Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(10月31日)  

2020年10月31日 | 医学と医療
今回のキーワードは,英国ワクチン・タスクフォース議長による見通し,軽症・中等症COVID-19に対する治療薬,COVID-19関連筋炎は皮膚筋炎?,川崎病類似小児例における脳梗塞,ニューロピリン-1を介したウイルス感染,回復期患者血漿療法は無効,C型肝炎特効薬がメタ解析で有効です.

ワクチン開発の見通しの厳しさが示され,回復期患者血漿療法も有効性を示せませんでした.やや明るいニュースは,ウイルスが嗅神経細胞に侵入する仕組みとして,ニューロピリン-1の重要性が明らかになり,新たな治療標的が見いだされたこと,C型肝炎の特効薬ソホスブビルが少人数の臨床試験のメタ解析で有効性を示したことです.

◆ワクチンができるかどうかは全くわからない.
日本政府は英国の製薬企業「アストラゼネカ」から少なくとも6000万人分のワクチンの供給を受けることで基本合意し,うち1500万人分については来年3月までの供給を目指すと発表した.その英国ワクチン・タスクフォースを総括するKate Bingham氏がLancet誌に投稿した内容はシビアなものであった.現状と今後のプランを詳細に説明するとともに,成功の見通しについて語っている.「ワクチンができるかどうかは全くわからない.過度の楽観主義に陥らないように気をつけることが大切である.第一世代のワクチンは不完全なものである可能性が高く,感染を防ぐのではなく症状を抑えることができるかもしれない程度であることを覚悟しておかなければならない」「ワクチンの多く,あるいはすべてのワクチンが失敗する可能性があると認識している」「重要な課題は,必要とされるワクチン製造能力が世界的に不足しており,英国の製造能力も同様に不足していることだ」「感染のリスクにさらされているすべての人を世界的に守るために,国際的な協力を緊急に必要としている.中国,欧州,米国,英国が協力する必要がある」→ 残念ながらワクチンに過度の期待はできないようだ.
Lancet. Oct 27, 2020(doi.org/10.1016/S0140-6736(20)32175-9)

◆軽症・中等症COVID-19にデキサメタゾン,レムデシビルは使用しない.
N Engl J Med誌は軽症・中等症例に限定した総説を掲載している.症候や検査については目新しいことはないが,治療に関しては病期により生じている病態と,治療のエビデンスを記した図がとても分かりやすい(図1).重要なことは,「レムデシビルとデキサメタゾンは,重症のCOVID-19の入院患者では有効性が実証されているが,中等症の患者ではデキサメタゾンは有効性がなく,むしろ有害である可能性があること,ならびにレムデシビルの日常的な使用を推奨するにはデータが不十分である」ことである.
N Engl J Med 2020; 383:1757-1766(doi.org/10.1056/NEJMcp2009249)



◆神経筋合併症(1)COVID-19関連筋炎はI型インターフェロンを介した皮膚筋炎かもしれない.
米国から進行性の四肢近位筋および大腿の筋力低下をきたした58歳女性が報告されていたが(Muscle Nerve. June 14, 2020(doi.org/10.1002/mus.27003)),これに対する西野一三先生らによるレターが報告された.この患者はCOVID-19関連「筋炎」と診断されたが,皮膚筋炎特異的な5抗体の1つ抗SAE抗体陽性で(ちなみに残りはMDA5,TIF1-γ,Mi-2,NXP-2),かつ皮膚筋炎に合致する筋病理所見を呈したことから,皮膚筋炎が疑われた(図2).皮膚筋炎はI型インターフェリノパチーとして知られているが,ウイルス感染で誘導される抗ウイルス系サイトカインであるI型インターフェロン(IFN)が皮膚筋炎をもたらした可能性について議論している.興味深いことにI型IFN経路を阻害するJAK阻害剤は,重症COVID-19患者および皮膚筋炎の双方において治療薬として期待されている.今後,COVID-19関連筋炎を経験した場合,皮膚所見の評価,抗SAE抗体価測定,I型IFN経路下流の皮膚筋炎の診断マーカーMxAの免疫組織化学検査を行い,仮説を検証する必要がある
Muscle Nerve. Oct 23, 2020(doi.org/10.1002/mus.27105)).



◆神経筋合併症(1)川崎病に類似する小児多臓器系炎症性症候群(MIS-C)初の脳梗塞例.
COVID-19小児例で川崎病に似た炎症性疾患が報告され,「小児多臓器系炎症性症候群(Multisystem Inflammatory Syndrome in Children;MIS-C)」と呼ばれるようになり,診断基準も報告された.インドからの報告.9 歳女児が,14 日間の高熱,前頭痛,嘔吐,5 日間の右半身脱力の進行を主訴に小児集中治療室に入院した.Glasgow Coma Scoreは11(E3, V2, M6),顔面を含む右完全片麻痺,腱反射亢進,病的反射陽性を呈した.頭部CTでは,梗塞を示唆する所見で,CTA造影で頭は内頸動脈,右中大脳動脈,両前大脳動脈A2分節に狭窄を認めた(図3).また両中大脳動脈のM2,M3のびまん性狭窄も認められた.抗核抗体,血管炎関連抗体などすべて陰性.髄液PCR陰性.MIS-Cはこれまでに662名の報告があるが,急性虚血性脳卒中を呈していたのはこの報告1例のみである.MIS-C でも脳梗塞を呈しうるが頻度は稀であり,他の原因の可能性も十分に検討すべきである.
Lancet Child Adolesc Health. Oct 27, 2020(doi.org/10.1016/S2352-4642(20)30314-X)



◆ニューロピリン-1は感染の宿主因子であり,治療標的である.
これまでも何度か紹介したニューロピリン-1(NRP1)に関して,ドイツと英国からの2つ論文がScience誌に報告された.SARS-CoV-2ウイルスの特徴として,スパイクタンパク質(S)が宿主のタンパク分解酵素furinによって切断される点がある(SARS-CoV ウイルスには認めない).切断により生じたS1上に多塩基性のArg-Arg-Ala-ArgというC末端配列が生成され,ここに膜タンパクであるニューロピリン-1(NRP1)が結合し,ウイルス感染性を増強することがX線結晶構造解析と生化学的アプローチから明らかにされた.フリン切断部位が変化したSARS-CoV-2ウイルス変異体では,NRP1を介した感染は生じなくなった.ヒト剖検例の解析でも,嗅神経細胞を含むSARS-CoV-2感染細胞はNRP1陽性であった(図4).RNAiまたは選択的阻害剤を用いてこの相互作用をブロックすると,細胞培養におけるSARS-CoV-2の侵入と感染性が減少した.以上のように,NRP1はSARS-CoV-2感染の宿主因子として重要で,COVID-19の治療標的となる可能性がある.
Science. Oct 20, 2020(doi.org/10.1126/science.abd2985)
Science. Oct 20, 2020(doi.org/10.1126/science.abd3072)



◆ドナーからの迅速な入手が可能な回復期患者血症療法は無効.
インドから中等症COVID-19に対する,回復期血漿の有効性を検証するオープンラベル,パラレルアーム,第II相多施設無作為化比較試験(PLACID試験)が報告された.中等症の呼吸不全を呈した成人464名が対象で,235名が回復期血漿による介入群,229名が対照群に割り付けられた.介入群では,24時間間隔で200 mLの回復期血漿を2回輸血した.中和抗体価は事前に測定しなかった.主要評価項目は,重症化(PaO2/FiO2<100mmHg)または全死因死亡の複合項目とした.結果としては,登録後28日後,介入群44名(19%),対照群41名(18%)に重症化または全死因死亡が発生し,リスク差0.008(95%CI -0.062~0.078),リスク比1.04(95%CI 0.71~1.54)で,無効という結果であった.介入群では7日目にSARS-CoV-2 RNAの陰性化率が統計学的に有意に20%高くなっていたが,臨床的効果は認めなかった.つまり回復期血漿の副作用,特に血栓症が生じた可能性は厳密な調査が必要で,試験結果の詳細な検討と参加者の除外基準を十分に検討する必要がある.またやはり事前に中和抗体の力価を評価し,有効と考えられるドナー血漿のみを使用すべきであろう.
BMJ. Oct 22, 2020(doi.org/10.1136/bmj.m3939)

◆C型肝炎特効薬が,中等度~重症患者の生存率と臨床的回復を改善する.
2020年ノーベル生理学・医学賞は,C型肝炎ウイルスの発見を讃えて,三氏に贈られることになったが,有力な医薬が世に出ると,その元になった研究をした人が受賞するケースがある.C型肝炎の場合,その特効薬はソホスブビルで,国内外の第3相試験で100%という有効率を示し,普及した.ソホスブビルとダクラタスビルは,C 型肝炎ウイルスに対して高い効果を示す直接作用型抗ウイルス薬である(RNA依存RNAポリメラーゼの活性中心に結合して阻害する).両者の併用療法の安全性は確立されている.すでにCOVID-19に対しても,複数の小規模の臨床試験が行われているが,今回,メタ解析が報告された.検索により8件の研究が同定されたが,そのうち3件が包含基準を満たしていた(n = 176名).このうち2件がランダム化されており,1件が非ランダム化であった.ランダム化後14日以内の臨床的回復は,対照群と比較してソホスブビル/ダクラタスビル群で高かった[リスク比=1.34(95%CI=1.05-1.71),P=0.020](図5).またソホスブビル/ダクラタスビルは臨床的回復までの時間を改善した[HR = 2.04(95%CI = 1.25~3.32),P = 0.004].さらにプールされた全死因死亡リスクは,対照群と比較してソホスブビル/ダクラタスビル群で有意に低かった[リスク比=0.31(95%CI=0.12~0.78),P=0.013].以上よりソホスブビル/ダクラタスビルが中等度から重症のCOVID-19患者の生存率と臨床的回復を改善することが示唆された.しかしサンプルサイズが比較的小さいこと,試験の1つは無作為化されてなかったことから,より大規模なランダム化比較試験で確認する必要がある.
J Antimicrob Chemother. Oct 16, 2020(doi.ORG/10.1093/jac/dkaa418).






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Eight-and-a-half 症候群

2020年10月24日 | 脳血管障害
回診で,標題の症候群について議論をしました.文献より症例を提示すると・・・突然,複視と右顔面脱力を呈した66歳男性.左眼の外斜視,右眼の内転障害,右方向の共同注視麻痺,左方視時の注視眼振が認められた.滑動,衝動運動を問わず認められたが,垂直方向及び輻輳は保たれていた.その他の所見として右顔面神経麻痺を認めた.頭部MRIでは,右橋被蓋に小梗塞を認めた(図1A)という感じです.

つまり,one-and-a-half症候群に,同側の末梢性顔面神経麻痺を合併した症例です.よって,(1+1/2)+7でeight-and-a-halfと名付けられたようです(Eight-and-a-half syndrome. JNNP 2006;77:463).橋背側における血管性病変,脱髄,腫瘍などによりPPRF(傍正中橋網様体)ないし外転神経核,MLF,および顔面神経膝部が同時に障害されることが原因です(図1B).


ネーミングはシャレですが,個人的には悪くないと思います.その後,次の症候群も報告されています.
★15-and a-half症候群 = one-and-a-half症候群+両側性の末梢性顔面神経麻痺:(1+1/2)+7+7
★16症候群 = 両側性の水平注視麻痺+両側性の末梢性顔面神経麻痺:(1+1)+7+7
★24症候群 = 両側性の水平注視麻痺+両側性の末梢性顔面神経麻痺+一側性感音性難聴:(1+1)+7+7+8

やりすぎだと思います(笑).

CMAJ. 2018 Apr 23;190(16):E510.(doi.org/10.1503/cmaj.180023)
J Stroke Cerebrovasc Dis. 2018 May;27(5):e73-e74.(doi.org/10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2017.12.007)

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(10月24日) 

2020年10月24日 | 医学と医療
今回のキーワードは,免疫療法が有効な脳炎患者の特徴,意外な画像所見を呈した急性出血性白質脳炎,3つのトシリズマブ臨床試験の結果です.このところ興味を引くCOVID-19関連論文は減ってきた印象で,今回紹介する論文はいつもより少なめです.神経疾患合併症も出尽くしたかなと思っていましたが,不思議な疾患Baló病が出てきました.また脳炎,脳症の診断の区別がよく分からない印象を持っていましたが,自己免疫性脳炎で使われる診断基準,「Grausの基準」を導入した論文が出てきました.COVID-19でこれほど脳神経内科の勉強をするとは思いませんでした(笑).そして5月に「個人的に重症化阻止に一番期待を寄せている治療」として紹介したトシリズマブのランダム化比較試験の結果が複数発表されました.

◆同心円状脱髄パターンを示す急性出血性白質脳炎.
ギリシアからの症例報告.57歳男性.呼吸不全に対し人工呼吸器管理となったが離脱.しかし48時間以上,全身性の弛緩が認められた.頭部CTでは,大脳基底核に出血性病変と浮腫を認め,頭部MRIではヘモシデリン沈着と同心円状の脱髄パターンが認められた(図1C, G).オリゴクローナルバンド陰性,髄液PCR陰性であった.急性出血性白質脳炎(Acute hemorrhagic leukoencephalitis; AHLE)と診断した.一般的な支持療法で回復し,1ヶ月後には中等度の四肢麻痺となり,MRI所見の退縮も比較的早かった.AHLEはヒトミエリンとウイルスまたは細菌抗原との交差反応によって誘導される急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の劇症型と考えられている.本例で認めた脱髄の同心円状のリングと比較的温存された組織のリングとが交互に現れるパターンは,同心円硬化症(Baló病)で有名な所見である.
Brain. Oct 16, 2020(doi.org/10.1093/brain/awaa375)



◆免疫療法が奏効する重症COVID-19関連脳炎の特徴.
フランスからの報告.重度の意識障害を呈したCOVID-19関連脳炎の5名(37~77歳)の症例集積研究.全例,髄液 PCRは陰性で,「Grausのpossible autoimmune encephalitis(AE)の診断基準」を満たした.全例でステロイドパルス(メチルプレドニゾロン1g/日を5~10日間静注)と血漿交換療法(5~10回)を組み合わせた免疫療法を行った.5名中3名で,治療開始から数日後に劇的な改善がみられた.レスポンダー群3名とノンレスポンダー群2名の違いは頭部MRI所見で,レスポンダー群では点状の小白質病変であったのに対し,ノンレスポンダー群ではびまん性,癒合性病変であった.重症COVID-19関連脳炎に対し,ステロイドと血漿交換療法による免疫療法が有効であることを認識する必要がある.→ 既報の論文は,脳炎/脳症の定義が曖昧であったが,ここでは「Grausによるpossible AEの診断基準」が導入されて対象が明確になった.以下,診断基準を提示する.

Possible AE の診断基準(Graus の診断基準 2016 から抜粋).
以下の 3 つのすべてを満たす.
1.3 カ月以内に急速に進行する作業記憶(短時記憶)障害,精神状態の変化,あるいは精神症状.
2.少なくとも以下のいずれか 1 項目を認める.
・新規に出現した中枢神経巣症状
・既存の痙攣疾患では説明できない痙攣発作
・髄液細胞増加(白血球数 >5/μl)
・脳炎を示唆する頭部 MRI 異常所見
3.他の疾患が除外できる.
Brain. Oct 16, 2020(doi.org/10.1093/brain/awaa337)

◆期待されたトシリズマブ(ヒトIL-6受容体抗体)はルーチンでの使用する薬剤とは言えない.
抗IL-6受容体抗体(アクテムラ®)が期待された背景には,SARS-CoV-2が単球,マクロファージ,樹状細胞に感染した際にIL-6産生の亢進をもたらし,IL-6受容体を有する細胞(リンパ球)ではシス・シグナリング,有さない細胞(内皮細胞)ではトランス・シグナリングを介して,サイトカイン・ストームを引き起こすという仮説が提唱されたことがある(図2).その後,実際に短期的に発熱,CRP,酸素吸入や画像所見を改善したとする報告(Proc Natl Acad Sci. Apr 29, 2020)や,観察研究にて人工呼吸器装着患者の死亡率を45%改善したとする報告(Clin Infect Dis. Jul 11. 2020;doi.org/10.1093/cid/ciaa954)をはじめ,複数の有効性を示唆する報告がなされた.満を持して行われたランダム化比較試験の3つを紹介する.



①米国からの報告.SARS-CoV-2感染,高炎症状態,および「発熱,肺浸潤,または酸素吸入の必要性」のうち少なくとも 2 つを有する患者を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照試験が実施された. 2:1の割合で割り付けられ,標準治療とトシリズマブ(体重1kgあたり8mg)またはプラセボのいずれかの単回投与を受けた.主要評価項目は気管挿管または死亡とした.登録者は243名で,偽薬群と比較した実薬群の挿管または死亡のハザード比は0.83(95%CI,0.38~1.81,P=0.64),病状悪化のハザード比は1.11(95%CI,0.59~2.10,P=0.73)であった(図3).14日目の時点で,実薬群では18.0%,偽薬群では14.9%に病状の増悪が認められた.酸素吸入中止までの期間は,実薬群で5.0日,偽薬群で4.9日であった(P=0.69).以上,トシリズマブは,中等症の入院患者における挿管または死亡の防止には有効ではなかった.
New Engl J Med. Oct 21, 2020(doi.org/10.1056/NEJMoa2028836)



②イタリアからの報告.COVID-19 肺炎で Pao2/Fio2 比が 200~300 mmHg の入院成人患者を対象としたランダム化比較試験では,トシリズマブは,標準治療と比較して病勢の進行に対する抑制効果は認められなかった(図4).
JAMA Intern Med. Oct 20, 2020(doi.org/10.1001/jamainternmed.2020.6615)



③フランスからの報告.COVID-19と肺炎で酸素吸入を要するが集中治療室に入院していない患者を対象としたランダム化比較試験では,トシリズマブは,14日目までに非侵襲的換気療法,人工呼吸器装着,死亡のリスクを低下させた可能性があったが, 28日目の死亡率には差を認めなかった(図5).
JAMA Intern Med. Oct 20, 2020(doi.org/10.1001/jamainternmed.2020.6820)



→ 以上より,少なくともCOVID-19に対してトシリズマブはルーチンでの使用する薬剤とは言えないという結論になる.なぜ明確な効果が見られないかは不明だが,28日後といった長期的な改善効果が見られないことに関しては,薬剤に関連した副作用や二次的な感染が影響した可能性が指摘されている.「観察研究では不十分」「創薬は難しい」と改めて思った.なかなか重症化防止の決め手となる薬剤が出てこない.

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多系統萎縮症の新しい鑑別診断「RFC1遺伝子関連疾患」とマオリ族の話

2020年10月19日 | 脊髄小脳変性症
Cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome(CANVAS)は両側の前庭機能障害,小脳性運動失調,感覚神経障害を主徴とする症候群である(Neurology 2011;76:1903-1910).その原因遺伝子として,RFC1 (replication factor C1)遺伝子のイントロンに両アレル性AAGGGリピート(ペンタヌクレオチドリピート)の異常伸長が報告されている(J Hum Genet. 2020;65:475-480).CANVASでは約92%の症例でこの遺伝子変異が認められる.ちなみに鑑別診断としては,遺伝性疾患としてフリードライヒ失調症,SCA3,SCA6,非遺伝性としてMSA-C,ウェルニッケ脳症などが挙げられる.このRFC1遺伝子に関して,興味深い論文が2つ報告されたで紹介したい.

【RFC1遺伝子関連疾患の1病型としてのMSA】
ひとつは中国からの論文で,RFC1遺伝子変異が,CANVASと症状の一部が類似する多発系萎縮症(MSA)に認められるかを検討した研究である.対象は中国人のsporadic adult-onset ataxia of unknown etiology(SAOA)患者104名,MSA患者282名,そして健常対照203名で,病原性のあるAAGGGリピートと他の5つのペンタヌクレオチドリピート(AAAAG11, AAAAGexp,AAAGGexp,AAGAGexp,AGAGGexp)をスクリーニングしている(11回が基準となるリピート回数で,expは400~2000回の伸長リピートを意味する).また神経学的診察,画像検査,電気生理,前庭機能検査を含む包括的な臨床評価を行っている.

結果として,SAOA患者1名とMSA患者3名に両アレリック性(AAGGG)expが確認された.リピート数は100~160であった.さらに,MSA患者1名には(AAGGG)exp/(AAAGG)expという遺伝子型も認められた.しかしこれは過去に晩発性小脳失調症(LOCA)や健常対象者でも報告されていることから病原性は不明と考えられた.

表現型の検討では,両アレリック(AAGGG)expを有するMSA患者は,血族婚は認めないものの家族内発症はなく,常染色体劣性遺伝形式として矛盾しないと考えられた.表現型はMSA-CとMSA-Pのいずれも呈しうることが分かった(probable MSA-Pが2名,possible MSA-Cが1名:後者ではレム睡眠行動異常症合併し,MRIではhot-cross bun signあり!).CANVASの診断基準を満たさなかった.しかしCANVASの3主徴の出現までには長期間(10年以上)要することから,今後,CANVASの症候を呈する可能性はある.病理学的検索ができた症例はなかった.いずれにしても(AAGGG)exp例とMSAの発症早期における鑑別は困難と考えられた.また (AAGGG)expの臨床表現型は,①CANVAS,②MSA,③SAOAとも言える.



以上より,MSAの診断において,今後,RFC1遺伝子のスクリーニングをすることが望ましい.またCANVASとMSAの診断基準の再検討は必要であろう.
Wan L,et al. Biallelic intronic AAGGG expansion of RFC1 is related to multiple system atrophy. Ann Neurol. Sep 16, 2020.(doi.org/10.1002/ana.25902)

【マオリ族における新たなRFC1遺伝子変異パターンと創始者効果】
もう一つは,Brain誌に報告されたニュージーランドのマオリ族(ラグビーのハカで有名)における報告である.ニュージーランドには29名のCANVAS症例が報告されていて,その一部16名はヨーロッパ由来である.残りの13名はマオリ族由来の症例である.



遺伝子解析の結果,全例,集団特異的な(AAAGG)10-25(AAGGG)expというこれまでにない変異パターンを認めた.ヨーロッパ由来の症例と比較して,明らかな表現型の違いはなかった.マウリ族に共通の疾患ハプロタイプが存在することは,この新規リピート伸長がこの集団での創始者効果があることを示唆する.また本報告ではCANVASがレム睡眠行動障害を呈しうることや,10歳未満でも発症しうることも記載されている.



A Māori specific RFC1 pathogenic repeat configuration in CANVAS, likely due to a founder allele.
Brain 143;2673–2680,2020(doi.org/10.1093/brain/awaa203)

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(10月18日)  

2020年10月18日 | 医学と医療
今回のキーワードは,Nature誌がバイデン氏を支持する理由,政治による科学の蹂躙に抗する署名活動,2度目の感染でも重症化する,突発性感音性難聴,脳波と予後,欧州神経学会のエキスパートによるコンセンサス声明の発表,感染から回復しても長期に症状が持続する理由,血管病変や血栓形成機序を明らかにするアカゲザル・モデルです.

最初の2つのトピックスから「政治と科学」がきわめて緊迫した状況にあること,11月3日は世界の科学にとって重大な意味を持つことが分かります.欧州神経学会によるコンセンサス声明は量が多く,全項目は日本語訳できませんでしたが,脳神経内科医は目を通しておくべき内容です.また重症COVID-19に見られるB細胞反応は自己免疫疾患SLEと似た特徴を示し,免疫寛容が破綻し,自己免疫疾患類似の症状をもたらしうるという驚くべき内容です.多彩な神経合併症や,Long-Haulと呼ばれる症状の長期化もこの現象で説明できるのかもしれません.

◆ジョー・バイデンを支持する理由.
New Engl J Med誌によるトランプを批判する記事を前回紹介したが,Nature誌は明確にジョー・バイデン支持の姿勢を打ち出した(図1上).まずトランプに対して「最近の歴史の中で,これほど政府機関を政治化し,科学的専門知識を排除しようとした大統領はいない」「トランプ政権の最も危険な遺産の一つは,保健・科学機関への干渉という恥ずべき記録であり,国民の安全を守るために不可欠な機関に対する国民の信頼を損ねるものだ」と激しく批判している.一方,バイデンに対しては,「上院では政敵に働きかけ,超党派的な法案の支持を得るために政敵と協力してきた政治家である.彼は研究を尊重する意向を示し,米国による分断された国際的な関係を回復するために努力することを誓っている」「彼はパンデミックへの対応に関する決定は,政治家によってではなく,公衆衛生の専門家によってなされることを公約している」と述べてバイデンを支持し,11月3日の投票日に投票するよう有権者に呼びかけている.
Nature 586, 335, 2020(doi.org/10.1038/d41586-020-02852-x)



◆「誤った情報に対し,科学者は声を上げて行動しよう!」という署名活動.
Lancet誌のcorrespondence(往復書簡)欄に,複数の研究者による連名で「COVID-19パンデミックに関する科学的コンセンサス:今すぐ行動する必要がある」という文書が掲載された.科学的に誤った情報が流布される状況に対し,科学者は声を上げて行動すべきという内容で,この文書に同意する科学者に対し,John Snow Memorandum(https://www.johnsnowmemo.com/)と名付けられたネット上の署名活動への参加を呼びかけている(図1下).本文中で私が重要と思った箇所は「COVID-19の致死率は季節性インフルエンザの数倍であり,感染すると若くて健康な人も含めて病気が持続すること(単なる風邪ではない)」「ロックダウンは死亡率を低下させ,医療崩壊を防ぎ,パンデミック対応システムを構築するための時間を稼ぎに不可欠なものであること」「安全で効果的なワクチンや治療法が登場するまで,COVID-19の感染を抑制することが,社会と経済を守るための最善の方法であること」「集団免疫は科学的根拠に裏付けられていない危険な誤謬であること」である.ちなみにJohn Snowは,1854年にロンドンで起きたコレラの発生原因を追跡した,現代疫学のシンボル的存在である.→ 政治による科学の蹂躙に対して,科学者は毅然とした態度を取る必要がある.私もこの書簡に同意する署名を送った(現時点で3300人の科学者が署名している).
Lancet. Oct 15, 2020(doi.org/10.1016/S0140-6736(20)32153-X)

◆2度目の感染における重症化の報告(一度感染しても感染予防は必要).
米国ネバダ州に居住する25歳の男性が,1度目は4月に,2度目は5月末~6月初旬に感染症状を呈した(図2).2度目の感染は1度目よりも重症化した.4月18日と6月5日の検体を用いたゲノム解析により,2つのウイルスの遺伝的不一致は,短期的な生体内進化で説明できる以上のものであった.すなわち,一度感染しても,免疫により発症が抑えられたり軽症化するとは限らないことが示された.過去の感染に関わらず,すべての人が感染予防を心がける必要がある.
Lancet Infect Dis. Oct 12, 2020(doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30764-7)



◆神経合併症(1).突発性感音性難聴.
英国初の突発性感音性難聴の症例報告.COVID-19のため入院中の45歳の患者が難聴のため,耳鼻科に紹介された.検索の結果,難聴の他の原因は除外された.文献レビューの結果,これまで4例の難聴症例が報告されていた.難聴は集中治療室のような状況では見逃しやすい.COVID-19では突発性感音性難聴が生じうることを認識し,スクリーニングすることで,ステロイド治療のタイミングを逃さないようにする必要がある.
BMJ Case Reports CP 2020;13:e238419(doi.org/10.1136/bcr-2020-238419)

◆神経合併症(2).脳波と予後.
チリからCOVID-19患者62名における94回分の脳波の前向き観察研究が報告された.目的は,COVID-19入院患者に最も多くみられる脳波所見を記述し,脳波から予後を予測する因子を見出すことである.併存疾患は心疾患(52%)が最も多く,次いで代謝性疾患(45%),中枢神経系疾患(39%)であった.ICUでの治療を要した患者の割合は60%であり,死亡率は27%であった.最も頻度の高かった脳波所見は,全般的な徐波活動(66%)で,てんかん活動は19%に認められ,その中には非痙攣性状態てんかん.てんかん波,間欠期放電も含まれていた.多変量解析では,死亡の危険因子は癌の併存と,発症3週目に脳波検査を必要とすることであった.後者については,脳波検査を行うことはサイトカインストームや多臓器不全などに伴い,意識障害が出現することを意味するためと考察されている.
Seizure Oct 13, 2020(doi.org/10.1016/j.seizure.2020.10.007)

◆欧州神経学会のエキスパートによるコンセンサス声明の発表.
COVID-19患者を診療する脳神経内科医の指針となる,欧州神経学会(EAN)のエキスパートによるコンセンサス声明が発表された.デルファイ法が用いられ,3ラウンドの検討が行われた.声明は大きく4項目から構成され,それぞれ,重要度スコアとエキスパートの同意率が記載されているが,項目数が多いため,ここでは重要度スコアの高かったものを各項目4つずつ示す.

1. ケアの組織化に関する推奨
・ 急性期脳卒中患者に対する血管内治療の際には,治療を遅らせることなく,SARS-CoV-2 への潜在的な曝露・汚染を防止するための特別な条件を適用すべきである.
・ 長期間の隔離のための適切な薬剤の供給と人工呼吸器用具が確保されていなければならない.
・ ALSなどの神経筋疾患を持つ患者で,在宅人工呼吸器のサポートを受けている場合,または初期の呼吸器症状がある場合,患者・介護者は,在宅ケア/緩和ケアチーム/ALSセンターに連絡し,定期的に患者をケアしている医師に状況を伝えなければならない.
・ 脳波や筋電図検査が必要な場合は,汚染防止ガイドラインに基づく特別な衛生環境を用意しなければならない.

2.神経症状に対する治療に関する推奨
・ 集中治療室への入院を必要とする神経疾患(例:外傷性脳損傷,虚血性脳卒中,出血性脳卒中,てんかん重積発作,神経免疫疾患,その他多数)は,COVID-19の感染状況とは無関係に,通常通りの管理・治療を行う必要がある.
・ 細胞除去療法(例:オクレリズマブ,リツキシマブ,アレムツズマブ,クラドリビン)を開始する前に,治療開始から数週間後までの免疫抑制と感染症への感受性のリスクを考慮しなければならない.その地域でのパンデミックのピークが終わるまでは,細胞除去療法の開始を遅らせることが望ましいかもしれない.一部の患者では,細胞除去療法を開始しないことのリスクが重度のCOVID-19感染のリスクを上回る可能性があるため,患者と綿密に話し合う必要がある.
・ 明確な臨床的適応や正当性がない場合,ステロイドパルス療法は避けるべきである.
・ 免疫を顕著に抑制する薬剤(例えば,クレリズマブ,リツキシマブ,クラドリビン,アレムツズマブ,ミトキサントロン)は,治療開始後の最初の数週間は,感染症のリスクが高まる可能性がある.高齢の患者や併存疾患(心血管系,肺系)のある患者では,疾患活動が許す場合,治療開始を遅らせるべきである.

3. 神経学的合併症の管理に関する推奨
・ COVID-19患者では,入院中に痙攣発作,脳症,脳炎,虚血性脳卒中や脳内出血を含む脳血管イベントなどの重篤な神経学的合併症が起こる可能性がある.
・ 重症患者が集中治療室に長期入院すると,多因子性の脳症,critical illness neuropathy/myopathyを発症する可能性がある.
・ ICU生存者においては,ICUケア後症候群と呼ばれる,認知障害,精神障害,身体障害の評価と追跡調査が必要である.
・ 神経障害性のCOVID-19が疑われる患者の死亡時には,病態を理解するために,下位脳幹および延髄の病変評価を目的とした神経病理学的検査を依頼すべきである.

4. 慢性神経疾患患者への推奨
・ 免疫抑制剤を服用している人は,人混みや公共交通機関の利用を避けるなど,社会的距離を厳重に守るべきである.
・ 患者への情報では,パンデミック下でも処方薬が従来と一致し,かつ供給が維持されることの重要性を強調すべきである.
・ 感染症の急性徴候がある場合には,免疫療法を開始したり,継続したりしてはならない;特に免疫機能を除去する薬剤は,症状が消失するまで遅らせるべきである.
・ 認知症患者では感染症状を報告しないことがあるので,特に注意を払う必要がある.
Eur J Neurol. Oct 15, 2020(doi.org/10.1111/ene.14521)

◆重症例における濾胞外B細胞反応は,自己免疫疾患類似の自己抗体産生を招く.
米国からの報告.すでにCOVID-19のサイトカインストーム(TNFα)は,胚中心の形成を抑制し,ウイルス抗原に対する長期的記憶がB細胞に備わらないことが報告されていたが(Cell. August 19, 2020(doi.org/10.1016/j.cell.2020.08.025)),さらに濾胞外でのB細胞活性化を検討したところ,自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)で報告されているB細胞レパートリーの特徴と酷似していることが報告された.さらに濾胞外B細胞活性化は,ウイルス特異的中和抗体の早期産生,炎症性バイオマーカーの上昇,多臓器不全,死亡を含む予後不良の頻度と相関していた.つまりウイルス感染→サイトカインストーム→胚中心形成の抑制→①ウイルス中和活性(ただし長期的記憶↓)+②自己抗体産生と考えられる(図3).②に関して,SLEでは自己反応性の抗体産生細胞が除去されず(免疫寛容がうまくいかず),自己抗体は疲労,関節痛,発疹,腎臓障害などを引き起こす.COVID-19でも感染から回復した患者に長期に生じる疲労や関節痛などが報告されているが(Long-Haul COVID),同様に自己抗体が関与している可能性がある.
Nature Immunology. Oct 07, 2020(doi.org/10.1038/s41590-020-00814-z)



◆血管病変や凝固異常症のメカニズムを明らかにする動物モデル.
COVID-19において血管内皮障害と凝固異常症(血栓症)があるが,その機序は不明である.米国からSARS-CoV-2に感染したヒトと,アカゲザル(rhesus macaques)モデルの肺の病理組織において,血管内皮の破壊と血管血栓症を認めることを示された.アカゲザルにおいて病態を明らかにするために,気管支肺胞液(BAL)および末梢血のトランスクリプトーム解析と血清のプロテオーム解析を行ったところ,肺にマクロファージの浸潤が認められ,マクロファージ,補体,血小板の活性化,血栓症,CRP,MX1(Myxovirus Resistance Protein1),IL-6,IL-1,IL-8,TNFα,NF-κBなどの炎症性マーカーの発現亢進が認められた.これらの結果は,炎症と補体活性化,マクロファージ浸潤,血小板活性化と凝集,組織因子放出と凝固,内皮障害が相互に作用し,病態に関わることを示唆するものである(図4).これらは,COVID-19の治療標的となるものと考えられる.
Cell. Oct 9, 2020(doi.org/10.1016/j.cell.2020.10.005)





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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(10月10日)

2020年10月10日 | 医学と医療
今回のキーワードは,N Engl J Med誌の怒り,ウイルスは皮膚上で9時間生存する,肺を満たすゼリーの正体,無症状感染者を生み出すウイルスの巧妙な企み,神経合併症と転帰,オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群,筋障害と影響因子,脳におけるウイルスの証明と脳損傷への影響,脳症患者における髄液高力価抗体,レムデシビル試験最終報告です.

◆アメリカにおける失敗とN Engl J Med誌の怒り.
「Dying in a Leadership Vacuum(リーダーシップの真空状態がもたらす死)」というタイトルの論説は,医学雑誌として前例のないものとなった.冒頭に「COVID-19による危機は,各国のリーダーシップを試すものとなったが,ここ米国では,私たちの指導者は対応を失敗し,危機を悲劇に変えてしまった」と書かれてある.実際に米国の死者数は中国をはるかに上回り,カナダの2倍以上,日本の50倍,ベトナムの2000倍近くとなった.「我々はほとんどすべての対応に失敗した」・・・検査数や個人防護具の不足,検疫や隔離の遅さと一貫性のなさ,感染対策の不徹底,駆逐された疾病対策予防センター(CDC)と政治化された食品医薬品局(FDA)などが列挙される.「政権は専門家を無視・軽蔑し,無知なオピニオンリーダーや,嘘を流布する偽医者に頼った.その結果,不適切な政策のために失われたアメリカ人の命は,第二次世界大戦以降のどの紛争よりも多くなった.また医療従事者の献身的な働きが無駄にされている.しかし,今回の選挙で,我々は判決を下すことができる.現在の指導者たちにこのまま仕事を続けさせ,さらなるアメリカ人の死を招いてはならない」と述べている.
N Engl J Med. Oct 8, 2020(doi.org/10.1056/NEJMe2029812)

◆新型コロナウイルスはヒト皮膚上で9時間生存する
京都府立医大からの報告.SARS-CoV-2ウイルスのヒト皮膚での生存時間を測定したところ,ウイルスは,インフルエンザAウイルスと比較して有意に長く生存した(9.0時間対1.8時間)(図1).また皮膚や粘液中のウイルスは,80%(w/w)エタノール処理により15秒以内に完全に不活化された.以上より,SARS-CoV-2ウイルスはインフルエンザAウイルスと比べ,接触感染のリスクが高いことが分かる.感染予防には適切な手指衛生が重要である.
Clin Infect Dis. October 3, 2020(doi.org/10.1093/cid/ciaa1517)



◆肺を満たすゼリー状の液体の正体はヒアルロン酸.
死亡の転帰をたどったCOVID-19症例は,剖検にて肺が透明なゼリー状の液体で満たされていることが知られている.3名の死亡患者から得た肺組織を免疫染色で調べたところ,肺胞腔内の顕著なヒアルロン酸滲出物を確認できた(図2).ヒアルロン酸はムコ多糖で,保水性が高く,水分保持により粘性を持つ性質がある.以上より,呼吸不全の新たな治療標的として,肺におけるヒアルロン酸の産生減少が考えられる.有効性が示されているデキサメタゾンも,ヒアルロン酸を抑制している可能性がある.
J Biol Chem. Sep 25, 2020(doi.org/10.1074/jbc.AC120.015967)



◆ウイルスは痛みを抑制して,無症状感染者を生み出す!?
米国からの報告.ウイルスの侵入経路として,スパイク蛋白質とアンジオテンシン変換酵素 2(ACE2) との結合が有名だが,第2の経路として,ニューロピリン-1 受容体(NRP-1)との結合が指摘されてきた.このNRP-1には,血管内皮増殖因子A(VEGF-A)も結合するため,スパイク蛋白質がVEGF-A/NRP-1シグナル伝達を阻害するかを検討した.結果として,スパイク蛋白質は,VEGF-Aをトリガーとする感覚神経細胞の発火をブロックした.またスパイク蛋白質は,VEGF-Aによる侵害受容(痛覚)促進作用もブロックした.加えて神経障害性疼痛モデルにおいて,アロディニア(通常では疼痛をもたらさない微小刺激が,とても痛く認識される現象)も抑制した.つまりウイルスのスパイク蛋白質はNRP-1に結合し,VEGF-Aによる痛みを消去することで,感染者の咽頭痛などの症状を抑え,さらなる感染伝播をもたらす可能性が示唆される.
Pain. Oct 1, 2020(doi.org/10.1097/j.pain.0000000000002097)

◆COVID-19による死亡リスクはパーキンソン病において有意に高い.
米国から,COVID-19によるパーキンソン病(PD)の症例死亡率が報告された.既報では0~40%の範囲で報告されているが,サンプルサイズが小さく,PDが死亡の独立した危険因子であるかは不明であった.この検討では,COVID-19患者78355名のうち,PDなしの患者は4290名が死亡したのに対し,PDありの患者694名のうち148名が死亡した(PDなし群5.5% vs PDあり群21.3%,p<0.001).年齢,性,人種を共変量としてロジスティック回帰を用いたところ,COVID-19による死亡リスクはPD群で有意に高いことが明らかになった(オッズ比:1.27,p=0.016).
Mov Disord. Sep 21, 2020(doi.org/10.1002/mds.28325)

◆神経合併症と転帰(1)
ニューヨークから,COVID-19患者における神経合併症の有病率と院内死亡率・転帰を前方視的に検討した観察研究が報告された.期間中に入院したCOVID-19患者4,491名のうち,606名(13.5%)が発症から2日以内(中央値)に神経合併症を呈した.多かった順に,中毒性・代謝性脳症(6.8%),けいれん発作(1.6%),脳卒中(1.9%),低酸素/虚血性障害(1.4%)であった.髄膜炎・脳炎,脊髄症・脊髄炎は見られず,検討した18名全例の髄液PCRは陰性であった.神経合併症を呈する患者は,高齢,男性,白人,高血圧,糖尿病,挿管患者が有意に多かった.神経合併症を有する患者は院内死亡のリスクが高く(ハザード比1.38,P<0.001),在宅退院の可能性が低かった(HR 0.72, P<0.001).神経合併症の多くは,重症全身状態に伴う後遺症の可能性が考えられた.
Neurology. Oct 5, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010979)

◆神経合併症と転帰(2)
シカゴから,509名の入院COVID-19患者において,神経合併症の有無による重症度と転帰を比較した研究が報告された.神経合併症は,COVID-189の発症時に215名(42.2%),入院時に319名(62.7%),病期中の任意の時点で419名(82.3%)に認められた.頻度の高かった順に,筋痛(44.8%),頭痛(37.7%),脳症(31.8%),めまい(29.7%),味覚障害(15.9%),無嗅症anosmia(11.4%)であった.脳卒中,運動異常症,運動・感覚障害,運動失調,けいれん発作はまれであった(各0.2~1.4%).人工呼吸を要する重度の呼吸障害は134名(26.3%)に認められた.神経合併症の危険因子は,重症のCOVID-19(OR 4.02;P<0.001)および若年(0.982;P=0.014)であった.つまりより若く,重症患者ほど神経合併症を呈し,またより高齢の患者ほど脳症を呈した.全患者のうち362名(71.1%)は,退院時の転帰が良好であった(modified Rankin scale 0~2).しかし脳症は,呼吸状態の重症度とは無関係に,転帰の悪化(OR 0.22;P < 0.001)および入院後30日以内の死亡率の上昇と関連していた.
Ann Clin Transl Neurol. Oct 5, 2020(doi.org/10.1002/acn3.51210)

◆神経合併症(1)オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群.
インドからの症例報告.中年男性が,COVID-19の呼吸器感染の回復から3週間後に,体のふらつきとミオクローヌスを呈した.診察時,オプソクローヌス,皮質性ミオクローヌス,小脳性運動失調を呈していた.他の失調を呈する原因は否定された.ステロイドパルス療法,バルプロ酸,クロナゼパム,レベチラセタムにて1週間後に回復した.
Neurology Oct 1, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010978)

◆神経合併症(2)筋障害の頻度と影響因子.
オーストリアからの報告.COVID-19患者351 名,インフルエンザ患者 258 名における筋合併症の後方視的検討.高CK血症はCOVID-19患者の27%,インフルエンザ患者の28%で認め,同程度の頻度であった.COVID-19において,CKは疾患の重症度,および炎症マーカー(CRP, IL6)と強く相関していた.高CK血症が,ウイルスが引き金となった炎症反応による間接的なものなのか,それとも直接的な筋毒性によるものなのかは不明である.
Eur J Neurol. Sep 30, 2020(doi.org/10.1111/ene.14564)

◆神経合併症(3)ウイルスは脳組織に到達するが,直接の損傷は起こさない.
ドイツから,COVID-19で死亡した43名(51~94歳)の患者の脳病理に関する検討が報告された.6 名(14%)で新鮮な虚血病変を認めた.37 名(86%)では,観察したすべての領域にグリオーシスを認めた.ミクログリアの活性化と細胞障害性Tリンパ球の浸潤は,脳幹と小脳で最も顕著であった.髄膜の細胞障害性Tリンパ球の浸潤は34名(79%)で認められた.SARS-CoV-2はPCRにより,40名中21名(53%)の患者脳で検出され,SARS-CoV-2ウイルス蛋白質は脳幹および下部脳幹に由来する脳神経で認められた(図3).中枢神経系におけるSARS-CoV-2の存在は,病理学的変化の重症度とは相関せず,ウイルスに直接起因した損傷とは考えにくく,免疫介在性の機序による損傷の可能性がある.
Lancet Neurol. Oct 5, 2020(doi.org/10.1016/S1474-4422(20)30308-2)



◆神経合併症(4)脳症患者における髄液高力価抗SARS-CoV-2抗体.
ギリシアから脳症を呈した8 名の検討.全患者の髄液に抗SARS-CoV-2抗体が認められ,8名中4名が血清抗体価に匹敵する高力価を示した.1名の患者で,抗SARS-CoV-2 IgGの髄腔内産生が示唆され,他の3名では血液脳関門の障害が認められた.4名の髄液所見で,神経変性マーカーの14-3-3蛋白が高値であった.血液脳関門の破綻は,サイトカインや炎症性メディエーターの中枢神経系への侵入を促進し,神経炎症や神経変性を促進する可能性がある.ちなみにすべての患者の髄液で自己免疫性脳炎に関連する抗体(NMDAr,AMPAr,GABAbr,CASPR2,DPPX,LGI1)は陰性で,PCRによるういSARS-CoV-2も陰性であった.
Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. Sep 25, 2020(doi.org/10.1212/NXI.0000000000000893)

◆レムデシビルは偽薬より回復までの時間を5日間短縮する.
COVID-19で入院し,下気道感染を認めた成人を対象に行われた,抗ウイルス薬レムデシビル静注の二重盲検無作為化プラセボ対照試験の最終結果が報告された.レムデシビルまたは偽薬を10日間投与し,主要アウトカムは回復までの時間であった.541名がレムデシビル群,521名が偽薬群に割り付けられた.リムデシビル群の回復期間(中央値)は10日,偽薬群では15日であった(回復率比1.29;P<0.001)(図4).死亡率は,15日目までにレムデシビル群で6.7%,偽薬群で11.9%,29日目までにレムデシビル投与群で11.4%,偽薬群で15.2%,統計学的な有意差なし(ハザード比0.73;95%CI,0.52~1.03).重篤な有害事象に有意差はなかった.
New Engl J Med. Oct 8, 2020(doi.org/10.1056/NEJMoa2007764)


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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(10月4日)  

2020年10月04日 | 医学と医療
今回のキーワードは,飛行機の感染リスクは低い,日本人が重症化しない2つの遺伝要因?,感染封じ込めのための適切な検査感度,米国の大学における感染爆発,スワブ検査後に生じた髄液漏,脳梁膨大部病変,片頭痛患者のCOVID-19感染後の頭痛変化,髄液バイオマーカー,高齢者におけるワクチン後反応は若年者と同等,です.

◆飛行機での感染リスクが低い理由.
機内でのCOVID-19感染リスクは,オフィスビルや教室,通勤電車などよりも低いとされている.事実,疑い例を含めても,世界で42名のみという報告がある.この理由についてJAMA誌に掲載されている.まず空気感染に関しては,機内の空気は頭上の吸気口から客室に入り,床の吸気口に向かって下に流れるため,空気は同じ座席の列またはその近傍を出入する(図1),よって列の前後方向の気流は比較的少なく,列間にウイルス粒子が拡散する可能性は低い.また空気の流れのスピードは,通常の屋内の建物よりもはるかに速い.気流の半分は外部からの新鮮な空気で,残りの半分は手術室で使用されているのと同じタイプのHEPAフィルターを通して再利用される.他の乗客からの飛沫感染については,シートが物理的バリアとなること,そして多くの乗客は比較的じっと座っていることから,対面となることはなく接触はほとんどない.
JAMA. Oct 1, 2020(doi.org/10.1001/jama.2020.19108)



◆危険因子(1)重症化の遺伝リスクはネアンデルタール人由来.
ドイツからの研究.入院した3,199名のCOVID-19患者と対照群の検討で,3番染色体上の遺伝子座3p21.31が,重症および入院の主な遺伝的危険因子であることが報告された.この50kbの領域は,約40万年前に出現し,2万数千年前に絶滅したネアンデルタール人のゲノムにほぼそのまま認められるものであった.つまりネアンデルタール人との交雑を介して,我々ホモサピエンスに伝えられたものと考えられる.ネアンデルタール人は,ヨーロッパ大陸を中心に西アジアから中央アジアにまで分布していたので,この遺伝子領域は南アジアの人々の50%,ヨーロッパ人の16%に受け継がれているが,交雑の少なかった日本人を含む東アジア人やアフリカ人はまれである(図2).
Zeberg, H., Pääbo, S. The major genetic risk factor for severe COVID-19 is inherited from Neanderthals. Nature. Sep 30, 2020(doi.org/10.1038/s41586-020-2818-3)



◆危険因子(2)α-1アンチトリプシン欠乏対立遺伝子.
セリンプロテアーゼ阻害作用を持つα-1アンチトリプシン(α1-AT)は,ウイルスの細胞侵入に必要な細胞表面セリンプロテアーゼTMPRSS2を阻害して感染を防御する(臨床試験中のナファモスタットやカモスタットも同様の効果をもつ).イスラエルから,国ごとのCOVID-19死亡率に違いは,このα1-ATの欠乏をもたらす変異遺伝子の頻度により説明できるとする研究が報告された.具体的には67カ国におけるα1-AT欠乏対立遺伝子PiZおよびPiSの複合頻度と死亡率との間に正の相関を認めることを示した(図3)つまり遺伝子変異保有者が多い国ほど死亡率が高く,逆に少ない国ほど死亡率が低い.
.たとえば死亡率の高いスペイン人では,PiZ変異保有率は1000人あたり17人と高率であるのに対し,日本人は,α1-AT欠損症による肺気腫が極めて珍しいことからも分かるように,この変異保有率はほとんど無視できるレベルである.
FASEB J. Sep 22, 2020(doi.org/10.1096/fj.202002097)



◆COVID-19封じ込めに求められる検査感度.
医師は通常の診療において,症状のある人を対象として,一度の検査で臨床診断を得ようと努力する.このため事前確率や尤度比といった「ベイズの定理」を考慮して検査を行っている.自分はこの原則はCOVID-19であっても変わらないと当初考えていたが,集団有病率を低下させることを目的とした検査は,従来の考え方を変える必要があると徐々に分かってきた.この点に関して,NEJM誌に掲載された「封じ込めのための検査感度を再考する」という論評に分かりやすい図が示されている(図4).PCRのように感度は高いものの,高額で繰り返し行えず,タイミングによっては陰性になる検査と,抗原検査のように感度は低いものの,安価で繰り返し行うことができ,幅広いタイミングで感染を検出しうる迅速検査(ポイント・オブ・ケア検査)では,後者が適していることを示している.またPCR検査は高感度であるため,感染力がなくなったあとも陽性となるロングテール現象も問題となる.つまり集団有病率を低下させるためには,低感度の安価な検査を開発することの必要性を意味している.ただし低感度検査では,1回の検査で陰性が出たからといってそれで安心とは限らないことを周知する必要がある.
N Eng J Med. Sep 30, 2020(doi.org/10.1056/NEJMp2025631)



◆米国の大学における感染爆発.
JAMA誌における論評.日本と同様,米国でも感染者に占める若年層の割合が増加し,大学における感染防止が重要な課題となっている.米国の1600校以上の大学を対象とした調査では,8月の秋学期の開始以降,9月25日までに1300校で13万人以上(!)の患者が確認されている.感染はマスク使用が義務づけられていない場合,身体的距離が十分でない場合,手指衛生が不十分な場合に発生している.またキャンパスに関連した社会的イベントに関連したアウトブレイクが多数発生し,また居住環境(宿舎,寮)でも生じている.公衆衛生上の目標は,重篤な転帰のリスクが高い人々への感染を回避または最小化することを認識し,アウトブレイクが発生した際には,適切な検査とスクリーニング戦略に加えて,キャンパス内外での隔離と検疫の計画を立てる必要がある.→ 医学生の感染は院内感染に直結する.改めて学生に身体的距離や手指衛生等を徹底し,大学側も適切な対策を継続する必要性がある.
JAMA. Sep 29, 2020(doi.org/10.1001/jama.2020.20027)

◆鼻咽頭拭いスワブ検査後に生じた髄液漏.
米国からスワブによる鼻咽頭からのPCR検体採取後に髄液漏を起こした初めての症例(40歳代の女性)が報告された.ヘルニア手術前にPCRを受けた直後,右片側性鼻漏,頭痛,嘔吐をきたした.画像検査では,右篩状窩から延びる1.8cmの脳瘤(頭蓋骨の欠損部から神経組織と髄膜が突出した状態:図5)が確認された.2017年のCTを確認すると,当時から頭蓋底の骨欠陥が認められた.入院後,内視鏡下外科修復術が行われた.以上より,スワブが頭蓋底を破壊し貫通したのではなく,既存の脳瘤を損傷したものと考えられた.本例は正常な鼻腔解剖を歪める疾患や過去の外科的介入を認める場合,スワブによる有害事象が生じうることを示している.具体的には,頭蓋骨欠損,副鼻腔または頭蓋底手術の既往歴,または頭蓋骨へ浸潤しうる疾患を有する患者において,別の検査法を検討すべきである.
JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. Oct 1, 2020(doi.org/10.1001/jamaoto.2020.3579)



◆神経合併症(1)細胞障害性の脳梁膨大部病変.
フランスから急性脳症の画像所見に関する報告.ICUに入室した49歳と51歳の2人の男性.頭部MRIでは,T2,FLAIRで高信号を呈し,拡散抑制を伴う脳梁膨大部病変を認めた(図6).この所見は脳梁の細胞障害性病変として報告されてきたもので,感染,薬物中毒,くも膜下出血,中枢神経系悪性腫瘍の既往,代謝障害などの二次的な原因によるものである.非虚血性の病変であり,通常は一過性で可逆的である.我々も小脳性運動失調で発症し,脳梁膨大部病変を認めた症例をMERS(mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion)として症例報告した.
COVID-19:失調性歩行と動作時振戦にて発症し,脳梁病変を認めた75歳男性の経験
https://blog.goo.ne.jp/pkcdelta/e/06b1a0478f357b0d468baf993599a522
Neurology. Sep 16, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010880)



◆神経合併症(2)COVID-19関連頭痛の特徴.
スペインからの症例集積研究.頭痛は,COVID-19の神経症状のなかで最も頻度の高いもののひとつであり,有病率は8~71.1%と報告されている.患者145名のうち99名(68.3%)が頭痛を呈した.ほとんどの症例で,頭痛は他のCOVID-19症状と同時に出現した(57.6%).頭痛は両側性が多く(86.9%),前頭部または頭頂部にみられ(それぞれ34.3%),激しい痛みであった(VAS ≥7が60.6%).誘因は39.4%で認められ,最も多いのは発熱であった.増悪因子として身体活動と咳が多かった.最初に使用される鎮痛剤の効果は部分的有効が53.5%,消失が26.3%であった.25/99名(25.3%)の患者に片頭痛の既往歴があったが,うち23名(92.0%)は通常とは異なる頭痛であった.すなわち片頭痛を有する患者は,片頭痛のない患者と比較して,早期発症,長期間持続(図7),強い頭痛という特徴がみられた.
Headache. Sep 28, 2020(doi.org/10.1111/head.13967)



◆神経合併症(3)髄液バイオマーカーの検討.
中等度から重度のCOVID-19および神経症状を有する6名において,髄液の炎症(白血球数,ネオプテリン,β2マイクログロブリン,IgG-index),血液脳関門透過性(アルブミン比),軸索損傷(ニューロフィラメント軽鎖;NfL)を反映するバイオマーカーを評価した.6名の神経所見として,脳症(4/6名),髄膜炎(1/6名),意識障害(1/6名)が含まれていた.2名の患者の血漿中にウイルスRNA が検出され,3 名の患者の髄液中に低レベルのRNAが検出されたが,2 回目の解析では検出されなかった.髄液ネオプテリン(中央値,43.0 nmol/L)とβ2-マイクログロブリン(中央値,3.1 mg/L)はすべての患者で増加していた.IgG-index,アルブミン比,白血球数は全例正常であったが,NfLは2名で上昇していた.以上より,可溶性炎症マーカーは増加したが,白血球反応やその他の中枢神経系ウイルス感染症に典型的な免疫学的所見は認めなかった.
Neurology. Oct 1, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010977)

◆RNA ワクチンは高齢者においても有望.
高齢者における感染予防対策としてワクチンへの期待は大きいが,高齢者で若年者と同様の免疫反応が惹起されるかは不明である.今回,Moderna社によるメッセンジャー RNA ワクチン(mRNA-1273)の用量漸増オープンラベル試験で,年齢(56~70歳または≧71歳)に応じて層別化された40名を対象とした試験結果が報告された.参加者は28日間隔で,25μgまたは100μgのワクチンを2回接種するように割り付けられた.結果であるが,有害事象としては疲労,悪寒,頭痛,筋肉痛,注射部位の疼痛が見られたが,主に軽度ないし中等症であった(用量依存性があり,2回目の接種後に多くが認められた).結合抗体反応は初回接種後に急速に増加した.2回目の接種後,複数の方法で血清中和活性が全参加者で検出された.結合抗体反応および中和抗体反応は,18歳から55歳までのワクチン接種者のデータと同等で,回復期の血清を提供した対照群の中央値を上回っていた.ワクチンは1型ヘルパーT細胞を含む強力なCD4サイトカイン反応も誘発していた.第 3 相ワクチン試験における 100μg 投与の使用を支持する結果となった.
N Eng J Med. Sep 29, 2020(doi.org/10.1056/NEJMoa2028436)

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