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『サキ短編集』⑯「セルノグラツの狼」:今は「合理化」と「呪術からの解放」(Entzauberung)の時代だ!だが、それ以前の時代の最後の伝説「セルノグラツの狼」が、「現実」として姿を現した!

2022-07-30 13:50:12 | 日記
※サキ(Saki)、本名ヘクター・ヒュー・マンロー(Hector Hugh Munro)(1870-1916)、『サキ短編集』新潮文庫、1958年。

(16)「セルノグラツの狼」
(a) ハンブルグの裕福な商人であるコンラッドが「この城には、なにか古い伝説でもあるのかい?」と、妹のグルウベル男爵夫人にたずねた。「こんな古い家には伝説がついてまわるものよ。伝説なんてわけなく作れるんだから。この城で誰かが死んだら、村中の犬と、森じゅうの獣が、夜じゅう吠えるって話があるわ」と男爵夫人が答えた。
《感想》男爵夫人は「この城で誰かが死んだら、村中の犬と、森じゅうの獣(狼)が吠える」という伝説を「作り話」だと信じない。
(b)「この城を買ってここに移って、去年、義母(カア)さまが亡くなった時、犬も獣(狼)も吠えなかったわ。」「城の伝説なんて、もったいをつけようという作り話よ」と男爵夫人が言った。
《感想》ただしこの場合、死んだ者は、この城のもともとの持主でない。城を買って後から移り住んだ者だ。
(c)その時、白髪の女家庭教師のアマリイが言った。みんながふりかえって、びっくりして彼女を見つめた。彼女はいつも黙っていて口を開くことなどなかったからだ。「吠え声が聞こえるのは、この城の先祖伝来の所有者のセルノグラツ家の者がここで死ぬときです。何十頭という狼が現れて吠え、それにおびえて村中の犬が吠えます。そして死んでゆく人の魂が肉体を離れる時、お庭の樹が裂けて倒れます。」
《感想》「村中の犬と、森じゅうの獣(狼)が吠える」のは、この城の先祖伝来の所有者の「セルノグラツ家の者」がここで死ぬときだと、白髪の女家庭教師のアマリイが言った。だがどうして、そのようなことを知っているのか。
(d)男爵夫人は、分不相応な地位からのさばり出て、こんな無礼極まりないことを言う見すぼらしい老女を、怒って見すえた。「あなたはセルノグラツ家の伝説をよく知っているらしいわね。専攻の学問の中に、家の伝説まで入っているとは知りませんでしたよ。」
《感想》男爵夫人は、使用人である老家庭教師を侮辱した。
(e)この侮辱に対して家庭教師のシュミットが言った。「わたくしはセルノグラツ家のものでございます。ですからこの一家の伝説を知っているのでございます。私は祖父と父とこの城に住み、お城の伝説を何度も聞かされました。」誰もが驚いた。「零落いたしまして、家庭教師の仕事をするようになって、名前を変えました。こちら様に勤めさせていただく時、まさか自分の一家のお城に参るとは考えも致しませんでした。ここにだけは参りたく、ございませんでした。」
《感想》驚くべき事実!だが男爵夫人も男爵も、このような老シュミットの発言を信じないだろう。
(f)やがて老女が部屋を出ると、嘲笑と不信の渦が巻き起こった。①男爵が「あんな話はひとことだって信じやせん百姓どもと話していて伝説や物語を聞き出したんだろう」と言った。②男爵夫人が言った。「自分にもったいをつけたいんですよ。近いうちにお払い箱になると知って、同情を引きたいんですよ。」そしてさらに言った。「正月のお祝いがすんだら、すぐ暇を出しますわ。」ただし「それまでは忙しくて、あれがいないとやってゆけませんから。」
《感想》老家庭教師シュミットへの侮辱、蔑み、身分をわき目ない事への憤懣、悪意など、男爵と男爵夫人の反応は、このヴィクトリア朝の時代、つまり「合理化」と「呪術からの解放」(Entzauberung)の時代、「金(カネ)」が全ての時代では、普通のことだろう。
(g)クリスマス後、厳しい寒さが襲い、老シュミットは重い病気にかかった。客たちが暖炉を囲んでいたとき、男爵夫人が「うちじゅうお客さまがいっぱいのこの時期に、病気で倒れられるのはやはり困る」と言った。「さぞお困りでしょう」と銀行家の妻が応じた。「今年の寒さほどひどいのは覚えがない」と男爵が言った。
《感想》老女シュミットは、男爵夫妻にとって、確かに有能な使用人だった。
(h)その時、男爵夫人の狆(チン)が怯えて、震えながらソファの下に潜り込んだ。城の庭で犬どもが吠えはじめ、遠くで多くの犬が吠える。犬どもを恐怖と怒りに駆りたてたのは、狼の咆哮だった。「おびただしい狼の群だ」とハンブルグの商人コンラッドが言った。
(h)-2 男爵夫人は、自分でも説明できない衝動にうながされ、老女の寝ている部屋に行った。窓は開け放してあった。「開けたままにして」と老女が言った。男爵夫人が「寒さで死んでしまいますよ」と言うと、老女が言った。「どっちにしましても死ぬんでございますよ。あの声が聞きたいんでございます。狼どもはわたくし一家の死の歌を歌うために、方々からきたのでございます。来てくれて、ほんとによかった。わたくしが、なつかしいお城で死ぬセルノグラツ家の最後のひとりですもの。」そして「出て行って下さい」と彼女は男爵夫人に言った。「わたくし、もう淋しくはございませんから、古い、偉大な家柄のものですもの。」
《感想》「古い、偉大な家柄」であるセルノグラツ家の最後のひとりである者に、「死の歌」を歌うため、狼どもが方々からきて悲しみの咆哮をする。今は「合理化」と「呪術からの解放」(Entzauberung)の時代、「金(カネ)」が全ての時代だ。だが今や、それ以前の時代の最後の伝説「セルノグラツの狼」が、「現実」として姿を現した。
(i)「あの女、死ぬんじゃないかと思いますわ」と男爵夫人は客のところへかえってから言った。やがてなにか裂けて倒れる音が聞こえたので、男爵が「しっ!ほかの音がするがなんだろう」と言った。それは庭で樹の倒れる音であった。
(i)-2 一瞬、不自然な沈黙が全員を襲った。すると銀行家の妻が口を切った。「あまり寒いので樹が裂けるんです。あんなにたくさん狼があつまるのだって、寒さのせいですわ。」この意見を、男爵夫人は熱心に支持した。そしてまた男爵夫人にとっては、老女に心臓麻痺を起させたのも、やはり窓を開け放しておいた寒さのせいだった。
《感想》「セルノグラツの狼」の伝説は「呪術」(Zauberung)の時代に生きた老女シュミットにとっては「真」であり、「合理化」と「呪術からの解放」(Entzauberung)の時代に生きる男爵、男爵夫人、銀行家にとっては「偽」である。
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『サキ短編集』⑮「家庭」:「縁は異なもの、味なもの」で、男女の縁はどこでどう結ばれるかわからず、不思議で面白い!

2022-07-28 19:04:43 | 日記
※サキ(Saki)、本名ヘクター・ヒュー・マンロー(Hector Hugh Munro)(1870-1916)、『サキ短編集』新潮文庫、1958年。

(15)「家庭」
(a)ジェイムズ・カシャト=プリンクリイは「そのうち、自分は結婚するだろう」という確信をつねに持っていた。しかし34歳の今日まで、なんらその確信を証明する行動に出なかった。彼は、たくさんの女性を讃美してきたが、そのうちの一人を結婚の相手として選ぶことはなかった。
(b)だがジェイムズの母、姉妹、同居の伯母、また年配の婦人たちが「誰か年頃のいい娘さんと恋でもして、早く結婚したら」と彼に勧めた。しかも伯父のジュウルズが死んでちょっとした遺産を、ジェイムズに残してくれたので、結婚相手を探すことはいかにも真っ当なことだった。
(c)母、姉妹、同居の伯母などは、ジェイムズの交際の範囲で、「結婚を申し込むに最もふさわしい女性」としてジョン・セバスタブルに眼をつけた。そしてジェイムズも「自分とジョンは、結婚するだろう」と思うようになっていった。
(d)しかしこの問題を「ジョンの方で、どう思っているか」、それを聞き出す必要があった。家族は、ジェイムズをここまで導いてはきたが、実際の結婚申し込みは、ジェイムズ自身に任せるしかなかった。
(e)ジェイムズ・カシャト=プリンクリイは、一応満足した気持で、ハイド・パアクをセバスタブル家に向けて歩いていた。「午後のお茶」に訪問するのだ。きっとジョンは言うだろう。「砂糖はひとつ?ミルクは入れるんでしたわね。濃すぎるようでしたら、すこしお湯をさしましょうか。」
(f)ところがジェイムズは、「午後のお茶」のしきたりが、嫌いだった。「女性は無言でいるべきで、もし魂をその愛する人のもとに投げ出しているなら、なんでお茶が濃いの薄いのとばかり話していられるだろう」とジェイムズは思っていた。これに対し彼の母は、これまで、お茶のとき、優美な陶器や銀器を前にして、楽しげにおしゃべりをしてきた。
(g)さてエスキモウルト街を歩いている時、ジェイムズは「これから、お茶のテエブルに向かっているジョン・セバスタブルと顔を合わせるのだ」という恐怖にとらえられた。一時的な救いが、彼の心に浮かんだ。街はずれの小さな家に遠縁にあたるロウダ・エラムが住んでいる。彼女は高価な材料で帽子をつくって暮らしを立てていた。ジェイムズは「30分ほど彼女の所によって、ジョン・セバスタブルへの訪問を遅らせよう」と思った。訪問を遅らせれば、すでに優美な陶器や銀器が片付けられた後でセバスタブル家へ着くという段取りにできる。
《感想》かくもジェイムズ・カシャト=プリンクリイは「午後のお茶」のしきたりが、嫌いだったのだ。
(h)ロウダは、喜んでジェイムズを部屋に迎え入れた。①部屋は狭いが居心地がよかった。また②食べ物の話は「カヴィア、バタつき黒パンを召し上がってください。ご自分で茶碗は持ってきてね。急須はあなたの後ろにあるわ」とロウダが言っただけだった。③彼女は楽しそうにおしゃべりし、彼にも楽しく話をさせた。
(i)「ところで、なんのためにわたしのところになんかいらしたの」とロウダが突然たずねた。「帽子のことでいらしたんでしょう。遺産を相続なさったって聞いて、そのお祝いに妹さんたちに立派な帽子を買ってあげるんだわ。」
ジェイムズが言った。「帽子のことで来たんじゃないんだよ。通りがかりに、ちょっと寄って、君に会ってみようと思っただけだ。でもこうして、おしゃべりをしているうちに、ちょっと重要なことが頭に浮かんだんだ。そのことを話したいんだ。」
《感想》この「ちょっと重要なこと」というのは、ジェイムズがロウダにプロポーズすることだ。実際、(ア) ジェイムズは「そのうち、自分は結婚するだろう」という確信をつねに持っていた。(イ) 彼はもう34歳だ。(ウ)しかも彼は伯父の遺産を相続し結婚を可能とする資産を手に入れた。かくて(エ) 母、姉妹、同居の伯母、また年配の婦人たちの勧めで「自分とジョン・セバスタブルは、結婚するだろう」とジェイムズは思うようになった。(エ)だが彼は「午後のお茶」のしきたりが、嫌いだった。だから(オ) ジョン・セバスタブルと「午後のお茶」をするのは嫌だった。(カ)たまたま寄ったロウダは楽しいし、嫌いな「午後のお茶」をしなくてよかった。こうして(カ)ジェイムズは、母、姉妹、伯母、年配の婦人たちの勧めからでなく、自分自身の気持ちから「ロウダと結婚する」という事が「頭に浮かんだ」のだ。
(j)40分ばかりの後、ジェイムズ・カシャト=プリンクリイは重大な知らせを持って、家族の所へ帰った。「ぼく結婚の約束をしたよ。」母、姉妹、伯母は大喜びした。だがジェイムズが結婚を申し込んだのは、ジョン・セバスタブルでなく、ロウダに対してだった。ことのロマンテイックな唐突さは、家の女性たちを戸惑わせたが、問題とすべきは「ジェイムズが妻を持つこと」だし、「彼の好み」も情状酌量さるべき権利を持っているとして、受け入れられた。
《感想》「縁は異なもの、味なもの」だ。男女の縁はどこでどう結ばれるかわからず、不思議で面白い。
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『サキ短編集』⑭「十三人目」:結婚(再婚)にあたって、エミリーも少佐も、子供が「12人」なら困らない!そして今や、子供は不吉な「13人」でなく、「12人」であることが明らかとなった!

2022-07-27 12:05:17 | 日記
※サキ(Saki)、本名ヘクター・ヒュー・マンロー(Hector Hugh Munro)(1870-1916)、『サキ短編集』新潮文庫、1958年。

(14)「十三人目」
(a)アメリカ行汽船の甲板でリチャアド・ダンバアトン少佐がデッキ・チェア(甲板椅子)に腰かけている。傍らに「カルウ夫人」と名前を書かれた椅子がある。そこにエミリイ・カルウ夫人が登場する。少佐が急に振り向いて言う。「エミリイ!何年ぶりだろう!これは運命だね!」だがエミリイは「運命でないわ!」と答えた。実は、エミリイはここで出会うために、乗船を手配したのだ。
(b)「昔より美しいよ」と少佐が言う。「あたしを口説いてるんでしょう?」とエミリイが答える。少佐は朝食の時にエミリイがこの船に乗っていると知って、夫人の登場を待っていた。
(c)「何年も前、あなたはほかの女と結婚なさった」とエミリイが言った。「うん、きみはぼくと別れて、ほかの男と結婚した。おまけに、やもめ男の後添いにさ!」と少佐が言った。だが今や2人は再会し、少佐が結婚を申し込んだ。エミリイがすぐに承諾する。2人は顔を見合わせ、そして強く抱擁する。
《感想》少佐とエミリイの「恋」が成就した。2人とも再婚だ。「恋」は相手が他の男or女と結婚したからといって終わるものでない。恋の情念、執念だ。
(d)その時「あッ、しまった、忘れていた」と少佐が言った。「子供のことを言うのを忘れていた。きみ。子供がいちゃいけないかい?」エミリイが「大勢でなければね。何人いるの?」とたずねた。
《感想》エミリイは鷹揚だ。もちろん二人とも上流階級で、子育ての費用や手間など経済的・生活的問題はない。金は十分あり乳母や養育係や家庭教師を雇えばいいのだ。
(e)子供が「何人いるの?」とエミリイから聞かれて、少佐は急いで指で数え、「5人だ」と答えた。「5人!」とエミリイは驚く。少佐が心配そうに「多過ぎるかい」とたずねた。
《感想》子供が「5人」なのでエミリイが困ったのだと少佐は思った。だが事情は違っていた。それが以下、明らかになる。
(e)-2 エミリイが「相当な数ね。ただ困るのは。あたしの方にも子供があることなの。8人!」と言った。少佐が「6年間で子供8人!おお、エミリイ!」と驚くが、エミリイが説明する。「あたしの子は4人だけなの。ほかの4人は先妻の子よ。」
《感想》少佐とエミリイが結婚(再婚)すれば、子供は「5人」プラス「8人」、計「13人」だ。確かに相当な数だ。だが実は、エミリイはたいして困っているわけでない。以下、すぐにわかる。
(e)-3 少佐が言う。「13人というのは、とても縁起が悪い。12人に減らせるといいんだがな。」エミリイが言う。「1人、2人、どこかへやる工夫ってないかしら?」
《感想》結婚(再婚)するにあたって、エミリーは子供が「12人」なら困らない。少佐も子供が「12人」ならいいと思う。不吉な「13人」でないからだ。かくてエミリイと少佐は結婚(再婚)の際の子供の数は、計「12人」ということで一致する。なんとにぎやかな結婚(再婚)だ!
(f)エミリイが「世間の人って、貰い子はしないものかしら」と言う。そこにベイリイ=バジェット夫人が現れる。「ちょうどいい人が来たわ」とエミリイ。ベイリイ夫人には女の赤ん坊が1人だけだからだ。少佐とエミリイが「男の子を1人、貰い子してもらえないか」と説得する。だがベイリイ夫人は、気を悪くして去る。
(g)かくて子供は「13人」のままだ。少佐が「4人も子供のある男と結婚するなんて!」とエミリイに言う。するとエミリイが「あなたは5人も子供のある男と結婚しろと云ってるのよ」と反論する。
(g)-2 すると少佐は「ぼく、5人と言ったかい?」と飛びあがって驚く。「たしかに5人と云ったわ」とエミリイ。「こりゃ勘定違いしたらしいぜ!」と少佐が言う。
(g)-3 少佐とエミリイが、少佐の子供の数を一緒に勘定する。①リチャアド、②アルバアト=ヴィクタア、③モウド、④ジェラルド、計4人だ。少佐が言う。「たしかにそれっきりだよ。きっとアルバアト=ヴィクタアを2人に勘定したんだ!」
(g)-4 エミリイが「リチャアド!」と言い、少佐が「エミリイ!」と言い、2人は抱擁する。
《感想》結婚(再婚)するにあたって、エミリーも少佐も、子供が「12人」なら困らない。そして今や、子供の数は不吉な「13人」でなく、「12人」であることが明らかとなった。メデタシ!
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『サキ短編集』⑬「親米家」:ポメラニアの画家志望の若者クノプフシュランクは、アメリカの百万長者から大金を得たことで「親米家」となった!だが絵が売れたからではない!

2022-07-25 16:28:42 | 日記
※サキ(Saki)、本名ヘクター・ヒュー・マンロー(Hector Hugh Munro)(1870-1916)、『サキ短編集』新潮文庫、1958年。

(13)「親米家」
(a)ロンドンのオウル街のニュウレンベルグ料理店には、ボヘミアン仲間が集まった。そこに2年ほど前、ポメラニア(※ポーランドの一地方)の百姓の子クノプフシュランクが、画家として一旗あげようと、ロンドンのこの料理店にやってきた。
(b)若者クノプフシュランクはユニークな絵を描いた。『トラファルガア広場の噴水で水を飲むジラフ』『アッパァ・バアクリイ街においてラクダの死骸を啄むハゲタカ』『コウストン停車場に眠るハイエナ』『アルバアト・ホオルにとまるライチョウ』などだ。それらは「定価10シリング」だった。
(c)だが彼の絵を誰も買わない。「妙な気まぐれな絵らしいものに10シリング、投げ出す気にはなれない」というのが理由だった。このポメラニア出身の若い画家が、画商仲間から認められることはなかった。
(d)画家は経済的窮迫に陥った。ニュウレンベルグ料理店での食事は、1シリング6ペンスの定食から、7ペンスのオムレツとパンとチイズとなりやがて、全然姿を見せない晩さえあった。
(e)月日は矢のようにすぎ、クノプフシュランクが、オウル街の料理店に顔を見せることは、ますます稀になり、また顔を見せたにしても、この時の食物は、ますます貧しいものになった。
(f)ところが、ついに勝利の日が到来した。画家はその晩、意気揚々とはやくからニュウレンベルグ料理店に姿をあらわした。そしてほとんど饗宴かとみまがう凝った食事を注文した。舶来の燻製鵞鳥胸肉、ポメラニアの珍味、頸の長いライン葡萄酒など。
(g)「たしかに絵が売れたのよ」と料理店の常連のストラブル嬢が言った。「誰が買ったの?」とジョンズ夫人が小声でたずねた。「あの人、まだなんとも言わないんだけど、きっとアメリカ人よ。絵を、アメリカの百万長者にとても高い値で売りつけたにちがいないわ」とストラブル嬢が答えた。
(h)「はやく、あの人の絵を買いましょうよ。でないと、値段を倍にするわ」とストラブル嬢は1枚10シリングで、『ラクダ』と『ジラフ』の絵を手に入れた。ジョンズ夫人も10シリングで『ライチョウ』を手に入れた。もっと野心的な作『アシニアム・クラブの玄関にて闘うオオカミとオオジカ』は15シリングで買手がついた。
(i)ある美術週刊誌にときどき寄稿している青年が画家クノプフシュランクにたずねると、「すぐにポメラニアに帰るよ」と画家は答えた。
(i)-2 「画家では飢え死にする。今日まで誰一人ぼくの絵を買ってくれる者はいなかった。今夜は、ぼくがみんなと別れるというんで少し買ってくれた。それだけだ」と画家は言った。青年が「でもアメリカ人が、絵を買ってくれたんではないんですか?」と質問した。
(j)画家クノプフシュランクが言った。「あの金持ちのアメリカ人か。故郷(クニ)で豚の群れを畑に出そうとしている時、アメリカ人がその豚の群れに自動車をつっこんだ。豚がたくさん殺されたが、アメリカ人は大至急ダンチヒに行くところで急いでいたから、相手の言いなりに弁償した。おかげでぼくの親父もおふくろも今じゃ大金持ちだ。」
(k)「親父がぼくの借金を払い、帰るだけの金を送ってくれたんだ。もう帰って来ないよ、決して」とクノプフシュランクが言った。

《感想》ポメラニアの画家志望の若者クノプフシュランクは、アメリカの百万長者から大金を得たことで、「親米家」となった。この若者の絵が売れたからではない。故郷(クニ)で豚の群れに自動車を突っ込んだアメリカの百万長者が、弁償として大金を若者の両親に払ったからだ。これによって画家志望だったクノプフシュランクが苦境から救われたからだ。
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映画『オンネリとアンネリのふゆ』(2015):オンネリとアンネリは、小人と「友人」になれる!しかしガソリンスタンド店の妻にとっては、小人は見世物小屋に売れる高価な「商品」にすぎない!

2022-07-24 15:42:40 | 日記
※映画『オンネリとアンネリのふゆ』Onnelin ja Annelin talvi(2015、フィンランド)  

1960年代に発表されマリヤッタ・クレンニエミの児童文学「オンネリとアンネリ」を実写映画化したシリーズ第2作。
(1)バラの木夫人から買った小さなかわいい家で暮らすオンネリとアンネリ。二人のもとに、クリスマスが近づいたある日、プティッチャネンという小人の5人家族(祖母、妻、夫、息子、娘)が自動車に乗ってバラの木夫人をたずねてやってくる。バラの木夫人に新しい家を建ててほしいからだ。そこでオンネリとアンネリは、バラの木夫人の居場所が分かるまで、ドールハウスに小人の家族を住まわせることにする。「誰にも言えない」とオンネリとアンネリは思う。はたして、オンネリとアンネリは彼らを守ることができるのか?
(2)翌日、2人は小人の家族に朝食を用意し、ドールハウスを飾りつける。しかし、お金に困っているガソリンスタンド店の妻が小人の家族の存在に感づく。その妻が家の掃除に勝手にやって来る。そしてドールハウスの小人に気付く。次の日もガソリンスタンド店の妻が掃除に来る。小人を見世物小屋に売ってお金を稼ごうと考えている。テーブルの下に逃げた小人たちを探すが、見つけられず帰る。
(3)森の木々が人間によってチェーンソーで切られ、プティッチャネン(小人)の一家は家を失った。彼らはバラの木夫人に新しい家を作ってほしいと思っている。オンネリとアンネリは、プティッチャネン一族の話を二人の伯母さんに話す。昔、プティッチャネン一族が祖母のところにやって来たという。写真が残っていた。伯母さんたちが小さくなる薬と大きくなる薬を作る。祖母のレシピにもとづく。
(4)小人の男の子プティがいなくなる。彼は外出した。人間と同じように大きくなりたいためだ。伯母さんたちが作った小さくなる薬と大きくなる薬について、プティは知っていた。
(5)オンネリとアンネリが留守の間に、二人の家にガソリンスタンド店の妻が、侵入。「見世物にする」と、小人たちをつかまえる。(プティはつかまらなかった。)その頃、伯母さんたちの家にバラの木夫人から手紙が届く。オンネリとアンネリは伯母さんたちの家からバラの木婦人に電話を掛け、プティッチャネンという小人の5人家族に家を建ててほしいと電話を掛ける。
ていた。
(6)ガソリンスタンド店の妻は、プティッチャネン(小人)の家族を見世物小屋に売り、大金を手に入れる。プティッチャネンの息子プティが大きくなる薬で、人間の2倍以上の身長になる。そしてガソリンスタンド店の妻に家族を返せと要求する。ひどく大きくなった息子にガソリンスタンド店の妻が驚き謝る。オンネリとアンネリたちは、見世物小屋でプティッチャネンの家族を取り戻す。
(7)伯母さんたちの薬(小さくなる薬)で、プティッチャネンの息子は再び小さくなり、小人の身長になる。プティッチャネン一族はプティ・クリスマスにオンネリとアンネリを招待する。2人は薬で小さくなって、プティッチャネン一族(小人)のプティ・クリスマスに参加する。バラの木夫人も、伯母さんたちも小さくなってプティ・クリスマスに参加する。魔術でオンネリとアンネリを含めみんなが空を飛ぶ。
(8)その後、バラの木夫人がプティッチャネン一族(小人)に家をプレゼントする。「大きい人たち」に息子が感謝する。

《感想》オンネリとアンネリが、プティッチャネン一族(小人)と「友人」になれることが素晴らしい。ガソリンスタンド店の妻は、ともかく何よりもお金が欲しい。小人は見世物小屋に売れる高価な「商品」にすぎない。

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