Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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COVID-19――脳神経内科医が診るための最新知識@Brain Nerve誌

2020年09月28日 | 医学と医療
Brain Nerve誌10月号にて標題の特集を企画させていただきました.COVID-19では,めまい,頭痛,筋障害,嗅覚・味覚障害,意識障害などの神経筋症状を36.4%~57.4%と高頻度に認めます.診療において知っておくべき知識を,ご教示いただきたいと思う先生方にご執筆いただきました.また下記目次のように,脳神経内科医のみならず,内科医,救急診療医,リハビリテーション医,そして多くの医療者が共有したい内容になっています.ぜひご一読いただければと思います.

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1. 総論─COVID-19の神経筋合併症と病態(下畑享良)
2. 疫学データから考えるCOVID-19 対策の指針(園生雅弘,他)
3. COVID-19 神経合併症(1)――脳炎・脳症(中嶋秀人)
4. COVID-19 神経合併症(2)――脳血管障害と血管炎症候群(八木田佳樹)
5. COVID-19 神経合併症(3)――末梢神経障害と筋障害(竹下幸男,神田 隆)
6. COVID-19 診療と脳神経内科─当院における重症患者診療の経験から(幸原伸夫,川本未知)
7. 神経疾患における遠隔医療(大山彦光,服部信孝)
8. COVID-19 における神経病理の重要性と課題(髙尾昌樹)
9. COVID-19 の神経障害と救急外来・ER・ICU での対応(永山正雄)
10. COVID-19 パンデミック下の脳卒中診療─Protected Code Stroke(平野照之)
11. COVID-19 流行期における多発性硬化症・視神経脊髄炎関連疾患・重症筋無力症の治療方針(中村正史,中島一郎)
12. COVID-19 流行期間における神経筋疾患に対するNPPV 療法(藤田裕明,鈴木圭輔)
13.リハビリテーション治療や認知症介護などの濃厚接触を要する施設における感染対策(酒向正春,竹川英徳)
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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(9月26日)  

2020年09月26日 | 医学と医療
今回のキーワードは,若年でも重症化するひとの原因,重症患者における消化器合併症の特徴,長期化する嗅覚障害と嗅球の萎縮,パンデミック後に片頭痛発作が減った患者,肺病変を伴わないCOVID-19髄膜炎,パンデミックが脳神経内科研修医に及ぼした影響,オペレーション・ワープ・スピードとワクチン開発成功の条件です.

7月に,重症化する35歳未満の男性の遺伝的要因として,X染色体上のTLR7遺伝子の機能喪失変異が同定されていました(JAMA. July 24, 2020. doi.org/10.1001/jama.2020.13719).この遺伝子変異により,ウイルス防御を司るⅠ型インターフェロン(IFN)反応が抑制されてしまうため,COVID-19に対する十分な免疫が働かないものと推測されていました.今回,Science誌に2つの論文が報告され,TLR7遺伝子以外の13の遺伝子変異により,もしくは自己抗体により,I型IFN反応が抑制される患者では重症化しうることが明らかになりました.つまり遺伝学的に,もしくは免疫学的に,I型IFN反応=ウイルス防御機能がはたらかない人は重症化することが示され,COVID-19に対するI型IFN反応の重要性が改めて確認されました.

◆I 型インターフェロン反応を司る遺伝子の変異は重症化を招く.
フランスや米国等による国際共同研究.インフルエンザウイルスに対してTLR3およびIRF7依存性 I 型IFN反応を司る13のヒト遺伝子座が知られている(図1).COVID-19患者において,重症例の659 名,および無症状または経過良好の534名を比較したところ,重症例において前述の遺伝子座に機能喪失(Loss of function:LOF)が生じると予測されるまれな変異体が密に存在していることが見出された.これらの13の遺伝子座を詳細に調べたところ,23名の患者(3.5%:17~77歳)において常染色体劣性または優性遺伝形式と考えられるLOF変異を同定した.さらにこれらの遺伝子変異を有するヒト線維芽細胞は,実際にSARS-CoV-2ウイルスに対して脆弱であることを確認した.TLR3-およびIRF7依存性I 型IFN反応の先天的なエラーは,COVID-19の重症化の原因となる.
Science. Sep 24, 2020(doi.org/10.1126/science.abd4570)



◆I 型インターフェロン反応に対する自己抗体は重症化を招く.
同じくフランスや米国等による国際共同研究.重症化したCOVID-19患者987名のうち,少なくとも 101名がIFN-ω(13名),13 種類のIFN-α(36 名),またはその両方(52名)に対する中和 IgG 自己抗体を有していたことが確認された.これらの自己抗体はin vitroの実験系において,対応するIFNがSARS-CoV-2ウイルス感染を阻害する作用を中和した.これらの自己抗体は,無症状または軽症のCOVID-19患者663名には認められなかったが,健康な1227名のうち4名にのみ認められた.自己抗体を有する101名の年齢分布は 25~87 歳であった.65歳以上は50名,65歳未満は51名で,65歳以上での頻度が高かった(オッズ比1.61).また95名が男性であり,男性がCOVID-19に脆弱である一員となる可能性が考えられた(オッズ比5.22).男性の12.5%,女性の2.6%において,先天的なI型IFN反応のエラーによるB細胞自己免疫のフェノコピー(表現型模写)が,COVID-19重症化の原因となる.
Science. Sep 24, 2020(doi.org/10.1126/science.abd4585)

◆COVID-19重症患者では消化器合併症(イレウス,腸間膜虚血)が多い.
米国からの報告.COVID-19に伴い急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を呈した重症患者と,COVID-19以外の原因によるARDS患者の消化器合併症の発生率を比較した.全患者は486名で,そのうち242名がCOVID-19 による患者,244名が非COVID-19(細菌性肺炎,誤嚥,インフルエンザなど)による患者であった.傾向スコアマッチングを行ったCOVID-19によるARDS 92名と,COVID-19以外のARDS 92名を比較すると,前者は消化管合併症を認める頻度が高かった(74% vs 37%;P < 0.001;発症率比,2.33).発生率の差は,3日目以降で明らかになった(図2).具体的な合併症としては,COVID-19を有する患者では,高トランスアミラーゼ血症(55% vs 27%;P < 0.001),重度イレウス(48% vs 22%;P < 0.001),および腸間膜虚血(4% vs 0%;P = 0.04)が多かった.
JAMA. Sep 24, 2020(doi.org/10.1001/jama.2020.19400)



◆神経合併症(1).長期化する嗅覚障害では嗅球の萎縮が見られる.
ギリシャからの報告.これまで,COVID-19による嗅覚障害を長期的に呈した患者のMRI所見に関する報告はない.このため40日以上(持続期間の中央値70.5日)嗅覚障害を認めた成人の非入院患者8名について前方視的な検討を行った.この結果,両側の嗅球の高さは健常対照群(図3C, D)に比べて有意に低く,7名(88%)の患者で軽度から中等度の嗅球萎縮を呈していた(図3A).また4名で嗅粘膜の肥厚が認められ(図3A),1名(12.5%)では造影効果も認められた(図3B).以上より,長期に嗅覚障害を呈する患者は嗅球萎縮を呈する.つまりSARS-CoV-2ウイルスが嗅覚路を介して中枢神経系に侵入し,嗅球の神経細胞に永続的な損傷を引き起こす可能性を示唆する.
Eur J Neurol. Sep 16, 2020(doi.org/10.1111/ene.14537)



◆神経合併症(2)パンデミック後に発作が減った片頭痛の1例.
COVID-19に対するN95マスクなどの着用は,医療従事者の81%に新規の頭痛の発症,または既存の頭痛の悪化をもたらすという報告がある(Headache 2020;60:864-77).これは頭部/顔面の痛みや耳介の不快感,不十分な水分補給,低酸素血症や過呼吸症などが組み合わさって,頭痛を引き起こすものと考えられている.
今回,ポルトガルから,逆にマスクの着用によって発作の予防が困難であった片頭痛が改善した43歳女性(病院事務職)が報告された.12歳頃に発症した前兆のない片頭痛で,香水,汗,タマネギの匂いなどの強い匂いによって発作が誘発されることが多く,嗅覚恐怖症を呈していた.予防薬であるトピラマートやプロプラノロールは効果がなかった.しかしパンデミック後,職場でサージカルマスクの使用が義務づけられたのち,発作が生じなくなった.このように,嗅覚刺激によってのみ片頭痛が誘発される患者では,マスクの使用により予防が可能であることが示された.
Headache. Sep 23, 2020(doi.org/10.1111/head.13964)

◆神経合併症(3)肺および頭部画像検査は正常で,髄液PCRのみ陽性のCOVID-19髄膜炎.
イランからの報告.49歳女性が,発熱,頭痛,嘔気・嘔吐にて発症したが,呼吸困難や意識障害はなかった.鼻咽頭拭い液PCRは陰性で,胸部CTも正常であった.発症3日目から項部硬直が認められた.髄液検査でウイルス性髄膜炎パターンを呈していた.頭部MRIは慢性虚血性変化のみ認めた.髄液PCRが陽性で,COVID-19髄膜炎と診断した.ロピナビル単独による治療が行われた.1 週間後の髄液検査ではタンパク増加と,PCR陽性が再確認された.症候は徐々に改善し,髄液検査も正常範囲となったため21日後に退院した.以上より,肺病変・頭部MRIに異常を認めず,髄液PCRのみ陽性となる髄膜炎が生じうることが示唆された.
Eur J Neurol. Sep 14, 2020(doi.org/10.1111/ene.14536)



◆パンデミックは脳神経内科研修医の成長に悪影響を及ぼした.
イタリアからの報告.COVID-19パンデミック時の脳神経内科研修医の臨床,研究,教育活動の変化と,感染リスクを軽減するために各施設が行った措置について,インターネットを用いて調査を行った.対象は79名の研修医で,その87.3%がパンデミック後,脳神経内科の業務が大幅に減少したと回答した.また17.8%がCOVID-19専門病棟に招集ないしボランティアとして参加していた.また60%以上の研修医が,研究活動の縮小や中断を経験した.パンデミックが研修に与える影響について,研修医のほぼ70%が,脳神経内科医としての成長に悪影響を与えたと考えていた(図4).さらに研修医の69.6%は職場で感染者に継続的に遭遇していたが,施設によってその監督と予防措置は異なっていた.以上よりパンデミックは,脳神経内科研修医にとって,教育方法や臨床・研究の研修において,主観的には悪影響を与えたことが分かった.またパンデミックは教育施設や研修プログラムに多くの課題をもたらした.神経学教育の質を確保するためには,これらの問題に迅速に対処することが重要で,国際的なコミュニティ間で解決策やアイデアを共有することは,これらの問題への対処に有用と考えられる.
Neurology. Sep 16, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010878)



◆ワクチン開発の成功に必要なものは「透明性,科学的な誠実さ,公的信頼」である.
N Engl J Med誌にワクチン開発に関する論評が発表された.結論として,ワクチンの成功の要因として,①ワクチンが安全で効果的であるとの確信が広まること,②ワクチン配布の優先順位を決める政策が公平でエビデンスに基づいていることを挙げている.しかしパンデミックが壊滅的な結果をもたらしたように,科学と専門知識への信頼は現在,脅かされ,ワクチンに対する国民の信頼は必ずしも高くない状況である.5月にトランプ米大統領は,ワクチン開発の方針をプロジェクト「オペレーション・ワープ・スピード」と名付け,時空をワープしてしまうほどの高速で開発を進めると述べた(図5).事実,製薬会社,学術研究者,政府機関が,通常であれば少なくとも数年は要するとされるワクチンの迅速な開発に向けて,前例のない努力を行っている.しかしそのプロジェクト名でさえ,安全性と有効性に関して手を抜いていると解釈されてしまう可能性がある.ワクチンを承認するFDA(米国食品医薬品局)は,科学的根拠にのみに基づいて独立して判断を行い,承認や緊急使用許可に必要なエビデンス基準に関して妥協しないと述べ,それらの懸念を払拭しようとしている.この論評も「透明性のある科学に基づいたプロセスを進め,国民の信頼を得ることはワクチンの成功のために極めて重要である」と述べている.→ 裏を返せばこのように強調しなければならないことは,それが容易なことではないこと,つまり政治的介入の懸念があることを示している.事実,トランプ大統領はFDAの緊急使用許可の基準の厳格化について「ホワイトハウスの了承が必要だ.了承するかもしれないし,しないかもしれない」と9月23日に述べている.
N Engl J Med. Sep 23, 2020(doi.org/10.1056/NEJMp2026393)



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12の危険因子を意識した認知症予防@世界アルツハイマー月間

2020年09月23日 | 認知症
若年死亡率の低下に伴い,認知症を含む高齢者の数は増加しています.しかし,教育,栄養,ヘルスケア,ライフスタイルの変化などの改善により,多くの国で認知症の年齢別発症率は低下しています.そして9月は「世界アルツハイマー月間」,世界各地でいろいろな取組みが行われています.Lancet誌でも認知症の予防・介入・ケアに関する提言を行っています.2017年には認知症の9つの危険因子として「教育不足,高血圧,聴覚障害,喫煙,肥満,うつ病,運動不足,糖尿病,社会的接触の少なさ」をエビデンスとともに紹介していましたが,今回,危険因子をさらに3つ追加しました.それは「過度のアルコール消費,外傷性脳損傷,大気汚染」です.論文ではメタ解析とともに,認知症予防の12の危険因子に対する人生のステージごとの取り組みモデル(図)を提示しています.これらの危険因子の予防に取り組むと,世界の認知症の約40%は修正可能とのことです.具体的には,以下の取り組みにより認知症を予防または遅らせることが可能と述べています.頑張らねばなりませんね..



1)40歳前後から中年期に収縮期血圧130mmHg以下の維持を目指す(高血圧症の降圧治療は認知症の予防に有効な唯一の薬).
2)難聴に対しては補聴器の使用を奨励し,過度の騒音曝露から耳を保護し難聴を軽減する.
3)大気汚染や副流煙を減らす.
4)頭部の怪我を防ぐ.
5)週21単位以上の飲酒は避ける.
6)途中からでも認知症のリスクを減らすことができるので禁煙する.
7)すべての子どもたちに初等・中等教育を提供する.
8)肥満と糖尿病を防止・治療する.
9)中年期以降の身体活動を維持する.

Lancet. 2020 Aug 8;396(10248):413-446(doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30367-6.)


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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(9月19日) 

2020年09月19日 | 医学と医療
今回のキーワードは,冬における感染増加の可能性,2ヶ月間での抗体価の低下,眼鏡の感染予防効果,日本における低いワクチン信頼度,アスリートの突然死に関わりうる心筋炎,院内死亡を予測する4Cスコア,ARDSに対する仰臥位による末梢神経損傷,嗅覚障害と嗅裂の閉塞,脳卒中による死亡の危険因子,咽頭頸部上腕型ギラン・バレー症候群,ウイルス同定を1時間以内に完了する新しいアッセイ系,ヘパリンが新たな治療薬となる? です.

東京ではなかなか感染者数が減少せず持続していますが,これから冬に向かって感染者数が増加する可能性が,他の4種類のコロナウイルスの過去の解析から指摘されています.気が重いですが,今後,改めて感染予防対策をしっかり行う必要があります.

◆季節性コロナウイルスに対する防御免疫の期間は短く,早ければ半年で再感染する.
オランダからの報告.COVID-19の将来の波(感染増加)に備えるため,他の4種類の季節性コロナウイルス(HCoV-NL63,HCoV-229E,HCoV-OC43,HCoV-HKU1)をモデルとして,一度の感染から再感染までの防御期間を調査した.1980年代から定期的に成人男性を追跡するアムステルダムコホート研究の健康な10名の血清サンプルを使用して調査した.この結果,早ければ6ヶ月(HCoV-229Eで2名,HCoV-OC43で1名),9ヶ月(HCoV-NL63で1名)で再感染した例もあったが,12ヶ月での再感染が最も多かった.6ヶ月以上の再感染では,抗体価の減少が確認された.よって季節性コロナウイルスにおける再感染は最も早いと6ヶ月で生じ,防御免疫の期間は短いことが示唆された.また季節性コロナウイルス感染の有病率は温帯国では6~9月が最も低く,逆に冬で高くなることが確認された(図1).COVID-19でも同様のことが生じる可能性があり,冬には注意が必要である.
Nat Med. September 14, 2020(doi.org/10.1038/s41591-020-1083-1)



◆医療従事者の検討で,感染後の抗体価・陽性率は2ヶ月で低下する.
米国からの報告.COVID-19患者と定期的に接触する医療従事者を対象に,ベースライン時と約60日後の抗体価を評価した.ベースライン時に249名の医療従事者から血清が採取され,230名(92%)が2回目の採血をした.スパイク蛋白に対する抗体陽性率はベースライン時7.6%(19名/249名)であったが,60日後には3.2%(8名/249名)に低下した.ベースライン時に抗体陽性であった19名は,60日後には全員で抗体価が減少し,かつ11/19名(58%)が陰性となった.以上より,感染から回復した後,高い抗体レベルを持つ期間は限られていることが分かる.→ 再感染が生じる傍証であると同時に,抗体による有病率調査では,感染後に抗体が一過性にしか検出されないため,先行感染の頻度が過小評価される可能性を示す.
JAMA. September 17, 2020(doi.org/10.1001/jama.2020.18796)

◆眼鏡をしていると感染しにくい.
中国水州市からの報告.COVID-19入院患者276名のうち,近視のため眼鏡を1日8時間以上掛けていた人の感染率5.8%(16/276名)は,先行研究による同じ地域の住民の31.5%よりかなり低かった.日常的に眼鏡を着用する人は COVID-19 に感染する可能性が低いかもしれない.→ 飛沫感染に対する目を守ることの重要性を示唆している.
JAMA Ophthalmol. September 16, 2020(doi.org/10.1001/jamaophthalmol.2020.3906)

◆ワクチンへの信頼度は世界的に低下しているが,とくに日本では顕著である.
COVID-19のワクチンの開発が進められる中,その副作用についても不安視されている.世界149か国で290件の調査(18歳以上の284381名を含む)を用いて,2015年から2020年の間のワクチンへの信頼度を調査した研究が英国から報告された.結果として,ワクチンの重要性,安全性,有効性に対する信頼度が多くの国で低下していることが分かった.このため,実際にワクチンの接種が遅れたり,拒否されたりしている事例も生じている.しかしこの信頼度の低下=ワクチンの安全性に対する不安は科学的根拠に基づくものでない.例えば日本は世界で最もワクチンに対する信頼度が低く,安全と考えている人はわずか17%であるが(図2),考察の中でその原因として,政府がヒトHPVワクチン推奨を2013年に控えたことが大きく災いし,世界にも影響を及ぼしたことが指摘されている.逆にウガンダは87%,米国は61%がワクチンは安全と考えている.ワクチンの接種率の向上には,ワクチンの効果と副作用を正確に周知する必要がある.→ 先日,アストラゼネカのCOVID-19ワクチンが有害事象の可能性が指摘され,一旦中断されたが,企業・科学者が安全性を最優先することを示した点で有意義と言えよう.
Lancet. September 10, 2020(doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31558-0)



◆運動選手におけるCOVID-19感染後の心筋炎.
米国からの報告.心筋炎はスポーツ選手の心臓突然死の重要な原因である.COVID-19に感染した大学の運動選手(フットボールやサッカーなど;平均年齢19.5歳)の心臓MRIで26名中4名(15%;全例男性)に心筋炎を示唆する所見(心筋浮腫を示唆するT2高信号と,心筋損傷を示唆する遅延ガドリニウム造影)を認めた. 4名のうち2名はCOVID-19の症状は軽度で,2名は無症状であった.さらに8名(31%)はT2高信号を伴わない遅延ガドリニウム造影(=心筋損傷)を呈していた.心臓MRIによる心筋評価は,運動選手が安全にスポーツするために有用である.
JAMA Cardiol. September 11, 2020(doi.org/10.1001/jamacardio.2020.4916)

◆院内死亡率を予測する簡便なスコアの開発.
英国からの報告.COVID-19による入院成人患者(18歳以上)の院内死亡率を予測するための実用的なスコア(4Cスコア:coronavirus clinical characterization consortium)を開発することを目的とした.35,463名の入院患者(死亡率32.2%)で開発され,22,361名の入院患者(死亡率30.1%)で検証された.スコアは,初期の病院評価で入手可能な8つの変数として,年齢,性別,併存疾患の数,呼吸数,酸素飽和度,意識レベル,血中尿素値,CRPが含まれた(0~21点;図3).このスコアは,院内死亡率に対する高い識別性を示した(開発コホート:AUC 0.79,検証ホート:0.77).スコアが15以上の患者では死亡率が62%であったのに対し,3以下の患者では死亡率が1%であった.本スコアは既存のスコアよりも優れており,臨床的な意思決定に直接役立つ有用性を示す.
BMJ. September 09, 2020(doi.org/10.1136/bmj.m3339)



◆神経合併症(1)ARDSに対する仰臥位に伴う末梢神経損傷と好発部位.
COVID-19によるARDS患者には1日12~16時間の臥位が推奨されている.この臥位により末梢神経損傷をきたした11名の患者が米国から報告された.ARDSを呈した83名の入院患者のうち12名(14.5%)が経過中に末梢神経障害を呈し,うち11名で仰臥位が行われていた(残り1名は対称性ポリニューロパチー).大部分は上肢で認められた(76.2%).頻度の高い部位は尺骨神経(6名,28.6%),橈骨神経(3名,14.3%),坐骨神経(3名,14.3%),上腕神経叢(2名,9.5%),正中神経(2名,9.5%)で,94.7%が軸索損傷であった(図4は好発部位をヒートマップとして示す).COVID-19関連ARDS患者の特徴として糖尿病,肥満,高齢者の頻度が高かったが,これらは同時に末梢神経損傷の危険因子とも言える.今後,仰臥位による末梢神経損傷リスクを軽減するために,上記の損傷部位を考慮して,肘,上腕,肩における末梢神経の長時間の圧迫や伸展を避けることが必要である.
Br J Anaesth. September 04, 2020(doi.org/10.1016/j.bja.2020.08.045)



◆神経合併症(2)嗅覚障害は嗅裂の閉塞と密接な関連がある.
フランスからの報告.COVID-19患者の嗅覚機能低下の機序を評価するために,病初期とその1ヶ月後に,MRIにて嗅裂の閉塞を評価する症例対照研究が行われた.対象は20名のCOVID-19患者と,年齢をマッチさせた健常者20名である.嗅覚検査と3T MRIを行った.病初期の嗅覚スコアは平均2.8±2.7(低いほど悪い)で,MRIでは20名中19名(95%)に嗅裂の完全閉塞が認められた(図5).対照群では嗅覚スコアは正常で,MRIでは嗅裂の閉塞は1例も認めなかった.1ヵ月後,COVID-19群の嗅覚スコアは8.3±1.9に改善し,嗅裂の閉塞も20名中7名(35%)に減少した.また嗅覚スコアと嗅裂閉塞には相関を認めた(p=0.004).以上より,COVID-19における嗅覚障害は可逆的な嗅裂閉塞と関連していると考えられた.
Neurology. September 11, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010806)



◆神経合併症(3)高齢,併存症,重症COVID-19は脳卒中による死亡の危険因子.
米国,カナダ,イランのCOVID-19患者における脳卒中の頻度,臨床像,転帰を調査したメタ解析が報告された.対象は50歳未満,50~70歳,70歳以上に分類した.結果として,COVID-19患者における脳卒中の頻度は1.8%で,院内死亡率も34.4%と高かった.死亡率は50歳未満の患者群では,70歳以上の患者群と比較して67%低かった(OR 0.33,P=0.039).大血管閉塞の頻度は46.9%で,既報と比べると2倍も高く,危険因子や併存症がない場合でも3つの年齢群いずれでも高率であった.高齢,併存症が多い,重症のCOVID-19患者では,院内死亡率が最も高くなり(58.6%),他のコホートと比較して死亡リスクが3倍高かった(OR 3.52,P=0.003).以上より,脳卒中はCOVID-19患者では比較的多く認め,すべての年齢層で重大な影響をもたらす.とくに高齢,併存症,COVID-19呼吸器症状の重症度は高い死亡率をもたらす.
Neurology. September 15, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010851)

◆神経合併症(4)COVID-19関連咽頭頸部上腕型ギラン・バレー症候群の初めての報告.
ギラン・バレー症候群にはさまざまな亜型が存在するが,そのなかで頭頸部や肩関節周囲,上肢近医の筋力低下が優位で,下肢の筋力低下を認めない,あるいは軽度である咽頭頸部上腕型(PCB variant)が存在する.今回,イタリアからPCB type GBSを呈した49歳男性が報告された.抗GT1a抗体が50%の症例で陽性になるが,本例では認めなかった.IVIgを行う前に自然寛解した.
Neurology. September 11, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010817)

◆ウイルス同定を1時間以内に完了するSTOPCovidアッセイの開発.
米国からの報告.SARS-CoV-2ウイルス検出のための簡便な検査STOP (SHERLOCK testing in one pot)が開発された(SHERLOCKとはspecific high-sensitivity enzymatic reporter unlockingのこと).STOPはウイルスRNA抽出を簡略化し,感度を高めるために磁気ビーズ精製法を用い,さらに等温増幅とCRISPR媒介核酸検出の2段階プロセスを併せて行うアッセイである.つまりこのアッセイは増幅のために温度を変化させないため時間が短縮でき,1時間以内に最小限の装置で施行可能である.これは等温増幅とCRISPR媒介検出の双方に使用できる共通の反応バッファーを開発することにより実現した.この検査の感度は,通常のRT-qPCRアッセイと同等で,鼻咽頭拭い液を用いたSARS-CoV-2検出のためのプロトコールSTOPCovid.v2では感度93.1%,特異度98.5%(!)である.→ 今後,このアッセイが導入され,検査の迅速化が進むものと考えられる.
N Engl J Med. September 16, 2020(doi.org/10.1056/NEJMc2026172)

◆SARS-CoV-2の細胞内侵入にはヘパラン硫酸が必要で,ヘパリンが有効かもしれない.
米国からの報告.SARS-CoV-2スパイク蛋白質は,まずヘパラン硫酸と相互作用し「開」の状態になってアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合できることが報告された(図6).つまりヘパラン硫酸がスパイクタンパク質とACE2の相互作用を促進する.ACE2とヘパリンはいずれもin vitroで,スパイクタンパク質に独立して結合することができ,ヘパリンを足場にして三元複合体を生成する.電子顕微鏡写真でも,ヘパリンがACE2を結合する受容体結合部位(RBD)の「開」の状態を増強することが示されている.未分画ヘパリンや非凝固ヘパリン等の外来性ヘパリンや,細胞表面からヘパラン硫酸を除去する酵素ヘパリンリアーゼは,偽型ウイルスないし本物のSARS-CoV-2ウイルスのスパイク蛋白質の結合および感染を強力にブロックすることも判明した.以上よりヘパラン硫酸の操作や外来性ヘパリンによるウイルス接着阻害は新たな治療標的となる.
Cell. September 14, 2020(doi.org/10.1016/j.cell.2020.09.033)



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MDS バーチャル・ビデオ・チャレンジ

2020年09月15日 | パーキンソン病
パーキンソン病・運動障害疾患コングレスの目玉企画は,世界各国の学会員が経験した症例の不随意運動の動画を持ち寄り,症候や診断・治療を議論するビデオ・チャレンジです.例年と違って事前収録で行われました.今回は日本を含む10カ国12演題が発表されました.「症例提示→第1討論者による臨床推論→解答提示→第2討論者による解説」と時間をかけて行い,予定の3時間を大幅に超過し5時間近くかかりました.名物司会のLang教授とSethi教授も今回はエンタメ要素を廃して,通常の2人のカンファレンスを見ているようでした.私もじっくり勉強しました.さて症例を見ていきましょう.まれな遺伝性疾患はやはり診断は難しいですが,免疫疾患や古典的疾患の意外な症候なども見られます.



◆Case 1 - India
【症例】48歳女性.9年前から,多くは朝に生じる1日3~4回の全身の異常運動.7年前から月3~4回の全身性強直間代発作.発作時の動画はねじるように大きく足首で円を描くなどのchoreo-ballisticな不随意運動.顔面はgrimacing,加えて持続性(非発作時にも見られる)体幹失調・失調歩行.ある治療後,発作消失したが,失調・ジストニアは残存した.
【解答】発作中低血糖が認められ,治療はグルコース静注.膵体部に9×10 mmのインスリノーマ.診断はインスリノーマに伴う上肢・顔面の発作性舞踏運動とジストニア+持続性小脳性運動失調.腫瘍摘出術後,発作は消失したが,失調とジストニアは持続した点がインスリノーマでは非典型的(グルコーストランスポーター欠損症ではしばしば認めるが・・・).

◆Case 2 – Japan(順天堂大学,小川崇先生の症例提示)
【症例】44歳,2ヶ月前から下肢のこわばった感覚(tight sensation).歩行障害と転倒.発作性の全身痙攣(歩行時に跳ね上がる感じの歩行困難→過剰な驚愕反射?ミオクローヌス?).構音障害・嚥下障害,眼瞼下垂.眼球運動障害と複視,網膜色素変性症.BUN↑,Cre↑,Na↑,髄液細胞軽度増加,OCB陽性,MBP陰性.MRI正常,脳波正常.呼吸不全となり人工呼吸器を要した.抗てんかん薬とIVIG後,抜管.過剰な驚愕反射・ミオクローヌスは消失.
【解答】胸部CTで胸腺腫あり.易疲労性もあった.抗グリシン受容体抗体,抗AchR抗体,抗titin抗体が陽性.診断はPERM(progressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus)+MG.本例の複雑な症候はPERMのhyperekplexia,ミオクローヌスとMGに伴う筋無力症状の両者によるものだった.既報に胸腺腫に伴う両者の合併例あり.

◆Case 3 - India(銀賞受賞)
【症例】18歳男性.血族結婚+.30~90分間の眼球上転持続(Oculogyric crisis;眼球上転発作)を過去3回経験(意識障害なし).間欠性の閉眼困難と開口,手指のふるえ(振戦?ポリミニミオクローヌス?),軽度の運動緩慢,上肢筋萎縮,舌線維束性収縮.頭部MRI,脳波正常,針EMG:神経原性変化.
常染色体性劣性遺伝性パーキンソニズム+MND+Oculogyric crisis?
【解答】エクソーム解析でPARK7(DJ-1遺伝子ミスセンス変異ホモ).DJ-1変異で,若年性ジストニア+パーキンソニズム,認知症,脊髄前角障害,Oculogyric crisisが生じうる.

◆Case 4 - Kazakhstan(銅賞受賞)
【症例】両親同じ村出身(血族婚?).兄が類症(軽症).20歳女性.12歳まで正常,その後,進行性の運動障害,認知障害.口舌ジストニア,slow saccade,手指の運動緩慢,Stiffな歩行(ジストニア?パーキンソニズム?痙性?),姿勢保持障害,腱反射亢進,夜間の低換気.頭部MRI T2被殻外側高信号. 骨格異常(骨盤部,脊椎).
【解答】エクソーム解析:GLB1遺伝子遺伝子ミスセンス変異(Phe107Leu)ホモ.GLB1遺伝子はβガラクトシダーゼ酵素をコードする.診断はGM1ガングリオシドーシス.タイプ3(成人型).日本で多い.発症年齢が高齢化すると神経症状が増加し,ジストニアなどの錐体外路徴候,小脳性運動失調が目立つようになり,脊髓小脳変性症などとの鑑別が必要になる.

◆Case 5 - United Kingdom
【症例】18歳女性.一卵性双生児で両者発症.両親にも同様の症状.生後3週後から筋緊張低下と,音などに反応するhyperekplexia.発作性チアノーゼを認めたが年齢とともに減少,クロナゼパムが有効.現在,鼻やおでこを触ると過剰な驚愕反射.手指のミオクローヌス? 脳波,頭部MRI正常.
【解答】診断:遺伝性Hyperekplexia(GLRB遺伝子変異).遺伝性Hyperekplexiaには,3つの原因遺伝子が知られている(GLRA1; glycine receptor subunit A,GLRB; glycine receptor subunit B,SLC6A5; presynaptic glycine transporter 2).チアノーゼと突然死が生じうるので注意が必要.

◆Case 6 - Mexico(金賞受賞)
【症例】11歳女子,血族結婚なし.母の祖父:パーキンソニズム.1.4歳で歩行障害.その後,書字障害,自転車に乗れず. 8歳で上肢安静時振戦,運動緩慢,バランス障害.レボドパで改善会ったが,母が治療継続を希望せず自然食で治療した. 神経学的に上肢の安静時振戦,仮面様顔貌,右優位運動緩慢,両下肢反射亢進,手指ジストニア,歩行時つま先ジストニアないし痙性?(いわゆるCock walk;tiptoeing, erect trunk, exaggerated knee flexion),認知機能低下.頭部MRI正常.よって早期発症ジストニア・パーキンソニズム症候群+認知機能障害+レボドパ反応性が特徴.プラミペキソール少量で著明に改善.
【解答】診断:PARK19(PARK-DNAJC6).複数のDnaJ/Hsp40ファミリー分子(DNAJC6, DNAJC12, DNAJC5, DNAJC10)が家族性パーキンソニズムの原因となることが知られている.分子内にJドメインとよばれるHsp70結合ドメインを有するコシャペロンの一種.DNAJC6(Auxilin)はPARK19, DNAJC13はPARK21である.

◆Case 7 - Portugal
【症例】22歳女性.血族結婚なし,家族歴なし.5年間にわかる進行性の両上肢振戦と軽度の歩行障害にて発症.以後,ごく緩徐に進行.注意障害+遂行機能障害,アパシー.姿勢時振戦,運動時ミオクローヌス,運動緩慢,体幹失調,サッケード開始遅延,上方視制限.頭部MRI著名な小脳萎縮+被殻前方T2 high,T1 low.Jerk-locked averagingでpremovement cortical waveあり(よって不随意運動の一部は皮質性ミオクローヌス).臨床的にミオクローヌス・失調症候群+サッケード遅延+上方視制限.
【解答】メンデリオーム・シークエンス(https://bredagenetics.com/mendeliome/)により,ADRA2B遺伝子変異を同定.診断はFamilial cortical myoclonic tremor and epilepsy type 2(FCMTE type 2).

◆Case 8 - United Kingdom
【症例】45歳女性,家族内類症なし.右半身の運動緩慢とジストニア.歩行時にも異常姿勢を伴う歩行障害(手の振り↓).プラミペキソールにより幻覚,レボドパに変更し,運動緩慢は中等度改善したが,歩行は十分に改善しなかった.夜間の下肢の痛みあり.DAT正常.
【解答】α-GAL-A遺伝子点変異.診断:Anderson-Fabry病(日本ではFabry病が一般的だが,ドイツ人皮膚科医のJohannes Fabryと,イギリス人皮膚科医のWilliam Andersonにより別々に報告されたので,海外ではこのように呼ぶ).X染色体連鎖性,αガラクトシダーゼ活性欠損ないし低下.リソソーム病の一つだが,パーキンソニズムを呈するリソソーム病としてGaucher病が有名.αシヌクレインはリソソームで分解されるが,Fabry病でパーキンソニズムを合併するかは今後の症例集積が必要.

◆Case 9 - Canada
【症例】83歳男性.60歳発症,緩徐進行性眼瞼下垂(同胞にもあり).眼瞼下垂,眼球運動障害,レボドパ不応性パーキンソニズム(運動緩慢,姿勢保持障害,転倒),構音・嚥下障害,協調運動障害,失調歩行,深部覚障害.車椅子.パーキンソニズム・失調症候群.PSP mimics?ミトコンドリア病?
【解答】エクソーム解析でAFG3L2遺伝子変異.診断:SCA28.イタリアやフランスなど主に欧州で報告されるADCA.レボドパ不応性パーキンソニズムを呈する.眼瞼下垂が特徴的で,眼球運動障害も合わせるとミトコンドリア病を思わせる.実際にAFG3L2遺伝子はミトコンドリア・プロテアーゼをコードし,parapleginに近縁である.

◆Case 10 - Spain
【症例】34歳男性.新生児黄疸,生後24ヶ月で言語発達遅延,歩行障害.5歳,精神神経発達障害,感音性難聴,発語失行,構音障害,失調歩行.小頭症,長い手,大きな耳・鼻,頭部MRI脳室周囲白質異常.32~34歳,歩行,バランス障害増悪,歩行障害は進行性で転倒頻回.腱反射亢進(先天性+進行性).シアロトランスフェリンアイソフォーム異常.
【解答】GALT遺伝子変異複合ヘテロ.診断:ガラクトース血症I型.常染色体劣性.ガラクトースをグルコースに変換する酵素が遺伝学的に欠損することによって生じる.肝・腎障害,認知障害,白内障,早発卵巣不全などがある.日本では新生児マススクリーニングの対象疾患.

◆Case 11 - USA
【症例】32歳男性,精巣腫瘍(seminoma)の既往. 27歳,上肢と頭部の振戦,アルコールで軽度改善.
28歳,軽度のバランス障害.31歳,小脳性構音障害,頭部MRI小ぶりの小脳.おもりを持つと姿勢時振戦↑四肢失調,失調性歩行.OCB+.商業ベースの既報の自己抗体すべて陰性.
【解答】Mayo clinicにて,げっ歯類脳を用いた免疫染色を行い陽性. 診断: 抗KELCH-like protein 11抗体陽性の傍腫瘍性脳炎.

◆Case 12 - India
【症例】67歳.とうもろこしとご飯だけ食べていた.3週間前からじっとしていられない混迷状態となった.亜急性の前頭優位の皮質下認知症.下肢のアテトーゼ様運動,両肘などの左右対称性皮疹,下痢の持続.
【解答】診断:ペラグラ=ナイアシン(ニコチン酸)欠乏症.ナイアシンの内服で改善.3D(dermatitis, dementia, diarrhea)に加え,診断見逃し+無治療でdeath(4D).


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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(9月12日)  

2020年09月12日 | 医学と医療
今回のキーワードは,増殖するウイルスの形態とD614G変異体,2例目の再感染例,若年入院患者の重症化の危険因子,黒人で感染・死亡が多い理由,COVID-19診療に使用されるポータブルMRI,パンデミックがパーキンソン病や脳卒中に及ぼす影響,ワクチンの第3相試験の保留とワクチン誘発性横断性脊髄炎,小蛋白質を用いた新しい治療アプローチです.

今週の一番の関心事は,ワクチンの第3相試験の一時中止ではなかったかと思います.詳細は不明ですが,Nature誌はワクチンの安全性の評価の重要性をあらためて強調しています.有害事象と噂される横断性脊髄炎とワクチン接種の関連についても既報のまとめがありますのでご紹介したいと思います.

◆ウイルスの構造(1)気管支線毛細胞で増殖するウイルスの姿.
SARS-CoV-2ウイルスをヒト気管支上皮細胞に接種し,96時間後に,細胞を走査型電子顕微鏡を用いて観察した写真が報告されている.図1Aは,線毛の先端に粘液が付着した感染細胞を示している.図1Bは高倍率での観察で,ヒト気道上皮細胞において増殖したウイルスの形態と密度が分かる.
N Engl J Med. Sep 3, 2020(doi.org/10.1056/NEJMicm2023328)



◆ウイルスの構造(2)D614G変異がウイルスの形態と感染力にもたらす影響.
図2はSARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質の形態とD614G変異の位置(オレンジの丸)を示すアニメである.D614G変異はスパイクタンパク質の614番目のアミノ酸のアスパラギン酸(D)がグリシン(G)に置き換わる変異で,ヨーロッパで急速に増加し,その後,世界の殆どの地域で認められるようになった.当初,この増加の理由として,D614G変異は感染力が強い可能性が推測されたが,結論は出ていない.しかし,最近の研究でその可能性が高まりつつある.アニメはその一つを示すもので,クリオ電顕を使用してスパイクタンパク質の形態を示している.スパイクタンパク質は,「開」または「閉」の方向にある3つのペプチドで構成されるが,これまでの研究で,ウイルスが細胞膜と融合する(感染する)ためには,3つのペプチドのうち少なくとも2つが「開」の状態になる必要が分かっている.アニメの最初の白の状態は3つとも「閉」であるが,D614G 変異は「開」の状態(ピンク)になりやすい.アニメは「開」が0から1,2,3と増えたときの構造変化を示している.一方,D614G変異はワクチンの標的になりやすい可能性も指摘されている.
Nature 585, 174-177 (2020) (doi.org/10.1038/d41586-020-02544-6)



◆米国からの,2例目の再感染例の報告.
香港大学からの報告(doi.org/10.1093/cid/ciaa1275)に次いで,米国ネバダ大学からの再感染例が報告された.25歳の患者が3月25日に発症し,咽頭痛,咳嗽,頭痛,悪心,下痢を呈した.4月27日には症状は消失し,5月9日と26日に2度PCR陰性を確認した.しかし6月5日から筋肉痛,咳嗽,息切れ,低酸素血症を呈し,胸部X線上も肺炎像を認め入院した.48日の間隔が空いた患者検体のゲノム解析の結果,両者は短期間における変異では説明できない程度に遺伝的に不一致であった.このことから,COVID-19に2回感染したものと結論づけられた.香港の症例との違いは,2回目の感染で症状を呈したことである.初回感染で免疫を獲得できない可能性が示唆されるが,著者らは本例の意味付けには慎重な立場をとっている.
SSRN. August 25, 2020.(doi.org/10.2139/ssrn.3680955)

◆病的肥満,高血圧,糖尿病は若年感染者の人工呼吸器装着,死亡の危険因子.
COVID-19は,米国の若年成人の間でも急速に増加しているが,その臨床像は十分に分かっていない.入院を要した3222名の若年成人(18~34歳)の臨床像と転帰を調査した.3222名が対象で,684名(21%)が集中治療を要し,331名(10%)が人工呼吸器を装着され,88名(2.7%)が死亡した.危険因子(病的肥満,高血圧,糖尿病)が増えるに従い,人工呼吸器装着と死亡のリスクが増加し,これらの危険因子を有さない中年成人(35~64歳)8862名と同等のリスクとなった(図3).若年であっても病的肥満,高血圧,糖尿病を有する場合,一層の感染予防対策が必要である.
JAMA Intern Med. September 9, 2020(doi.org/10.1001/jamainternmed.2020.5313)



◆黒人で感染・死亡が多い理由.
米国における検討で,COVID-19の感染および死亡は,黒人において,人口に占める割合より2~3倍高いことが報告されているが,この理由は不明である.SARS-CoV-2は気道に感染し,膜貫通型セリンプロテアーゼ 2(TMPRSS2)を用いて侵入・拡散する.このため,人種ごとにTMPRSS2鼻内遺伝子発現を比較した研究が行われた.対象はニューヨーク市在住の健常者ないし喘息患者305名で,2015~2018年に採取した鼻上皮が使用されている.内訳はアジア人8.2%,黒人15.4%,ラテン系26.6%,人種・民族混合9.5%,白人40.3%で,48.9%が男性で,49.8%が喘息を有していた.TMPRSS2の鼻腔内遺伝子発現は,他の群と比較して,黒人で有意に高かった(すべてP<0.001)(図4).TMPRSS2発現と性,年齢,喘息との間には関連はなかった.よってTMPRSS2の鼻腔内高発現が,黒人における高い感染,死亡の一因である可能性がある.カモスタットメシル酸塩などのTMPRSS2阻害剤の臨床試験が行われているが,人種で層別化した解析が必要であろう.
JAMA. September 10, 2020(doi.org/10.1001/jama.2020.17386)



◆神経合併症(1)COVID-19患者に対するポータブル・ベッドサイドMRI!
米国からの報告.MRIは高磁場(1.5~3T)を要するため,適切な環境において検査を行う必要がある.しかし近年,低磁場MRI技術の進歩により,ベッドサイドでも画像を取得できるようになった.図5はベッドサイドで使用可能なポータブル低磁場MRI装置(0.064T)である.これを用いて,COVID-19患者が治療される集中治療室でその有用性に関する検討が行われた.対象は精神状態が変化したCOVID-19患者20名,その他の神経疾患30名で,後者の内訳は虚血性脳卒中(n=9),出血性脳卒中(n=12),くも膜下出血(n=2),外傷性脳損傷(n=3),脳腫瘍(n=4)であった.前者では20名中8名(40%)で異常所見を認め,後者では30名中29名(97%)で異常所見が検出された.有害事象や合併症はなし.解像度を見ると十分,臨床で使用できそうに感じられ,今後の臨床が大きく変わっていく予感がする.
JAMA Neurol. September 8, 2020(doi.org/10.1001/jamaneurol.2020.3263)





◆神経合併症(2)パンデミック時の外出自粛がパーキンソン病患者に及ぼす影響.
インドからの報告.パンデミック時の外出自粛が,パーキンソン病(PD)に及ぼす影響を明らかにする目的で,オンライン質問票を用いた検討が行われた.832 件の回答を検討したところ,自粛に伴い20-30%の患者に振戦,筋強剛,運動緩慢などの運動症状の悪化を認めた.また20%程度に,易疲労性,疼痛,不安,抑うつ,便秘,健忘などの非運動症状の悪化を認めた.睡眠障害は35.4%で認められ,23.9%が3ヶ月以内の発症や増悪を訴えた.自粛期間の長期化(60日以上)は,振戦(P = 0.003),発語(P = 0.002),排尿障害(P < 0.001)の悪化と関連した.一方,期間中に新しい運動・趣味を取り入れた患者の33.9%では,運動緩慢の悪化が減少した(P = 0.001).遠隔診療が導入されたが,筋強剛と姿勢保持障害を除いて診察は可能で,パンデミック時における有用性が確認された.
Parkinsonism Relat Disord. Sep 6, 2020(doi.org/10.1016/j.parkreldis.2020.09.003)

◆神経合併症(3)パンデミックにより虚血性脳卒中が増加する.
イタリアからの報告.COVID-19が脳卒中のリスクとなるかどうかについては明確な結論が出ていない.このため2020年の1~4月における患者数を後方視的に解析し,過去10年間(2010年~2019年)の月平均患者数と比較した.パンデミックの最盛期である3月と4月においてのみ,虚血性脳卒中の入院が増加していた(TIAや出血性脳梗塞,てんかんは増加しなかった).虚血性脳卒中は,3月は82名(うち35名(39%)がCOVID-19患者)で,過去10年の平均値49.7名より多かった.4月では78名(うち17名(21.8%)がCOVID-19患者)で,過去10年の平均値48.2名より多かった.死亡率はすべての病型で上昇したが,軽症患者が医療を求めず,病院に入院しなかったためと考えられた.
Eur J Neurol. September 05, 2020(doi.org/10.1111/ene.14505)

◆オックスフォード大学が開発したワクチンの第3相試験が保留中.
アストラゼネカは,オックスフォード大学が開発したコロナウイルスワクチンの第3相試験の登録を一時停止したが,英国でワクチンを受けた人に「有害事象の疑いがある」との報告があったことを受けたものである.Nature誌では科学者のコメントとして「このことがワクチン開発の推進にどのような影響を与えるかについて言及するのは早計だが,ワクチンを承認する前に,安全性を評価するために適切にデザインされた大規模試験の結果を待つことがより重要となった」と述べている.
Nature. September 9, 2020(doi.org/10.1038/d41586-020-02594-w)

ちなみに報道では有害事象は,横断性脊髄炎と言われている.ワクチン接種による免疫反応の刺激は,中枢神経系の脱髄などの副作用をもたらすことがある.インフルエンザやHPVワクチン等における有害事象の既報をまとめている論文によると,最も頻度の高いワクチンによる神経合併症は急性播種性脳脊髄炎(44.4%)で,ついで視神経炎(26.4%),横断性脊髄炎(13.9%)である.最近ではNMOスペクトラム障害(12.5%)が増加している.おそらく今回の症例でも,まずアクアポリン4(AQP4)やミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)に対する抗体が測定されたのではないかと思われる.出現頻度にもよるが,横断性脊髄炎は十分想定されることではないかと思う.
Int J MS Care. 2020;22(2):85-90(doi.org/10.7224/1537-2073.2018-104)

◆60アミノ酸から構成される小蛋白質を用いた新しい治療アプローチ.
スパイクタンパク質とヒトACE2受容体の相互作用を遮断するように,コンピューター設計にて作成された60アミノ酸から成る小蛋白質により,ウイルスの培養細胞への感染を実際にブロックできることが報告された.ミニバインダーと呼ばれる10個の小蛋白質をデザインしたところ,100 pMから10 nMの範囲の親和性で,受容体結合ドメイン(RBD)に結合し,24 pMから35 nMの間のIC 50値で,培養ベロE6細胞へのウイルス感染をブロックした.その1つのLCB1と名付けられたミニバインダーの感染阻止効果は,中和抗体による効果と同等であった.またミニバインダーとスパイクエクトドメイン三量体との複合体のクリオ電顕構造は,3つのRBDすべてに結合しており,計算モデルと一致していた.抗体は安定ではなく,また鼻腔投与にも向かないが,小蛋白質は室温で14日間置いても失活せず,また鼻腔や気道に投与できる利点がある.これまでと異なる新しいアプローチの治療薬として有望である.
Science. September 9, 2020(doi.org/10.1126/science.abd9909)



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未視感(ジャメビュ)を訴える患者さんとノーベル賞

2020年09月10日 | 脳血管障害
回診でジャメビュ(Jamais vu;未視感)の話をしました.「見慣れた光景に親しみを感じなくなる状況」を指します.映画やドラマの題材になるデジャビュ(déjà vu既視感:初めての光景なのに以前来たことがあるような親しみを覚える)の反対の現象ですが,いずれも脳神経内科的にはてんかん性記憶障害を疑う必要があります.多くは側頭葉に焦点を持つ単純部分発作です.未視感はてんかん放電が海馬に及んで,「場所細胞(place cell)」の機能が障害されると一時的に認知地図が失われた状態になり,場所の記憶がおかしくなると考えられています.

この「場所細胞」は,1971年,英国のジョン・オキーフ博士がネズミを使った実験により,海馬にはネズミが特定の場所にいるときだけ反応する神経細胞が存在するとして,初めて報告したものです.そして「場所細胞」により空間の認知地図が脳内に作られるという説を提唱しました.脳内の空間認識をさらに研究し,グリッド(格子)細胞を発見したモーザー夫婦とともに,オキーフ博士は2014年にノーベル賞を授章されています.

文献:白河裕志.てんかん発作時の記憶障害.脳神経内科92;248-51, 2020
図は日経サイエンスより引用.



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脳神経内科における燃え尽き症候群の状況(アンケート結果を踏まえて)

2020年09月06日 | 医学と医療
2020年9月2日,第61回日本神経学会学術大会@岡山において,シンポジウム「働き方改革:今,必ず押さえるべきこと」が行われ,武田篤先生(国立病院機構仙台西多賀病院),三澤園子先生(千葉大学)の座長のもと,下記の3つの講演が発表されました.

① 脳神経内科の状況(燃え尽き症候群のアンケート結果を踏まえて):下畑享良(岐阜大学)
② 女性脳神経内科医における働き方の現状と課題(バーンアウトのアンケート結果から見えてきたもの):饗場郁子先生(国立病院機構東名古屋病院)
③ 医師の働き方改革を巡る医療現場の実際:小野賢二郎先生(昭和大学)

私は以下のことを解説しました.
◆ 米国神経学会の燃え尽き症候群に対する取り組みは,2014年から開始され,主に医師のQOL改善,リーダーシップ教育,政治への働きかけの3つが行われていること.
◆ 日本神経学会も2018年から本邦における先駆的な取り組みを開始し,臨床系の学会としては初めて全学会員に対するアンケート調査を行った.この結果,自覚的バーンアウトは「なりそうなことがあった」も含めると 49.7% に認められ,20~40歳代で多く,その54.8% が複数回の経験をしたこと.しかし脳神経内科医は個人的達成感が高く,これがバーンアウトに対して抑制的に働いている可能性があること.
◆ 燃え尽き症候群の対策として,個人レベルでは労働負荷減少のみでなく,個人的達成感につながる仕事の質の向上を目標とする必要があること.組織,国レベルでは,働き方改革を着実に進めることが医師のバーンアウトの抑制につながるため,学会によるバーンアウトへのさらなる取り組みが求められていること.
◆ COVID-19の脳神経内科医療への影響を検討し,対策を迅速に打ち出す必要があること.


また饗場郁子先生は2018年に日本神経学会の神経内科女性専門医623人より回答を得たアンケート結果をもとに以下のことを解説されました.
◆ 女性脳神経内科医は年齢にかかわらず,週50〜60時間働き,特に年代の中で最も多い30〜40代の育児・家事労働負担が大きいこと.
◆ 脳神経内科女性専門医の64%が一つ以上のバーンアウトの症状を自覚的に経験し,バーンアウトを経験した約2割が休職・転職・退職していたこと.これは大きな損失であること.
◆ 日本神経学会の未来を見据え,女性脳神経内科医が活躍できるよう,個人,施設,政府レベルでの介入と共に学会マターとして継続的な取り組みが必要であること.

さらに小野賢二郎先生は,昭和大学病院で,2017年4月より先駆的に開始されたワーク・ライフ・バランスの実現のための医師の時間シフト制を紹介されました.
◆ 月単位で医局員が勤務時間を希望し,診療科長がシフトを組み,またエクセルの勤務実績を個々で入力して,クラウド上で全員が閲覧可能とした.
◆ この結果,医局員の勤務状況が日単位で把握できるようになり,時間外勤務の管理が行いやすくなった.子供を持つ女性医師にとって仕事と家庭の両立がしやすくなった.また,全体として時間外勤務の短縮につながったこと.
◆ 問題点としては業務が停滞しないだけのバックアップと人員確保が必要であること,医師の仕事は臨床業務にとどまらず,教育,研究もあげられるが,それらをどう扱うかが重要であること.

フロアからの意見や議論としては以下がありました.
◆ 脳神経内科医における燃え尽き症候群の一面だけ捉えられて誤解をされないようエビデンスを示す必要があり,その意味で今回の全学会員のアンケート調査とその論文化の意義は大きい.また他の学会とも連携して診療科間の比較を行う必要がある.
◆ 組織における燃え尽き症候群対策として,リーダーシップ教育を早急に開始すべきこと.
◆ 若手医師に大きな影響を及ぼしている内科専門研修プログラムの功罪について検討すべきであること.
◆ 医師の時間シフト制が各医師におけるモチベーションの向上につながるかの評価は必要である.

上述したようにアンケート論文の第1報が投稿中で,男女差について議論した第2報が現在作成中です.それらを踏まえた提言を行うこと,リーダーシップ教育を開始することが次の目標です.


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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(9月5日)  

2020年09月05日 | 医学と医療
今回のキーワードは,空気再循環バスにおける空気感染,気管支喘息は重症化の危険因子ではない,重症COVID-19の病態はサイトカインストームとは言い難い,COVID-19脳症における血液脳関門の破綻,COVID-19関連ギラン・バレー症候群における抗ガングリオシド抗体測定,単独顔面神経麻痺の初めての報告,高齢者へのBCG接種の効果,重症患者に対する全身性ステロイドのメタ解析,突然変異によるウイルス多様性は乏しい,です.

治療に関する良いニュースがありました.国別の致死率の違いに影響する可能性が指摘されてきたBCGワクチン接種が,高齢者において実際にウイルス性呼吸器感染症に対し予防効果をもつこと(ただしCOVID-19への効果はまだ不明),ステロイドの全身性投与は重症例における28日間の死亡率を41.4%から32.7%に低下させたことただし軽症例は避ける),急速にウイルスの感染拡大が広がったものの,突然変異によるウイルス多様性は乏しく,ウイルスごとにワクチンを作る必要はなさそうであることが報告されています.

◆空気感染の傍証:空気再循環バスでの感染蔓延.
中国からの報告.本年1月19日に,128名が礼拝に参加するために2台のバスに60名と68名に分かれて乗車し,往復100分間同乗した.いずれのバスもエアコンが室内再循環モードであった.バス2には武漢由来の患者1名が乗車していたが,その後,そのバスで68名中24名(35.3%)がPCR陽性となった.一方,バス1では感染者は出なかった.バス2の中で,最初の患者のそばの座席(高リスクゾーン)での感染率は,それ以外の低リスクゾーンと比較して,リスク上昇は有意でなかった(つまり患者のそばでなくて感染した)(図1).以上より,空気感染が広範囲に,高頻度の感染を引き起こしたものと推測された.空気が再循環する閉鎖的な環境では,空気感染が生じることを認識し,予防する必要がある.
JAMA Intern Med. September 1, 2020.(doi.org/10.1001/jamainternmed.2020.5225)



◆気管支喘息は重症化の危険因子ではない.
気管支喘息は重症化の危険因子という記載があるものの,その根拠は十分ではない.このため既報の15の臨床試験を統合した研究が米国から報告された.各試験の地域における喘息の有病率と,COVID-19入院患者における喘息の有病率を比較したところ,ほぼ同程度であった(プール推定有病率6.8%).さらにCOVID-19入院患者における気管内挿管率も,喘息の有無に関わらずほぼ同程度であった(図2).つまり喘息はCOVID-19による入院や気管内挿管のリスク因子とはならない可能性が高い.一方,インフルエンザによる入院患者では20%以上が喘息患者で,COVID-19と比べ有意に高頻度であった.著者は喘息患者でCOVID-19が少ない理由として,吸入コルチコステロイドの使用がウイルス受容体ACE2の発現を抑制し,ウイルスの侵入が困難になっている可能性を考えている.
Ann Am Thorac Soc. August 31, 2020(doi.org/10.1513/AnnalsATS.202006-613RL)



◆重症COVID-19の病態はサイトカインストームとは言い難い.
COVID-19の重症化にサイトカインストームが重要であると指摘されてきたが,血漿中サイトカイン濃度は低く,その名称の使用は適切でないという指摘があった(doi.org/10.1001/jamainternmed.2020.3313).そもそもサイトカインストームの定義自体が明確ではないとの指摘もあった.このため,重症COVID-19患者と他の重症疾患の炎症性サイトカイン値(TNF,IL-6,IL-8)を比較した研究がオランダから報告された.対象は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を呈するCOVID-19患者46名,ARDSを呈する(細菌性)敗血症性ショック患者51名,ARDSを有さない敗血症性ショック患者15例,院外心停止患者30名,多発性外傷患者62名であった.COVID-19群では,ARDSを伴う敗血症性ショック群よりすべてのサイトカインが有意に低かった(図3).またARDSを伴わない敗血症性ショック患者と比較して,IL-6およびIL-8が有意に低かった.COVID-19群のTNFは外傷群よりは高かったが,IL-6は心停止群または外傷群と差はなかった.IL-8は心停止群より低かった.以上より,ARDSを呈するCOVID-19患者のサイトカインレベルは,細菌性敗血症患者と比較して低く,他の重症患者と同等であったことから,COVID-19はサイトカインストームによって特徴づけられるとは言い難いと考えられた.
JAMA. September 3, 2020(doi.org/10.1001/jama.2020.17052)



◆神経合併症(1)COVID-19脳症では血液脳関門の機能障害が生じている.
フランスからのCOVID-19の縦断的研究.腎臓病棟に入院した5名の脳症患者を対象とした.神経学的には,錯乱,振戦,小脳性運動失調,行動変容,失語,錐体路徴候,昏睡,脳神経障害,自律神経障害,中枢性甲状腺機能低下症などが認められた.神経学的障害に並行して,サイトカイン放出症候群(血清IL6,CRP,LDH上昇)を認めた.髄液PCRは全例で陰性であった.頭部MRIでは,急性白質脳炎(3名,うち1名は出血性),虚血性脳卒中に類似した細胞性浮腫(1名),もしくは正常(2名)であった.ステロイドやIVIGが試みられ,2名は急速に回復した.また髄液/血清アルブミン・インデックスと血清アストログリアタンパクS100Bの増加が見られ(図4),血液脳関門の機能障害が示唆された.以上より,COVID-19脳症では,サイトカイン放出症候群に加えて,血液脳関門の機能障害が関与することが示された.
Eur J Neurol. August 27, 2020(doi.org/10.1111/ene.14491)



◆神経合併症(2)COVID-19関連ギラン・バレー症候群の抗ガングリオシド抗体.
イタリアから72歳女性のギラン・バレー症候群の報告.10日前から発熱,咳,咽頭痛,嗅覚障害が出現,その後,弛緩性の四肢麻痺,顔面神経麻痺,呼吸不全を呈した.神経伝導検査では脱髄性神経障害を,髄液検査では蛋白細胞解離を認めた.治療はIVIGとCOVID-19に対する投薬が行われた.25 日目に部分的に人工呼吸を要したが,有意な筋力の改善を認めた.抗ガングリオシド抗体が測定され,抗GM1,抗GD1a,抗GD1bが陽性であった.GD1a/GD1b抗体は脳神経麻痺を認める症例でしばしば検出され,またGD1aガングリオシドは嗅球で強く発現することから,嗅覚障害を説明できる可能性がある.抗ガングリオシド抗体検査は,SARS-CoV-2に関連した他の神経障害でも有用である可能性がある.
J Neurol Neurosurg Psychiatry. Aug 28, 2020(doi.org/10.1136/jnnp-2020-324279)

◆神経合併症(3)COVID-19関連単独末梢性顔面神経麻痺.
フランスからの症例報告.起床時に気が付かれた急性の左顔面神経麻痺にて入院した57歳女性.7日前に一過性の疲労,筋痛,軽度の咳嗽を認めていた.鼻咽頭拭い液PCR陽性,髄液PCRは陰性.呼吸器症状は一時,悪化したが,1ヶ月後には呼吸器症状,神経症状とも改善した.顔面神経麻痺に対しては通常治療を行ったが,COVID-19感染を認めるためステロイドは使用しなかった.ウイルスによる顔面神経への直接の感染より,免疫介在性の障害が疑われた.
Eur J Neurol. August 27, 2020.(doi.org/10.1111/ene.14493)

◆高齢者へのBCG接種がウイルス性呼吸器感染症を予防する.
ギリシア,オランダ,ドイツの国際共同研究.BCG接種の高齢者(65歳以上)への呼吸器感染症予防効果を評価するプラセボ対照無作為化試験(第Ⅲ相ACTIVATE試験).高齢患者(198名)が退院時にBCG(72名)またはプラセボワクチン(78名)を接種され,新規感染がないか12ヵ月間追跡された.中間解析の結果,BCG接種により初感染までの期間が有意に延長した(中央値16週対11週).新規感染症の発生率はプラセボ群42.3%,BCG群25.0%であった(ハザード比0.21,p=0.013).ウイルス性呼吸器感染症に対して最も強い保護効果が認められた.副作用の頻度に差はなかった.3ヶ月後の単球において,エピジェネティックなリプログラミングと,サイトカイン(TNF,IL1b,IL-10)産生増加が認められた.以上より,対象患者数が少ないものの,高齢者に対するBCGワクチン接種は安全であり,感染症から保護できる可能性が示された.2017年に開始された今回の試験では,COVID-19への予防効果の判断は困難である.新たな大規模研究が進行中である.
Cell. August 31, 2020(doi.org/10.1016/j.cell.2020.08.051)

◆全身性副腎皮質ステロイド投与は重症患者における発症28日間の死亡率を低下させる.
WHOによる報告.1703名の重症患者を含む7つの無作為化試験のメタ解析が報告された.デキサメタゾン,ヒドロコルチゾン,またはメチルプレドニゾロンの全身投与に678名が,通常治療またはプラセボ投与に1025名が割り付けられた.主要評価項目は,無作為化後28日目の全死亡率とした.ステロイド群の死亡は222/678名(32.7%),通常のケア・プラセボ群の死亡は425/1025名(41.4%)であった(要約オッズ比,0.66;P<0.001)(図5).通常のケア・プラセボ群と比較した要約オッズ比は,デキサメタゾンでは0.64(3試験,死亡527/1282名),ヒドロコルチゾンでは0.69(3試験,94/374名),メチルプレドニゾロンでは0.91(1試験,26/47名)であった.重篤な有害事象はステロイド群で64/354件,通常のケア・プラセボ群で80/342件であった.以上より,副腎皮質ステロイドの全身性投与は28日間の全死因死亡率の低下と関連した.しかしWHOは「より軽症の患者には死亡リスクを上げる恐れがあるため,使用すべきではない」と述べている.
JAMA. September 2, 2020(doi.org/10.1001/jama.2020.17023)



◆突然変異によるウイルス多様性は乏しく,単一ワクチンで対処可能.
米国からの研究.COVID-19ウイルスの急速な拡大は,患者内で突然変異を起こしうる.このため,1つのワクチンが変異したウイルスに普遍的に有効であるかは不明である.昨年12月以降,見出された84か国の感染者から得た18514個に及ぶSARS-CoV-2ウイルス・ゲノム配列に関して,系統分類,集団遺伝学,および構造バイオインフォマティクス解析を行ったところ,ウイルス・ゲノムの多様性は限られていることが判明した.配列の5%以上に多型が見られるのは11部位のみで,スパイク蛋白質領域におけるD614G変異(アスパラギン酸(D)からグリシン(G)への変異で,ヨーロッパで増加したもの)を含む2つの変異が判明している.SARS-CoV-2は進化スピードよりも急速に感染拡大しているため,ウイルス集団はより均質化したものとなっていた.ヒトへの順応(適応的選択)ではなく,無秩序に変異が生じていると考えられた.つまりウイルス多様性はこれまでのところ乏しく,流行を収束させるためには,単一のワクチンで事足りるだろうと著者は述べている.
PNAS. August 31, 2020(doi.org/10.1073/pnas.2008281117)
positive selectionを受けたウイルス変異株の報告.


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