Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(2月27日) 

2021年02月27日 | 医学と医療
今回のキーワードは,感染拡大防止のためのエビデンス,要注意のカリフォルニア変異株,long COVIDからPASCへ,後遺症としての疼痛・慢性疼痛,ファイザーワクチンのリアルワールドデータ,ワクチン後顔面神経麻痺,コロナを恐れすぎたことによる脳多発病変,重症筋無力症における重症化因子,多発下位脳神経麻痺,抗不整脈薬ベプリコールです.

緊急事態宣言解除後,感染者数はどうなるのか,またgo to travelを再開したり,オリンピックを開催した場合,感染者数はどうなるのか,これらは科学的に考える必要があると思います.参考になる論文が報告されていますので,最初にご紹介します.

◆感染拡大防止のためのエビデンスを周知する必要性.
感染の危険因子は感染者と非感染者の,日頃の行動を比較することで特定できる.米国で2020年半ばに,成人314名を対象に電話調査を実施し,PCR陽性群と陰性群の間で,行動を比較した.この結果,感染と「レストランでの食事」や「バーやコーヒーショップの利用」に関連があることが確認された(図1).いずれも継続的なマスク使用が困難であること,感染者と長時間かつ激しく接触しうること,安全な距離を保つことが困難であることである.逆に買い物,自宅やオフィス,公共交通機関のリスクは高くはない.エビデンスの示されたハイリスク環境における感染リスクを,多くの人に明確に伝える必要がある.→ 緊急事態宣言で飲食業をターゲットにしたことは理に適っている.緊急事態宣言解除後でも,go to travelでも,感染を再度増やさないためには,ハイリスク環境対策が不可欠である.
JAMA. Feb 22, 2021(doi.org/10.1001/jama.2021.1995)



◆カリフォルニアの変異株は感染しやすく重症化しやすい
カリフォルニア州で発見された変異株B.1.427/B.1.429はより感染しやすく,重症化しやすいとScience誌のnews欄に掲載されている.UCSFで診療された324名の変異株感染患者は,その他の感染者と比べて,ICUに入室する頻度が4.8倍,死亡率が11倍以上も高い!またより伝染性が高いことも示唆されている.変異株が感染した老人ホームのクラスターは,他の変異体と比べて2倍以上に速く広がった.この変異体はスパイク蛋白に3つの変異を持ち,その1つのL452R変異は,スパイク蛋白とヒト受容体の相互作用を安定化させて感染力を高めるらしい.この3つの変異は,英国,南アフリカ,ブラジルで出現した変異株には見られない.論文はプレプリントで近日中に公開される.→ オリンピックを開催するためにはこのような変異株への対策が万全でなくてはならない.
Science. Feb. 23, 2021(https://bit.ly/3bJQ08O)

◆long COVIDからPASCへ.
Brain fog(脳霧)や疲労感,微熱,息切れ,睡眠障害,不安・うつなどのCOVID-19後遺症は,これまでlong COVID,long-haul COVID,post-COVID syndromeなどと呼ばれてきたが,米国NIHがpost-acute sequelae of SARS-CoV-2 infection(PASC)と呼ぶこと,ならびにその原因を特定し,予防と治療法を解明するためのプロジェクトを開始することを発表した(研究費4 年間で 11.5 億ドル).→ 急性後遺症(post-acute sequelae)という用語は初めて聞くもので,従来にない病態を反映したものと言えよう.重要なテーマに,迅速に研究費を投入する点は見習うべきであろう.
NIH homepage. Feb 23, 2021(https://bit.ly/3r90wwQ)

◆後遺症としての疼痛・慢性疼痛.
ブラジルから,COVID-19が新規の疼痛と3ヶ月以上持続する慢性疼痛のリスクとなるか検討した横断研究が報告された.対象はCOVID-19罹患後,退院した患者46名と,その他の原因で入院した患者73名(対照群)を比較した.COVID-19群では退院後平均112日で評価した.COVID-19群は,対照群と比較して,新規の疼痛の有病率が高く(65.2% vs. 11.0%,p=0.001),新規の頭痛の有病率も高かった(39.1% vs. 2.7%,p=0.001).新規の慢性疼痛もCOVID-19患者で多かった(19.6% vs. 1.4%,p=0.002).疼痛は頭頸部,下肢に多くみられた(P<0.05)(図2).嗅覚障害を認めた患者では,新規発症の疼痛が多かった.以上より,COVID-19は後遺症として,新規発症の疼痛,慢性疼痛を引き起こし,かつ嗅覚障害と関連する.
Eur J Pain. Feb 23, 2021(doi.org/10.1002/ejp.1755)



◆イスラエルでファイザーワクチン2回接種は,感染の9割をリアルワールドでも予防.
イスラエルの人口の53%(59万6618人)を含む最大のデータを用いて,ファイザーワクチンの有効性を臨床試験でない,リアルワールドデータ(実際の臨床現場から得られるデータ)として評価した研究が報告された.接種群と非接種群には59万6618人が含まれた.1回目の接種後14~20日目および2回目の接種後7日以上経過した時点でのワクチン有効性の推定値は以下の通りであった.PCR陽性の感染については,46%および92%;症候性感染者については,57%および94%;入院については,74%および87%;重症化については,62%および92%であった(図3).死亡予防は,1回目接種後14~20日目で72%であった.PCR陽性感染者と症候性感染者に対する有効性は,年齢によらず一貫しており,併存疾患を有する人でも,有効性がわずかに低下する程度であった.以上より,ワクチンの有効性がリアルワールドでも示された.
New Engl J Med. Feb 24, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2101765)



◆副反応のリアルワールドデータ.
副作用に関するリアルワールドデータも報告された(図4).一過性に局所的および全身的な反応が起こるものの,臨床試験と同様,基本的に安全と言える結果である.ただ2回目の接種時に副反応が多くみられることは認識したほうが良い.この機序は不明であるが,Dr. Debra Powellは「最初のワクチンは,ウイルスにどのように反応するかを体に教えてくれる.1回目でウイルスのタンパク質を認識する抗体とメモリーT細胞で武装し,2回目では免疫系の反応がより強固になる傾向がある」と語っている(https://bit.ly/37RndON).→ 2回目に副反応が強いのは,それだけ保護的な免疫反応が備わった証拠とも言える.また前述したように,2回の接種で保護効果は強くなるので,2回ともきちんと接種することが重要である.
MMWR. February 19, 2021(https://bit.ly/37OUI4c)



◆ワクチン後顔面神経麻痺の2報告.
イタリアからの症例報告.37歳男性がワクチン接種5日後に,左顔面麻痺を発症した.ステロイド内服50 mg/日を開始したが,2週間で完全麻痺に進行し,同側の顔痛も伴った.約1ヶ月経過したが,完全には改善していない.神経生理および髄液検査はしておらず因果関係は不明だが,著者は発症時期からワクチンとの関連を疑っている.
J Neurol. Feb 21, 2021.(doi.org/10.1007/s00415-021-10462-4)

また米国からも,ファイザーワクチンの 2 回目の接種後36 時間で,顔面神経麻痺を発症した57歳女性が報告された.過去3回の顔面神経麻痺の既往歴があったが,いずれもステロイド治療で改善していた.発症72時間後に最も麻痺が高度となったが,14日目から改善傾向がみられた.FDAのワクチンレビューにも顔面神経麻痺が指摘されているようで,稀ながら生じうる可能性はある.
Brain Behav Immun Health. May13, 2021(doi.org/10.1016/j.bbih.2021.100217)

◆コロナ感染を恐れすぎて発症した脳多発病変.
スペインからの症例報告.56歳女性で,4週間の経過で不眠,認知機能低下,パーキンソン症状を呈した.頭部MRIでは淡蒼球,深部白質,小脳半球に両側性の異常信号を認めた(図5).息子の話で,COVID-19感染を恐れるあまり,マスクを1日3回アルコール消毒していたことがわかった.当初はイソプロピルアルコールを使用していたが,メタノールに切り替えてしまったことが判明した.その後,徐々に改善したが,4ヶ月後の現在も重度の障害が残っている.つまり診断は慢性メタノール中毒である.マスクとアルコール消毒で検索すると,少なからぬ記事が見いだされる.このような事例も知っておく必要がある.
Eur J Med, Feb 18.(doi.org/10.1111/ene.14779)



◆重症筋無力症におけるCOVID-19感染の重症化因子.
フランスから重症筋無力症(MG)患者におけるCOVID-19の臨床像と転帰を明らかにし,重症化因子を検討した多施設,後方視的,観察コホート研究が報告された.希少疾患データベースに登録された3558名のMG患者のうち,34名(0.96%)がCOVID-19に罹患した.うち観察期間中に回復した患者は28名で,1名が罹患中,5名が死亡した.重症化因子として同定されたのは罹患前のMGFA分類(≧IV)であった(オッズ比102.6;p=0.004).関連しなかった因子としては,性別,MGの罹病期間,MGFA分類(≦IIIb)が挙げられた.またMGに対する免疫抑制薬やステロイドは,予後不良因子ではなかった.
Neurology Feb 10, 2021(doi.org/10.1212/WNL.0000000000011669)

◆多発下位脳神経麻痺の4症例.
イタリアから人工呼吸器離脱後に,嗄声,嚥下障害,舌偏位を来した4症例が報告された.頭部MRIは造影を含め異常なし.髄液も異常なし.非対称的な迷走神経,副神経,舌下神経麻痺と考えられた.ウイルスの直接感染か,自己免疫による間接的な障害かは不明.いずれにしてもICU治療後に,多発下位脳神経麻痺が生じる可能性を認識する必要がある.これまでも一側性,両側性のTapia症候群(反回神経+舌下神経麻痺)が報告されている.
Lancet Neurol. March, 2021(doi.org/10.1016/S1474-4422(21)00025-9)

◆新たな治療薬候補,抗不整脈薬ベプリコール®
コンピュータによるドッキング解析を用いて,SARS-CoV-2ウイルスのメインプロテアーゼ(Mpro)に対する阻害作用について,FDAないしEMA(欧州医薬品庁)で承認されている約30種類の低分子医薬品の特性を調べた.この結果,ピモジド,エバスチン,ベプリジル(抗不整脈薬ベプリコール®)の3つは,エンドソームpHを上昇させてSARS-CoV-2ウイルスのヒト細胞への侵入を阻害するとともに,感染細胞内のMproを阻害するという2つの作用を増強することが分かった.また,ウイルスを用いたマイクロ中和アッセイにより,ベプリジルはVero E6細胞およびA459/ACE2細胞において,EC50値がmicroMという低い値で,用量依存的に抗ウイルス中和活性を有していることが示された.著者はベプリコール®による臨床試験を真剣に検討すべきと述べている.
PNAS. March 9, 2021(doi.org/10.1073/pnas.2012201118)



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第14回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(MDSJ 2021)ビデオセッション症例解説

2021年02月24日 | パーキンソン病
標題の学会(大会長.福岡大学坪井義夫教授)が2月22日から24日にかけて行われました.WEBでの参加になりましたが,非常に勉強になった素晴らしい学術集会でした.私は「COVID-19と運動異常症」「PSP/CBD治療研究update」という2つセミナーで講師を務めさせていただきました.メインイベントは,学会員が経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,その不随意運動や診断・治療について議論するビデオセッションです.今年の12症例の一覧をご紹介します.当教室からも発表し,伏屋公晴先生の行ったプレゼンテーション(治療が奏功した大脳皮質基底核症候群:抗IgLON5抗体陽性関連疾患)が金賞を受賞しました.とても嬉しく思いました.

1.急性に発症し持続性左下肢限局性強直性けいれんを生じた70歳男性例
70歳男性.入院2週間前から旧に左下肢全体の突っ張りが出現.左下肢は強直し,自動・他動できず,有痛性で1~2Hzの筋痙攣を伴う.髄液,腰部MRI異常なし.
(回答)肺小細胞癌に伴うStiff-limb症候群(抗amphiphysin抗体陽性)・・・Stiff-person症候群の一側下肢限局型.免疫疾患で片側に症候が出現するメカニズムは不明.

2.舌の律動的不随意運動をエコーで評価しえた一例
72歳男性.1年前から喉の違和感.ふるえてしゃべりにくい.安静時に強い舌の不随意運動.下顎の舌からエコーを当てると,安静時に律動性5Hz,挺舌ないし歯を食いしばると3~4秒間止まるが,また再開する.
(回答)パーキンソン病の舌振戦(re-emergent tremor)・・・全身にも軽度のパーキンソニズムを認め,L-DOPA内服で改善した.

3.顔面と下肢の進行性不随意運動を呈した59歳男性
59歳男性.10日ほどの経過で,顔面と下肢の不随意運動(ミオクローヌス)が進行した.また眼瞼下垂,失調,筋力低下,腱反射亢進に加え,高血圧,尿閉,便秘を合併した.頭部,脊髄MRIは異常なし.3Hz反復刺激でwaningなし.血中カテコラミン濃度上昇.眼輪筋の強い収縮,球麻痺,呼吸不全が出現し,人工呼吸器管理.
(回答)抗グリシン受容体抗体を有する progressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus(PERM)・・・この不随意運動はspasmodic reflex myoclonusと呼ばれている(Stayer C et al. Neurologia. 1998 Feb;13(2):83-8).種々の免疫療法を行い,人工呼吸器は離脱した.

4.突然発症の片麻痺と対側に出現した不随意運動を呈した一例
89歳女性.膵癌の既往.突然の左片麻痺にて発症(左下肢不全麻痺).同時に右上下肢に不随意運動出現(ヘミコレア).MRAで右MCA水平部近位から途絶.DWIで右被殻,淡蒼球,前頭葉皮質に異常信号.なぜ右半身に不随意運動が出現したか?
(回答)一側の視床下核病変で,両側のヘミバリズム・ヘミコレアが出現するが,左片麻痺があるため,右側にのみ不随意運動が出現する.STN-DBSでも同側にジスキネジアが出現することがあるとのこと.

5.ふらつきと物忘れを主訴に受診した男性例(銀賞)
60歳男性.16年前から歩行時のふらつき.徐々に増悪した.四肢失調に加え,コレア,変動性の物忘れも見られた.顔面の小色素沈着(しみ,そばかす)と一部,皮膚がんも見られた.日光過敏あり.頭部MRIで,小脳,脳幹,大脳の萎縮.
(回答)小脳萎縮を合併した色素性乾皮症・・・通常,生命予後は不良で,罹病期間30年程度のことが多く,本例のような症例は稀である.

6.不規則な足趾の不随意運動をきたし拡大胸腺摘除術後に消失を認めた後天性自己免疫性Rippling muscle diseaseの64歳男性例
64歳男性.運動後の筋強直にて発症.筋の叩打後の隆起(筋の過興奮現象)あり.CK上昇.筋生検にて,Rippling muscle diseaseで認められるcaveolin-3のモザイク状の発現低下あり.多くの症例で認めるcaveolin-3遺伝子変異はエクソーム解析でなし.合併して認められた下肢の有痛性の不随意運動は何か?
(回答)いろいろな意見が出たが,胸腺摘出術後に改善したことから自己免疫性の病態が考えられる.不随意運動については,主治医はpainful legs and moving toe syndromeの合併を考えている.

7.下肢に強い左半身失行の1例(金賞)
岐阜大学からの症例.4年の経過で,左半身の失行(動画では時間がなく示せなかったが上肢にも肢節運動失行や観念運動失行あり),右上肢筋強剛,右下肢ジストニア,腰を引く小刻み歩行,皮質性感覚障害を呈するが,認知機能障害なし.ある治療を行い,症候は顕著に改善した.右半球優位の萎縮,DATシンチで左右差.
(回答)CBSの表現型を呈した抗IgLON5抗体関連疾患・・・IVIGにて症候はかなり軽減した.

8.振戦とジストニアを呈し、脳波異常、DAT SCAN低下を示した15歳男児
15歳男児.言語発達の遅れ.13歳で右手の振戦と歩行障害が出現.徐々に増悪した.下肢および左手にジストニア.夕方に症状は悪化傾向.知能も軽度低下.DATシンチ両側で低下.
(回答)瀬川病(DYT5A)・・・L-DOPAが有効であった.

9.自己免疫機序が想定される半側舞踏病の68歳女性の例
68歳女性.2年ほど前から左手足が勝手に動くようになった.当初,年数回であったが,徐々に増加した.家族歴はなく,既往歴にGraves病があった.左上肢の筋トーヌス低下.認知症なし.髄液異常なし,腫瘍検索異常なし.抗TPO抗体陽性.DATシンチ正常.
(回答)抗TPO抗体に関連した自己免疫性舞踏運動・・・抗TPO抗体が病因となる自己抗体かは不明.非腫瘍性の自己免疫性コレアとしては,IgLON5やCASPR2,GAD65,CRMP-5/CV2といった報告がある.

10. 階段を下りる際に脚が勝手に動く女性(銅賞)
59歳女性.20歳ごろから階段を降りる際にのみ,右足を前に蹴り出すような不随意運動が見られる.股関節が過屈曲し,膝関節は過伸展する.
(回答)task-specific dystonia of stepping down stairs・・・動作特異的ジストニアである.狭い家屋のため,階段が急である京都において認めることがあるジストニアとのこと.トリヘキシフェニジルが半数で有効.階段を緩やかにすると良い.

11. 1歳からの精神運動退行と小脳萎縮を認めた4歳女児~小児と成人で異なる表現型を示す ある遺伝性疾患~
4歳女児(インドネシア人).家族歴なし.1歳で歩行や会話が困難になった.眼振,嚥下障害,視神経萎縮,痙性と腱反射亢進,筋トーヌス低下を認めた.1歳の時点で小脳萎縮あり.両側淡蒼球の異常信号(鉄沈着).
(回答)PLAN(PLA2G6-associated neurodegeneration)のうちのINADタイプ(infantile neuroaxonal dystrophy)・・・成人の表現型であるPARK14(ジストニア・パーキンソニズム)とは異なる.

12. 慢性片頭痛患者に発現した持続性不随意運動:ブレクスピプラゾールによるアカシジア?
50歳女性.20歳から頭痛.40歳から連日となり,慢性片頭痛と診断される.スマトリプタン,バルプロ酸,トピラマートにて改善.7年前から抑うつ.オランザピンおよびブレクスピプラゾールにて改善.しかし坐位で左下肢の貧乏ゆすり状の不随意運動出現,立位で消失.歩行も遅くなった.MRI,MIBG心筋シンチ異常なし.
(回答)薬剤性遅発性ジスキネジア・・・薬剤中止2週間で改善した.




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「第 1 回 岐⾩県多“⾷”種連携研究会」にご参加ください!

2021年02月21日 | 医学と医療
神経難病緩和ケアの重要な柱のひとつが「嚥下障害」への対応です.自分は食べることが大好きなので,食べられないつらさが分かります.岐阜県においてこの問題に関心をもつ仲間が集まり,多職種で連携できたら素晴らしいなぁと考え,研究会を立ち上げました.谷口裕重先生(朝日大学),中澤悠里先生(近石病院)らがリーダーシップを発揮してくださり,いよいよ第1回研究会を4月11日(日)に開催する運びとなりました.会場とウェブを用いたハイブリッド形式で行いますので,岐⾩県以外の皆様もご参加いただけます.

午後には嚥下医学の第一人者,藤島一郎先生(浜松市リハビリテーション病院)による特別講演があります!また楽しみにしておりますのは,午前中に行われる「岐⾩県多“⾷”種連携のいま,そして未来」と題したシンポジウムです.①医師,②⻭科医師,③⾔語聴覚⼠,④看護師,⑤薬剤師,⑥栄養⼠,⑦理学療法⼠,⑧⻭科衛⽣⼠,⑨作業療法士が登壇し,「他職種に何が提供できるのか」「今後,何が必要か」「どのような連携をはかりたいと思っているのか」を議論します.ここまで大規模な多職種連携の会は知る限り初めての試みではないかと思います.ぜひ多くの人にご参加いただきたいと思います. 参加チケットは,下記ポスターのQRコードからお願いします.

研究会 Facebookページ






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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(2月20日)  

2021年02月20日 | 医学と医療
今回のキーワードは,感染後6ヶ月における後遺症と認知機能低下,COVID-19に関連する頭痛の分類と機序,大脳皮質の毛細血管に生じた見たこともない変化,重症患者における眼球の異常所見,SOFAスコアはトリアージには向いていない,入院早期の抗凝固薬使用の効果,動物実験における点鼻薬による感染防止成功です.

長期経過観察による後遺症に関する研究が中国に続き,米国からも報告されました.やはり疲労感や味覚・嗅覚障害が頻度として多いようです.先週,ご紹介したbrain fog(脳霧)の頻度も2.3%と報告されています.注目すべきは入院せずに済んだ軽症患者であっても後遺症が多いということです.さらに別の研究で,軽症患者であっても,感染しなかった人と比べ,認知機能低下が生じる頻度が18倍も高くなることが報告されました.もしこれが多数例でも証明され,事実ということになるとかなり衝撃的で,「一体,軽症患者の脳内で何が起きているのか?」という議論になると思います.まず思いつくのはSARS-CoV-2ウイルスが神経組織に感染する能力をもつこと(神経向性:neurotropism)と,末梢のサイトカイン放出による脳障害ですが,これに加えて大脳の毛細血管に通常みられない巨核球(血小板を産出する造血系細胞)が存在することが新たに発見されました.ウイルスの中枢神経への長期的影響がまだ分からないため,改めて感染防止が重要であると思いました.

◆感染後6ヵ月間追跡調査にて,約30%の患者が症状の持続を報告.
米国からの報告.COVID-19患者177名が対象で,内訳は軽症の外来患者150名(84.7%),入院を要する中等症または重症16名(9.0%),無症状11名(6.2%)と外来患者が多かった.最も多かった後遺症は,疲労感(177名中24名[13.6%])と嗅覚・味覚の喪失(24名[13.6%])であった(図1).Brain fog(脳霧)が4名(2.3%)に認められた.外来患者と入院患者のうち51名(30.7%)が,病前と比較して健康関連QoLの悪化を報告した.9名の非入院患者を含む14名(7.9%)が少なくとも1つの日常生活動作(ADL)に悪影響を及ぼした(最も多かったのは家事であった). → COVID-19の後遺症は,軽症の外来患者であっても無視できない.
JAMA Netw Open. 2021;4(2):e210830. doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.0830



◆感染後6ヵ月における認知機能低下.
COVID-19の遅発性の神経後遺症に関する情報はほとんどない.エクアドルから,COVID-19軽症患者の認知機能を経時的に検討した研究が報告された.40 歳以上で,パンデミック前の認知評価と頭部MRI および脳波が正常であった,脳卒中およびてんかんの既往がない者を対象に,感染発生から 6 ヵ月後に評価を行った.酸素療法を必要とした患者,入院を必要とした患者,急性期に神経症状を呈した患者は除外した.認知機能の低下は,パンデミック前後でモントリオール認知評価(MoCA)スコアの低下が,パンデミック前の 2 回における低下よりも 4 ポイント以上低下したものと定義した.MoCA低下(図2)の頻度は,COVID-19軽症患者では11/52 例(21%),対照では1/41 例(2%)であった.COVID-19患者における認知機能低下のオッズは18.1倍(!)高かった(P=0.015).軽症COVID-19患者における認知機能低下を示唆するものであるが,発症機序は不明である.
Eur J Med. Feb 11, 2021(doi.org/10.1111/ene.14775)



◆COVID-19に関連する頭痛の分類と機序.
Headache誌のeditorialにおいて,以下のような分類が提案された.

(二次性頭痛)
・全身性ウイルス感染に伴う頭痛
・サイトカイン放出症候群
・COVID-19の直接感染に関連するその他の原因(血管性,非血管性)

(一次性頭痛)
・ウイルス感染そのものが引き金となって起こる頭痛(通常は片頭痛)
・COVID-19感染がおさまった後のストレス軽減(ホッとすること)が引き金となる片頭痛
・COVID-19感染に関連したストレスのかかるライフイベント,心的外傷後ストレス障害により引き起こされた片頭痛慢性化
・COVID-19感染症に伴う新規発症持続性連日性頭痛
Headache. Feb 16, 2021(doi.org/10.1111/head.14085)

◆大脳皮質の毛細血管における巨核球の発見.
米国からの報告.COVID-19患者15名と,年齢が同程度で,脳の虚血性変化を認める対照2名を病理学的に比較した.前者では5/15名(33%)の大脳皮質の毛細血管において,形態学的に巨核球(血小板を産出する造血系細胞)と思われる大きな細胞核が同定された(図3A).血小板と巨核球のマーカーであるCD61(図3B)とCD42b(図3C)による免疫染色を行ったところ,いずれも陽性に染色され,巨核球と考えられた.この細胞は,死後の血管内に見られる血小板の集族とは異なる所見であった(図3D).虚血性変化を呈した2名ではこのようなCD61陽性巨核球は認めなかった.著者らは,パンデミック前に,このような脳血管における巨核球を見たことはなく,渉猟した限り,文献にも見当たらなかった.これまでCOVID-19では血管内皮障害がみられ,重症化に関与する可能性が示唆されている.肺における巨核球が存在することは明らかにされていたが,血管内皮障害等により循環血液中に入り,肺を通過した可能性がある.これらの巨大細胞が毛細血管を閉塞させて,虚血性変化を引き起こし,非特異的な神経障害をもたらす可能性がある.
JAMA Neurol. Feb 12, 2021(doi.org/10.1001/jamaneurol.2021.0225)



◆重症患者における眼球黄斑部の結節所見.
重症COVID-19の129名のMRIの評価で, 9例(7%)に眼球に異常所見を認めた(男:女=8:1,56±13歳).具体的には眼球後極に1つまたは複数のFLAIR高信号結節を認めた(図4).全例,結節は黄斑部にあり,8/9(89%)は両側で,2/9(22%)では黄斑部外にも結節を認めた.これらの患者をスクリーニングすることで,CPVID-19に伴う重篤な眼症状の可能性がある患者の管理が改善されるかもしれない.
Radiology. Feb 16 2021(doi.org/10.1148/radiol.2021204394)



◆SOFAスコアは人工呼吸器トリアージに使用するには予測能が低い.
SOFA(sequential organ failure assessment)スコアは,重要臓器の障害度を数値化した指数である.呼吸器,凝固系,肝機能,心血管系,中枢神経系,腎機能の6項目について,臓器障害の程度を0から4点の5段階で評価する.スコアが5を超えると死亡率は20%と言われている.COVID-19において,人工呼吸器装着の決定に関する26のトリアージ方針が報告されているが,うち20個では何らかの形でSOFAスコアを使用されている.人工呼吸器トリアージにおけるSOFAスコアの有用性を検証する目的で,米国から18のICUにおける患者675 名を後方視的に検討した研究が報告された.SOFAスコアの中央値は6(四分位間範囲,4~8)であった.SOFAスコアに対するROC曲線のAUC(Area Under Curve)は0.59と予測能は低く,単に年齢を用いた場合のAUC 0.66よりも低かった(P = 0.02).この原因は,SOFAスコアが敗血症患者を対象に作成されたことが影響したものと考えられる.より良い指標を作成する必要がある.
JAMA. Published online February 17, 2021. doi:10.1001/jama.2021.1545

◆入院後24時間以内の抗凝固薬使用は死亡率を低下させる.
抗凝固薬の効果を検討する米国からの報告で,主要評価項目は入院後30日後の死亡率とした.COVID-19で入院した4297名のうち,3627名(84.4%)が入院後24時間以内に予防的抗凝固療法を受けていた.その99%以上(3600名)がヘパリンまたはエノキサパリンの皮下投与であった.入院後30日以内に622名が死亡したが,うち513名が予防的抗凝固療法を受けていた.死亡のほとんど(510/622人,82%)は入院中に発生した.30日目の累積死亡率は,予防的抗凝固療法を受けた患者で14.3%,受けなかった患者で18.7%であった.予防的抗凝固療法を受けていない患者と比較して,受けた患者では30日死亡リスクが27%減少した(ハザード比0.73,95%信頼区間0.66~0.81)(図5).抗凝固療法を受けても,輸血を必要とする出血のリスクの増加は生じなかった.
BMJ. Feb 11, 2021(doi.org/10.1136/bmj.n311)



◆動物実験における点鼻薬による感染防止の成功.
SARS-CoV-2ウイルスの感染は,ウイルススパイク蛋白と宿主細胞の膜の融合によって始まる.この感染第一段階の膜融合を阻害するリポペプチド融合阻害剤がオランダで設計された.その二量体をフェレットに連日,経鼻投与すると,感染動物と24時間,一緒に飼育し,投与しない動物が100%感染するという厳しい条件の下でも,感染伝播を完全に防ぐことができた.このリポペプチドは安定性が高いため,感染減少につながる,安全で効果的な鼻腔内予防薬として利用できる可能性がある.
Science. Feb 17, 2021(doi.org/10.1126/science.abf4896)

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(2月13日) 

2021年02月13日 | 医学と医療
今回のキーワードは,アナフィラキシーを来した66名の予後,イスラエルにおける初回ワクチン接種による2つの効果,後期臨床試験中のワクチン一覧,片頭痛患者のワクチン,抗VEGF抗体の効果,脳症と脳炎のサイトカインの大きな相違,データベースNeuroCOVID,Brain fog(脳霧)です.

もうひとつ印象に残ったキーワードは「外出制限」です.パンデミック後,感染防止のために一部の高齢者施設や,重度心身障害者が療養する病院で,外出許可がストップしている状況であることを知りました.施設内クラスターの防止は非常に重要である一方,それにより貴重な時間や機会まで奪ってしまって良いのだろうかと関係者の悩みは大きいものと思います.厚労省による「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」では「屋外での運動や散歩など,生活や健康の維持のために必要なものについては外出の自粛要請の対象外」との記載もあります.一律外出不許可のメリットとデメリットを科学的に判断することが求められているように思います.

◆ワクチン接種の利点は,治療可能であるアナフィラキシーのリスクをはるかに上回る.
米国から,ワクチン有害事象報告システム(VAERS)によるアナフィラキシーについて報告がなされた.2020年12月14日から2021年1月18日に,ファイザーワクチン994万3247回分とモデナワクチン758万1429回分が接種された.その中でアナフィラキシー66件が確認され,以下の点が分かった.
1)ファイザーワクチンは47件(4.7件/100万回),モデナワクチンは19件(2.5件/100万回)で,両ワクチンのアナフィラキシーの臨床的特徴は似ている.
2)出現時間が30分以内と30分以降の群を比較して,臨床像の差異は認めない.
3)21/66例(32%)では他のアレルゲン暴露によるアナフィラキシーの既往があった.具体的にはワクチン(狂犬病,インフルエンザA[H1N1],季節性インフルエンザ),造影剤(ガドリニウム,ヨウ素ベース),不特定の輸液,スルファ剤,ペニシリン,プロクロルペラジン,ラテックス,クルミ,木の実,クラゲの刺傷が含まれていた.
4)治療として,61/66例(92%)でエピネフリンが使用された.32/66例(48%)が入院し,7例は気管内挿管された(顔面,舌,喉頭の血管浮腫が4例).その他,コルチコステロイド,抗ヒスタミン薬が使用された.
5)入院期間は1~3日で,死亡例は報告されていない.
以上より,アナフィラキシーはやはり稀であり,COVID-19の罹患率,死亡率を考慮すると,ワクチン接種の利点は,治療可能であるアナフィラキシーのリスクをはるかに上回っている.

◆ワクチン初回接種13~24日後の感染の相対リスク減少は51.4%.
イスラエルからファイザーワクチン(BNT162b2)の初回接種後のリアルワールドでの短期有効性についての後方視的研究が報告された.第III相試験の結果から,接種後13~24 日目のCOVID-19感染の発生率が,それ以前(1~12 日目)の発生率と比較して低下するという仮説を立てた.対象者は,2020年12月19日から2021年1月15日までの間にワクチンを接種した16歳以上の50万3875人(平均年齢59.7歳)とした.COVID-19の平均1日発症率は,1~12日目の43.41人/10万人から,13~24日目の21.08人/10万人へ,51.4%の相対リスク減少がみられた.この低下は初回接種後18日目から明らかとなった(図1).相対リスク減少は,60歳以上(44.5%),若年者(50.2%),女性(50.0%),男性(52.1%)で調べても同様であった.また併存疾患を持つ群においても同様であった.もちろん十分な防御効果を得るため,2回目の接種を行う必要がある.
medRxiv. Jan 29, 2021(doi.org/10.1101/2021.01.27.21250612)



◆ファイザーワクチン接種者は,感染後ウイルス量が抑制され感染拡大を防止する.
COVID-19ワクチンは,個々のワクチン接種者を感染から保護するだけでなく,感染した時のウイルス量を減少させ,その後の2次感染も抑制するのではないかと期待されている.イスラエルから,プレプリントながら興味深い論文が報告された.ファイザーワクチン(BNT162b2)を1回目接種し,接種後12~28日後に感染した場合(1755名),接種後11日までに感染した場合(1142名)と比較して,ウイルス量が有意に減少していることが示された(図2;差=2.1±0.2;Pウイルス量の減少は,感染力の低下をもたらすことが他の研究により示唆されており,感染拡大防止に対するワクチンの効果がさらに期待される.
medRxiv. Feb 08, 2021(doi.org/10.1101/2021.02.06.21251283)



◆後期臨床開発ステージにあるワクチン一覧.
COVID-19ワクチン開発の現状と,高齢者や併存疾患を有する患者に対するワクチン開発の方向性に関する総説が発表された.その中で,開発ステージが後期に到達したワクチンの一覧が示されている.ファイザーやモデルナといったmRNAワクチン以外に,アデノウイルスベクターワクチン,組換え蛋白質ワクチン,不活化ウイルスワクチン,DNAワクチンが開発されている.有効性と保存温度の情報も記されている.今後,さらに良いワクチンが開発され選択される可能性がある.
Sci Transl Med. Feb 3, 2021(doi.org/10.1126/scitranslmed.abd1525).



◆片頭痛治療中の患者におけるワクチン接種についてのエキスパートオピニオン.
今回,米国の頭痛およびワクチンの専門家が共著によるエキスパートオピニオンを発表した.要点は以下の3点である.
1)COVID-19ワクチンと,CGRP経路に対する抗体ないしオナボツリヌス毒素A注射(本邦未承認:慢性片頭痛の予防療法に使用)は相互作用するというエビデンスはない.よって,ワクチン接種や片頭痛治療のタイミングをずらす必要はない.むしろワクチン接種および片頭痛予防療法はともに有効であることから,いずれの治療も遅らせないことが重要である.
2)抗CGRP経路に対する抗体を上腕に接種する患者では,COVIDワクチンを接種した腕と反対側に接種すれば,注射部位に反応が生じた場合の混乱を避けることができる.
3)ワクチン接種前にNSAIDsやアセトアミノフェンを日常的に使用することは推奨されないが,ワクチン接種後に発熱や頭痛が出現した場合には,これらの治療法は第一選択となる.
Headache. Feb 05, 2021(doi.org/10.1111/head.14086)

◆効果が証明されていない治療薬の外来小売状況.
COVID-19の治療薬として期待されているものの,他の疾患でのみ承認されている薬剤の外来での小売調剤頻度を調べた研究が米国から報告された.パンデミック前と比較し,処方件数が50%以上上回った治療薬を調べたところ,イベルメクチン,クロロキン,亜鉛,ヒドロキシクロロキン,ビタミンC,デキサメタゾン,ロピナビル・リトナビルの7剤が該当した.ヒドロキシクロロキン(図4A),クロロキン,ロピナビル・リトナビルは一度ピークを示したが,有効性が証明されなかったため,その後は減少した.一方,イベルメクチン(図4B),亜鉛(図4C;おそらく味覚障害に処方),デキサメタゾン(図4D)は,2020年秋以降,全国的に増加している.全国的モニタリングは,重篤な有害事象のリスクがある薬剤(例:ヒドロキシクロロキン,デキサメタゾン),有効性が確立されていない薬剤(例:イベルメクチン)については継続されるべきである.→ 日本の状況も気にはなる.
JAMA Intern Med. Feb 11, 2021(doi.org/10.1001/jamainternmed.2021.0299)



◆抗VEGF抗体が治療薬として有効?
COVID-19が引き起こす肺および血管の病理学的変化に基づいて,抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬であるベバシズマブ(アバスチン®)の治療有効性を検証する単群試験が,中国とイタリアの2施設で行われた.仮説はARDSによる低酸素がHIF-1を介して,VEGF発現を誘導し,血管透過性亢進と炎症がもたらされるというものだ.対象は呼吸回数,酸素飽和度またはPaO2/FiO2から定義された重症患者26名とした.標準治療にベバシズマブを併用すると,1日目と7日目のPaO2/FiO2比が顕著に改善した.28日目までに24例(92%)が酸素化の改善を示し,17例(65%)が退院,呼吸状態の悪化や死亡は認められなかった.画像所見でも7日以内に有意な改善が認められた.発熱した14例中13例(93%)が72時間以内に解熱した.ベバシズマブは同程度の対照群と比較して,酸素化を改善し,酸素維持時間を短縮した.今後,無作為化比較試験が必要である.
Nat Commun 12;814, 2021(doi.org/10.1038/s41467-021-21085-8)

◆サイトカインから見ると脳症と脳炎はまったく異なる.
ブラジルからCOVID-19に関連した神経疾患の種類別の髄液,血清中のサイトカインのパターンについての研究が報告された.対象は①難治性頭痛(H:12例),②脳症(E:22例),③炎症性神経疾患(IND:13例,内訳はADEM 2例,脳炎2例,髄膜炎2例,髄膜脳炎4例,急性脊髄炎3例,視神経脊髄炎1例)に分類された.炎症性神経疾患(IND)は,髄液中のIL-2,IL-4,IL-6,IL-10,IL-12,CXCL8,およびCXCL10が上昇していた.一方,脳症は,血清のIL-6,CXCL8,活性型TGF-β1が上昇していた.図5はそれらをヒートマップに表したものである.つまり炎症性神経疾患は全身の炎症を伴わず,中枢神経において炎症を来す疾患と言える.また脳症は,SARS-CoV-2ウイルスが神経へ直接浸潤して炎症を来す疾患ではなく,末梢における炎症性サイトカイン増加の影響を受けて発症するものと言える.→ 言われてみれば当然の結果であるが,これを明確に示した点で素晴らしい研究である.
Ann Neurol. Feb 6, 2021(doi.org/10.1002/ana.26041)



◆米国NIHが神経症状を追跡するデータベースNeuroCOVIDを発表.
COVID-19は身体のさまざまなシステムに影響を及ぼすが,ウイルスが除去された後も神経系に及ぼす影響は大きく,長期持続しうる(long COVIDないしPost-COVID syndrome).このため,米国で,COVID-19に関連する神経学的症状,合併症,転帰,および既存の神経疾患へのCOVID-19の影響についての情報を臨床医から収集するデータベース「COVID-19 Neuro Databank/Biobank(NeuroCOVID)」が作成された.匿名化された情報をオンラインで提出でき,生物試料も,バイオバンクに提供することができる.米国国立衛生研究所の国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)によってサポートされている.
NIH launches database to track neurological symptoms associated with COVID-19(https://bit.ly/3rICusy)

◆Brain fog(脳霧)の病態仮説.
上記のCOVID-19後遺症における症状のひとつに,brain fog(脳霧)と呼ばれるものがある.マスコミの方からbrain fogについて質問があり,調べてみたが医学文献における記載は2020年にグルテン過敏症の症状として記載したもの程度である.どうも明確な定義はなく,「脳の中に霧がかかったような」認知機能障害の一種で,記憶障害,知的明晰さの欠如,集中力不足,精神的疲労などがみられるようだ.2015年にThe Brain Fog Fix(Dr. Mike Dow著)という書籍があり,これがオリジナルかもしれない?.今回,COVID-19後遺症としてのBrain fogの機序について議論した論文がチェコから報告された.COVID-19感染後に脳内ミトコンドリア機能障害が生じ,高いエネルギー代謝を必要とする神経細胞に機能不全が生じているという説である.ただし全くの仮説であり根拠も乏しく,Brain fogが一体なぜ生じるのか,深い霧がかかったままである.
Med Sci Monit. 27:e930886, 2021(doi.org/10.12659/MSM.930886)


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球麻痺型ALSの新たな鑑別診断:他の部位に進展をしない症例では抗IgLON5抗体の測定を!

2021年02月09日 | 運動ニューロン疾患
「抗IgLON5抗体関連疾患」は神経細胞接着分子のひとつIgLON5を認識する抗体を有する自己免疫性神経疾患である.視床や脳幹被蓋にリン酸化タウが沈着するため「自己免疫性タウオパチー」とも考えられている.また軽度ではあるものの,脊髄前角にもリン酸化タウ蓄積を認める.臨床的に多彩な表現型を呈し,まず4病型,①睡眠障害(睡眠関連呼吸障害,睡眠時随伴症:つまりノンレムないしレム・パラソムニア),②球麻痺症候群,③PSP様症候群,④認知機能障害が報告された.その後,さらに小脳症候群,そして私どもが報告した大脳皮質基底核症候群(Mov Disord Clin Pract. 2020 doi.org/10.1002/mdc3.12957)も報告された.

さて今回,スイスから,球麻痺型ALSに似た表現型を呈し,一部で免疫療法が有効であった症例が報告された.つまりALSと臨床診断された症例の一部に,免疫療法が奏効する一群が頻度不明ながら存在する可能性があり,臨床的意義が大きいことからご紹介したい.症例は,2017年8月から2019年11月までにスイス・チューリッヒ大学病院神経筋センターに紹介された5症例で,年齢は52~74歳(中央値70歳),全例男性であった.また全例,自己免疫疾患や腫瘍の既往はなかった.初発症状は閉塞型無呼吸3名(1名は呼吸困難,パラソムニア合併),嚥下障害1名,嗄声1名であった.全員で痙性,腱反射亢進,軽度の四肢の筋力低下・筋萎縮,舌と末梢筋の線維束性収縮を認めたことから,球麻痺型ALSと考えられた.球麻痺と呼吸筋麻痺は重篤であったが,ALSとして典型的な,他の部位への進行性の症候の広がりを認めなかったため,Awaji診断基準を満たさなかった.髄液では細胞増多はないものの,軽度~中等度の蛋白上昇を認めた.血清・髄液の抗IgLON5抗体が陽性で,過去にALSと診断した典型例の検索では抗体陰性であったため,抗IgLON5抗体関連疾患と診断された.5名のうち2名が免疫療法により嚥下関連QOL,体重,身体活動の改善を示し,1名では嚥下と食事が可能となった.しかし完全に回復するわけではなく,喉頭機能障害は持続し,また気管切開も必要であった.病理所見の報告はなし.

★ 以上のように,球麻痺発症ALSを疑わせるものの,他の部位に進展をしない症例のなかに,抗IgLON5抗体関連疾患が含まれている可能性が示唆されました.本抗体は当科でCBA法にて測定できるため,もし以下のような症例がいらっしゃいましたらご相談いただければ幸いです.

1)発症早期から,上気道閉塞による閉塞型無呼吸,喉頭喘鳴,急性呼吸困難発作,顕著な睡眠障害,重度の嚥下障害を認める.
2)軽度の四肢の筋萎縮・筋力低下は見られるが,基本的に球麻痺,呼吸筋麻痺が主体で,他の部位に進展せず,Awaji基準を満たさない.
3)髄液蛋白は軽度から中等度上昇.


Werner J, et al. Anti-IgLON5 Disease: A New Bulbar-Onset Motor Neuron Mimic Syndrome. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2021 Feb 2;8(2):e962.  



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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(2月6日) 

2021年02月06日 | 医学と医療
今回のキーワードは,増加する無症候性感染者,表面感染は過度に恐れなくて良い,感染経験者のワクチン接種は1回で十分,英国変異株と南アフリカ変異株へのファイザーワクチンの効果,ロシアSputnik Vワクチンの成功,ヘパリンの抗ウイルス効果,パーキンソン病とワクチン接種,COVID-19感染多発性硬化症患者の剖検例です.

オリンピック開催の是非について,WHOは「科学的な根拠や,その時点での危険性に基づき,決断しなくてはならない」と述べています.開催のためには,少なくとも,国内における感染の抑え込みと海外からの感染持ち込みの阻止が不可欠だと思います.後者において重要なポイントは,無症候性感染者の入国をいかに防ぐかだと思います.重要なエビデンスが中国から報告されていますので,最初にご紹介します.

◆外国人旅行者における無症候性感染者の増加.
中国は2020年4月1日から,陸海空路で入国する外国人に対し,国境検問所でPCR検査を義務付けている.陽性者は隔離入院,陰性であっても14日間隔離され,13日目に再検査を受けることになっている.今回,中国への外国人入国者のうち,無症候性感染者の割合を調べた後方視的研究が報告された.2020年4月16 日から10月12日までの間に,PCR陽性が判明したすべての外国人入国者が対象となった.入国した1939万8384人の外国人旅行者のうち,3103人が感染していた.75.5%が男性で,20~49歳が80.8%を占めていた.うち1354人(43.6%)が症状あり,137人(4.4%)が無症状で,後に発症した.残り1612人(51.9%)は13日目まで症状がみられず,無症候性感染者と考えられた.この無症候性感染者の割合は,4月の27.8%から,10月の59.4%へ経時的に増加した(P<0.001).以上より,世界的に無症候性感染者が増加していることが判明した.→ 無症候性感染者を徹底的に検査する厳密さが中国における再発防止を可能にしている.オリンピックを開催する場合,この対応ができなければ,無症候性感染者から容易に大量の変異株が持ち込まれることになりかねない.
JAMA. 2021;325(5):489-492.(doi.org/10.1001/jama.2020.23942)



◆物質の表面を介した感染は一般的な感染経路ではない.
Nature誌のFeature欄に,物質の表面に付着するSARS-CoV-2ウイルスから感染することはほとんどないという記事が掲載された.2020年3月末,ウイルスがプラスチックやステンレスに数日間残留しうることが報告されて以来(New Engl J Med 382; 1564-7, 2020),ドアノブから食料品に至るまで除染法が次々と発表された.WHOも家,バス,教会,学校,商店などで,頻繁に触れる表面の清掃と消毒を推奨したため,消毒剤も一時,不足する事態になった.しかし,微生物学者のGoldmanはSARS-CoV-2が汚染した表面を介して,人から人に感染することを裏付ける証拠はほとんどないというコメントを7月に発表した(Lancet Infect Dis 20;892-3, 2020;doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30561-2).他の多くの検討も同様の結論に達している.そもそもウイルスRNAの存在は感染性とイコールではない.実際,米国CDCはすでに5月に,表面感染について「ウイルスの主な感染経路ではない」と述べている.しかし表面感染の可能性は完全には否定できないため,手洗いは引き続き重要である.むしろ表面の消毒・殺菌より,換気システムの改善や空気清浄機設置の方が大切である.→ 学会でマイクの使用の都度,消毒する場面を見たが,そこまで神経質でなくてもよいのかも知れない.そうは言っても新幹線のテーブルを除菌ペーパーで拭くとは思うが・・・
Nature. 590;26-28, 2021(doi.org/10.1038/d41586-021-00251-4)

◆感染経験者ではワクチン接種1回で十分な抗体価が得られる.
ワクチンに関する疑問の一つに,すでにCOVID-19に感染した人は「ワクチンを打つべきか?打つとしたら1回,2回いずれが良いか?」というものがある.米国からプレプリント論文であるが,過去に感染した41名に対するワクチン1回接種後のスパイク蛋白に対する抗体価は,感染したことのない68名の人が2回ワクチン接種する場合と比較して,10倍以上,上回ることが報告された.図2Aを見ると,過去に感染していてもワクチン接種により抗体価が上昇すること,かつ1回接種でも2回接種と抗体価は同等であり,1回で十分であることが分かる.1回接種で済めば,接種部位の不必要な痛みを避けることができ,その分,ワクチンも多くの人に行き渡ることになる.また,過去に感染した人では,ワクチン接種後に,疲労,頭痛,寒気,発熱,筋肉/関節痛などの全身性の副作用が,より多く認められることも示されている(図2B).
medRxiv. Feb 01, 2011(doi.org/10.1101/2021.01.29.21250653)



◆英国変異株にファイザー/BioNTechワクチンは有効.
英国における変異株B.1.1.1.7は,従来のウイルス株より感染力が強い.この変異株は,スパイク蛋白にアミノ酸変異を10ヶ所も有するため,中和抗体の効果が弱まることが懸念されている.ドイツから武漢基準株,もしくはB.1.1.1.7変異株に由来するスパイク蛋白を含む,偽SARS-CoV-2-Sウイルスを,ファイザー/BioNTechワクチンBNT162b2を接種した16名の血清を用いて中和できるか検討した研究が,すでにプレプリント論文として16名の段階で報告されていたが(1月23日のFBで紹介),今回,40名に増加したデータがScience誌に掲載された.B.1.1.1.7系統の偽ウイルスに対する中和抗体活性(血清のウイルス細胞侵入阻止活性)はわずかに低下したものの,ほぼ維持されていた.年齢による解析でも23-55歳群と57-73歳群でも同様の結果であった.以上より,英国変異株に対し,ファイザーワクチンは有効であると言える.
Science. Jan 29, 2021(doi.org/10.1126/science.abg6105)



◆ファイザー/BioNTechワクチンも南アフリカ変異株に対する中和能は低い.
1月30日に紹介したように,南アフリカ変異株B.1.351(501Y.V2)に対し,モデルナ社ワクチンの中和能は低い可能性が指摘されている.今回,ファイザー社ワクチンでも同じ検討が行われ,プレプリント論文ながら,米国から報告された.ファイザーワクチンで誘導されたヒト血清の幾何平均抗体価(GMT)は,英国と南アフリカのN501Y,英国の69/70-deletion+N501Y+D614G,南アフリカのE484K+N501Y+D614Gにおいて,親ウイルスに対するGMTが,それぞれ1.46倍,1.41倍,0.81倍であった.やはり南アフリカ変異株への効果は低めであることが確認された.
bioRxiv. Jan 27, 2021(doi.org/10.1101/2021.01.27.427998)



◆ロシアのSputnik Vの有効率は91.6%.
ロシアのワクチンGam-COVID-Vac(Sputnik V)の無作為化二重盲検プラセボ対照第3相試験の中間解析が報告された.このワクチンは発現ベクターとしてアデノウイルス26(Ad26)とアデノウイルス5(Ad5)を使用する異種組換えアデノウイルスアプローチを採用している.ワクチンは,初回接種ではAd26,2回目の接種ではAd5と,異なるワクチンを,21日間隔を空けて筋肉内注射している.参加者は18歳以上とした.2020年9月7日から11月24日の間に,ワクチン群(1万6501名)または偽薬群(5476名)に無作為に3:1に割り付けた.重症化のリスクとして知られる併存疾患は,約4分の1の人に認められた.主要評価項目は,初回ワクチン接種後21日目からのCOVID-19感染とした.結果としては,ワクチン群1万4964名中16名(0~1%),偽薬群4902名中62名(1~3%)においてCOVID-19感染が確認された.よってワクチンの有効率は91.6%(95%CI 85.6-95.2)であった.またすべての参加者の年齢層において一貫して強い保護効果を示された.有害事象のほとんどはグレード1の軽微なものであった.試験期間中に4名の死亡(3名がワクチン群)があったが,いずれもワクチンとの関連性は認められなかった.以上より,Sputnik Vの第3相試験の中間解析では,COVID-19に対して91.6%の有効性と良好な忍容性が示された.
Lancet. Feb 02, 2021(doi.org/10.1016/S0140-6736(21)00234-8)



◆抗凝固薬ヘパリンがSARS-CoV-2の細胞侵入を阻害する.
多くの微生物病原体の付着・侵入は,ヘパラン硫酸との相互作用に依存する.抗凝固薬ヘパリンは,構造的にヘパラン硫酸に類似している.英国からの研究で,ヘパリンが,ネブライザーによって使用可能な濃度内で,SARS-CoV-2のVero細胞への浸入を最大80%まで阻止できることが示された.ヘパリンと低分子量ヘパリン(エノキサパリン)が,スパイク(S1)タンパク質受容体結合ドメイン(S1 RBD)に結合し,その構造変化をもたらすことが分かった.RBDの構造変化にはヘパリンの糖鎖の少なくとも6つの糖で十分であることも示された.ヘパリンおよびその誘導体を抗ウイルス剤として利用することで,治療薬につながる可能性がある.ヘパリンの効果を検証する臨床試験が既に開始されている.
Thromb Haemost. 2020;120:1700-1715(doi.org/10.1055/s-0040-1721319)

◆パーキンソン病患者さんにおけるワクチン接種の考え方.
国際パーキンソン病運動障害疾患学会(MDS)からCOVID-19ワクチンに関する声明が発表され,論文として掲載された.以下の8項目をTake home messageとして掲載している.
1)一般の人と比較して,COVID-19が重症化し,生命を脅かす状態となるリスクは,パーキンソン病(PD)において,少なくとも,より進行した患者では高いようである.
2)承認されているmRNAワクチンおよび開発中のウイルスベクターワクチンは,PDの神経変性過程と相互作用することが知られていないか,または考えにくい.
3)PD患者におけるワクチンの副作用の種類や発生率は,一般の人と変わらないようである.
4)これらのワクチンは高齢者にも安全であると思われるが,長期療養施設で生活しているPD患者の特定のグループ,つまり極度に虚弱(フレイル)な高齢者や終末期高齢者には注意が必要である.
5)COVID-19ワクチン接種が,現在のPDの治療を妨げることは知られていない.
6)特別な禁忌がない限り,PD患者にCOVID-19ワクチン接種を,他の承認されたワクチン(注
インフルエンザワクチンなど)とともに接種することを推奨する.
7)ワクチン接種を受けたPD患者は,COVID-19への曝露と感染を減らすために,公衆衛生ガイドラインを継続して遵守しなければならない.
8)ワクチンに対する考え方は変化する可能性があり,臨床試験と実際のワクチン接種の両方から新たに出てきたデータを意識的に監視する必要がある.
J Parkinsons Dis. Jan 28, 2021(doi.org/10.3233/JPD-212573)

◆COVID-19に感染した多発性硬化症患者における脳病理所見.
症例は67歳女性で,1990年に多発性硬化症(MS)と診断され,その後,二次進行性MSと診断された.2020年3月に感染し,発症から13日後に呼吸不全で死亡した.剖検がなされたが,検討項目は2つあり,①MS による血液脳関門の障害が,中枢神経系へのウイルス侵入を促進するかどうか,②COVID-19 関連免疫異常が MS 病変の再活性化につながるか?であった.結論は,①は脈絡叢ではウイルス転写産物が検出されたが,脳実質,すなわち神経細胞,グリア細胞感染の直接的な証拠は認めなかった.このことは,血液脳関門が中枢神経へのウイルスの侵入を抑制する重要な役割を果たしていることを示唆する.一方,②については,炎症性免疫細胞の浸潤やミエリン貪食が見られなかったことから,全身性のウイルス感染はMS病変の再活性化をもたらさないものと考えられた.
Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. Jan 27, 2021(doi.org/10.1212/NXI.0000000000000957)




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進行性核上性麻痺(PSP)診療ガイドライン2020の公開

2021年02月05日 | その他の変性疾患
委員のひとりとして関わらせていただきました「PSP診療ガイドライン2020」がいよいよ公開されました.
以下よりアクセスできます.日常の診療にお役立ていただければ幸いです.

進行性核上性麻痺(PSP)診療ガイドライン2020





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COVIDワクチンの疑問に答える

2021年02月01日 | 医学と医療
JAMA誌の提供する動画「Your COVID Vaccine Questions Answered」に,ワクチンに関するQ&Aがありました(1月28日公開).感染症と国際保健の専門家,Emory 大学Carlos del Rio教授が,12個の質問に対して回答しています.聞いてみて,分かっていることと分かっていないことを明確に提示している点,分かっていない(エビデンスが十分でない)場合でも,自分はどうするかを理由とともに示している点で,信頼できる本物の専門家という感じがしました. 以下,内容のメモです(もしヒアリングでおかしな点があったら教えて下さい).



◆免疫疾患やがん,免疫抑制剤を服用している場合,ワクチンを接種してもいいですか?
ワクチン接種の禁忌には当たりません.分からないことは,ワクチンに対する反応がどの程度良いのかということです.残念ながら,臨床試験には免疫抑制状態の人は含まれていませんでした.他の人と同じように良い免疫反応が生じるのかが分かりません.

◆妊娠中や授乳中でもワクチンは受けられますか?
妊娠中や授乳中の女性も臨床試験に含まれませんでした.実際には妊娠した人はいましたが,彼女らは綿密に追跡されています.アメリカ産科婦人科学会,母体胎児医学学会,CDCは「妊娠中ないし授乳中の女性が,ワクチンを受けるべきではないとする理由はない」という声明を発表しました.個人的な話をすると,母乳育児中の娘と嫁はすでにワクチンを受けています.

◆アレルギーがある場合,ワクチンを受けてもいいのでしょうか?
「アレルギーがある」がどういう意味かによります.ピーナッツアレルギーの人もいるし,色素にアレルギーがある人もいます.何にアレルギーがあるかは人それぞれです.ワクチンの成分の一つにアレルギーがあるならば絶対に受け取るべきではありません.しかし蜂に刺された時に発疹が出るようなアレルギーでは問題はないでしょう.

◆重度のアレルギー反応の既往歴がある場合はどうすればいいですか?
今まで見てきたアナフィラキシー反応は非常にまれです.私が人々に伝えているのは,もしあなたが以前にワクチンに対して重度のアレルギー反応を起こした状況や,アナフィラキシー反応を起こした状況を経験しているのであれば,エピペン(アドレナリン自己注射薬)を持ち歩いているということです.このことを予防接種の際に伝える必要があります.そうすると,医療者らはあなたをより注意深く観察しますし,エピペンや他の対応の準備もできます.

◆COVID-19に既に感染した場合,ワクチンを受けてもいいですか?
ワクチンは受けられますし,受けることをお勧めします.でもワクチンの供給量には限りがあるので,COVID-19に感染したのであれば,必ずしもすぐにワクチンを接種する必要はありませんと伝えています.免疫系がまだ反応していないため90日くらい待つように言っています.しかし,ワクチンは接種してほしいと思っています.ワクチンの臨床試験において,過去に感染した人も含まれていて,その人達はワクチン接種によりさらに保護されたためです.

◆どのワクチンが他のワクチンよりも優れているのでしょうか?また,接種を切り替えることはできますか?
知り合いに言ったのですが.ペプシとコーラを比べてみると実際は違うブランドですが,本質的には非常に似ています.ワクチンもわずかな違いはありますが,効能や安全性は非常に似ています.そうは言っても,米国では,もしあなたが最初のワクチンとしてファイザー接種した場合,2回目のワクチンもファイザーで受けた方がいいと推奨しています.1回目のワクチンをモデルナで受けたなら,2回目のワクチンはモデルナで受けるべきです.興味深いことに,英国はそうではありません.英国は,どちらのワクチンを受けてもいいと言っています.私は正解が分かりません.しかし私は伝統主義者ですので,1回目がファイザーなら,2回目もファイザーにしたいと思います.

◆リスクを最小限にするために1回分しか接種しないということはできないのでしょうか?
英国とアメリカでは,2回接種の代わり1回接種にできないか議論しています.また2回目の接種を遅らせることも議論しています. その理由は,2回の接種で少数の人に行うより,1回の接種でより多くの人にワクチンを接種しようとしているためです.しかし正解は分かりません.1回ではリスクを最小化することはできないでしょう.実際には後に感染するリスクを高めるかもしれません.つまり2回接種の理由は,免疫反応を高めるためです.現時点での私のお勧めは,自分ではどうするかと言うと,2回接種します.自分が2回接種するのに,他に人に1回で良いと言うことは難しいことです.

◆1回目を摂取してからCOVID-19に感染してしまいました.2回目の接種は行った方が良いのでしょうか?
いい質問です.何人かの人から同じ質問がありました.私の同僚に土曜日に予防接種を受けた人がいたのですが,月曜から症状が出て,火曜日にCOVID-19と診断されました.つまり,彼はすでにCOVID-19に感染し,潜伏期であったということです.ワクチンはすぐには効かないのです.免疫が抗体を作り,あなたを保護するまでには時間が必要です.おそらく最初の接種から約2週間後,10日から14日には効果が出始めます.そして2回目の接種も必要です.しかし大切な問題は,2回目の接種をいつするかです.私のお勧めは,2回目の接種を,最初の接種後21から28日までに行うことです.もし可能ならもう少し遅らせたいと思うかもしれません.しかし,それ以外に2回目の接種を行わない理由はありません.

◆2回目の服用の予約を取り損ねてしまいました.いつまでに受ければ良いのでしょうか?
2回目の接種はできるだけ早く受けていただきたいです.英国では12週間遅らせるという話が出ています.12週間も遅らせることは可能なのかというと,あまりデータはないのですが,おそらく可能なのではないでしょうか.この考え方だと,ファイザーは2回めが21日後,モデルナは28日後となっていますが,免疫反応については分かっているので,さらに2週とか,4週,8週とか簡単に延ばせるのではないでしょうか?そういうわけで,英国は12週を行っています.

◆免疫力を高める自然な方法はありますか?
免疫力を高める自然な方法として,本当に良いものはないのです.でも健康になることで,免疫力を上げることになり,COVID-19感染後の重症化のリスクを減らすことができます.ですから,私のお勧めは,健康状態を全体に改善することです.血圧,体重,血糖をコントロールしましょう.これらをすべて実行すれば,あなたの全体的な寿命はより改善するでしょう.健康的な食事や運動,ライフスタイルを送ることで,免疫を改善することができます.

◆ウイルスの変異でワクチンの効果は落ちますか?
ウイルスの突然変異でワクチンが効きにくくなる可能性があります.今のところ,私たちの知っているウイルスの突然変異はワクチンの効果を低下させるようには見えません.ワクチンは幅広い中和抗体を産生します.つまり,ワクチンの対象となるエピトープ(抗原)は複数あるということです.しかし,ワクチンが効かなくなる突然変異が生じる可能性があります.RNAウイルスは,そうして生存しているのです.実際に突然変異を繰り返し,常に変化している.もしより迅速に感染を防止し,ワクチン接種をすることができれば,ウイルスが突然変異する可能性を低下させることができます.

◆どのぐらいワクチンの保護効果は続くのですか?
第3相試験の参加者は,どのくらいの期間,保護されるかを明らかにするため,2年間,経過観察されます.第1相試験に登録された人たちから現在のところ分かっていることは,現在もまだ免疫があること,すなわち,少なくとも6ヶ月間は,ウイルスに対する免疫が残っているということです.

Your COVID Vaccine Questions Answered


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