鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」

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鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」 ・・・名作の旅、鬼平犯科帳、羅生門、破獄

2013-06-12 | 「ぷらっとウオーク」 2012年~2015年

名作の旅、鬼平犯科帳、羅生門、破獄

                                                        情報プラットフォーム、No.309、6月号、2013、

 

  暴力対策室の刑事さんに「委員長は池波正太郎の『鬼平犯科帳』を読んだことありますか。」と聞かれた。

この頃、高知県警で捜査費の使い方が大問題となり、 報告を受けるだけといっても良いほどの県公安委員会が、大忙しになっていた。

鬼平犯科帳の文庫本を次々と借りてきた。組織の中で取り込んだ「狗 (いぬ)」や秘かに送り込んだ「密偵」を使って、内偵を進めることは鬼平の必須条件である。

刑事さんは、私に使途を明らかに出来ない捜査費も時に は必要であることを伝えたかったのである。

 取材に来た若い新聞記者から「県監査委員会が出した監査報告に従って、何故、県警は弁済を始めないのか。あれには真実が記載されている。」と質問を受け た。

私は「個人を特定しない条件での面接調査にそれなりの意義は認めるが、弁済となれば警察官各人の納得が必要である。それがなければ今後の士気にも影響する。県警による自前の調査が必要である」と答えた。

さらに「物事に一方的な判断は禁物である。真実や真相とは何か。真実は本当に存在す るのか。芥川龍之介の「藪の中」を読んでから、「羅生門」を見てからでなければ、今後は君と会わないよ。」と言ったことを覚えている。

 先日、企画プロダクションから、吉村昭の「破獄」を採り上げたいので取材協力を頂きたいとの依頼があった。そして、BSフジで放映された「名作を旅してみれば~鬼平犯科帳」の情報が添えられていた。

文学の名作を取りあげるこのシリーズは「旅人が小説の主人公の目で風景を眺め、作家の目線で何かを 感じ、何かを発見する、ちょっと不思議な旅番組である。」と謳っている。

吉村昭の「破獄」は脱獄を繰り返したSさんの実話が元であり、仮釈放にい たる過程で父の鈴木英三郎が大きくが関わっていた。

  正月の2日に子供を連れて実家へ行くのが常だった。今から50年ほど前である。Sさんも1年間の無事を伝えに毎年来ていた。

時間を掛けた巧みな心理操作、北海道での2年間の逃亡中の越冬生活などを、炬燵に当たりながら質問を重ね、録音をさせて頂いた。なお、本誌のNo.202、7(2004) 破獄には、破獄を読んだ娘の視点を記してある。

 対談をして下さる赤川蓮さんとの本番前の雑談の中で、「鬼平」に続く企画は芥川龍之介の「羅生門」と知り、関連の深さに驚いた。これは芥川がどのような意図で創作したか議論が多い作品である。

各人の主観的な言い分だけで構成し、真の真相を読者に託したとも考えられる。一方で、多様な読みがあり、 真相は藪の中であることを示したとも言える。

 三つの名作、「羅生門」、「鬼平犯科帳」そして「破獄」が、同じ企画の中で順次採り上げられ、我が家の居間で話題になったことに不思議な因縁を感じる。

これらに共通する点はその時代背景である。長引く応仁の乱、飢饉や天変地異が続く平安時代末期が「羅生門」である。田沼意次が失脚し、松平定信に よる寛政の改革が始まり、長谷川平蔵が火付盗賊改の長官となったときが「鬼平犯科帳」である。浅間山大噴火、大飢饉、打ち壊しが頻発し、世情が不 穏になっていた。

  「破獄」は、脱獄を4回も繰り返すSさんの衰えることを知らない闘争心もさることながら、戦時統制の時代、そして戦後の疲弊した混乱の時代の 産物かも知れない。

父はSさんの係累が全て亡くなられたことを確かめた時点で吉村氏にテープをお貸ししている。この中で「破獄」だけは、ノンフィ クションであり、吉村昭によるドキュメンタリーである。

なお、4月24日(水)にBSフジで放映された。 

 

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鈴木朝夫 s-tomoo@diary.ocn.ne.jp

〒718-0054 高知県香美市土佐山田町植718

Tel 0887-52-5154、携帯 090-3461-6571

 

 

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1 コメント

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Unknown (まさ)
2014-01-19 09:03:58
先日教えていただきまして、「破獄」を電子書籍kindleで拝読しました。

読み終わって、佐久間受刑者を仮釈放に導いた鈴江所長のヒューマニズムは、まさに鬼平と同じだなと思いました。自分の与えられた職務の中で、目標を達成するためにベストを尽くす。その過程で、常識に捉われない手段を模索しチャレンジする。これを、職場でも家庭でも、仕事の相手に対しても、熱心に伝え、仕事を変えていく。

これは別に刑務官とか法務官僚に限ったことではなく、ありとあらゆる仕事で当てはまる話だと思いました。自分自身の仕事にも、そういう何か、小さなことでも良いので、奇跡みたいなことを実現させたいと思いました。ご紹介下さりありがとうございました。
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