『宗教と日本人-葬式仏教からスピリチュアル文化まで』 (中公新書・2021/4/19・岡本亮輔著)、図書館から借りてきた本です。
日本人と宗教の関係を新しい観点より分析した本です。良く言われるのは、日本人は無宗教と答える一方、年中行事、冠婚葬祭、神社仏閣めぐり、またヒーリング、パワースポット、開運セラピーなどのスピリチュアル文化も広がってきている。無宗教であるはずの日本人が宗教を積極的消極的に活用して生きているように見える。じつはこの矛盾は、宗教は信仰の対象であり、神仏のような超越的存在をめぐる教えの体系があり、それを信徒が受容して自らの行動規範とするのが宗教であるという理解から、矛盾に思われるが、本書では、信仰を宗教の必須条件とせず、「信仰なき宗教」もあるという考えから、宗教を信仰・実践・所属の三要素に分解し、初詣等の寺社参拝は「信仰なき実践」として宗教であり、檀家の一員であるのに宗派の教えに関心がないのは「信仰なき所属」として宗教であるという新しい視点から、日本人の宗教を定義している。
少し参考になるところを転載してみます。
新宗教の隆盛は、日木社会の宗教イメージに大きな影響を与えたと言える。宗教学者の島薗進は新宗教の条件として、①宗教法人格を有し、特定の神仏を礼拝すること、②独白の教義や実践の体系と教団組織を備えた成立宗教であること、③既成教団と自らを明確に区別すること、①一部の知識人や中上層の人々だけでなく、広く民衆を担い手にすることの四つを挙げる(『新宗教事典』)。
自己認識としても社会的にも宗教団体と認知され(①③)、独自の教義・実践・組織を持ち(②)、その教義と実践が広く民衆に浸透し、民衆は信者としてその集団に所属する(④)のが新宗教なのである。
独特の教えを説く教祖がいて、それを受け入れた信者たちが祈りや儀礼を行うという分かりやすいイメージが、つまり、教え(信仰)・儀礼(実践)・教団(組織所属)の三要素を兼ね備えたものか宗教というわけである。 こうした新宗教的な宗教イメージは、信仰中心の宗教イメージと言い換えられる。最も重要なのは体系化された教義だ。教義を内面化した信者には、誰を指導者として崇拝し、いかなる実践を行い、他の信者に対してどのように振る舞うべきかは明らかである。
信仰・実践・所属の三要素を備えているのが新宗教だが、新宗教ブームは1980年代にピークとなり以後は下降線を辿っている。
日本では信仰を重視しない伝統宗教が広範にかつ長期的に存在し、日本人のそれらに対する態度には、漠然とした観念はあっても、明確に言語化できるような信仰は見出しにくい。しかし、宗教的な心は大切と思う人が多い。つまり、多くの日本人にとって、宗教は信じるものではないが、大切なものである。宗教が気分や情緒に関わる実践として重視されている。無宗教ではなく、世俗社会の「信仰なき(実践の)宗教」である。(つづく)