『幸福論――“生きづらい”時代の社会学』(2009/10/31・バウマン著)に掲載されている社会学者の山田昌弘氏が解説の続きです。
このような視点で本書を読むと、各所にギデンスの楽観論に対する対抗意識が見え隠れする。本書の原題になっている「人生の技法」もそうである。近代社会になってアイデンティティを「作品」のように自分で構築しなくてはならなくなったことを述べたのはギデンスであり、それを従来の強制的に与えられたアイデンティティからの解放というプラスの側面として描く。それに対し、バウマンは、自分で「人生という作品」を構築しなければならない側面として強調する。それも、職業的アイデンティティにしろ、家族的アイデンティティにしろ、一度構築したら安定的に存続できた固体的近代の時代なら、’著名なアメリカの心理学者エリクソンが言うようなI回きりの青春時代の危機ですむ。しかし、液状化している近代・では、アイデンティティは作ったそばから解体される運命にある。それでも、人は、アイデンティティを作り続けなくてはならない。まるで、地獄の石積みの苦行のようである。
このように、制度的束縛から解放された愛情、自分で構築できるアイデンティティなど、近代において当然のように賞賛される価値(多分、ギデンスによっても肯定される価値)が、近代に生きる人々に、いかに苦難を生み出すかを明らかにしていくのが、バウマンの特徴である。