Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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アルツハイマー病研究の歴史的進歩!抗アミロイドβプロトフィブリル抗体「レカネマブ」臨床試験成功

2022年09月29日 | 認知症
標題のニュースについて読売新聞にコメントしました.私の意見はコンパクトなものになるようですが,脳神経内科医として大きな関心があり,じつはいろいろ個人的な感想を述べました.以下,まとめておきます.

この臨床試験を要約すると,大規模グローバル臨床第Ⅲ相Clarity AD検証試験で,開始18カ月の時点での全般臨床症状の評価指標であるCDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)スコアの平均変化量は,レカネマブ群が偽薬群と比較して-0.45となり,27%の悪化抑制を示し(p=0.00005),主要評価項目を達成したというものになります.詳細はプレスリリースをご覧ください.以下,感想です.

◆感想① とても大きな効果とまでは言えないが,27%抑制できたことは大きな進歩である.加えて今後の研究における意義は極めて大きい.

理由1.理由1.認知機能の低下の進行抑制を示せた点で意義が大きい.
先行薬のアデュカヌマブは,認知機能の低下を遅らせるという効果ではなく,アミロイドβを除去するという効果に基づいて承認されたため議論や批判が生じたが,今回のレカネマブは認知機能の低下の進行抑制を示せた点で大きな違いがある.

理由2.揺らぎつつあったアミロイドβ仮説への疑念を払拭する意義は大きい.
アミロイドβ凝集のより早期の段階(プロトフィブリル;図)を標的とすることが有効である可能性が初めて実証された.今後,この仮説に基づく研究がさらに推進され,より効果の高い新薬が開発される可能性がある.

理由3.懸念とされた副作用が少なかったことを示せた意義は大きい.
症候性のARIA-E(浮腫) の発現率はレカネマブ群で2.8%,偽薬群で0.0%.症候性ARIA-H (出血)の発現率はそれぞれ0.7%と0.2%.つまり副作用がないわけではなく適切な評価・対応が求められるが,この頻度は個人的には許容範囲と考える.



図の説明,アミロイドβの単量体が2個以上結合して低分子オリゴマーとなり,さらに多くが集まってプロトフィブリルといった高分子オリゴマー化する.凝集が進むと最後は線維状となり,それを成分とする老人斑が形成される.レカネマブは凝集の早期の段階のプロトフィブリルを認識する(出典:上図下図).

◆感想② ただし複数の重大な問題点が残されていることを認識する必要がある.

理由1.進行を抑制する病態抑止薬であり,本人や家族が効果を実感できるかが重要である.
本剤は偽薬群と比較して進行の程度が抑制されることが示された.しかし本人がその効果を対照群と比較して実感できるわけではない.27%抑制されているとはいえ,病状は進行するわけで,本人が薬剤の効果を実感すること,家族が介護負担の軽減を実感することは難しいかもしれない.

理由2.誰でも使用できる薬剤ではないことに注意が必要である.
a) より正確な診断がなされる必要がある・・・診断を誤れば当然効かない.専門医による診察,脳脊髄液検査やアミロイドPET等が必要.
b) 通院できる病院が限定される・・・正確な診断のみならず,副作用が生じたときに頭部MRIによる評価ができ,救急対応できる病院での治療に限られるだろう.
c) より早期の患者に使用される・・・軽度認知障害(MCI)~軽症認知症期の,早期のアルツハイマー病患者を対象とした臨床試験である.進行例ではおそらく無効である.またMCIや物忘れを心配する人が多数病院を受診するという状況も初めて経験することになる.何が起こるのか想像がつかない.本剤の適応症(効能・効果)をどうするかはきわめて大きな問題となる.

理由3. より長期の効果に関する情報が必要である.
効果判定を行った1年半という期間は,MCIや軽症認知症患者にとっては短い期間である(療養期間は長い).つまり長期的な効果が示されていない薬剤と言える.

理由4.医療経済学的・倫理的問題が未解決である.
米国ではどの程度の患者に使用されるかは加入保険(支払機関)の制限が大きい.これに対し,日本では医薬品が承認されれば基本的に保険収載される.つまり通常の保険診療で使えるため対象となる患者がかなり多数となる.MCIのみでも有病者数約400万人と推計されている(平成24年).アデュカヌマブの米国での薬価は当初,年間5万6000ドル=800万円超と設定されたが,単純計算すると32兆円となる.医療費削減が課題である日本にありえない金額である.つまりどのような人に使用するかという議論が生じ,医学的・経済的・倫理的な解決が求められる.

また改めてこの薬剤が本当にそのコストに見合うかという根拠が求められるだろう.「27%抑制」は全員が一律に27%抑制されるわけではなく,効果の強い人もいれば,効果のない人もいる.個人的には治療効果に応じて薬剤価格が変動する支払償還方式(Value-Based Pricing)を導入すべきと考えている.ただし効果の判定は専門的で,かつ短くても半年とか1年という時間を要する,難しいものになるいだろう.



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「自己免疫性運動異常症―本邦の現状と新規自己抗体の同定に向けて―」オンデマンド配信を開始しました!

2022年09月23日 | 自己免疫性脳炎
9月19日に開催しました日本神経学会難治性神経疾患基礎研究支援事業シンポジウム「自己免疫性運動異常症―本邦の現状と新規自己抗体の同定に向けて―」のオンデマンド配信を開始させていただきました.私自身大変勉強になりました.下記よりアクセスいただけます.ぜひご覧ください!

動画へのリンク
プログラムは以下で,各演題発表25分+質疑5分です.

1. イントロダクション,IgLON5抗体関連疾患
下畑享良(岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野)

2. GFAPアストロサイトパチー
木村暁夫(岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野)

3. DPPX抗体関連疾患
原 誠(日本大学医学部神経内科学分野)

4. 自己免疫性小脳失調症(1)Sez6l2抗体関連疾患
矢口裕章(北海道大学大学院医学研究院神経病態学分野神経内科学教室)

5. 自己免疫性小脳失調症(2)mGluR1抗体関連疾患
吉倉延亮(岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野)
(敬称略)



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眼科医Wilhelm Uhthoffが見出したウートフ徴候

2022年09月23日 | 医学と医療
カンファレンスで研修医の先生から「ウートフ徴候とは何ですか?」と質問がありました.これは多発性硬化症において,入浴などで体温が上昇すると神経症状が短時間(24時間以内),悪化することです.これを報告したドイツ人医師Wilhelm Uhthoff(1853-1927;左図)にちなんで,1961年にRickl Gが命名しました.1890年,Uhthoffは多発性硬化症100人のうち4人に「身体運動時および疲労時の著しい視力低下」を認めることを報告しました(中図).彼は運動が原因と考え,体温の上昇の重要性には気づいていませんでした.1950年,この現象をもとに温浴試験(hot bath test)が開発され,多発性硬化症の診断に使われるようになりました.1980年代になり,温浴検査はMRIや脳脊髄液検査などに取って代わられました.右図は正常な神経線維と髄鞘が減少した神経線維の伝導速度の温度による変化(計算値;Schauf CL et al. 1974)で,温度依存性伝導ブロックの主な機序は温度によるイオンチャネルの特性の変化と報告されました(Smith KJ et al. 1999).



さてこのUhthoff先生,じつはドイツの有名な眼科教授で,マールブルグ大学,後にブレスラウ大学に在籍しました.非常に科学的で,かつ神経学に強い興味を持っていたと言われています.それもそのはず,1877年には「ウィルヒョーの3原則」で知られる病理学者Rudolf Virchow(1821-1902)ととも研究を開始し,その後,勤務したベルリンの名門シャリテ病院の同僚には神経内科医のAdolf Wallenberg (1862-1949)やHermann Oppenheim (1858-1919)などがいました.彼が執筆した多くの症例報告は現代の神経眼科の基礎を築いたそうですが,その背景にはこのような出会いがあったのだと思います.

Stutzer P, Kesselring J. Wilhelm Uhthoff: a phenomenon 1853 to 1927. Int MS J. 2008;15:90-3.
Grzybowski A, et al. Wilhelm Uhthoff (1853–1927). J Neurol 2015; 262, 243–244. (doi.org/10.1007/s00415-014-7399-3)


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知っておくべき市販の頭痛薬による脳症

2022年09月21日 | 頭痛や痛み
カンファレンスで「ブロムワレリル尿素」による急性中毒について解説しました.この成分を含む市販頭痛薬の過量内服もしくは依存により,急性ないし慢性中毒が生じます.私自身は数例経験があります.上述の通り,「ブロモバレリル尿素」は一部の市販の鎮痛薬に含まれています.非常に依存が生じやすいので避けたほうが安全です.米国などではすでに医薬品としては禁止されていますが,日本はどういうわけか簡単に手に入ります.具体的には「ナロン錠」「ナロンエース」「ウット」などです.病歴でこれらの薬剤が出てきたら疑ってかかります.

「ブロムワレリル尿素」は有機臭素化合物です.暴露後,直ちに臭化物イオンに代謝され中枢神経に毒性を発揮します.悪心,嘔吐,傾眠,せん妄,錯乱,興奮が生じ,精神疾患と誤診されることがあります.重篤になると昏睡,痙攣重積発作,呼吸抑制・停止が生じます.頻脈と紅斑様皮疹を認めることがあります.検査では,臭化物イオンが塩化物イオンに置換されるために生じる「偽性クロール血症」が診断のヒントになります.また腹部単純X線で薬の塊を認めることがあります(X線透過性が低いため).また私は初めて経験しましたが,頭部MRIで異常信号を呈することがあります.両側視床内側(図),被殻,中脳水道周囲灰白質,小脳歯状核病変の異常信号を呈し,Wernicke脳症(ビタミンB1欠乏)が当初疑われた2症例が報告されています(当然本邦からです).その報告では,視床血流の増加と大脳皮質血流の抑制を認めることや,血液脳関門破綻による浸透圧の変化がWernicke脳症と共通の病態機序ではないかと議論されています.いずれにしても,市販頭痛薬の常用,精神症状,偽性クロール血症等から本症を疑い,なるべく早期に治療開始することで後遺症の軽減を図る必要があります.具体的には臭化物濃度の低下を目的に,生食負荷と利尿剤投与,血液透析を行います.



★あらためて市販頭痛薬に関して,医療者も製薬企業も①連用により慢性頭痛が生じること(薬剤の使用過多による頭痛;薬物乱用頭痛)と②依存性が高いものがあることをさらに周知する必要があると思いました.
Biyajima M, et al. BMC Neurol. 2022 May 16;22(1):181.

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(9月18日) 

2022年09月18日 | COVID-19
今回のキーワードは,ファイザーワクチンのオミクロン株亜型に対する入院予防効果は3~4カ月で低下する,モデルナ二価ブースター・ワクチンはオミクロン株に対する中和抗体反応を起こし,明らかな安全性の懸念はない,二価ワクチンの最新情報についての米国医師会インタビュー,ウイルスの持続感染の機序「体内リザーバー」を解明し,Long COVID治療薬の臨床試験を取り仕切る国際的組織LCRIが発足した,です.

新しいワクチンが話題ですが,オミクロン株亜型BA.4/BA.5に対するワクチンの臨床試験論文を目にしないまま接種開始が間近に迫っているため「どういうことだろう?」と思っていました.米国医師会(AMA)のワクチン担当者のインタビュー動画を見て,ある程度,理解ができました.今回の内容をまとめると,オミクロン株亜型に対する従来ワクチンの「重症化予防効果」は4ヶ月程度で急激に低下してしまうこと,対抗策として「二価ワクチン(ワクチンに含まれるウイルスの種類が2つ)」が作られたこと,当初,BA.1を標的に作り,中和抗体の評価や安全性の確認が行われたが,流行がBA.4とBA.5に変わってしまい,FDAがメーカーにワクチンを作り変えるよう指示したことが分かりました.BA.4とBA.5に対する「重症化予防効果」を含むデータは今後,明らかになるものと思います.個人的には納得して二価ワクチンを打ちます.それにしてWHOテドロス事務局長がパンデミックの「終わりが視野に入ってきた」と発言したそうですが,どういう出口を考えているのか理解できないです.

◆ファイザーワクチンのオミクロン株亜型に対する入院予防効果は3~4カ月で低下する.
南アフリカで370万人に医療保険を提供する医療機関の会員を対象に,オミクロン株亜型に対するBNT162b2(ファイザー・ビオンテック)ワクチンの有効性と持続性を評価した研究が報告された.2021年11月から2022年6月までの期間に,診療のために入院していた3万2883人の患者が対象となった. PCR検査で5909人(18.0%)が陽性であった.この集団において,BA.1/BA.2が優勢であった時期(2021年11月から2022年2月),BA.4/BA.5が優勢であった時期(2022年4月から6月)において,ファイザーワクチンの2回接種および3回接種(2回+ブースター)の有効性を,COVIDによる入院の予防効果により評価した.結果は,2回および3回のいずれでも,接種後3~4カ月で入院に対する予防効果の減弱がみられた.2回接種ではBA.1-BA.2期間で56.3%,BA.4-BA.5期間で47.4%まで低下し,3回接種でもBA.1-BA.2期間で50.0%,BA.4-BA.5期間で46.8%と,3~4カ月で低下していた(図1).以上より,ファイザーワクチンの2回または3回接種では,オミクロン株亜型による入院に対する予防効果が急速に低下することが分かった.最終接種後4カ月という早い時期にブースト接種する必要があること,もしくは予防効果を維持するために亜型を取り入れたワクチンが必要であると考えられた.
New Engl J Med. Sep 14, 2022(doi/org/10.1056/NEJMc2210093)



◆モデルナ二価ブースター・ワクチンはオミクロン株に対する中和抗体反応を起こし,明らかな安全性の懸念はない.
ワクチンの「価数」は,ワクチンに含まれるウイルスの種類の数を表す.オミクロン株を含む二価のモデルナ・ブースター・ワクチン(mRNA-1273.214)の安全性と免疫原性についての論文(中間報告)が発表された.現在進行中のこの第 2―3相試験では,50μg の二価ワクチン mRNA-1273.214(オリジナルのWuhan-Hu-1 と オミクロンB.1.1.529 [つまりBA.1]スパイク蛋白メッセンジャーRNAをそれぞれ 25μg)と,50μgのmRNA-1273(つまり従来のモデルナワクチン)のブースター効果が比較された.具体的には,最初に2回接種(100μg)し,1 回のブースター接種(50μg)を受けた成人(3 ヶ月以上前)を対象に,2度めのブースターとしてmRNA-1273.214またmRNA-1273を接種した.評価項目は,ブースター接種後 28 日目における安全性,反応原性(副反応),免疫原性である.

二価モデルナを 437 人,従来モデルナを377 人に接種した.最終接種からの期間(中央値)は,二価モデルナは136日,従来モデルナは134日であった.感染歴のない人では,BA.1株に対する中和抗体の幾何平均力価は二価モデルナ接種後で2372.4,従来モデルナ接種後で1473.5であった(図2).さらにBA.4/BA.5に対しては,それぞれ727.4および492.1であった.さらに二価モデルナは従来モデルナよりも,他の複数の変異株(アルファ,ベータ,ガンマ,デルタ)に対して高い結合抗体反応を示した.安全性と副反応は,2つのブースター・ワクチンで同様であった.この試験では,ワクチンの有効性は評価されなかった.探索的解析では二価ワクチン接種後に11人,従来ワクチン接種後に9人が感染している.以上より,2価のモデルナ・ブースター・ワクチンmRNA-1273.214 は,オミクロン株に対する中和抗体反応を起こし,従来のモデルナワクチンよりも優れていた.明らかな安全性の懸念はなかった.
New Engl J Med. Sep 16, 2022(doi.org/10.1056/NEJMoa2208343)



◆二価ワクチンの最新情報についての米国医師会インタビュー(オミクロン特異的二価ワクチンはBA.1を標的にしたものをBA.4,BA.5のスパイク蛋白を標的としたワクチンに作り変えたものである)
米国医師会(American Medical Association:AMA)のホームページ(https://bit.ly/3QTEZVg)に,FDAが認可した2つの二価ブースター・ワクチン(モデルナとファイザー・ビオンテック)について,AMA評議員会議長でCDC予防接種実施諮問委員会(ACIP)へのリエゾンであるSandra Fryhofer先生のインタビューが公開されている(公開日付は9月8日;図3).以下,要点をまとめたい.

「二価」とは,半分がオリジナル株で,半分がオミクロンBA.4,BA.5であることを意味する.ACIPは現在,12歳以上のすべての人にこの二価ワクチンを推奨している.過去にCOVIDワクチンを接種していたとしても,ブースター接種をすべきである,

ファイザーの2価ワクチンは,12歳以上で,モデルナは18歳以上で接種が認められる.一次接種を受けた5~11歳の子どもは,オリジナルの一価ブースターを受けてほしい.COVIDワクチンの一次接種を済ませていることが接種の条件である.

接種のタイミングは,前回から最低でも2ヶ月は必要.ほとんどの人は6ヶ月以上となるだろう.ただし感染後は,CDCのガイダンスに従い,少なくとも3ヶ月は接種を待った方がよい.

BA.4とBA.5は異なるオミクロン株の亜種で,異なる変異を持つが,スパイクタンパク質は偶然にも同じものであるため,この新しい二価ワクチンはBA.4とBA.5の両方をターゲットにしている.

オミクロン特異的二価ワクチンは,1400人以上を対象に研究されたが,ヒトでの臨床研究はBA.1を対象として行われた.しかしもうBA.1は流行していない.そこでFDAは,BA.4,BA.5のスパイク蛋白を標的としたワクチンに作り変えるようメーカーに指示した.このようなワクチンの標的株を変更することは新しいことではなく,インフルエンザ・ワクチンでは毎年行っている.今年のインフルエンザの季節に,昨年のインフルエンザ・ワクチンを接種することはない.FDAは,完全な臨床試験を必要とせずに,インフルエンザウイルスの変異に伴うインフルエンザ・ワクチンの変更を許可している.これと同じことである.つまりBA.4とBA.5のブースター効果は動物では研究されているが,ヒトでの臨床試験データはまだない.しかしいずれは出てくるだろう.

BA.1二価ワクチン臨床試験では,オリジナルに2つ目の変異株を追加することで,抗体反応の幅が広がることが分かった.オミクロン株だけでなく,他の変異株に対しても,高い抗体価が得られた.感染したことのある人に二価のCOVIDワクチンを投与したところ,最も高い抗体価が得られた.

副反応は従来の他のワクチンと同様であった.心筋炎や心膜炎はなかった.疲労,頭痛,筋痛,関節痛,悪寒,吐き気,嘔吐,そして発熱である.BA.1とBA.4, BA.5のスパイクタンパク質の配列には微妙な違いがあるものの,専門家は安全性や副反応に違いはないと予想している.

インフルエンザと二価ワクチンの予防接種を同時に受けることは問題なく,むしろCDCはそれを奨励している.

保管のルールは,従来ワクチン製品と同じであるが,残念なことに,ラベルの色分けなどは紛らわしく,誤解を招きやすいので注意が必要.

重篤な合併症,入院,死亡からあなたとあなたの大切な人を守るために,ブースター接種を含め,COVIDワクチンについて最新の情報を得ることを強く勧める.



◆ウイルスの持続感染の機序「体内リザーバー」を解明し,Long COVID治療薬の臨床試験を取り仕切る国際的組織LCRIが発足した.
すでに1億5000万人を数え,増加を続けるLong COVIDを研究し,治療薬候補の臨床試験を取り仕切る国際的組織Long Covid Research Initiative (LCRI) が,9月8日に設立された.Long COVIDではウイルスは組織内に留まり,免疫系を刺激し続けている可能性がある.このため,その下流の出来事として,血液凝固,神経炎症など,さまざまな影響を引き起こすものと考えられる.SARS-CoV-2ウイルスが組織内に持続することは「ウイルスリザーバー」と呼ばれる.LCRIはこの現象,すなわち「ウイルス持続感染がlong COVIDの原因である」という研究仮説を立てた(図4).LCRIは以下のように研究と治療法の2つのアプローチを行う仮想研究機関と言える.



①LCRI研究プログラム:世界トップクラスの研究機関の科学者が専門知識を結集し,病態機序を研究する.「ウイルスリザーバー」を明らかにするための組織生検研究,剖検と画像研究(全身と脳),血液ベースのバイオマーカー研究,下流への影響の研究, 他の病原体やマイクロバイオームへの影響の研究(ヘルペスウイルスやトキソプラズマなど他の潜伏病原体の再活性化がどの程度促進されるか等)が行われる.
②LCRI臨床試験プログラム:研究プログラムの成果を治療標的に変換し,臨床試験で用いる.
研究プログラムの成果を基に,LCRIが臨床試験を開始する治療薬のパイプラインを特定する.候補となる治療薬には,抗ウイルス剤,免疫調節剤,抗凝固剤,マイクロバイオーム治療薬などがある.

ハーバード大学,スタンフォード大学,UCSF,ジョンズ・ホプキンス大学,ペンシルバニア大学,マウントサイナイ大学,イェール大学等の科学者と臨床医が参加する.科学投資ファンドBalviが1500万ドルを寄付する.慈善団体による支援も広がっている.科学者,慈善家,製薬会社,患者コミュニティといった多様なステークホルダーが世界的な連携を構築することで,研究と臨床試験の両方を急発進させる.
→ Long COVIDに対する研究者や支援者の多さに米国の凄さを改めて感じた.


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多系統萎縮症の新しい診断基準と今後の展望@Kyoto Neurology Forum

2022年09月12日 | 脊髄小脳変性症
京都府立医科大学 水野敏樹教授に座長を賜り,標題の発表をさせていただきました.初めて講演する内容でした.

3つのパートからなり,①Gilman分類 第2回合同声明の14年間の使用で明らかになった診断の問題点,②新しい診断基準(MDS MSA criteria)の目的と構造,そして限界,③創薬研究の現状・失敗とその原因について説明しました.①ではimaging mimicsや自己免疫性MSA mimicsについて触れ,③では岐阜大学でも進行中の抗αシヌクレイン抗体の効果を検証する国際治験AMULET studyについても可能な範囲で解説をしました.講演後,いつもご指導を頂いている京都大学 高橋良輔教授と新診断基準について議論させていただきでき,大変,参考になりました.下記スライドが,診断のお役に立てば幸いです.




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私は誰でしょう?

2022年09月10日 | COVID-19
先日のフェースブックで,診察所見に先達の人名がつく「冠名徴候」の是非が話題になりました.無味乾燥にただ記憶してもつまらないので,せめて顔を知ってもらおうと,カンファレンスのあと,クイズにして専攻医の先生がたに出題しました.神経学会学術大会の目玉企画,レジデントクリニカルトーナメントに「きっと問題として出るよ」と挑戦してもらいました.



これらの写真は,誕生日に自分へのご褒美として購入したMcHENRY, Lawrence C., Jr. : Garrison's History of Neurology. 初版. 1969からの引用です.日本語訳の「神経学の歴史 : ヒポクラテスから近代まで(豊倉康夫監訳,萬年徹, 井上聖啓訳:医学書院1977)は以前から大事にしているお気に入りの本です.



解答(左上から横に)
Joseph Babinski
Moritz Heinrich Romberg
Sir William Gowers
Charles-Édouard Brown-Séquard
Pierre Paul Broca
Carl Wernicke
Alois Alzheimer
George Huntington
Harvey Cushing
Duchenne de Boulogne
Johannes Evangelista Purkinje
Santiago Ramón y Cajal

そのあと馬場正之先生より「Bell現象のCharles Bellもぜひ入れて欲しい,Gordon Holmes先生も現代神経学的系統診察の完成者として忘れられません,Jacksonian seizureは・・・」とコメントを頂きました.もうひとつ図を作ってみました.今度は神経解剖学まで広げてあります.



解答(左上から横に)
Sir Charles Bell
Jean Martin Charcot
Joseph Jules Dejerine
Sir Gordon Holmes
Jhon Hughlings Jackson
Wilehlm Heinrich Erb
Claude Bernard
Franciseus de le Boe or Sylvius
Augustus Volney Waller
Theodore Schwann
Louis Ranvier
Camillo Golgi

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(9月10日)  

2022年09月10日 | COVID-19
今回のキーワードは,血清コルチゾールはlong COVIDの最も有力な予測因子である,SARS-CoV-2ウイルスは海馬・延髄の血液脳関門破綻につづく神経炎症と神経新生障害を来たし,認知症をもたらす,SARS-CoV-2ウイルスは形態的にも血液脳関門の変化をもたらす,です.

Long COVIDの病態機序に大きな進展がありました.脳には「血液脳関門」という,血液からの病原体や有害物質の侵入に対するバリア機構が存在します.SARS-CoV-2ウイルスはこの血液脳関門を壊してしまい,血中のサイトカインや細胞が脳内に入り,脳に炎症を起こし,記憶にかかわる神経細胞の新生を妨げることが示されました.さらに脳により制御され副腎から分泌される重要なホルモン,コルチゾールが,健常者の半分まで低下してしまい,疲労感などの症状を引き起こすことも初めて示されました.多くの人はまだ理解していませんが,脳に対する影響が大きい,巧妙で厄介なウイルスです.対する人間サイドは十分に科学的議論をすることなく,療養期間の短縮を決めてしまいました.いままでにも何度も書きましたが,この難敵には科学的に立ち向かう必要があります.科学も刻々と進歩しています.専門家は最新の情報をupdateし,国民に啓発し,政府は専門家の意見に真摯に耳を傾け,COVID-19による死者や社会に復帰できない人を最小限に抑え,国民を守る務めがあると思います.

◆血清コルチゾールはlong COVIDの最も有力な予測因子である.
Long COVIDの病態機序を解明するために,long COVIDを識別する検査データを検討した横断研究が米国から報告された.対象は健常・非感染(HC群)40人,健常・未ワクチン接種・既感染(HCW群)37人,健常・既感染・持続症状なし(CC群)39人,感染後持続症状あり(LC群=long COVID)99人の合計215人である.結果として,感染後400日以上経過した時点で,3つの対照群と比較して,LC群では特定の骨髄球およびリンパ球の集団に顕著な違いが認められ,またSARS-CoV-2ウイルスに対する抗体反応の上昇が確認された.またSARS-CoV-2ウイルス以外のウイルス,とくにEpstein-Barrウイルスに対する抗体反応の予想外の増加が認められた.一方,ヒトエキソプロテオームに対する自己抗体については群間で有意な差は認めなかった.さらに血清コルチゾール値が,LC群ではその他の対照群と比較して約半分に低下していた(中央値LC群47.01 ng/mL vs. HC群90.32 ng/mL vs. CC群82.67 ng/mL)(図 1).



ACTH値は群間で差はなかった.つまり低コルチゾール血症はACTH値の有意な変動と関連せず,視床下部-下垂体axisによる代償反応が鈍化していると考えられた.機械学習モデルに基づくと,血清コルチゾールはlong COVIDの最も有力な予測因子であり,コルチゾール単独でROC曲線のAUC 0.96を達成した(図2左).コルチゾールは非感染の対照群(HC群)で最も高く,回復期の対照群(CC群)でやや低くなり,long COVID群LC群)で最も低かった(図2右).70.38 ng/mLの閾値で最大91.9%の分類精度を得た.



コルチゾールはストレス応答にかかわる重要なホルモンであり,その低下は易疲労などlong COVIDに類似した症状をもたらす.コルチゾール低下は筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)でも報告があり注目される.しかしコルチゾールは多様な病態で低下しうることからlong COVIDの診断に対して優れた特異性を維持できる可能性は低い.その代わりに本研究で同定された可溶性バイオマーカーの最小セット,コルチゾール減少,IL-8とガレクチン-1増加が特異的な診断バイオマーカーとして有益である可能性がある.

最後にlong COVIDの病因として,持続性ウイルス感染/ウイルス残骸,自己免疫,ディスバイオーシス,潜在性ウイルスの再活性化,修復されない組織障害,慢性炎症など,複数の仮説が提唱されてきた.今回のデータは,持続性抗原の存在,潜在性ウイルスの再活性化,慢性炎症の関与を示唆するもので,自己抗体説の可能性は低くなったと考えられる.
→ N=100とやや少ないものの,ありとあらゆる項目を徹底的に検討し,データも膨大で圧倒された.米国が総力を上げてlong COVIDに取り組んだ成果である.畏敬の念を抱かせる素晴らしい論文.
medRxiv. Aug 10, 2022.(doi.org/10.1101/2022.08.09.22278592)

◆SARS-CoV-2ウイルスは海馬・延髄の血液脳関門破綻につづく神経炎症と神経新生障害を来たし,認知症をもたらす.
SARS-CoV-2ウイルス感染後の神経精神症状のメカニズムを動物モデル,ヒト剖検脳を用いて病理学的に検討した研究が米国ワシントン大学から報告された.まずSARS-CoV-2ウイルスを鼻腔内感染させたハムスターを用いて,血液脳関門の透過性が亢進(=破綻)しているにもかかわらず,ウイルスは脳実質には認めず,脳内に侵入しないことを示した.血液脳関門の透過性亢進の原因として,IFNγおよびIL-6が原因であるという仮説をたて,感染ハムスターおよびCOVID-19で死亡した患者を対照と比較したところ,とくに海馬と延髄でIL-1βとIL-6の発現,およびミクログリアの活性化を見出した(図3).またIL-6とIL-1βは,海馬における抗神経新生作用がある.このため感染ハムスターとヒトの両方の海馬歯状回を検討し,増殖マーカーであるKi67と神経芽細胞や未熟な神経細胞のマーカーであるDCX(ダブルコルチン)を発現する細胞数が減少し,神経新生が抑制されていることを確認した.以上より「サイトカイン発現→血液脳関門破綻→サイトカインや免疫細胞の脳への侵入→ミクログリア活性化+神経新生障害→神経精神症状」というパスウェイが推測された.とくに海馬の障害は,COVID-19患者の学習,記憶,遂行機能障害を説明できる可能性がある.高齢者ではでは多能性前駆細胞プールが小さくなっているため,感染後,神経発生が生じるために十分な多能性前駆細胞が存在しない可能性があり,とくに認知症が生じやすいことを説明できるかもしれない.
Soung AL, et al. Brain, 2022;, awac270(doi.org/10.1093/brain/awac270)



◆SARS-CoV-2ウイルスは形態的にも血液脳関門の変化をもたらす.
COVID-19患者14名の剖検脳を用いて血液脳関門を検討した研究がルーマニアから報告された.全例入院患者で,入院後0~24日で死亡した.3分の1の症例は何らかの神経症状を呈していた.方法としては,血管基底膜と血管周囲アストロサイトの形態を光学顕微鏡で解析し,コラーゲンIV(血管基底膜マーカー)とGFAP(アストロサイトマーカー),CD31(血管内皮マーカー),TJ1(密着結合),AQP4(水チャネル)を免疫組織学的に対照4名と比較した.この結果,GFAP陽性アストロサイトのフラクタル次元解析では,COVID-19患者において分枝の複雑さが減少し,GFAPと血管基底膜の骨格を成すコラーゲンIVの共局在が減少していた.興味深いことに,血管基底膜は対照群と比較して形態的な不規則性が増加していた(図4).またCOVID-19患者では血管径がとくに白質において増大し,TJ1の血管内皮との共局在が減少,さらにAQP4とアストロサイトの共局在が減少していた.以上より,COVID-19剖検脳では,血管基底膜の不規則性,血管内皮密着結合の消失,アストロサイト足突起の減少,AQP4の減少が認められ,血液脳関門の破綻が示された.
Eur J Neurol. 02 September 2022(doi.org/10.1111/ene.15545)





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日本神経学会ウェブセミナー「メンタルヘルスとリーダーシップを基礎から学ぼう」のご案内

2022年09月08日 | 医学と医療
日本神経学会キャリア形成促進委員会が初めて実施するウェブセミナーです。このセミナーでは、みなさまのキャリア形成において重要であり、かつ継続的に意識しなければいけないテーマである“メンタルヘルス”と“リーダーシップ”について、魅力的なプログラムをご用意致しました。脳神経内科のみならず、すべての医療領域において喫緊の課題である「バーンアウト対策」についてと、適切な医療を継続的に提供し、それを後進に伝え、さらには自身が充実した人生を過ごすために重要な視点である「メンタルヘルスの維持」と「リーダーシップのあり方」について、最近の話題を含めてわかりやすく解説いただく予定です。どなたでも参加可能です。是非ご参加ください!!

日時:2022年11月5日(土)13:00~15:45
参加費:無料
参加対象:非学会員を含めどなたでも参加できます
参加登録:ポスターのQRコードないしリンクからお願いします
 
キャリア形成促進委員会委員長 矢部一郎
プロジェクト担当 下畑享良


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特発性孤発性小脳失調症(CCAやIDCAと呼ばれるもの)の18%にneuropil抗体を認め,免疫療法が奏効する症例が存在する

2022年09月04日 | 脊髄小脳変性症
成人発症で緩徐に進行する原因不明の孤発性小脳失調症は,歴史的にさまざまな名称で呼ばれてきました.本邦では,「晩発性皮質性小脳萎縮症(late cortical cerebellar atrophy; LCCA)」や「皮質性小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy; CCA)」,そして最近では「特発性小脳失調症 (idiopathic cerebellar ataxia; IDCA)」が提唱されています.このなかにはさまざまな病態が含まれます.例えば多系統萎縮症(MSA-C)の前段階(mono-system atrophy)や遺伝性小脳失調症の孤発例,PSP-Cなどの変性疾患がまず含まれると考えられます.自己免疫性小脳失調症も含まれている可能性があります.ただし自己免疫性小脳失調症は,通常,亜急性の経過を示すため,神経変性疾患と間違うことはないと考えられてきました.しかし私たちは「ごく緩徐な進行を示す自己免疫性小脳失調症が存在する.そのような症例を見い出せば免疫療法により治療できる」という仮説を立てました.批判もありましたが,対症療法にとどまっている脊髄小脳変性症に対して「一矢報いたい,症状を改善させたい」という強い想いがありました.

IDCAを提唱した吉田邦広先生の賛同も得て共同研究を開始しました.大学院生の竹腰顕先生と神経免疫に詳しい木村暁夫准教授が中心に,後方視的に検討を進めました.図1の手順で310症例からIdiopathic sporadic ataxia(ISA*)群を67名まで絞り(既知の抗神経抗体は除外しました),疾患対照としてMSA-C群30名と遺伝性運動失調症(HA)群20名,そして健常対照群18名の4群を検討しました.



ラット小脳凍結切片を患者血清により免疫染色するtissue-based immunofluorescence assay(TBA)にてスクリーニングを行いました.自己抗体は細胞表面抗原に対する抗体(neuropil抗体と名付けました)と細胞質抗原に対する抗体が存在します(図2).一般に前者が病的な意義を持つため,neuropil抗体陽性患者の臨床的特徴および神経画像所見を検討しました(*ここでISAという用語を用いたのは査読者の指示に従いました).



結果として,ISA群67名はneuropil抗体陽性例12名,細胞質抗体陽性例18名,抗体陰性例37名に分類されました(クラスター解析をすると図3のような6パターンに分類され,複数の自己抗体が存在する可能性が示唆されました).



ISA群におけるneuropil抗体の陽性率(17.9%; 12/67)は,MSA-C群(3.3%; 1/30),HA群(0%),健常対照群(0%)に比べ,有意に高い値でした.neuropil抗体陽性ISAは,他のISA患者と比較し,錐体路徴候などの他の神経症候を認めない純粋小脳失調を示す頻度が高いことが分かりました(小脳特異的な抗原が示唆されます).画像所見ではISA群に特徴的な所見は認めませんでした.またneuropil抗体陽性患者4名(図4)でステロイドパルス・IVIgによる免疫療法が行われており,2名で小脳失調の改善が認められmRSが改善しました.また細胞質抗体陽性ISA 4名に対しても同様に免疫療法が行われ,2名で改善を認めました.発症から治療開始までの期間1~3年でした.



今後の目標は当然,標的抗原を同定することです.また当科を中心とする多施設による医師主導治験「特発性小脳失調症に対する免疫療法の有効性および安全性を検証するランダム化並行群間試験(代表;吉倉延亮先生)」が進行中です(臨床研究計画実施番号 jRCTs031200250)(http://www.med.gifu-u.ac.jp/neurology/research/idca.html).

最後に一緒に研究をさせていただいた中村勝哉先生,吉田邦広先生(信州大学),山川勇先生,漆谷真先生(滋賀医科大学)に感謝申し上げます.

★CCA/IDCA症例がいらっしゃいましたら,ぜひ自己抗体の測定をご依頼ください.抗体が陽性であった場合には治験への参加をご検討頂き,ともにエビデンスの確立を目指すことができれば有り難く存じます.どうぞ宜しくお願いいたします.

Takekoshi A, Kimura A, Yoshikura N, Yamakawa I, Urushitani M, Nakamura K, Yoshida K, Shimohata T. Clinical Features and Neuroimaging Findings of Neuropil Antibody–Positive Idiopathic Sporadic Ataxia of Unknown Etiology. Cerebellum (2022).
論文はこちらからご覧いただけます

【参考となるブログ記事】
孤発性脊髄小脳変性症の分類はどうあるべきか ―SAOAという考え方―
注目の孤発性脊髄小脳変性症の新分類SAOAの特徴


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