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沖田瑞穂『すごい神話』47.「ガンジス河の女神の秘密――なぜ子供たちを殺したか」:ガンガーは生まれるとすぐに子供たちを河へ投じ殺した!女神テティス(アキレウスの母)も子を河へ投じた!

2023-10-31 11:58:18 | 日記
※沖田瑞穂(1977-)『すごい神話』(2022)第四章 インドの神話世界(42~52)

(1)インド神話:『マハーバーラタ』には女神ガンガーと人間の王シャンタヌとの結婚の話が記されている!
インド西北から侵入してきたアーリヤ人は、はじめインダス河流域で生活を営んでいたが、次第に東へ移動し、ガンジス河流域で半農半牧の生活を営むようになった。彼らの生活に密着していた聖河こそガンジス河であり、ガンジス河を神格化した女神がガンガーである。『マハーバーラタ』には女神ガンガーと人間の王との結婚の話が記されている。
A ヴァス神群と呼ばれる8人で1組の神々がいた。あるときヴァス神たちはヴァシシュタ仙(古代インドの七聖仙のひとりで、『リグ・ヴェーダ』第7巻の作者と伝えられる)の怒りをかい、「人間の胎に生まれよ」という呪いをかけられた。ヴァス神たちは、ガンガー女神に「不浄な人間の女の胎に入りたくないから、地上に降りて自分たちの母となってくれ」と頼んだ。
A-2  ガンガー女神がこれを承諾すると、さらにヴァス神たちは「少しでも早く天界に戻れるよう、生まれたらすぐに自分たちを川に投じて殺してくれ」と頼んだ。(Cf. 神話のストーリーの前提は「輪廻転生」である。)
B 地上に降りたガンガー女神はシャンタヌという「人間」の王の妻となったが、結婚に際して約束を交わした。「私がとよいことをしても悪いことをしても、止めてはならないし、不快なことをいってもならない。」
B-2  やがてガンガーは7人の子(ヴァス神たち)を産んだが、生れるとすぐ子供たちを河へ投じて殺し、天界へ帰してやった。
B-3  しかし事情を知らないシャンタヌ王は、ガンガーの恐ろしい行いに耐えられなくなり、誓いに反して8人目の子(ヴァス神の最後の一人)ビーシュマが生まれ、溺死させられそうになった時、誓いに反してガンガーを罵った。するとガンガー女神は正体をあかし、全ての事情を語った。そしてガンガー女神は子どもビーシュマを連れて天界へ帰っていった。ビーシュマ(デーヴァヴラタ)は立派に成長し、ガンガーは元夫シャンタヌ王のもとにビーシュマを返した。
B-4  ビーシュマは、「クル国」の継承を懸けた「クル・クシェートラ」における大戦争(「カウラヴァ」と呼ばれる100王子と「パーンタヴァ」と呼ばれる5王子の大戦争)でクル軍の将軍(「カウラヴァ」勢の司令官)となって活躍する英雄である。
Cf.   『マハーバーラタ』(バラタ族にまつわる大叙事詩)における「バラタ族」とは物語の中心となる「クル族」の別称である。
Cf.   『マハーバーラタ』は、バラタ族のパーンドゥ王の息子である五王子(「パーンダヴァ」)7軍団と、その従兄弟である百王子(「カウラヴァ」)11軍団の間の、「クル国」の継承を懸けた「クル・クシェートラ」(クル平原)における大戦争を本題とする。18日間の凄惨な戦闘の末、戦いはパーンダヴァ側の勝利に終わるが、両軍ともに甚大な被害を出す。(この戦いで百王子は全滅した。)本題は全編の約5分の1にすぎず、その間に神話、伝説、宗教、哲学、道徳などに関する多数の挿話を含む。(Ex. ヒンドゥー教の 宗教哲学的聖典『バガバッド・ギーター』など。)
★ガンガー女神とシャンタヌ王


《参考1》「ヴァス神群」は自然現象を神格化した8柱の神々。 水、北極星、 月、大地、風、火、暁、光の8神とされるが、諸説あり。ヴァス神たちは、聖仙 ヴァシシュタ の上を飛ぶ非礼を犯した罪を償う為、 女神ガンガー と人間の王の間に生まれた子供達として転生した。

《参考2》中央アジアの牧畜民であったアーリア人は、前1500年頃、インド北西部のパンジャブ地方に進入し、先住民(インダス文明をつくった)を征服した。 前1000年をすぎると、アーリア人(アーリヤ人)はより肥沃なインド東部のガンジス川の上流域へと移動し定住農耕生活が定着する。
《参考2-2》ヴェーダ聖典(「4ヴェーダ」)を絶対の権威と仰ぐアーリア人の宗教が「バラモン教」だ。最古の『リグ・ヴェーダ』は紀元前1200年頃成立。他の3ヴェーダは紀元前1000~前800年頃成立した。①インドに侵入したアーリア人の宗教である「バラモン教」の最古の聖典が『リグ・ヴェーダ』で紀元前1200年頃成立した。この頃、アーリア人は半農半牧の生活だった。②インダス川流域に居住していたアーリヤ人は紀元前1000~前800年頃次第にガンジス川流域に移動していく。そして次第に定住農耕生活へと移る。この頃に成立したのが『サーマ・ヴェーダ』(歌詠の集成)、『ヤジュル・ヴェーダ』(祭式に必要な文言の集成)、『アタルヴァ・ヴェーダ』(まじないの言葉の集成)だ。

《参考2-3》バラモン教が土着の民間信仰などを吸収し紀元前6世紀~紀元前4世紀頃に、「ヒンドゥー教」が成立した。
《参考2-3-2》『マハーバーラタ』は、アショーカ王(在位:紀元前3世紀頃)の時代にテキスト化が開始され、紀元前2世紀中葉〜紀元後1世紀末頃に完成したとされる。
《参考2-3-3》『ラーマーヤナ』(第1~7巻)の成立は紀元3世紀頃で、詩人ヴァールミーキが、ヒンドゥー教の神話と古代英雄である「コーサラ国のラーマ王子」の伝説を編纂したものとされる。ラーマーヤナの核心部分は第2巻から6巻とされ、その成立は紀元前4-5世紀頃である。

(2)『近江国風土記』(おうみのくにふどき):長浜市「余呉湖」の羽衣伝説!
ガンガー女神の話は、天女と人間の男の結婚譚である「天人女房譚」の一つだ。日本の「天女の羽衣」の話と同型だ。
《参考》『近江国風土記』(おうみのくにふどき)に長浜市「余呉湖」の羽衣伝説の記述がある。
「古老の伝へて曰へらく、近江の国伊香(いかご)の郡(こほり)。与胡(よご)の郷(さと)。伊香の小江(をうみ)。郷の南にあり。天の八女(やをとめ)、ともに白鳥(しらとり)となりて、天より降りて、江(うみ)の南の津に浴(かはあ)みき。時に、伊香刀美(いかとみ)、西の山にありて遥かに白鳥を見るに、その形奇異(あや)し。因りてもし是れ神人(かみ)かと疑いて、往きて見るに、実に是れ神人なりき。ここに、伊香刀美、やがて感愛をおこして得還り去らず。窃(ひそ)かに白き犬を遣りて、天の羽衣を盗み取らしむるに、弟(いろと)の衣を得て隠しき。天女(あまつをとめ)、すなはち知(さと)りて、その兄(いろね)七人は天上に飛び昇るに、その弟一人は得飛び去らず。天路(あまぢ)永く塞して、すなわち地民(くにつひと)となりき。天女の浴みし浦を、今、神の浦といふ、是なり。伊香刀美、天女の弟女(いろと)と共に室家(をひとめ〈夫婦)となりて、此処に居み、遂に男女(をとこをみな)を生みき。男二たり、女二たりなり。兄の名は意美志留(おみしる)、弟(おと)の名は那志登美(なしとみ)、女(むすめ)は伊是理比咩(いぜりひめ)、次の名は奈是理比賣(なぜりひめ)、此は伊香連(いかごのむらじ)等が先祖、是なり。後に母(いろは)、すなわち天の羽衣を捜し取り、着て天に昇りき。伊香刀美、独り空しき床を守りて、唫詠(ながめ〈吟詠〉)すること断(や)まざりき。」

(3)ギリシア神話:女神テティス(アキレウスの母)は、子供が神性をそなえているか見極めるため生まれるとすぐに水に投じた!
インド神話(『マハーバーラタ』)における女神ガンガーと人間の王シャンタヌとの結婚の話は、ギリシア神話の英雄アキレウスの誕生の話とも似ている。アキレウスの母は、海の女神テティスである。テティスは人間の王ペレウスと結婚し、子供が生まれるとすぐに水に投じ殺した。子供が神性をそなえているか見極めるために、このようなことをしたのだという。7番目の息子としてアキレウスが生まれた時、王ペレウスはついに耐え切れず息子が水に投げ入れられるのを阻止した。すると女神テティスは怒って海に帰って行った。

《参考》アキレウスは、トロイア戦争に参加し、形勢を逆転させ、敵の名将(Ex. イーリオスの英雄ヘクトール;Ex. アマゾーンの女王ペンテシレイア)をことごとく討ち取るなど、無双の力を誇った。しかし戦争に勝利する前に弱点の踵(カカト;アキレス腱)を射られて命を落とした。足が速く、『イーリアス』では「駿足のアキレウス」と形容される。
《参考(続)》『イーリアス』(ホメロス作)は、トロイア戦争十年目のある日に生じたアキレウスの怒りから、イーリオスの英雄ヘクトールの葬儀までを描写する。『オデュッセイア』(ホメロス作)は『イーリアス』の続編作品にあたり、(ア)イタケーの王である英雄オデュッセウスがトロイア戦争の勝利の後に凱旋する途中に起きた10年間におよぶ漂泊、また(イ)オデュッセウスの息子テーレマコスが父を探す探索の旅、さらに(ウ)不在中に妃のペーネロペー(ペネロペ)に求婚した男たちに対する報復なども語られる。
★アキレウス、ヘクトルを討つ


(4)インドとギリシアは、インド=ヨーロッパ語族にともに属し、同じ神話を継承し語り継いだ!
インド神話における女神ガンガーと人間の王シャンタヌとの結婚の話と ギリシア神話におけるアキレウスの母、海の女神テティスと人間の王ペレウスとの結婚の話とは、同型である。どちらの話でも水界の女神が人間の王と結婚し、子をもうけるが、それらの子を水に投じて殺していく。夫が制止すると女神は神々の世界に帰り、最後に一人の子が生き残る。インドとギリシアは、インド=ヨーロッパ語族にともに属し、同じ神話を継承してそれぞれの地域で語り継いだのだ。
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