マキペディア(発行人・牧野紀之)

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島根県(01、実力)

2008年09月02日 | サ行
 出雲神話の「国譲り」以来、地味なイメージの島根県。工業化や都市化が進まず、若者の都会への流出が続いている。高齢化率(65歳以上人口÷総人口)は27・1%と47都道府県でトップ(2005年国勢諷査)。20年後の2025年には36・2%にまで上昇する(国立社会保障・人口問題研究所推計)。

 にもかかわらず島根は「今後20年間で最も高齢者が増えない県」なのだ。

 2025年には1960年生まれまでが65歳を超え、現在の高齢者は天寿をまっとうしていく。戦後、流入した若者の加齢で大都市圏の高齢者は激増し、過疎地域では逆に高齢者が減少する町村も出てくる。人口に占める高齢者の「率」でなく、増加する高齢者の「数」を見ると、「大都市と地方・逆転」の構図が見える。

 そうした過疎自治体を多く抱える島根県の2005~2025年の65歳以上人口の増加見込みは12%(同推計)。実は47都道府県で最も低い水準で、人数では2万4000人に過ぎない。逆に若者を集め続けてきた首都圏の4都県では60%、360万人の増加が予測される。この数に相応した医療福祉体制の整備は可能だろうか。

 高齢者があまり増えない島根の課題は、若者流出の防止だ。

 新しい芽はある。世界遺産に指定された石見銀山地区(大田市)には世界的な義手義足メーカーや、東京にも展開する和風デザイナーズブランドの本社と工房があり、純日本家屋に移り住む職人やデザイナーが増えている。隠岐諸島の海士(あま)町では、海産物を生かしたまちおこしで都会からの移住者が増加中だ。次代の息吹は、伝統と若い感性の切り結ぶ山陰の片隅から吹き始めている。

  (地域経済アナリスト、藻谷浩介、協力・日本政策投資銀行地域振興部)

  (朝日、2008年04月19日)