マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

民生委員

2010年12月07日 | マ行

01、朝日社説(情報の共有で地域を守る)

 今月から約23万人の民生委員が一斉に改選され、新しい3年間の任期を歩み始めている。その活躍に期待を込め、声援を送りたい。

 都道府県知事の推薦を経て、非常勤の公務員として国から委嘱される。ものものしく聞こえるが、ごく普通の市民が無給で、行政と地域のパイプ役を担っている。

 今夏、高齢者の所在不明問題が社会を揺るがせた。東京都足立区で戸籍上111歳の男性の白骨遺体が見つかった事件が端緒になったが、「生きている」という家族の弁明の壁を崩したのは、民生委員の粘り強い働きだった。

 プライバシー意識が高まる一方で、引きこもりの高齢者の孤独死、家族による虐待が後を絶たない。

 そうした状況で民生委員の役割はますます貴重だが、活動は以前より難しくなっている。家族構成、障害の有無、公的サービスの利用状況など、住民の個人情報が活用しづらくなっていることも一因である。

 自治体の姿勢にも問題がある。今秋、厚生労働省がサンプル調査を実施したところ、15%の市町が民生委員に個人情報を全く提供していなかった。個人情報保護への過剰反応のせいなら、改めるべきだ。

 都市部の民生委員は、1人で数百世帯を担当するが、高齢者の急増でこまめな訪問は難しくなっている。

 そこで近所の人に、虐待の気配や悪徳業者の出入りがないかなど、見守りの協力をお願いすることがある。

 しかし、守秘義務がある民生委員から原則として個人情報は教えられない。本人の同意があればそれが可能になるが、支援が必要な人ほど引きこもりがちで、助けを求めたがらないという問題もある。

 こうした状況に向き合い、個人情報の「保護と活用のバランス」を各地域で考え直してみる時ではないか。

 東京都中野区では、支え合い活動に参加する町会などに、支援が必要な人の情報を提供できるようにする条例を検討中だ。不正利用には罰金を科す規定もあり、住民の理解を深めるための対話を重ねている。

 情報をうまく共有するには、支援する側とされる側の双方が意識を高め、信頼を深める必要がある。

 民生委員の方にも、活動の質にばらつきがあるといわれる。支え合いへの参加をさらに広げるために、研修などでますますレベルアップを図り、住民が安心して情報を委ねられるようにしていきたい。

 私たちは、いつ助けられる側に回るか分からない。自らの情報をある程度オープンにしないと、「助けて」と言い合えるつながりはできない。情報共有できる信頼関係こそが、安心を支える最強の基盤になる。(朝日、2010年12月06日)

02、メモ・民生委員

 大正時代に岡山県や大阪府で始まった取り組みが源流とされ、1948年に民生委員法が制定された。地域の児童や妊産婦を支える児童委員も兼ね、活動内容は多様だ。

 地域の福祉活動──25%
 相談や支援──23%
 地域の行事や懐疑──18%
 住民の状況把握──17%
 民生委員らで作る協議会活動や研修──15%
 その他──2%

 「人口10万未満の市は120~280世帯に1人」などとした国の配置基準に沿って、自治体が定数を決定。町内会などが地域事情に詳しく、年齢や資質の条件に見合った住民を推薦し、厚生労働相が委嘱する。任期は3年。情動経費として年6万円程度が支給される。

 委員の数はここ10年以上、定数に達しない状態が続いており、2009年度末は定数23万1905人に対して3177人少なかった。厚労省は今回の改選による全体の定数や不足数を集約中。委員の全体の平均年齢はまとめていない。(朝日、2010年12月05日)

03、民生委員

 「民生委員」という仕組みができて、今年で90年になるという。

 いままで、とんとかかわりがなかった。が、地方で一人暮らしの母から「何か困ったことはないかと訪ねてきたよ」と聞いて、初めて身近に感じた。

 全国に22万6000人余りいて、給与はなし。高齢者や障害者、児童などの問題で相談、支援、連絡にあたっており、年間の活動件数は約3000万件に及ぶ。

 では、90年前に何がきっかけでこの制度ができたのだろうか。民生委員の手引書によると二つの流れがあるという。

 1916(大正05)年、宮中で開かれた地方長官会議で、大正天皇から岡山県知事が県内の貧困者の状況をたずねられた。知事はその後に実情を調査したうえ、ドイツで行われていた救貧委員制度を参考に、翌年「済世顧問制度」をつくった。今年はそれからちょうど90年にあたる。

 このほか大阪府でも、知事が貧しい母子の暮らしに心を動かされ、1918年に管内をいくつかの地域に分け、貧困者の調査と救済にあたる「方面委員制度」をつくる。これも民生委員制度につながった。

 委員の任期は3年で、今年12月は更新時期となる。市町村はその人選を進めているが、いまの委員は60歳以上の人が78%を占める。高齢化の波を受け、引き受け手に四苦八苦しているという。

 厚生労働省は民生委員を、地域の名誉職から福祉のオーガナイザーヘ、と位置づける。ここは大いに期待したい。
  (朝日、2007年11月09日。梶本章)

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