Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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IgLON5抗体関連疾患のゲノムワイド関連解析とHLA関連解析から迫る病態機序

2024年03月06日 | 自己免疫性脳炎
私どもも協力したIgLON5抗体関連疾患に関する研究がBrain誌に報告されました.本症のHLA関連解析としては最大規模の報告で,研究の強みは複数の異なる民族の患者を組み入れたことです.研究を主導したスタンフォード睡眠医学センターEmmanuel Mignot教授には,留学中,ラボを見せていただいたり,ランチをご馳走になったことがあります.20年後に共同研究をさせていただくとは不思議なご縁だと思いました.

さてIgLON5抗体関連疾患ですが,慢性の経過で睡眠障害,運動異常症,球麻痺などの多彩な表現型を呈し,神経変性疾患との鑑別を要する自己免疫性脳炎です.HLA-DRB1*10:01やDQB1*05:01との関連が報告され,IgLON5抗体の存在とあわせて自己免疫学的機序が示唆されます.本研究の目的は,87人の患者サンプルを用いてGWASとHLA関連解析を行い,HLAペプチド結合候補を調べ,CD4+ T細胞への影響を調べることです.ゲノムワイドな関連を同定するのに87人では力不足に見えますが,HLA遺伝子は多型性が高く,遺伝子内および遺伝子間で強い連鎖不平衡を示すため,サンプルサイズが小さくても強力なマーカーとなります.事実,結果として,HLA-DRよりもHLA-DQとの強い関連が示されました.具体的には3つのHLA-DQ5ハプロタイプ(HLA-DQA1*01:05-05:01,HLA-DQA1*01:01-05:01,HLA-DQA1*01:04-05:03)との関連が,リスクの高い順に全患者の85%(74/87)で認められ,発症年齢に影響していました(図).



つぎにHLA-DQ分子の機能的関連性を,競合結合アッセイで検討しました.IgLON5が3つのリスク関連HLA-DQレセプターすべてに,ネイティブな状態ではなく,いくつかの部位にアスパラギン酸残基が翻訳後修飾(脱アミド化)されたIgLON5ペプチドが結合することが判明しました.この修飾の生理的意味は不明ですが,自己抗原はしばしば翻訳後修飾されることが報告されています(例:関節リウマチでのシトルリン化).HLA-DQ5結合物質として同定された3つの脱アミド化ペプチドは,すべてIgLON5のIg2ドメイン内に認められました.さらにこのIg2ドメインの脱アミド化ペプチドはT細胞を活性化しました.つまり特定のHLA-DQ分子がIgLON5タンパク質の特定のペプチドと結合し,T細胞に提示することが示唆されました.このプロセスが,IgLON5に対する自己免疫反応を引き起こし,病気の発症につながる可能性があります.このような現象の引き金は不明ですが,多発性硬化症におけるEBウイルスや,ナルコレプシーにおけるインフルエンザウイルスなど,いくつかの疾患では外来抗原による分子模倣(molecular mimicry)が強く示唆されています.同様のことがこの疾患でも生じているのかもしれません.

以上,IgLON5抗体関連疾患は主にHLA-DQに関連し,これらの分子により提示される脱アミド化IgLON5配列に向けられたT細胞自己免疫が関与する可能性が初めて示されました.この疾患は表現型が多彩ですが,HLAと表現型の関連をより詳細に検討する必要があると思いました.
Yogeshwar SM, et al. HLA-DQB1*05 subtypes and not DRB1*10:01 mediates risk in anti-IgLON5 disease. Brain. 2024 Mar 1:awae048.(doi.org/10.1093/brain/awae048

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Ma2抗体の標的抗原は進化の過程でウイルスから取り込まれ,いまだにウイルス様粒子を産生することで傍腫瘍性症候群をきたす

2024年02月07日 | 自己免疫性脳炎
最新号のCell誌の驚きの論文です.傍腫瘍性神経症候群(PNS)は,担癌患者に合併する神経障害のうち,免疫学的機序により生じる多様な症候群です.さまざまな自己抗体が出現しますが,そのなかでMa2抗体は精巣腫瘍,非小細胞肺がんに認めることが多く,細胞内抗原を認識しています.その抗原は「傍腫瘍性Ma2抗原(paraneoplastic Ma 2 antigen;PNMA2)」と呼ばれます.その遺伝子は中枢神経系で主に発現していますが,上述の腫瘍でも異所性に発現します.この米国ユタ大学からの論文では,PNMA2は進化の過程で,ウイルスがコードする分子がヒトの生理機能として組み込まれてできたこと,そしてそれがいまだに自己として認識されずに免疫の攻撃の対象となりPNSをきたすことが報告されています.

「進化の過程でウイルスがコードする分子が組み込まれた」代表例は,神経細胞のシナプス形成に関わるArcです.これはTy3レトロトランスポゾンの Gag蛋白質(レトロウイルスのウイルス粒子に必要な構造蛋白質)と相同性があり,実際に神経細胞内に存在するRNAを取り込んだウイルス様粒子を産生し,他の細胞へ伝搬させることが知られています.ちなみにレトロポゾンとは,自己のコピーを作成してゲノム内の異なる位置に挿入することができる移動性遺伝素子のことです.そして今回の研究は,PNMA2も同じTy3レトロトランスポゾン由来であり,Arc と同じようなウイルス様粒子(=非エンベロープ型ウイルス様カプシド)を産生して細胞外に分泌し,それが一種の自己(?)免疫反応を引き起こすことを示しています.



論文ではまず進化の過程で,Ty3レトロトランスポゾンが神経系の発達と機能に関わるDPYSL2遺伝子(Dihydropyrimidinase Like 2)の近傍に挿入され,この遺伝子のプロモーターを使用することになったため,海馬など神経系で強い発現が診られることを示しています.つぎにPNMA2はエンベロープを持たないこと,HIVに似たウイルス粒子を形成すること,レトロウイルスのGagタンパクに似た20面体複合体(PNMA2カプシド)を形成することを示しています.さらにこの組換えPNMA2カプシドをマウスに注射すると,外側のスパイクに結合する自己抗体が誘導されること,つづいてB細胞とT細胞の活性化,さらにサイトカインの放出につながることも示しています(図).そして最後にマウスの記憶や学習が障害されることが示されます.ヒトMa2抗体陽性PNS患者の脳脊髄液中のMa2抗体も,同様にPNMA2カプシドのスパイク部分に結合しました.



以上より,1億年前に組み込まれ,自己とも他者とも言い難いPNMA2カプシドが抗原となって誘発する免疫反応により,神経障害が生じることが明らかにされました.この研究が正しければ,Ma2抗体は細胞内抗原抗体といえど単なる診断マーカーでなく,病的意義を持つ抗体である可能性が高いわけですが,実際に免疫療法が有効である例が多いことが知られており,実臨床とも合致する内容といえます.
Junjie Xu, et al. PNMA2 forms immunogenic non-enveloped virus-like capsids associated with paraneoplastic neurological syndrome. Cell 2024, https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.01.009.

注)MRIはBrain. 2004;127(Pt 8):1831-44のもの.Cell論文では視床下部,皮質,海馬の順にPNMA2 RNA発現が高いことが示されているがこれに一致する画像といえます.




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小児の自己免疫性脳炎の自己抗体のレパートリーは成人とまったく異なる

2023年12月07日 | 自己免疫性脳炎
スペインのJosepDalmau教授のグループから,自己免疫性脳炎が疑われる18歳未満の小児における抗神経抗体の種類と頻度を検討した研究が報告されています.2011年からの10年間で血清または脳脊髄液を検査した急性散在性脳脊髄炎以外の自己免疫性脳炎が疑われた患者を対象としています.組織化学(tissue-based assay;TBA)を用いてスクリーニングし,陽性例はcell-based assay(CBA),免疫ブロット,または神経細胞蛍光免疫染色をさらに検討しています.

結果は対象2750人のうち,542人(20%)の血清または脳脊髄液が陽性で,その大部分(90%以上)は神経細胞表面抗原に対するものでした!その理由はN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)が76%と圧倒的に多いことが影響しています.2番めはなんとミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG;5%)で,ほとんどが皮質脳炎を呈していました.次いでグルタミン酸脱炭酸酵素65(GAD65;2%),γ-アミノ酪酸A受容体(GABAA;2%)が続きます.その他の既知の細胞表面または細胞内抗原に対する抗体は陽性例の6%,そして未知の抗原に対する抗体はわずか9%でした.以上より,小児の自己免疫性脳炎における抗体のレパートリーは,成人とはかなり異なることが分かります.



なんといっても驚いたのは細胞表面抗原抗体が多いことで,例外はGAD65とHuぐらいです.機序としては合併しうるがんの種類の違い(小児では小細胞肺癌,乳癌,卵巣癌が少ない)や,免疫システムの違いが推定されますがまだ良く分かっていません.また細胞表面抗原抗体が多いことは,免疫療法が奏効する可能性が高いことを意味します.よって小児で自己免疫性脳炎を疑った場合,①まずNMDAR 抗体と MOG 抗体を測定すること(外注可能),②これらが陰性の場合,他の抗体の検索の可能性を探りつつ,免疫療法を検討することが重要かと思います(EUROLINE PNS 12 Ag を測定した場合,抗体と症候の組み合わせが合わないときは偽陽性を疑う必要があります).またこの論文でも1例含まれていますが,GFAP抗体陽性例もあります.当科は複数の小児GFAPアストロサイトパチーの診断の経験がありますのでご相談ください.

当科では自己免疫性脳炎の検体が集積しつつあり,新たな自己抗原の同定も含め,今後さまざまな研究ができる状況にあります(対象は小脳失調症やパーキンソニズムに及びます).最近,自己免疫性脳炎の研究をするために岐阜大学の大学院や専攻医に進まれる方が出てまいりました.研究はもちろん,臨床も深い議論が行われていますので,関心のある先生はぜひ見学におこしください.
Chen LW, et al. Antibody Investigations in 2,750 Children With Suspected Autoimmune Encephalitis. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2023 Nov 15;11(1):e200182.(doi.org/10.1212/NXI.0000000000200182

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近未来の脳神経内科はCAR-T細胞を駆使する ―抗NMDAR脳炎への応用―

2023年11月13日 | 自己免疫性脳炎
自己免疫脳炎の代表的疾患である抗NMDAR脳炎は,精神症状,記銘力障害,痙攣発作,運動異常症,意識障害,中枢性低換気などを呈する若年女性にみられる脳炎です.急性期から積極的な免疫療法を行うことが重要で,第1選択療法でうまくいかないとき,速やかにリツキシマブなどの第2選択療法に踏み切れるかが重要です.ただし現在の治療は,広範な免疫抑制ないし非選択的抗体除去ですので,限界があり副作用も問題になります.

今回,Cell誌に,ドイツからCAR-T細胞療法でNMDAR抗体を作るB細胞を選択的に除去するという研究が報告されました! CAR-T細胞療法は脳神経内科では馴染みがありませんが,急性リンパ性白血病や悪性リンパ腫といった血液がんに大きな進歩をもたらした治療です.少し解説すると,近年,T細胞免疫療法において,キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor: CAR)をもつ遺伝子改変CAR-T細胞の開発が盛んに行われています.CARは腫瘍抗原特異的TCRや抗体を改変して作成した受容体です.一般的に受容体には細胞外領域に抗体の可変領域(抗原認識部位)が配置され,細胞内領域にTCRの一部であるCD3や共刺激分子CD28,CD137の細胞内領域(活性化シグナル伝達領域)が配置されます.そして患者末梢血に存在するT細胞を採取して,ウイルスベクターで受容体を導入して,体外でCAR-T細胞を大量に作ることができます.これを再び体内に戻します.

この論文では,まずNMDARの自己抗体遺伝子を14種類クローニングし,ほぼすべてに反応する NMDA受容体の遺伝子構成を決め,それに細胞内の4-1BB/CD3ζドメインを融合させたキメラ遺伝子を作成し,T細胞に発現させています.そうしてできたNMDAR-CAAR T細胞は,患者由来の自己抗体を認識し,サイトカインを放出し,増殖します(図).NMDAR-CAAR T細胞は,In vitroにて標的細胞に対する細胞傷害性を示し,またマウス動物モデルにおいて,抗NMDAR B細胞株を枯渇させ,自己抗体レベルを持続的に低下させることができました.病理学的に標的細胞以外に障害はなく,また標的細胞が少ないため,CAR-T細胞療法の安全上の懸念であるサイトカインストームも生じませんでした.



まだ前臨床研究の段階ですが,抗NMDAR脳炎におけるCAAR T細胞の第I/II相試験への道を開く研究といえます.もしこの治療が臨床応用されると副作用の軽減,長期予後の改善,再発予防が期待できます.同様のCAR-T細胞療法を用いた治療研究は重症筋無力症でも報告されており(Phase 1b/2a),16名の検討で,安全であり,忍容性も良好と報告されています.

近未来の脳神経内科はCAR-T細胞療法を行うことになりそうです.

Granit V, et al. Lancet Neurol. 2023 Jul;22(7):578-590.(doi.org/10.1016/S1474-4422(23)00194-1.
Reincke SM, et al. Cell. 2023 Oct 26:S0092-8674(23)01083-8.(doi.org/10.1016/j.cell.2023.10.001

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長期間の原因不明の髄膜炎の鑑別診断として抗NMDA受容体脳炎も考慮する

2023年08月12日 | 自己免疫性脳炎
当教室の山原直紀先生らによる抗NMDA受容体脳炎に関する症例報告です.脳炎に先行して,症例1は60日,症例2は22日間の髄膜炎症状(発熱,頭痛)を認めました.抗菌薬やアシクロビルなどによる治療が行われましたが無効でした.当院に紹介され,脳脊髄液抗NMDAR受容体抗体陽性が判明し,ステロイドパルス療法と血漿交換療法により改善しました.いずれの患者にも腫瘍の合併はありませんでした.またHSV感染やクリプトコッカス髄膜炎,MOGAD,NMOSD,GFAPアストロサイトパチーの合併も認めませんでした.



抗NMDAR脳炎では頭痛や発熱が先行しうるものの,既報では頭痛は2週間以内,発熱は中央値5.5日程度で,これら2症例のような長期の髄膜炎の報告は渉猟した範囲ではありませんでした.長期間の持続する髄膜炎の鑑別診断としてNMDA受容体脳炎も検討する必要があります.
Yamahara N, Yoshikura N, Takekoshi A, Kimura A, Harada N, Mori Y, Shimohata T. Anti-N-methyl-d-aspartate receptor encephalitis preceded by meningitis lasting up to 60 days. J Neuroimmunol. 382; 2023, (期間限定ですが,フリーでDLできます)


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非定型パーキンソニズムを呈する自己免疫性脳炎/傍腫瘍性神経症候群 ―スコーピングレビュー―

2023年08月01日 | 自己免疫性脳炎
8月号の「臨床神経」誌に当科から2つの論文が掲載されます.1つ目は専攻医,山原直紀先生とともに,大量の論文を精読して執筆した論文です.先日,開催されたMDSJ@大阪の教育講演・ポスター発表で報告し,反響を頂いた内容です.ちなみにスコーピングレビューは,比較的新しい文献レビューの手法で,既存の知見を網羅的に概観・整理し,まだ研究されていない範囲(ギャップ)を特定することを目的としています.文献検索はシステマティックに行いますが,システマティックレビューよりハードルは低いです.今後,総説を書く場合にナラティブレビューと使い分ける必要があります.

さて取り組んだ2つのclinical questionは「非定型パーキンソニズム(MSA,PSP,CBS)のなかに自己免疫性脳炎/傍腫瘍性神経症候群が含まれているか?(含まれる場合,陽性となる抗神経抗体はなにか?)」「どのようなときに自己免疫性脳炎/傍腫瘍性神経症候群を疑うべきか?」です.

前者については,非定型パーキンソニズムを呈する多数の自己免疫性脳炎/傍腫瘍性神経症候群が存在し,非定型パーキンソニズムの種類ごとに多数の抗神経抗体が報告されていることが分かりました.



後者については,亜急性・急性の経過をたどる例,脳脊髄液検査にて細胞増多,蛋白上昇,OCB 陽性,IgG index 上昇を認める例,腫瘍を認める症例の報告が多く,臨床経過の把握,脳脊髄液検査,全身の腫瘍の検索は重要と考えられました.さらに,40 歳未満の若年発症例,体重減少を認める症例,神経変性疾患ごとに特徴的な画像所見を認めない症例は注意が必要です.オープンアクセスです.詳細は下記からご覧いただけます.

山原直紀, 木村暁夫, 下畑享良.非定型パーキンソニズムを呈する自己免疫性脳炎/傍腫瘍性神経症候群―スコーピングレビュー―.臨床神経doi.org/10.5692/clinicalneurol.cn-001871



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症候から自己抗体を推定する際,とても役に立つFigure

2023年05月02日 | 自己免疫性脳炎
自己免疫性脳炎の研究は非常に大きな進歩を遂げています.抗神経抗体は細胞表面抗原と細胞内抗原を認識する抗体に大別されますが,前者は治療可能性が高いことから見逃さないことが重要です.さらに後者でもGFAP抗体やKLHL11抗体のように比較的免疫療法が奏効する脳炎もあります.しかし急速に自己抗体が増加し,その臨床像が明らかになったためフォローが難しく,症候から自己抗体を推定することが難しくなっています.今回,Oxford大学のグループから発表された総説は,治療可能で見逃したくない自己抗体について解説したもので,非常に有用です.とくに各抗体が呈しうる臨床症候の頻度をヒートマップで,希少または不明(0=青)から一般的(4=赤)まで示したFigureは役に立ちます.

上段の細胞表面抗原は受容体が多いため,痙攣や意識障害,そして記憶障害が多く認められることが分かります.運動異常症(hyperkinetic MD)はNMDARとGlyR,睡眠障害はIgLON5とAMPARでとくに目立ちます.一方の細胞内抗原では小脳性運動失調が多く,意識障害や睡眠障害,自律神経障害は少ないことが分かります.この図からおよその自己抗体に当たりをつけてから,その詳細は「自己免疫性関連脳炎・関連疾患ハンドブック(https://amzn.to/41RdCS7)」でご確認ください(最後は宣伝です!笑).
Varley, J.A., Strippel, C., Handel, A. et al. Autoimmune encephalitis: recent clinical and biological advances. J Neurol (2023).



LGI1: leucine-rich glioma-inactivated 1
NMDAR: N-methyl-D-aspartate receptor
CASPR2: contactin-associated protein-like 2
MOG: myelin oligodendrocyte protein
GABABR: γ-aminobutyric acid B receptor
GABAAR : γ-aminobutyric acid A receptor
AMPAR: α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic acid receptor
mGluR5: metabotropic glutamate receptor 5
GlyR: glycine receptor
Sez6L2: seizure-related 6 homolog like 2
DNER: delta/Notch-like epidermal growth factor-related receptor
GAD65: glutamic acid decarboxylase (65 kDa isoform)
ANNA 1/2: anti-nuclear neuronal autoantibody type ½
PCA: Purkinje cell cytoplasmatic autoantibodies
KLHL11: kelch-like protein 11
AK5: adenylate kinase 5
GFAP: Glial Fibrillary acid protein

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PSP類似の非定型パーキンソニズムを呈し免疫療法が有効であった自己免疫性脳炎の1例

2023年05月01日 | 自己免疫性脳炎
当初,肺炎を合併した進行性核上性麻痺(PSP)と考えられましたが,じつは自己免疫性脳炎であった症例を大野陽哉先生らが報告しました.

81 歳男性が発熱し,その3週間後に意識障害,4週間後に筋強剛,運動緩慢を呈しました.レボドパは無効で体軸性の筋強剛であったことから当初PSPが疑われました.発症から6週間後に当院に紹介され入院したときには,意識障害のため核上性注視麻痺と認知機能の評価できず,MDS PSP基準での評価はできませんでした.意外なことに頭部MRIで両側側頭葉内側と基底核の高信号病変を認め,診断の再考を要しました(図A,B).脳脊髄液の細胞数は正常でしたが,蛋白は上昇(55mg/dL),オリゴクローナルバンドも陽性でした.自己免疫性脳炎によるPSP mimicsの報告は,CRMP-5,DPPX,GAD65,GlyR,Hu,IgLON5,LGI1,Ma2,Ri がありますがこれらを含め測定可能な抗神経抗体は陰性でした.しかしラット凍結切片を用いた患者血清による免疫染色では海馬と小脳顆粒細胞の細胞表面および細胞内抗原を認識する抗体の存在が示唆されました(図F,H,J).ラット海馬初代培養神経細胞も陽性に染色された(図L)(図E,G,I,Kは対照).免疫グロブリン静注療法とステロイドパルス療法を行ったところ,意識レベルは改善,寝たきり状態から介助歩行が可能となりました.DaT-SPECT所見も改善しています!(図C→D).

以上より,非定型パーキンソニズムでもとくに亜急性の増悪の場合,自己免疫異性脳炎を疑う必要があります.今後,原因となる自己抗体を同定することが重要だと考えました.同様の患者さんがいらっしゃいましたらご相談いただければと思います.
Ono Y, Higashida K, Takekoshi A, Kimura A, Shimohata T. Autoimmune encephalitis presenting with atypical parkinsonism: A case report and review of the literature. Neurol Clin Neurosci 28 April 2023


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自己免疫性脳炎・関連疾患ハンドブック先行販売です!@第120回日本内科学会総会

2023年04月15日 | 自己免疫性脳炎
昨日から開催されている第120回日本内科学会総会の書籍販売コーナーでご覧いただけます(図左).368ページ,ずっしり重いです.高級紙のせいもありますが,自己免疫性脳炎の領域の近年の進歩が顕著で(図右上),これほどの情報量があるということかと思います.重い本が気になる方は電子版もあります.来週以降発売予定です(isho.jpとm2plusで発売).

【本書をお勧めする理由】
1.複雑な自己免疫性脳炎の診断・検査・治療の進め方がわかります.とくにどのようなときに,どの抗体を,どこに依頼するかがわかります.
2.第4章の「自己抗体一覧」は特に便利です(図右下).最新45種類の自己抗体を岐阜大学チーム5人(下畑,木村,吉倉,竹腰,大野)でまとめました.簡単に情報を確認することができます.
3.抗体等により分類した代表的な13疾患(自己免疫性辺縁系脳炎,NMDAR,AQP4,MOG,LGI1,Caspr2,GFAP,IgLON5,DPPX,GlyR,Sez6l2,KLHL11など)の最新情報を得ることができる.
4.認知症,精神病,てんかん,小脳失調症,運動異常症,睡眠異常症,自律神経節障害,小児疾患のなかに紛れている自己免疫性脳炎をどのように見出したら良いかが分かります.

本邦初の自己免疫性脳炎のハンドブックです.脳神経内科医のみならず,内科医,精神科医,総合診療医,小児科医等,多くの先生のお役に立つのではないかと思います.ぜひ手にとっていただければと思います.


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「自己免疫性脳炎・関連疾患ハンドブック」予約開始です!

2023年04月06日 | 自己免疫性脳炎
自己免疫性脳炎に関連する新たな自己抗体がつぎつぎに同定されています.これに伴い,新たな疾患概念が確立されています.さらにこれらの疾患はさまざまな臨床像を呈しうることも判明し,これまで認知症,精神病,てんかん,小脳性運動失調症,運動異常症,睡眠異常症,自律神経障害と診断されてきた症例のなかに含まれている可能性があります.自己免疫性脳炎では,免疫療法が有効であることが少なからず存在することから,これらの疾患を正しく早期に診断することは極めて重要な課題と言えます.

以上を踏まえ,自己免疫性脳炎に焦点を絞ったユニークな書籍を企画しました.本書は,①自己免疫性脳炎と自己抗体・傍腫瘍抗体に関する総論,②代表的な自己免疫性脳炎・脳症とその主な臨床病型,③神経・精神疾患と自己免疫,そして④これまでに明らかになった自己抗体一覧(とても便利です)から構成されています.脳神経内科医や内科,小児科,総合診療医のみならず,救急医,精神科医になどの医師全般に役立つ内容になったと確信しています.ぜひ手にとっていただければと思います.

定価 7,920円(本体 7,200円+税10%)B5判・368頁 ISBN978-4-7653-1956-0
Amazon予約
金芳堂ホームページ

◆目次
I 総論
1 定義・歴史・展望
2 自己免疫性脳炎の疫学と特徴
3 自己免疫性脳炎の診断・検査の進め方
4 自己免疫性脳炎・脳症の治療
5 抗神経抗体の分類と病態(細胞内抗原抗体vs細胞表面抗原抗体)
6 傍腫瘍性神経症候群関連自己抗体の分類と病態

Ⅱ 自己免疫性脳炎·脳症の主な臨床病型
1 抗NMDAR脳炎
2 自己免疫性辺縁系脳炎
3 視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)
4 MOG抗体関連疾患(MOGAD)
5 抗LGI1脳炎・抗Caspr2脳炎
6 Bickerstaff脳幹脳炎
7 橋本脳症
8 自己免疫性GFAPアストロサイトパチー
9 IgLON5抗体関連疾患
10 DPPX抗体関連脳炎
11 抑制性シナプスに対する自己免疫疾患
12 Sez6l2抗体関連脳炎
13 KLHL11抗体関連脳炎

Ⅲ 神経・精神疾患と自己免疫
1 自己免疫性認知症
2 自己免疫性精神病
3 自己免疫性てんかん
4 自己免疫性小脳失調症(傍腫瘍性小脳変性症)
5 自己免疫性小脳失調症(抗神経抗体を伴う非傍腫瘍性小脳性運動失調症)
6 自己免疫性運動異常症
7 自己免疫性睡眠異常症
8 自己免疫性自律神経節障害
9 免疫チェックポイント阻害薬と自己免疫性脳炎
10 小児の自己免疫性脳炎

Ⅳ 自己抗体一覧
1 細胞表面抗原抗体
2 細胞内抗原抗体

◆執筆者一覧
本書の趣旨に賛同し,熱のこもったご原稿をご執筆くださった著者の先生方に感謝申し上げます.
■編著
下畑享良  岐阜大学大学院医学系研究科 脳神経内科学分野
■執筆者一覧(執筆順)
大石真莉子 山口大学大学院医学系研究科臨床神経学
神田隆   山口大学大学院医学系研究科臨床神経学
中嶋秀人  日本大学医学部内科学系神経内科学分野
河内泉   新潟大学大学院医歯学総合研究科医学教育センター/新潟大学医歯学総合病院脳神経内科
木村暁夫  岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
田中惠子  新潟大学脳研究所モデル動物開発分野/福島県立医科大学多発性硬化症治療学講座
飯塚高浩  北里大学医学部・脳神経内科学
横山和正  東静脳神経センター/順天堂大学医学部脳神経内科
中島一郎  東北医科薬科大学医学部脳神経内科学
三須建郎  東北大学病院脳神経内科
渡邉修   鹿児島市立病院脳神経内科
古賀道明  山口大学大学院医学系研究科臨床神経学(脳神経内科)
米田誠   福井県立大学大学院健康生活科学研究科
原誠    日本大学医学部 内科学系神経内科学分野
松井尚子  徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床神経科学
矢口裕章  北海道大学神経内科
石川英洋  三重大学大学院医学系研究科神経病態内科学講座
新堂晃大  三重大学大学院医学系研究科神経病態内科学講座
竹内英之  国際医療福祉大学 医学部 脳神経内科
髙木学   岡山大学学術研究院医歯薬学域精神神経病態学
神一敬   東北大学大学院医学系研究科てんかん学分野
吉倉延亮  岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
大野陽哉  岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
筒井幸   特定医療法人祐愛会 加藤病院精神科/秋田大学医学部 神経運動器学講座精神科分野
神林崇   筑波大学 国際統合睡眠科学機構/茨城県立こころの医療センター
中根俊成  日本医科大学脳神経内科
鈴木重明  慶應義塾大学医学部神経内科
福山哲広  信州大学医学部小児医学教室
竹腰顕   岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野




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