福岡市は、警備員や学校用務員といった現業職員約950人について、今後は退職者が出た後の補充を行わず、段階的に民間委託を進め将来的にゼロを目指す方向で検討に入った。
2013~16年度の4年間で約850億円の財源不足が見込まれる厳しい財政下で、民間の2倍前後の給与を払い続けるのは市民の理解が得られないと判断した。現業削減は全国的な流れだが、ゼロを打ち出すのは異例。ただ組合側の反発も予想され、曲折もあり得る。
現業職員の内訳(5月現在)は、調理業務員332人、学校用務員250人、清掃職員111人、自動車運転手80人、船舶職員33人、警備員31人――など。年齢構成は20~30歳代が約3割、40~50歳代が約6割、60歳代が約1割となっている。
市によると、昨年4月現在の現業職員の平均月給は約38万7000円で、人件費の年間総額は約56億円。民間の類似職種と比べると、警備員が約47万8000円で民間の2・48倍、用務員が約39万2000円で1・87倍などとなっており、市議会でも削減の必要性がたびたび指摘されてきた。
大阪の橋下に限らず、公務員の中でも現業職を狙い撃ちにした人件費削減は全国的に見られる現象です。人件費即ち働く人の給料を下げようという取り組みは有権者の強い支持の元に幅広く推進されているわけで、さながら日本は所得半減計画の真っ最中と言ったところでしょうか。ともあれ橋下のような全国へ向けての派手なアピールこそないものの、福岡市は民間委託を進めることで、将来的に現業ゼロを目指すと伝えられています。
今さらながらのことですが、一般に「公務員の給与が民間のそれに比べて高い」と言われる場合、「非現業の正規職員の平均」と「パートタイムなど非正規を含めた民間企業全体の平均」がベースになっていることが一般的です。もちろん事業規模、構成員の学歴や年齢、勤務年数、雇用形態や勤務時間などの条件が異なるものを並べても意味がないことは言うまでもありません。しかるに「非現業(≒ホワイトカラー)」の公務員は「同じ条件の下で」民間企業と同等の水準に給与が固定されている一方、現業職となると明らかに公務員の方が給与が高い、これは諸々の誇張を差し引いても確かなことです。
報道によれば警備員が約47万8000円で民間の2・48倍、用務員が約39万2000円で1・87倍とのこと、勤務年数や雇用形態等の条件を揃えているかは大いに疑わしいところですけれど、疑いようもなく官民の給与格差は存在します。では、適正な給与を払っているのは官民のどちらなのでしょうか? 人件費は少なければ少ないほど良いとばかりに、日本で働く人の取り分を減らすための政策に何の疑いも持たない人々からすれば、正しいのは民間の現業職の給与水準の方なのかも知れません。有権者の支持を得て当選した人々が下そうとする結論もまた、その線に沿ったものなのですから。
逆算すると、警備員なり用務員なりの現業職の民間での給与は20万程度ということになります。若い間の一時的な給与としては問題ありませんが、将来的にも同等の給与水準となると「家族を養えない&老後の蓄えが作れない&消費に回すお金がない」わけです。人件費削減のためなら少子化が進んでもいい、高齢化した元・現業職が生活保護に頼るようになっても構わない、消費が低迷して景気悪化に拍車がかかっても気にしない、というのなら現業公務員から民間への委託というのもありと言えますが、その辺の長期的なビジョンがあるかどうかは大いに疑わしいところです。
現業職と非現業職、ブルーカラーとホワイトカラー、現場作業員と本社勤めで給与に大きな差があるとして、これをあるべき姿と考えるのか、それとも是正されるべきものと考えるのか、全国の自治体の取り組みから察するに、どうも日本では前者が正しいものとしてコンセンサスができあがっているように思います。つまり、現業の人間が薄給で使い捨てにされることは正しい、現業の人間に非現業の人間と同等の賃金を支給している役所のやり方は間違っている、そう判断されているわけです。
原発周りでは現場作業員の取り分が少ないと大騒ぎする人もいたものですけれど、果たしてその内の何割が、この現業職の人件費をカットしようという全国的な傾向に反対の声を上げているものか、大いに首を傾げます。現業の給与が非現業と同等なのはおかしい、是正されるべきだというのなら、原発作業員の給与水準とは「是正済」の姿のはずです。電力会社のやることなら何でも非難の対象である一方、同じことを各地の自治体や人気者の首長が行ったときは全く反対の意見を表明する、そういう人が多数派を占めているのが実情ではないでしょうかね。
公務員の警備員は平均で約47万8000円の給与だそうで、まぁ深夜や休日などイレギュラーな時間帯の勤務に対してしかるべく手当を支給していけば、自然と結構な給与になるものです。そうならないとしたら、基本給がそれ単独では生活できないレベルにまで抑えられているか、時間外手当をごまかされているかのどちらかですね。いずれにせよ、日本の労働環境を悪化させるのが目的でなければ、そういう自治体に対して「公」が契約を結ぶべきではないと思いますが、人件費削減こそ正義、働く人を貧しくしている雇用主こそ我々の社会では民意の体現者なのでしょう。所得半減計画は順調に進行中です。
つまり給料が低すぎるために、次々に人が入っては辞めていく。小刻みに人が替わり勤続年数も少ないため給料も低いままという悪循環なのです(企業にとっては好循環かも知れませんが)。
是正するのなら、こうしたブラックもどきの民間警備員の給料の方でしょうが、勤続数十年で高給になった役所の警備員(彼らも若い頃は薄給だったろうに)を標的に攻撃するのですから、この社会は自分で自分の首を絞めているようなものです。
また役所でも「行政職(二)」というのがあり、ちょっと調べたところ平均年収は
守衛・巡視 517.3万円、用務員 471.0万円、自動車運転手 544.6万円、看護助手 521.5万円、電話交換手 513.2万円
だそうです。確かに民間に比べると非現業との差は少ないのでしょうが、やはり格下に見られているようです。それすら叩くという現状は、社会全体が待遇ブラック化を願っているとしか思えません。醜いのはこれを主張する人たちは、自分たちをその枠の外に置いていることですね。
まさにブラック企業こそ、改革の理念を体現する存在ですからね。そこへ至る流れに無自覚なだけで、社会全体のブラック企業化を望んでいる人は多いような気がします。日本における改革の論理を当てはめれば、勤続年数の少ない業界=人材の流動性が高い業界=雇用機会を創出している業界ですから。
その理由は幾らでも考えられることは確かです。
「好きでやっている仕事だから待遇のことをどうこう言うな」とか「選んだ方の自己責任」だとか。
こういうのに与していると自分に跳ね返るのは想像に難くないはずですが、そこまでの想像力と権利意識が全然足りないことに気づかない人が多いです。
新規就農とかもそうですし、他にも芸能や創作系の業界とか、そういう傾向が顕著ですね。あんまり儲からない世界ではあるにしても、しかし近年の改革の論理では人件費を抑えれば栄えるみたいなことになっていたのですが、まぁそれが現実に当てはまることは永遠にないのでしょう。