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『WEIRD(ウィアード)「現代人」の奇妙な心理 上:経済的繁栄、民主制、個人主義の起源』➁

2024年04月10日 | 現代の病理

 

『WEIRD(ウィアード)「現代人」の奇妙な心理 上:経済的繁栄、民主制、個人主義の起源』(2023/12/20・ジョセフ。ヘンリック著),今西康子翻訳)からの転載です。

 

一例を挙げよう。ネパール内戦が終結してから10年後に実施された調査では、多くの戦争関連の暴力にさらされた共同体ほど、(共同体の成員同士で行なう)公共財ゲームで協力行動が多く認められた。また、選挙で投票する人達、地域団体に加入している人の割合も高かっか。実際のところ、戦争の被害を受けていない共同体には、任意団体が全くなかったのに対し、戦争の被害を受けた共同体の七〇%に、農業協同組合、婦人会、青年団のような組織が設立されていた。ここでもやはり、戦争が、任意・体に加入しようとする人々の動賺づけを高めていた。

 戦争がなぜ、ヒトの心理にこのような効果をもたらすのかを理解するには、第2章から第4章で述べたことを思い出してほしい。文化進化が出現して以降、この二〇〇万年の間に、バンド間、氏族間、部族間での競争によって、成員に協力行動をとらせる社会規範が広まっていった。そうした規範をもつ集団こそが、他集団との暴力抗争に打ち勝ち、また、洪水、地震、干魃、大山噴火のような自然災害を生き延びることができたからだ。こうした文化進化のプロセスで有利となり、広まっていった規範や信念の例として、食物分配、共同体儀式、近親相姦のタブーに関連するものを見てきた。そのような規範や、相互扶助や共同防衛に関する規範の出現によって、個々人は、緊密に張り巡らされた社会の網の目に絡め取られ、そのネットワークに依存して生きるようになった。人類は、先祖代々こうした世界に適応してきたがために、戦争やその他の衝撃的事態に対して、遺伝的に進化した、少なくとも3つの反応を示すようになった。

 第一に、衝撃を受けると、ヒトの相互依存心理が刺激されて、頼みにしている社会的絆や共同体への投資を増やすようになる。戦争の場合、これは、攻撃された「われわれ」とは誰なのかによって違ってくる。「イラヒタ」〔第3章参照〕が攻撃されていると受け止めた場合、人々は村人仲間との結束を強め、村人仲間にも同じことを期待するだろう。強固な個人間ネットワークを欠いている場合、衝撃を受けた人々は、新たな人間関係や共同体を見つけてそれに投資する方向へと駆り立てられるだろう。

 第二に、社会規範は、集団が生き残るために文化的に進化したものなので、戦争やその他の衝撃的事態に直面すると、こうした規範やそれにまつわる信念を奉じる傾向が強まってくる可能性がある。それゆえ、社会規範がさまざまな形の協力行動を命じている限り、人々は規範に従ってより緊密に協力するようになり、また、そうした基準から逸脱する者をより厳しく処罰するようになる。

 こうした心理面への二つの影響-相互依存型集団の結束、および規範の強化―がヒトの心理の他の側面と結びついて、第三の効果を生み出す。つまり、戦争、地震、その他の災害に見舞われると、人々の宗教的なものへの関心が高まって、儀式への参加が増え、その結果、宗教団体が成長してくるのである。これは、相互に関連し合う二つの理由から起こる。一つには、戦争やその他の衝撃は、社会規範やそれにまつわる信念を強化することによって、人々の信仰心を深めて宗教活動に駆り立て、宗教団体への関与をさらに促す可能性がある。もう一つ、戦争のような衝撃は、ヒトの相互依存心理を掻き立てることによって、支えとなる共同体にさらに投資したり、加入したりするように人々を動機づける。宗教団体は必ずと言っていいほど相互扶助や支援活動を行なっているので、この動機づけの効果によって、宗教団体の活動に参加する人々が増えてくる。宗教団体への投資が増すと、たいてい教会やモスクでの礼拝によく出席するようになり、(その副作用として)超自然的な信念がさらに強化される可能性がある。以上のような効果に加え、人々に死後の生を約束し、不安への対処を助ける儀式を繰り返し行なう宗教は、戦争その他の災難がもたらす実存的脅威によって、とりわけ大きな後押しを受けるかもしれない。人々はますます宗教団体に惹きつけられるようになり、宗教と無縁でいられる可能性は低くなる。(つづく)

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