尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「隠し砦の三悪人」、三船敏郎のアクションの凄さー黒澤明を見る①

2022年04月22日 22時55分59秒 |  〃  (旧作日本映画)
 池袋の新文芸坐が2ヶ月半の休館を経て、先週からリニューアルオープンした。4Kレーザー上映可能な設備を名画座として初めて導入したという。よく「4Kデジタル修復版 当館は2K上映になります」なんて、ロードショー館でも書いてある。それを考えると、新文芸坐はすごい。前の文芸坐(地下にあった文芸地下)から合わせて数えれば、多分一番行ってる映画館だろう。そしてオープン記念に「4Kで蘇る黒澤明」というと特集上映をやっている。全部じゃないけど、少し見に行ってみよう。
(黒澤明監督)
 黒澤明(1910~1998)はもちろん全部の映画を見ている。何本かは2回、3回と見ているのだが、それはずいぶん昔のことだ。デジタル修復版を見てるのは、大映で作った「羅生門」ぐらいである。主に黒澤作品を製作した東宝は、なかなかデジタル版を作らなかった。最近TOHOシネマズの「午前10時の映画祭」の上映作品に黒澤映画が入るようになったが、まだ見てなかった。

 僕の若い頃は黒澤明は日本で一番有名で優れた映画監督だと思われていた。今は小津安二郎の方が上という評価ではないかと思う。黒澤明は何しろ「羅生門」で初めてヴェネツィア映画祭グランプリを獲得して、世界に日本映画を知らしめた。「荒野の七人」や「荒野の用心棒」など外国でリメイクされることもあった。そんな日本映画は当時は他になかった。一方の小津は70年代になるまで外国には紹介されず、外国人には理解されない(だろう)日本ローカルの巨匠という扱いだったのである。

 黒澤明は時代劇も多く、戦時中のデビュー作「姿三四郎」以来、アクション映画が多かった。だから外国でも理解されやすかったという面はあるだろう。しかし、今になっては代表作の多くが「モノクロ映画の時代劇」というのは、若い人にはつらいかもしれない。今では特撮を駆使した大々的なアクション映画がいっぱいあって、昔っぽい感じがしてしまう。僕もしばらく見てない映画が多いが、今4Kで見直すとどんな感想を持つだろうか。実は僕は黒澤明は確かに凄いとは思うけれど、あまり好きな映画監督ではない。その理由はおいおい書いていくけど、まずは1958年の「隠し砦の三悪人」から。

 「隠し砦の三悪人」は初めてシネマスコープで製作された大作時代劇で、そのワイドスクリーンの使い方の素晴らしさは見事だ。ベルリン映画祭監督賞、国際映画批評家連盟賞を獲得し、キネマ旬報ベストテンで2位になった。メッセージ性、社会性を訴える映画ではなく、純然たる娯楽大作。その意味で「用心棒」「椿三十郎」に続く映画だけど、僕はこの映画が一番面白いと昔見た時に思ったものだ。ジョージ・ルーカスの「スターウォーズ」に大きな影響を与えたことでも非常に有名だ。

 見るのは多分3回目だが、2回目に見た時は疲れていて集中できなかった。記憶にあったほど、面白くないように感じたのである。今回見ても、冒頭部分、敗残の農民千秋実藤原鎌足が戦地を彷徨うシーンが長すぎると思った。話を知っていれば、早く姫を連れて「敵中突破」してくれと思う。もう正体を知っているので、先が見たいと思う。「三悪人」という題名もどうかと思う。全然悪人じゃないので。それより当時の時代劇にありがちなことだが、戦国時代としてどうなのよという突っ込みどころが多い。結局、この映画はあえて敵国に紛れ込んで、味方のいる隣国に逃げ込もうというアイディアに尽きるのである。

 そこで敵中に入ると、凄いシーンがいっぱいある。特に有名なのが、三船敏郎が馬に乗ったまま敵を切り伏せる場面。一気に撮影したアクションの素晴らしさに驚く。また敵側の知人、藤田進と槍で一騎打ちする場面の壮絶なアクションもうならされる。「山名の火祭り」のシーンも素晴らしい。三船敏郎と姫が「秋月」で、敵が「山名」である。秋月は敗れるが、重臣と姫が隠し砦に潜んでいる。軍資金は金を薪の中に仕込んである。いかに敵の領地を突破していくか。この素晴らしいアイディアの脚本は、菊島隆三小国英雄橋本忍黒澤明がクレジットされている。

 娯楽アクション大作だから、特に気にせず見てしまうが、戦国時代史としてみるならば、納得できない点も多い。一番問題なのは、秋月には一人娘しかいなくて、先代が男のように育てたというところ。姫は新人の上原美佐が演じたが、まあそんなに上手くなくても良い役だから、セリフなどは良いとする。しかし、上原美佐本人は1937年生まれで、すでに20歳を超えている。戦国時代とすれば、もう政略結婚の婚期を逃しつつある。味方の陣営もあるんだから、そこから養子を取って早く結婚させて若君をもうけて貰わないと跡継ぎがなくなるではないか。まあ妙齢の姫君を連れて逃げるというのが、面白いということだろう。

 金塊に「秋月」の三日月マークがついているのも変だけど、こんなに資金があるなら何故もっと鉄砲などを整備しなかったのかも謎。今頃持って逃げているが、不思議である。その他、筋書きではいろいろ不思議があるが、それもこれも細かいことを言わなければ、話を面白くするために作られているわけである。戦国時代を舞台にした黒澤映画は「七人の侍」「蜘蛛巣城」や「影武者」「」がある。いずれも戦国時代は「舞台」として選ばれただけで、あまり歴史的に合っているかは気にしないのがいい。

 今になると、その壮大なアクションによって記憶される伝説的映画ということになる。4K修復版は、もしかしたら公開当時より綺麗なんじゃないかと思うようなクリアーな画面だった。
コメント (1)
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