パンダ イン・マイ・ライフ

ようこそ panda in my lifeの部屋へ。
音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

バッタを倒しにアフリカへ

2017-11-26 | book
昆虫学者の前野ウルド浩太郎の「バッタを倒しにアフリカへ」を読んだ。2017年5月刊行。新書なのに、結構厚い。バッタか。昆虫。難しそう。そんな不安を吹き飛ばす、いきなりのスロットル全開のフルパワーで、一気に読ませる。痛快、娯楽劇だ。研究成果は論文掲載に任せ、本書は、失敗も苦労もなさけなさもネタにして、どんどん突き進む。

1980年、秋田生まれ。小さいことから昆虫が好きで、ファーブル昆虫記にはまり、大学へ。そして研究者の道へ。

研究者とはいえ、定職があるわけではない。それなら一念発起、大好きなバッタの研究で、逆転満塁ホームランを狙う。それは、バッタの大量発生が飢餓をもたらす、アフリカの西北にある国、モーリタニアでの2年間の期間限定の研究事業だった。2011年に始まる、悪戦苦闘の日々を綴る。

北国育ちの著者が、暑さと寒さの入り混じる外国への一人暮らし。冒頭は、そこで懸命に生き抜く著者の苦労話。バッタ探しの1年目の徒労と失望。相棒となる運転手ティジャニとの出会い、ババ所長の励まし。2年目の生き生きとした生活の様子。日本でのさまざまな人と出会い。京大の白眉事業への参画。

異国の食事、習慣、風土など、ほんとうにアフリカ暮らしは興味が尽きない。バッタがいないときのフランスでの研究とあこがれのファーブル邸訪問。

ほんとうに著者は日々、一生懸命に生き抜く。とにかく前向きで明るい。

ウルドは、現地の尊敬のミドルネームだという。それをきちんと受け止め、使う。この素直さが著者が人好き、人に好かれる魅力だ。
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字が汚い

2017-11-23 | book
フリーライター、1964年生まれの新保信長の奮戦記「字が汚い」を読んだ。2017年4月発刊。6月に2刷という好調本だ。

とかく他人の字は、きれいに、あるいは読みやすく見える。
職場でも年賀状も近年ではパソコンになり、自筆を見る機会もなくなった。それでも職場の付箋や年賀に寄せた一言コメントなどに書かれた文字に、温かさを感じる。でもそれは、読みやすい、あるいはきれいな、達筆な字であるからであり、見たとたんに、なんだこりゃ、汚いなと、内容よりも先に字に評論を入れてしまう字は、書かない方がよいなと思うほどだ。

その場で書いたメモが後からわからなくなる自分としては、悪筆という自覚がある。
だからこそ、期待もせずに読んだ。結局、字はきれいにはならない。しかし、努力することで近づかせることはできる。

きれいなわかりやすい字だなと、具体な例を示す。まずは、知人や編集者。それから練習本にトライする。さらに、古今東西の作家の例、有名人や政治家、省庁看板、ゲバ字、1970年代前半の丸文字の盛衰、なつかしの雑誌「りぼん」の考察、広告や絵馬にいたるまでの自筆の考証。

自筆、悪筆で1冊の本ができる不思議感。これも自らの悪筆をなんとかしようとする筆者の問題意識の表れか。それでも、有名人の悪筆にホッとする場面もあり、揺れ動く心持を感じることができる。
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低反発枕草子

2017-11-19 | book
詩人の平田俊子のエッセイ集「低反発枕草子」を読んだ。地方紙に2014年4月から2015年12月まで毎週日曜日に連載されていたのを2017年1月に単行本化した。

平田は1955年生まれなので、少し年上。詩人らしく、日々の生活をきちんと見て、自分の視点からあれやこれやと、書きとめた。
タイトルはこのころ低反発の枕が流行っていた。枕といえば、エッセイの第先達の清少納言からの作品。連載を四季でまとめた。しゃれっ気たっぷり。もくじは、春は化け物、夏は鳴り物、秋は曲げ物、冬は捕り物、春は繰る物。

東京で大学の特任教授や、短期大学の非常勤講師などを務め、詩人らとの交流もあり、食や服、旅行地での出来事など、本当にいろんな視点で書き綴る。向田邦子のエッセイも秀逸だが、平田もなかなかのもの。

しつけ糸、電車での出来事、実家の福岡の話、花巻への旅行、同年代の詩人の死、大好きなチョコレートなど、印象に残るもの多し。この感性の豊かさが、生きることへの源泉か。
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ライオン・ブルー

2017-11-12 | book
2015年江戸川乱歩賞デビューの1981年生まれの呉勝浩の2017年4月刊行。

故郷の地方の警察交番を舞台に、警察学校の同期の失踪を追う警察官の澤登耀司。無線機だけが見つかり、拳銃や死体がわからない。同僚や上司に問い、失踪の動機を探り始めるが。開発計画や合併問題も浮かび上がり、地元は賛成派反対派に分かれていがみ合いもあった。耀司の同級生もその渦中にいた。
そんな中、嫌われ者の老人のごみ屋敷が燃え、老人の死体が。そこには拳銃が残されていた。そして、反対派のヤクザの組長が殺される。人々の思惑がいろいろと絡み合い、最後まで目が離せない。
耀司の先輩警官、晃光の過去と現在がすごい生きざまで迫る。


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今日の人生

2017-11-05 | book
益田ミリの「今日の人生」を読んだ。2017年4月刊行。
益田ミリは、1969年生まれの漫画家。全国紙に同じく漫画家の伊藤理佐との隔週のエッセイを楽しみにしている。

日常の気づきを、特徴のある直線と空間で描く。電車や旅行、喫茶店、映画館、大阪の実家などでの出来事を通し、興味津々で挑む人間ウォッチング。その言動に傷ついたり、へこんだり、勇気づけられたり。その感性に驚く。好きな一編は、152ページのつまずきを支えてくれる手すりの話。
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血縁

2017-11-03 | book
長岡弘樹の新刊「血縁」を読んだ。2017年3月刊行。月間文芸誌に掲載された7編を集めた。2009年から2016年まで。

1969年生まれの長岡は、2003年作家デビュー、2005年単行本デビュー。2013年の警察学校を舞台にした「教場」このミス大賞2位、本屋大賞6位だった。サイコサスペンスともいえる情景心理描写を得意とし、人間の深層心理を描き出す。

文字盤
寺島方式という現場重視の捜査スタイルを持つ刑事。コンビニ強盗を追う。旧知の同僚が子供を同乗させ、事故を起こす。言葉が不自由になる同僚と特殊な方法で会話をする。

苦いカクテル
寝たきりの父の看病をしている2人姉妹の姉。弁護士の妹と2人の楽しみはカクテルバーで、自分のカクテルを作り飲むことだった。その父が亡くなる。

オンブタイ
部下を運転手にして帰宅途中。お遊びで、2人羽織で後部座席から運転し、事故を起こし、部下の兄も引いてしまう。目が不自由になった彼のもとへ、ヘルパーの女性が訪れる。

血縁
福祉の資格を取り、同じ福祉施設に勤める姉妹。妹が施設利用者の老女の自宅を訪れると、謝って2階から鉢を落とし、老女が死んでしまう。彼女は資産家で仲の悪い娘がいた。

ラストストロー
拘置所で刑務官をしていた3人の男性。1年に1回、3人共通の記念日を持っていた。その一日を描く。産廃施設の建設で揺れていた。

32-2
女手一人で企業を育てたワンマン社長。彼女には2人の娘がいた。姉は結婚していた。ある日、4人でゴルフへ行くことになる。先に出た社長はなかなか、ゴルフ場へ着かない。義理の兄とゴルフ場へ向かう妹。義兄の行動がおかしい。

黄色い風船
拘置所に勤める男性は、その収容者の体調に異変を感じるが、その担当医は異常はないという。

いずれも周到に計算尽くされた犯罪が、少しのほころびから明らかになる。医療にも詳しい。
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