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WEIRD(ウィアード)「現代人」の奇妙な心理 上:経済的繁栄、民主制、個人主義の起源

2024年04月09日 | 現代の病理

『WEIRD(ウィアード)「現代人」の奇妙な心理 上:経済的繁栄、民主制、個人主義の起源』(2023/12/20・ジョセフ。ヘンリック著),今西康子翻訳)、英語タイトルの『WEIRD』は、「奇妙な」という意味であるとともに、W:Western(西洋の)/ E:Educated(教育水準の高い)/ I: Industrialized(工業化された)/R:Rich(裕福な)/ D:Democratic(民主主義の)次の言葉の頭文字を取ったものとあります。世界16ヵ国で刊行されているそうです。以下転載です。

 

翻訳者のあとがきからの転載です。

 

ヒトにはもともと、他の霊長類と同様に、子どもを養い、配偶者と絆を形成し、近親個体を助けようとする本能が備わっており、人類社会の最も基本的な諸制度は、はるか昔からずっと、血縁関係やその拡大版である姻戚関係に根ざしていた。こうした親族ベースの制度を、族内婚や一夫多妻婚などを通じてさらに強化することによって、人々は集団問競争に勝ち残り、集団の規模を拡大しようとしてきたのだ。この世界で生き延びられるかどうかは、自分が属する社会集団の規模と結束力にかかっていたし、警察や法廷のような公的制度がまだない世界では、親族の絆こそが人々のセーフティネットの役割を果たしていた。当然ながら、こうした緊密な親族ネットワーク社会で育った人々は、内集団への忠誠心が強く、伝統や年長者の権威に従おうとし、集団内の他者との関係性を重視する傾向がある。

 ところが、WEIRDな人々は、それとは全く逆の心理傾向を示し、人類史を通じてずっと基準とされてきた事柄をむしろ軽んじる。つまり、個人主義的傾向や独立志向が強くて、集団に同調せず、分析的にものを考え、公平公正の原則を重んじて、身内びいきを嫌う。そして何よりも、一夫一婦婚しか認めない。言い換えると、古来、人類社会の基盤を形成してきた親族ペース制度が、社会の礎とはなっていないのである。いったいなぜ、この集団は、本来、縛られて当然の従来の方向性を断ち切って、通常ではあり得ないような社会進化の道筋をたどることになったのだろうか。

 その理由を探っていくと、ローマカトリック教会となるキリスト教一派が、四世紀頃から八〇〇年ほどにわたって実施した「婚姻・家族プログラム(MFP)」に行き着く、と著者は主張する。

カトリック教会は、一夫多妻婚や血族間・姻族間での婚姻を禁ずる指示命令を何十回にもわたって次々と発し、とうとう。11世紀初めには、近親婚禁止の範囲が、むいとこ(自分の七代前の先祖の子孫にあたる人々)にまで拡大される。その結果、ヨーロッパ諸部族の緊密な親族関係は徹底的に解体されることになった。

 その廃墟の中で、中世ヨーロッパの人々はやむなく、親族や部族への帰属意識ではなく、共通の利益と信念に基づく新たな団体を自発的に結成し始めた。ギルド、修道院、大学、そして憲章都市などである。都市が成長し、市場が拡大し、徒弟制や分業が発展していく中で、面識のない相手に対する社会性が高まり、公平なルールが遵守されるようになり、さらに、個人の権利率普遍的攻法といった考え方を受け入れる精神的土壌が培われていった。こうした土壌にやがて、代議政治や立憲主義が芽生え、西洋法や西洋科学が出現する。また、普遍宗教であるキリスト教によってつくられた仮想共同体内で、広範囲の人々が緊密な交流を繰り広げる中で、数々のイノベーションが生み出されていった。

 要するに、先はどの疑問に戻ると、人類にとって最も基本的な制度を強化するという道を閉ざされた人々が、諸々の制度を基礎の基礎から再構築して創り上げたのが、WEIRDな社会だということになる。(以上)

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