パンダ イン・マイ・ライフ

ようこそ panda in my lifeの部屋へ。
音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

近松よろず始末処

2019-02-24 | book
1969年生まれ浪花、江戸時代の大阪を舞台に多くの作品を出している築山桂の「近松よろず始末処」を読んだ。2018年4月刊行。大阪の浄瑠璃芝居小屋「竹本座」を舞台に、悩める町民からの頼みごとを有料で請け負う、浄瑠璃作家、近松門左衛門の近松万始末処。その手先となって事件を解決する3人(?)衆。瀕死の状態を門左衛門に助けられた、竹本座の前で季節の花を売る虎彦。美形で長身の謎の剣客、少将。竹本座の番犬、鬼王丸の3人(?)だ。細工師の見習い、あさひも花を添える。元禄らしい題材で楽しめる。

お犬さま
朗問屋梅木屋の依頼。生類憐みの令の中、乱暴犬を切り捨てたと咎で切腹を命ぜられた奉行所の役人を助けてほしい。朗問屋の手代と丁稚が持っていた100両を奪われ、いなくなった。その手代が梅木屋の内儀の弟だった。

仇討ち
江戸からの依頼人の医者と養子の孝太郎。孝太郎の実家、長瀬家の仇討の顛末。

西鶴の幽霊
堺の商人、鶴屋市右衛門が依頼人。門左衛門と旧知の市右衛門。大阪の町で夜な夜な現れる井原西鶴の幽霊。その幽霊を退治してほしいという。大阪には、昔、京都から井原西鶴の新作で、近松の竹本座を潰しにかかった宇治座があった。

曽根崎異聞
曽根崎新地の女郎、お初が殺された。竹本座では大騒ぎ。下手人は少将だというのだ。そのお初には虎彦の旧知の九平治が横恋慕していた。お初の恋仲の徳兵衛も店の金を持って行方不明だという。近松は虎彦に騒ぎに立ち入るなと言うが。

熱血漢の虎彦とクールな少将、そして何もかも御見通しの犬、鬼王丸。浪速の事件を解決する。4編の作品それぞれ、百合、紫陽花、朝顔、笹と季節感あふれる計らいも。
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雪子さんの足音

2019-02-17 | book
「雪子さんの足音」。1976年、昭和51年生まれの木村紅美が、月間文芸誌に2017年9月に掲載した。2018年2月刊行。

東京の高円寺大学時代に住んでいた下宿、月光荘。公務員になった薫が、出張先で下宿の大家、雪子さんの90歳での死を知った。

それからプレイバックする「あの頃」。雪子さんの過度なおせっかいにいやけがさしながらも、ついつい甘えてしまう薫。同じ下宿人の年上の女性、小野田さんとの3人の生活。

戦中を生き延びた雪子さん。同居する子どもの死。薫の恋愛模様。作家になろうとするも何をしても中途半端な薫の行状。

青春時代の不安定でほろ苦い日々。下宿という狭い世界の中で、異なる人々が空間をともにするという現実。結局、薫は月光荘を逃げ出すように去る。しかし、雪子さんの死により、その思い出を訪ねて高円寺を訪れてしまうのだ。

そういえば、54歳の頃、仕事のご縁で大学時代の恩師と大学で会うことになった。思わず、「あの頃」に出会いたくなり、下宿を訪ねた。あった。昔のままだった。あの頃・・・。


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ぼくたちはみんな大人になれなかった

2019-02-11 | book
ツイッターが有名になり、文壇デビューした燃え殻の「ボクたちはみんな大人になれなかった」を読んだ。2017年6月刊行。
東京。都会の真っただ中で生きている43歳のボク。高校を出て、デザインの専門学校に進み、菓子工場で働いていた。そして、20代、求人誌で見たテレビの美術製作会社に応募。一緒に面接を受けた関口と今も働いていた。社長と3人の会社は69人もの大所帯になっていた。しかし、若い頃の生活パターンを今も抜け切れずにいる。

菓子工場のおかまの七瀬、専門学校からつきあっていた彼女、日本で懸命に生きている女性スー。渋谷、新宿、目黒、六本木、赤坂、五反田などを舞台に、一生懸命生きている群像をクールなタッチで感性豊かに描いた。

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清張短編 駅路

2019-02-10 | book
松本清張は、ご存じ日本の社会派ミステリーの第1人者。昭和28年に「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。その後の精力的な文筆活動は、清張全集の多さからも知る事ができる。学生時代に、知人の影響もあり、カッパノベルズを読み漁った。

「駅路」は、定年退職をモチーフにした短編。昭和35年8月に週刊誌に掲載された。定年から1年が過ぎようとしている。「駅路」を含め、清張全集の37巻、短編3は、昭和32年から35年に書かれた25篇が入っている。

高校出で銀行に入り、35年勤め上げ、営業部長で定年退職をした小塚貞一。趣味は写真と旅行という彼が、東京を離れて遊んで来るといって家を出てから30日が経っていた。そのような長い時間家を空けたことがないので、妻の百合子が家出人捜索願を所轄署に出した。子どもは、役人で去年結婚した長男と、今年商事に就職した二男という冒頭の下りで、貞一の真面目で努力家の性格と、不足の無い家庭事情が明らかにされる。銀行関係者から次の職場を紹介されたが、好きな旅でもしてゆっくりしたいというコメントも挿入されている。

貞一の家へ出向き、妻の百合子と面会する刑事。ベテランの呼野と若い北尾という設定。妻の百合子の印象を冷たい感じがすると感想を書き記す。

そして今回の旅行に持ち出した金が80万円という高額なことが、そこに何かあるのではないかと読者を引き寄せる。
そして営業部長の前が名古屋支店長が2年、広島支店長が10年だったことが明らかにされる。趣味の写真アルバムも拝見し、書かれていた撮影日時も徹帳に控える呼野。

会社関係者への操作も真面目な貞一の一面をのぞかせる。しかし、大村という女性から貞一への度重なる電話が確認される。再び訪れた貞一宅。妻は家にも電話があっていたという。その応接間には貞一が好きで集めていたゴーガンの絵があった。ゴーガンは第2の人生を求めて南洋に住んだ人。呼野は、貞一が昔勤めていた広島に飛ぶ。貞一のアルバムに残された写真は景勝地ばかり。呼野は貞一の失踪と女性の存在を結びつける。

冒頭部分から綿密に散りばめられたディテールが一つにつながる。ベテランと若者というコンビの妙。積み上げられる事実が、読者を最後まで引きつける。
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朱の丸御用船 吉村 昭 51

2019-02-03 | 吉村 昭
江戸時代の海事に興味を持った吉村昭が平成9年に出した「朱の丸御用船」。

幕府領から年貢米を輸送する御用舟。この船尾に立てられていたのが朱色の日の丸の旗印である。

この頃、廻船の積荷の密売を隠すため、海難事故の偽装があった。

遭難を偽装して御用米を横流しした天神丸。また、その遭難により、米などのおこぼれをいただいた志摩国(三重県)波切村の人々。
この2つの出来事を結びつける幕府の役人。追い詰められた村の人々は・・・。

資料に基づいて構成する吉村の淡々とした文体は、平凡な毎日から、徐々に破滅への道を転げ落ちる村人を際立たせる。

事実は小説より・・・。

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