マキペディア(発行人・牧野紀之)

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自衛隊(01、装備調達)

2008年09月01日 | サ行
 自衛隊の装備調達に関する予算要求は防衛省の内部部局を通じて行われる。

 だが、業者にとっては、防衛力整備や開発を担当し、装備品を実際に使う制服組の自衛官に食い込むことが、受注の決め手になると言われる。制服組に比べ、防衛省の内部部局の役人である背広組は受注業者にとって価値が低いという。だが、防衛省のある幹部は「守屋さんだけは違った」と話す。

 中枢を歩み続けた守屋氏は、制服組の人事にも強い影響力があった。1佐クラスの人事案に守屋氏が口をはさみ、発令が大幅に遅れたこともあったという。

 「制服組は守屋さんの顔色をうかがい、業者も制服組ににらみが利く守屋さんに近づく。こんな防衛官僚は守屋さんが初めてだ」。この幹部は癒着が生まれた背景をこう語った。

 受注会社の代理人や自衛隊幹部の話によると、防衛省の受注業者による自衛隊員への接待や口利き依頼は長年にわたって行われてきた。

 業者側が幹部候補に若いころから接近を図ったり、天下りOBを使ってゴルフや飲食に誘ったりするなど、様々なやり方で関係を深めるという。

 守屋氏と同様に、倫理規程が設けられた後も、業者との癒着が断ち切れない実態が浮かび上がる。

 「業務の件でゆっくりご相談したいことがあるので、夜、お時間を頂けないでしょうか」。倫理規程がすでに施行されていた数年前。防衛力整備を担当してい自衛隊幹部は防衛庁内で数回会った後、納入業者からこう声をかけられ、宴席の招待に応じた。

 受注会社5社以上の代理人として、自衛官らと交渉してきた企業顧問は「防衛大卒の幹部候補と親密になるのが肝心だ」と話す。旧知の幹部に紹介してもらった有望株の自衛官を東京・向島などの料亭に連れて行き、遊び仲間として付き合うことを始めたのは何十年も前だ。

 その1人が関東地方の基地司令に就任した際、基地見学に招かれたこの企業顧問はその夜、地元の料理屋で複数の基地幹部を計約30万円で接待したという。

 「飲み食いを一緒にして垣根がとれないと、仕事の話は簡単にはできない」。この企業顧問は1990年代、西日本の防衛施設局発注の工事を顧問先企業に受注させるため、施設局幹部らに温泉旅館、クラブなどで接待攻勢をかけた。その費用は約50回で計約1000万円に及んだという。

 また、自衛官OBの存在がものをいう場面も多い。陸海空を問わず、自衛隊では同じ職種の先輩後輩の関係が非常に強く、「家族的なつながり」があるため、現役はOBと距離をとりにくいからだ。

 退官後、防衛関係の民間企業に天下りしたOBが現役を飲食やゴルフに誘い、そこに各企業の担当者も同席するという。

 1998年に摘発された大蔵省などの接待汚職の後、自衛隊員倫理法が制定された。制定直後は「割り勘でも関係業者と会うな」と言われたが、自衛隊幹部の1人は「どんなに厳しい倫理規程があっても、先輩からゴルフや飲食に誘われたら断れるわけがない。費用を払ったら先輩の顔をつぶすことになる」と話した。

  (朝日、2007年10月24日)