京と大阪周辺しか含まれていないのでしょう。敢えて産経新聞を読むなら黙然日記さん(http://d.hatena.ne.jp/pr3/)もおもしろいかもしれません。かくいう私も、「ツッコミやすいから」という理由で他紙よりも産経新聞を重用しておりますが。

 一方で漁業者側にも問題アリですか、そうですねぇ、例えば燃料サーチャージじゃありませんが、コストの高騰を転嫁できるような仕組み、力関係の構築をもっと前の段階から進めていれば急な対応の必要はなかったでしょうか。でも一次産業には内からも外からも、経営的な取り組みを好まない雰囲気があるように感じますし……

>リルさん

 そうですねぇ、同じ店に面識のない産経新聞記者が居合わせていたのなら、いまごろモンスター客に憤る記事が紙面を飾っていたかも知れません。

>GXさん

 多少の例外はあるにせよ、消費者だって場所と時間が変われば労働者、どちらも人としては同一なのですよね。それなのに消費者のためと称して労働者、生産者側が忍従を強いられる、そこに疑問を持たない…… 産経新聞社員にしたところで労働者としては割を食っているはずですが、果たしてその自覚があるのやら。退職勧告でもされてようやく気付くのでしょうかね。

>アダモさん

 まぁ、今回はちょっと邪推に走りすぎたところもありますが、そう外してもいないと思います。しめ鯖一つで迷惑云々と紙面にまで書いてしまう、労働側の要求が通ったことへの怒りも隠せない、私達からしてみればお笑いでもありますが、う~ん、産経新聞社内及び愛読者にしてみれば、誇らしいことを言っているつもりなのかも知れません。
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となると、産経やその読者は天然? (アダモ)
2008-08-08 23:51:16
拝啓、非国民通信管理人様。繰り返しのコメント失礼します。

>産経新聞社内及び愛読者にしてみれば、誇らしいことを言っているつもりなのかも知れません。

ま、確かに産経は「一応」全国紙ですから、書いてる側や読者はそれなりに「真剣」なのかもしれません。

しかし、思わず突っ込みたくなる記事を大真面目に書いたり、多数の読者がその記事に大真面目に同調しているであろう辺りに「天然」の匂いを感じてしまうのは私だけでしょうか?
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Unknown (非国民通信管理人)
2008-08-09 14:16:22
>アダモさん

 まぁ天然と言えば天然と言える気もしますが、いやはや何ともかわいげのない天然です……
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