Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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これからの難病対策

2012年12月16日 | 医学と医療
「難病」の定義は実は難しい問題である.昭和47年の難病対策要綱においては,(1)原因不明,治療方針未確定であり,かつ後遺症を残す恐れが少なくない疾病,(2)経過が慢性にわたり,単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家族の負担が重く,また精神的にも負担の大きい疾病」と定義された.当然,時代により医療水準や社会通念が変化すると「難病」に該当する疾患は変わってくる.

基本的に日本の難病対策は,患者数が少なく,原因不明で,治療方法が未確立で,生活面への長期にわたる支障がある疾患に対して行われ,具体的には以下のような事業がなされてきた.

(1)調査研究の推進(難治性疾患克服研究事業:対象は臨床調査研究分野の130疾患)
(2)医療施設等の整備(重症難病患者拠点・協力病院設備)
(3)地域における保健・医療福祉の充実・連携(難病特別対策推進事業など)
(4)QOLの向上を目指した福祉施策の推進(難病患者等居宅生活支援事業)
(5)医療費の自己負担の軽減(特定疾患治療研究事業)(※)

※ 臨床調査研究対象疾患130疾患のうち,公費負担の方法をとらないと原因の究明,治療法の開発などに困難をきたすおそれのある56疾患が対象になっている.

近々,その難病対策に対して極めて大規模な改革が行われる.その理由として一番大きなものは国家の財政の逼迫と助成対象でない疾患との公平性である.特定疾患治療研究事業にかかる費用は国と都道府県が負担するが,国が本来負担すべき予算の639億円のうち350億円しかもはや負担ができず,都道府県が超過負担をしており,制度として行き詰まっている状況だ.また「難病」に該当する疾患は多数あるが,そのうちの56疾患に限って公費負担を行うことは公平と言えるかといった問題もある.さらに,事業で得た情報が臨床研究に耐えうるデータとなっているかも問題である.以上を踏まえて行われた難病対策改革の検討状況をネット上で読むことができる.極めて重要な情報であり,ご一読をお勧めしたい.

厚生科学審議会疾病対策部会 第27回難病対策委員会 資料(議事録12月6日)


以下に現在の案のポイントを簡潔にまとめたい.
まず基本理念は「難病の治療研究を進め,疾患の克服を目指すとともに,難病患者の社会参加を支援し,難病にかかっても地域で尊厳を持って生きられる共生社会の実現を目指す」ことである.改革の3つの柱としては以下があげられる.

1.効果的な治療方法の開発と医療の質の向上
2.公平・安定な医療助成の仕組み
3.国民の理解の促進と社会参加のための施策の充実


具体的な案としては以下のようなものがある(全部は書けないので,とくに大きな変化について記載する).

●研究はアウトカム重視,とくに創薬の開発・実用化が重視される(careよりcure重視).これぞという研究シーズが見つかれば重点的予算配分される.

●難病患者データの制度の向上と有効活用・還元を目指し,診断書を書ける医師を「難病指定医(専門医,ないし一定の研究を修了した医師)」に限定する(図クリック ).難病認定審査会も診断書のみではなく,画像や検査結果を踏まえて審査を行う.データ登録も一元的に集約・管理する.そのデータは難病研究のためであれば広く活用可能とする.

●医療提供体制を整備し(図クリック ),新・難病拠点病院,難病対策地域協議会(保健所を中心に地域での難病対策の情報共有),難病医療地域基幹病院(概ね2次医療圏に1ヶ所)を設置する.難病医療コーディネーターを新・難病拠点病院に集約する.

●公平・安定的な医療費助成の仕組みの構築する.難病の条件として①症例が少ない(希少性;人口の0.1%=12万人程度以下),②原因不明,③治療未確立,④生活面への長期に渡る支障,⑤診断基準が存在する,とする.「難病の定義」の範囲を拡大する可能性があり,56疾患よりは増えるが(300を超える疾患に拡大する可能性),医療費助成でなく,生活支援,就労支援を行なっていく.

●国民の理解の促進と社会参加のための施策の充実を図る.具体的には,就労ガイドライン,難病相談・支援センター(ピアサポート,就労支援,地域交流活動),保険所の難病支援の強化,難病医療ネットワークの機能向上等の充実を図る.


誰もが将来その立場になりうる難病患者をいかに支援すべきか,以上のような改革で良いか国民的議論が必要な重要な問題である.

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てんかん治療の最前線(神経治療学会@北九州市)

2012年12月03日 | てんかん
神経治療学会@北九州市に参加した(2012年11月28~30日).興味深い発表がいくつもあったが,「てんかん治療の最前線」というシンポジウムがとくに勉強になったので,新規抗てんかん薬の使用方法と生活とケアに分けて,エッセンスをまとめたい.重要な治療の目標は「発作をゼロにすること,抗てんかん薬による副作用をゼロにすること,発作以外の問題をゼロにすること」である.

A. 新規抗てんかん薬の使用方法

ほかの抗てんかん薬(AED)との相互作用のない新規AEDは,ガバペンチン(ガバペン®)とレベチラセタム(LEV;イーケプラ®)である.CYP代謝を受けないためである.

ガバペンチン(GBP;ガバペン®)は副作用として眠気,だるさが問題.

トピラマート(TPM;トピナ®)はCYP代謝を受けるため,PHT,CBZ,PBにより濃度低下する.副作用として体重減少,抑うつ,発汗減少,下痢,腎結石が問題.中断率は高い.

ラモトリギン(LTG;ラミクタール®)は同様にPHT,CBZ,PBにより濃度低下する.バルプロ酸は半減期を2倍に伸ばす.副作用として薬疹が問題.

レベチラセタム(LEV;イーケプラ®)は副作用として眠気,ふらつきあり.ピーク到達時間は短く,早く定常状態になる.部分てんかんに対する新規AEDのなかで有効性が高いが,値段が高く経済的負担が問題である(1000mg/日=461.6円.28日で12,900円余り,1割負担で月1,300円くらい).精神障害者保健福祉手帳や厚生労働省自立支援事業を使って経済的負担を減らす工夫が必要となる.

自立支援医療は通院を継続的に要する場合,通院医療費が一割負担になる(診断書2年に1回必要).てんかん発作がなく落ち着いていても申請可能.

AEDによる体重変化は以下の4剤で生じる.
増加;VA,GBP.減少;TPM,ゾニサミド(ZNS).

認知機能に対してはPB,クロナゼパム(CZP)は影響が大きい.VA,CBZも血中濃度が高いと影響あり.TPMも量が増えるとタスク処理能は低下する.LEVの中枢神経系副作用は少ない

妊婦におけるVAの高用量は奇形のみでなく,子供の認知機能低下ももたらす.裏を返せば低用量であれば危険性は低くなる(ゼロではない).奇形予防には少なくとも用量1000 mg以下で,血中濃度は70 μg/ml 以下を保ち,葉酸を使用する(0.4 mg/day).授乳は可能だが,半減期の長いAEDでは児に傾眠が生じうる.


B. 生活とケア

徐々に高齢者てんかんが増えている.症候性てんかんと考えられる.しかし半数は画像を確認しても病変を認めない.加齢が関連していることは分かるものの詳細は不明の状態.

発作時に使用するチェックシートを用意しておくと便利.てんかん発作で確認をすべき点をチェック項目にまとめ,さらに部分てんかんや全般てんかんに特徴的な症候についてはそれぞれ色をつけておくとひと目で鑑別ができる.

てんかん重積発作時の対処法についてはてんかん治療ガイドライン2010が使用しやすい. PB静注は比較的使いやすい印象.

発作間欠期のケアとして発作の完全抑制,合併症・副作用の軽減,日常生活・社会生活問題の軽減が重要.

発作は完全抑制を目指す.そうでないと患者さんのQOLは改善しない.

QOLを悪化させているのは発作頻度のみでなく AEDを複数使用することによる副作用も重要である.複数のAED内服している症例において単剤に減らしても,70%以上の症例で発作頻度の悪化はなく,QOLが改善しうるという報告もある.

難治てんかんの場合,①診断が間違っていないか,②治療薬の選択が間違っていないか,③実は薬を飲んでないのではないか,これらを完全に除外することが必要.ただ診断が確定した時,難治てんかんに対する明確な方針は現在決まっていない.

認知症患者のてんかん治療の難しさは,①発作の有無や特徴についての情報が得られにくい,②内服アドヒアランスが不良,③患者教育が難しい点に起因する.

睡眠時無呼吸症候群(SAS)を認めるてんかん患者さんではSASの治療でてんかん発作が改善することがある.

精神疾患の合併も高く,とくにうつ病が多い.治療としてSSRIが比較的安全と言われている.重症の発作が発現した後に,一定の意識清明期を経て精神病状態が発現する「発作後精神病」も見られる.

てんかん患者では次の場合に該当すると運転免許が許可される.免許の可否は,主治医の診断書もしくは臨時適性検査にもとづいて行われる.
①過去に5年以上発作がなく,今後発作のおこるおそれがない.
②発作が過去2年以内に起こったことがなく,今後X年であれば発作が起こるおそれがない(Xは主治医が記載する).
③1年の経過観察後,発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ,今後症状の悪化のおそれがない.ただし,運転に支障をきたす発作が過去2年以内に起こったことがないのが前提である.
④2年の経過観察後,発作が睡眠中に限っておこり,今後症状の悪化のおそれはない.

②のX年をどのように判断するかは難しいが,長期間発作がないと根拠をもって保証することは現実的には難しい.

②に関して,過去1年以内に短縮すべきという考えがあり欧米ではそのような地域が多い.2年間運転できないため内緒で運転を始めきちんと治療を受けないよりも,観察期間を短縮して治療をきちんと受けてもらったほうが良いのではないかという考え方である.
 
初回てんかん発作の際の対応については法律上明確な記載なし.つまりてんかんとして扱い2年間運転できないという判断をする医師と,てんかんとはいえないので3~6ケ月様子を見て判断する医師がいる.判断は難しいが運転能力がどうであるかが重要で,判断の拠り所になる.

大型車に関して日本てんかん学会は「てんかんに係る発作が,投薬なしで過去5年間なく,今後も再発のおそれがない場合を除き,通常は,大型免許及び第二種免許の適性はない」という立場である.

患者さんにおすすめの本.「やさしいてんかんの自己管理―本人と家族のために ポケット版(医薬ジャーナル社)」
早速購入しましたが,とても分かりやすい本です.病気の説明,生活指導にも役に立ちます.

こちらの本も分かりやすく書かれていてお勧めです.
プライマリ・ケアのための新規抗てんかん薬マスターブック


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