Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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認知症の告知・治療の自己決定支援に多職種で取り組む!@第36回日本神経治療学会学術総会

2018年11月28日 | 認知症
第36回日本神経治療学会学術総会にて,ケースカンファレンス「認知症」を,7人のファシリテーターの先生方とともに企画・担当した.目的は「認知症の告知や自己決定支援を多職種で取り組む」という試みを行うことであった.

【議論する認知症は実はCJD!】
症例として取り上げる認知症として,クロイツフェルト・ヤコプ病(CJD)を選んだ.一般的なアルツハイマー病などでなく,CJDをテーマにした理由は,短期間に急速進行性に認知症をきたすこの疾患に対し,適切に告知や治療の自己決定の支援ができるようになれば,時間的余裕のある他の認知症においても対応できると考えたためである.それだけCJDの告知は難しい.


私はCJDに対する医師としての考えを論文(臨床神経2014)で発表した.告知や治療の自己決定の支援は「条件さえ揃えば可能」と考えているが,現実には非常に難しいことも実感していた.その後,日本臨床倫理学会にて発表した際,多職種の専門職の方々から多くのご意見を伺い,この問題は「医師だけではなく多職種で取り組むべきものなのだ」と初めて気が付かされた.このことが今回のカンファレンスの背景にあった.

【認知症に対する病名告知のメリットとデメリット】
CJD患者さんに告知を行う意義は大きい.メリットは①患者さんの知る権利を守ることができる,②患者さんが残された人生をどのように生きるかという自己実現を支援できる,③財産管理を含めた身辺整理が可能となる,④患者さん自身が終末期の治療法を選択できる,といった点が挙げられる.一方,デメリットとして,①患者さんが,わずか2−3週で無動無言状態になるという過酷な運命に耐えられず,病気を受容できず,うつや自殺企図が生じうる,②家族が,告知により衝撃を受けた患者さんを支えきれない可能性もある.また医師も病状説明を繰り返す時間的余裕がなく,苦しい立場に置かれる.これらのメリット,デメリットは程度の差はあるものの,他の認知症においても少なからず当てはまる.

【CJDの告知を医師は決めかねている】
問題は「病名告知を行うか否か?」「行うとしたら最初に誰に告知をするか?」「患者さんが告知に耐えられるか否かをどのように判断するか?」である.今回,若手からベテランまで幅広い年代の医師の参加があったが,意見は「告知は困難であり行えない」という立場から「実際に告知した経験あり」まで様々であった.また治療の自己決定支援についてはさらに難しく,もっと情報がないと結論が出せないという意見も出た.私は自身の経験や考えをミニレクチャーとして発表した.


【医師のみの告知から多職種での取り組みへ】
私は上述のようにこの問題に対する多職種での取り組みに関心を持っていたが,ファシリテーターの一人である田代淳先生から,事前に藤田賢一先生ら(北祐会神経内科病院)が第33回日本神経治療学会(名古屋)で報告した「急速に進行したクロイツフェルトヤコブ病患者への多職種の関わり」という発表を教えていただいた.この報告によると,発症後3ヶ月で急速に進行し死に至ったCJD患者さんに対し,生活背景や家族の状況に関する情報を多職種で速やかに収集し,入院から11日目には告知を行っている(図).そして死亡2ヶ月後に多職種共同で症例検討会を行っている.この発表のなかのそれぞれの職種の役割は以下の通りである.

医師: 診断,告知,緩和ケア
看護師: 療養生活環境の整備,傾聴
MSW: 希望の聴取,制度の説明,キーパーソンの確認,療養施設決定の支援,財務財産管理についての支援
PT: 機能評価剤や歩行訓練,ストレッチ,呼吸介助
OT: 抑うつや機能の評価,文字板の施行
ST: 嚥下評価や自主訓練の指導


4つの班に分かれて行われたカンファレンスの議論でも,医師,看護師,リハビリと様々な専門職が集まり,それぞれの視点から意見が出され,役割分担と速やかな相互の連携が重要であることを確認できた.終了後,ファシリテーターからは「コメディカルのかたにも参加頂いたことで,より多様になり,学ぶところ大であった」「若手の先生方と看護師さんが積極的に意見を述べてくれて,経験豊かな先生が要所を締めて下さり大変良かった」「多くことを学ぶことができた.課題も多いが,光もみえてきた」「様々な気付きがあった.このような機会はもっと多くの方々にぜひ積極的に経験してほしい」との意見を頂いた.今後,認知症に対する告知や治療の自己決定に関する多職種カンファレンスを岐阜大学病院でも実践してみたいと思った.

ファシリテーター:三條伸夫先生(東京医科歯科大学),和田健二先生(鳥取大学),中根俊成先生(熊本大学),仙石錬平先生(東京都健康長寿医療センター),田代 淳先生(札幌パーキンソンMS神経内科クリニック),林 祐一先生(岐阜大学),松島理明先生(北海道大学病院)

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診察の際に心がけていること@第36回日本神経治療学会学術集会

2018年11月24日 | 医学と医療
標題の学会にて「短時間で抑える神経所見のとり方」というテーマを与えていただき教育講演を行いました.稀に見るとても難しいテーマでした.忙しい外来の中,症例によっては神経診察を取捨選択し,短時間でできれば確かに良いのですが,思い込みによって重要な所見を見落とし,後で苦い思いをした経験が少なからずあります.先達の脳神経内科医に答えを求めると,ワルテンベルグ教授は「条件付きで神経診察の取捨選択はできる」と述べておられますが,その条件とは「『病気の本質』を問診と最初の一瞥で見出すこと」だそうです.うーん,やはり簡単なことではありません.

講演では「問診➔診察➔カルテ記載」の全体を見直し,能率よく,かつ高いレベルで診察を行うためにはどうしたらよいかを,先輩から学んだことや自身の経験を含め提示しました.下記のスライドをご覧いただき,ご意見・ご批判を頂ければ嬉しいです.



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多系統萎縮症における閉塞型睡眠時無呼吸の重症度は呼吸の不安定性により決定される

2018年11月10日 | 脊髄小脳変性症
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の重症度は,肥満,もしくは小顎症のような顔の骨格により影響を受ける.これらが存在すると上気道が狭窄・閉塞しやすくなるためである.しかし経験的に多系統萎縮症(MSA)においてはこの知見は当てはまらないことが分かっていた.つまりMSAでは肥満を認めなくても高頻度に閉塞型SASを認めるのだ.

理論的,実験的に,閉塞型SASの重症度には4つの因子が関与することが知られている.(1)解剖学的な上気道のつぶれやすさ,(2)上気道の開大筋反応,(3)呼吸の不安定さ,(4)覚醒のしやすさである.最も重要な因子は(1)解剖学的な上気道のつぶれやすさであり,肥満はこの状態を引き起こす.MSAが肥満による影響を受けないとしたら,当然,(1)以外の因子が関与しているということになる.ではMSAのSASはどの因子に影響を受けるのか?この問題はMSA研究者にとっては大きな謎であった.東京医大の中山秀章先生と私どものグループはこの問題に取り組み,「近似エントロピー(approximate entropy;ApEn)」という概念を導入し,(3)の「呼吸の不安定性」がMSAの閉塞型SASの重症度を決定していることを初めて明らかにした.

研究の仮説として,MSAの一部の症例では,中枢型SASやCheyne-Stokes呼吸,CPAP開始後に中枢性SASが顕在化するcomplex SASを呈することから,中枢性呼吸調節障害に基づく呼吸の不安定性が存在し,その程度が閉塞型SASの重症度を決定していると考えた.そして本研究では,呼吸の不安定性の指標として「近似エントロピー(ApEn)」を用いた.ApEnは小さいほど規則性が高く,大きいほど低い(不安定である).具体的には(筋電図をもとにアーチファクトが存在しない)就寝前の胸壁運動をプレチスモグラフで記録し,ApEnを算出した.図1の患者AとBを比較すると,一見して,患者Bの呼吸が不安定な印象を持たれると思うが,実際にApEnは患者Aで0.74,患者Bで1.56と,患者Bで高値となっている.ちなみに呼吸の不安定性は,脳梗塞,心不全,オピオイド使用などで報告されている.


対象はMSA群20名(罹病期間3.3±2.0年),対照群20名.終夜ポリソムノグラフィを行い,無呼吸低呼吸指数(AHI)を算出した.ApEnに加え,BMIや罹病期間,MSAの重症度,そのほかのPSG所見を集積し,相関を検討した.この結果,分かったことは以下の2点である.
(1)MSA群は対照群と比較して,呼吸の不安定性が有意に高い(ApEn 1.28 vs 1.11, P<0.05)
(2)多変量解析の結果,MSAではAHIにApEnが相関するが,BMIは相関しない.逆に対照群ではAHIにBMIが相関するが,ApEnは相関しない(図2).
つまりMSAの閉塞型SASでは呼吸の不安定性が重要で,対照群では体重が重要な影響因子であることがわかる.一方,ApEnと疾患重症度,罹病期間には相関は認めなかった.


結論としてMSAでは就眠前にも呼吸の不安定性が認められ,閉塞型SASの重症度を決定していることが初めて明らかになった.

J Clin Sleep Med. 2018;14:1661-1667.


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