老人大学の「老人」は良くないか?
情報プラットフォーム、No.335 、8月号、2015、掲載
2011年11月に高知県高坂学園生涯老人大学の学長に就任した。それから約1年後、大学名を表題とするエッセイを書いた(情報プラットフォーム、No.300、9(2012))。この書き出しは「最初にこの大学を知ったときには、変な名前だなと感じた。「老人」、「年寄り」のように年齢を 強調する表現ではなく、「シニア」、「シルバー」、「高齢者」のように人生経験を尊重する表現が無難であるとの思い込みがあるためかも知れな い.」であり、最後の締めは「この大学で学生でないのは学長だけ。でも、皆さんとご一緒に、高坂学園で好奇心を絶やさずに、元気老人としての生き 方を楽しむつもりである。こんな素晴らしい学舎(まなびや)があるのは高知県だけである」となっている。
今年の新入生から、そして在籍している学生からも、「老人」の表現には違和感を感じる、「老人」は差別用語ではないのかの疑問もあり、大学の名称を変えた らとの意見が出た。先日の運営委員会での議論となった。学長の考えを聞かれたのである。思い出したのは赤瀬川原平の「老人力」である。以後、「○○力」の流行に火を付けた原点である。
漢和辞典によれば、「老」の用法は、「老師」、「老練」、「古老」、「敬老」のようにプラスの意味と、「老衰」、「老醜」、「老廃物」のよう なマイナスの意味に分かれている。良い意味の方が本来の用法のように思える。
「老」、「老人」などの例を挙げてみよう。
寿老人(七福神の1柱)、養老(日本の元号、渓谷)、老子(周代の思想家、『偉大な人物』を意味する尊称)、南極老人星(カノープス、長寿の 星、明るさがシリウスに次ぐ2番目の恒星)、ヘミングウエイの「老人と海」(The Old Man and the Sea)などが思い浮かぶ。
マイナス・イメージでは、徘徊老人、ボケ老人,独居老人などがある。法律で見れば、老人福祉法(65歳以上、なお高齢者講習は免許更新時70 歳以上)、老人保健法(後期高齢者医療制度に変更)、特別養護老人ホーム、有料老人ホームなどがあるが。
公的な名称でも「老人」を避けようとする傾向が増えているようである。調べてみると、山形県老人クラブ連合会では、高齢者自身が「老人」とい う言葉に抵抗感を覚える傾向があることから、公募により、連合会のマスコット「きららちゃん」の愛称を生かした「きららクラブ山形」に決定したと ある。大阪府が1979年に開校した大阪府老人大学はその後「大阪府高齢者大学」に名称変更している。一方で、「老人」の表現を変えようとの議論 はしたが、結局は変更しないとした事例を探し出すことは困難である。
さて赤瀬川原平オリジナルの「老人力」とは何か? 本の帯には「ろうじん・りょく[老人力]--物忘れ、繰り言、ため息など、従来、ぼけ、ヨイヨイ、耄碌(もうろく)として忌避されていた現象に潜むとされる未知の力」とある。老化による衰えを「老人力がついてきた」とプラスに考えること、老化を 隠して強がるのではなく、素直に認めることである。ところが「老」のプラス面とマイナス面の意味に対応して、「老人力」にも誤用がすぐに発生し た。老人にも頑張る力が残されているの意味での老人力である。しかし、赤瀬川の「老人力」はマイナス面をそのまま受け入れる「力」のことなのであ る。
県生涯老人大学の場合はどうだろうか。歌い慣れている「老(人)大(学)賛歌」の歌詞の一節「老大仲間」も例えば「高齢者仲間」になるが。 2011年に創立30周年を迎えた歴史ある「老大」の名称を生かし続けることも選択肢の一つである。表・裏の「老人力」を十分に発揮しながら、拙 速にならないように、ゆっくりと時間をかけて、老いの一徹で議論を尽くすべきある。その中で「老人とは」の納得できる答えが出ると思う。
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