「ここで何をしておる」
荒げた物言いで、恰幅の良い男が本営に入って来た。
供回りは六名、それらは近衛の制服。
恰幅の良い男は貴族の装い。
男の態度から推し量ると近衛の文官、それも高位の。
これは、・・・誰っ。
俺を手伝ってくれている侍従からの耳打ち。
「近衛の長官です」
ほほう。
近衛の最高位にあるのは二名。
文官の頂点である長官。
武官の頂点である元帥。
その二頭体制で近衛軍を動かしていた。
国軍、奉行所共に同様の体制。
これは武力を持つ組織の共通の、制御する為の仕組みとも言えた。
俺は長官を手招きした。
「こちらへどうぞ、僕が説明します。
・・・。
僕はダンタルニャン佐藤伯爵です。
今回、王妃様から口頭で、イヴ様の警護を命ぜられました。
本来ならイヴ様の警護だけで、この様な事には関わりません。
ところが、管領がイヴ様を取り押さえようとした。
これは異常事態、いえ、非常事態とも言えます。
にも関わらず、近衛も国軍も動きがない。
おかしいですよね。
そこで僕がお節介を焼いている訳です」
俺は手で椅子を指し示したのだが、長官は鼻息が荒い。
着席を拒否し、上から俺を見下ろした。
「子供がふざけるな、直ちにここを解散しろ。
王宮を含めた内郭は近衛の管轄だ、我等が受け持つ」
長官は言い終えると僕を睨み付けた。
僕は相手には合わせない。
優しい物言いを心掛けた。
「管領の暴走を傍観していた貴方方には任せられません。
信用がならないのです。
早い話、管領に協力したのではないか、そう思っています。
理解して頂けたら直ちにお引き取りを。
・・・。
王妃様が帰られたら呼び出しがあるでしょう。
それまでは謹慎していて頂きたいのですが」
長官の供回りの者達の表情が変わった。
自覚しているようだ。
俺や長官から視線を逸らした。
しかし、長官は違った。
テーブルに両手をつき、俺を威嚇した。
「貴様、何様のつもりだ」
「はあ、俺様ですが、何か」
長官が真っ赤になってテーブルを叩いた。
バンッ。
「ふざけるな」と。
ついでに額の血管が破れれば良かったのに。
惜しい。
遅れて、俺を手伝っている者達の多くが咳込む。
肩が激しく揺れ動き、書き物の手が止まった。
笑いを堪えているとしか思えない。
何が・・・、どこが受けたのだろう。
それはそれとして、俺は長官への対処法を考えた。
俺を手伝っている武官達は近衛に所属する者達。
彼等には荷が重いだろう。
となると、・・・。
俺はうちの護衛に命じた。
「この男を捕えろ。
抵抗すれば怪我させても構わん。
間違えて殺しても、それはそれで仕方ない。
この程度ならお替わりは幾人も居る」
「「「はい」」」
良い返事だ。
躊躇いがない。
俺の背後に控えていた三名が一斉に動いた。
うちの執事長、ダンカンが薦めた屋敷詰めの騎士三名。
ユアン、ジュード、オーランド。
普段の訓練の様子は見知っていたが、実戦でも中々のもの。
隙のない立ち回りを見せた。
指示役はユアン。
「ジュードは供回りを牽制。
オーランドは長官を捕えろ。
俺は控えに回る」
ジュードが腰の長剣を抜いて、長官の供回りの者達に剣先を向けた。
彼等を剣先と視線で牽制した。
警告も忘れない。
「邪魔すれば斬る」
オーランドが素手で長官に立ち向かった。
長官は文官ではあるが、武芸は貴族としての嗜み。
平民に比べれば、ある程度は動けた。
腰の長剣を抜こうと、手を伸ばした。
それを見たオーランドだが、恐れる様子は微塵もない。
懐に飛び込んでショルダーアタック。
勢いのままに頭突き。
長剣を抜く暇を与えない。
面食らう長官の顎に、腰を綺麗に回転させて肘打ち。
極まった。
長官はその場に崩れ落ちた。
気絶のようだが、オーランドは容赦がない。
身体に蹴りを入れて転がし、俯せの頭を踏み付けた。
控えのユアンは、長官とその供回りの者達、その双方を視界に入れ、
長剣を抜いて遊撃として備えた。
が、機会は巡って来なかった。
残念感一杯で、オーランドに指示した。
「身柄を確保しろ」
俺は三名に命じた。
「ここには生憎、貴族用の牢がない。
代用として表の庭木をそれとする。
表の庭木に縛り付けろ。
出来るだけ太い庭木だ。
失礼のない様にな」
口からすらすら出た。
意味が分からない。
たぶん、疲れもあるのだろう。
俺は俺が怖い。
額に手を当てた。
そんな俺を見兼ねたのか、
控えていた執事のスチュアートに言われた。
「少々お休みになっては」
周りの者達の俺に注ぐ目色も似た様なもの。
残念だが、俺は頑張り過ぎたようだ。
でも休む前に、決着を付けよう。
俺は気を取り直した。
表に運び出される長官を余所眼に、長官の供回りの者達を見回した。
彼等は大人しいもの。
職分で長官に従っているだけなのだろう。
そんな彼等に尋ねた。
「君達のうちで最も上位の者は」
互いに顔を見合わせた。
そして、結果として一人に視線が集中した。
武官上がりの様な厳つい顔と体躯。
その者が口にした。
「階級は少将です。
長官に執務室の取り纏めを命ぜられています」
「それでは君を臨時で、長官代理に任命する。
これより近衛全体を取り纏めて欲しい」
周りの大人達は理解が早い。
指示なしでもテキパキと仕事をした。
任命書を発行し、彼の補佐として、侍従の一人を付けた。
荒げた物言いで、恰幅の良い男が本営に入って来た。
供回りは六名、それらは近衛の制服。
恰幅の良い男は貴族の装い。
男の態度から推し量ると近衛の文官、それも高位の。
これは、・・・誰っ。
俺を手伝ってくれている侍従からの耳打ち。
「近衛の長官です」
ほほう。
近衛の最高位にあるのは二名。
文官の頂点である長官。
武官の頂点である元帥。
その二頭体制で近衛軍を動かしていた。
国軍、奉行所共に同様の体制。
これは武力を持つ組織の共通の、制御する為の仕組みとも言えた。
俺は長官を手招きした。
「こちらへどうぞ、僕が説明します。
・・・。
僕はダンタルニャン佐藤伯爵です。
今回、王妃様から口頭で、イヴ様の警護を命ぜられました。
本来ならイヴ様の警護だけで、この様な事には関わりません。
ところが、管領がイヴ様を取り押さえようとした。
これは異常事態、いえ、非常事態とも言えます。
にも関わらず、近衛も国軍も動きがない。
おかしいですよね。
そこで僕がお節介を焼いている訳です」
俺は手で椅子を指し示したのだが、長官は鼻息が荒い。
着席を拒否し、上から俺を見下ろした。
「子供がふざけるな、直ちにここを解散しろ。
王宮を含めた内郭は近衛の管轄だ、我等が受け持つ」
長官は言い終えると僕を睨み付けた。
僕は相手には合わせない。
優しい物言いを心掛けた。
「管領の暴走を傍観していた貴方方には任せられません。
信用がならないのです。
早い話、管領に協力したのではないか、そう思っています。
理解して頂けたら直ちにお引き取りを。
・・・。
王妃様が帰られたら呼び出しがあるでしょう。
それまでは謹慎していて頂きたいのですが」
長官の供回りの者達の表情が変わった。
自覚しているようだ。
俺や長官から視線を逸らした。
しかし、長官は違った。
テーブルに両手をつき、俺を威嚇した。
「貴様、何様のつもりだ」
「はあ、俺様ですが、何か」
長官が真っ赤になってテーブルを叩いた。
バンッ。
「ふざけるな」と。
ついでに額の血管が破れれば良かったのに。
惜しい。
遅れて、俺を手伝っている者達の多くが咳込む。
肩が激しく揺れ動き、書き物の手が止まった。
笑いを堪えているとしか思えない。
何が・・・、どこが受けたのだろう。
それはそれとして、俺は長官への対処法を考えた。
俺を手伝っている武官達は近衛に所属する者達。
彼等には荷が重いだろう。
となると、・・・。
俺はうちの護衛に命じた。
「この男を捕えろ。
抵抗すれば怪我させても構わん。
間違えて殺しても、それはそれで仕方ない。
この程度ならお替わりは幾人も居る」
「「「はい」」」
良い返事だ。
躊躇いがない。
俺の背後に控えていた三名が一斉に動いた。
うちの執事長、ダンカンが薦めた屋敷詰めの騎士三名。
ユアン、ジュード、オーランド。
普段の訓練の様子は見知っていたが、実戦でも中々のもの。
隙のない立ち回りを見せた。
指示役はユアン。
「ジュードは供回りを牽制。
オーランドは長官を捕えろ。
俺は控えに回る」
ジュードが腰の長剣を抜いて、長官の供回りの者達に剣先を向けた。
彼等を剣先と視線で牽制した。
警告も忘れない。
「邪魔すれば斬る」
オーランドが素手で長官に立ち向かった。
長官は文官ではあるが、武芸は貴族としての嗜み。
平民に比べれば、ある程度は動けた。
腰の長剣を抜こうと、手を伸ばした。
それを見たオーランドだが、恐れる様子は微塵もない。
懐に飛び込んでショルダーアタック。
勢いのままに頭突き。
長剣を抜く暇を与えない。
面食らう長官の顎に、腰を綺麗に回転させて肘打ち。
極まった。
長官はその場に崩れ落ちた。
気絶のようだが、オーランドは容赦がない。
身体に蹴りを入れて転がし、俯せの頭を踏み付けた。
控えのユアンは、長官とその供回りの者達、その双方を視界に入れ、
長剣を抜いて遊撃として備えた。
が、機会は巡って来なかった。
残念感一杯で、オーランドに指示した。
「身柄を確保しろ」
俺は三名に命じた。
「ここには生憎、貴族用の牢がない。
代用として表の庭木をそれとする。
表の庭木に縛り付けろ。
出来るだけ太い庭木だ。
失礼のない様にな」
口からすらすら出た。
意味が分からない。
たぶん、疲れもあるのだろう。
俺は俺が怖い。
額に手を当てた。
そんな俺を見兼ねたのか、
控えていた執事のスチュアートに言われた。
「少々お休みになっては」
周りの者達の俺に注ぐ目色も似た様なもの。
残念だが、俺は頑張り過ぎたようだ。
でも休む前に、決着を付けよう。
俺は気を取り直した。
表に運び出される長官を余所眼に、長官の供回りの者達を見回した。
彼等は大人しいもの。
職分で長官に従っているだけなのだろう。
そんな彼等に尋ねた。
「君達のうちで最も上位の者は」
互いに顔を見合わせた。
そして、結果として一人に視線が集中した。
武官上がりの様な厳つい顔と体躯。
その者が口にした。
「階級は少将です。
長官に執務室の取り纏めを命ぜられています」
「それでは君を臨時で、長官代理に任命する。
これより近衛全体を取り纏めて欲しい」
周りの大人達は理解が早い。
指示なしでもテキパキと仕事をした。
任命書を発行し、彼の補佐として、侍従の一人を付けた。